井口健二のOn the Production
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2005年01月14日(金) セルラー、恋は五・七・五!、香港国際警察、スパイダー・フォレスト−懺悔−

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『セルラー』“Cellular”               
携帯電話(セルラ−)に掛かってきた1本の通話。それは女
性の声で、自分が誘拐され家族の命が危ないと訴えている。
その声に真実であることを感じ取った主人公は、まず警察に
駆け込むが、他の仕事で忙しい彼らは取り合ってくれない。
そして…                       
ローランド・エメリッヒの盟友ディーン・デヴリン製作で、
『フォーンブース』などのラリー・コーエンの原案から新人
のクリス・モーガンが脚本化、『デッドコースター』のデヴ
ィッド・R・エリスが監督した作品。          
物語は女性の声の主(キム・ベイシンガー)が、ジェイソン
・ステイサム(トランスポーター)扮する犯人たちに拉致さ
れるところから始まり、その監禁場所に放置されたバラバラ
の電話機を、理科の教師でもある彼女が修復して通話を試み
るという展開になる。                 
で、この通話をクリス・エヴァンス扮する主人公が受信する
のだが…                       
上記のストーリーとベイシンガーの登場では、かなりサスペ
ンス色の強いものを予想したのだが、その予想は見事に覆さ
れる。アクションから、時には笑い声が上がるほどのユーモ
アも交えて、実に軽快で快調な仕上がりの作品だった。  
しかもサスペンスの押さえどころはしっかりと押さえられて
いるから、ハラハラドキドキもあるし、1時間35分の上映時
間をたっぷり堪能できる。何しろベイシンガーの恐怖演技に
ステイサムの強面だから、そこだけでサスペンスは完璧とい
う感じだ。                      
それに、ベイシンガーとステイサムの演じる役柄が何しろ頭
が良い。常に相手の先を読んで先回りし続けるし、一方、エ
ヴァンスはセルラー片手に駆けずり回らされる役柄だが、こ
ちらはセルラーの特徴をしっかりと掴んだ展開で、この脚本
の見事さにも感心した。                
さらに次々に登場する謎が、観客をぐいぐいと引っ張り続け
る。コーエンは、前作で電話ボックスから動けなくなる主人
公を描いたので、今度は電話のお陰で移動しっぱなしになる
主人公を描いたということだが、その発想にも納得できると
ころだ。                       
監督のエリスは、前作は正直言って素材を掴み損ねている感
じがしたが、今回は彼の資質に合ったのか、ローラーコース
ター並に瞬時に変わる展開を生き生きと描き出している。な
お途中で写るテレビ画面には前作が放映されていたようだ。
主人公たちが最後まで諦めずに最善を尽くすことで、その結
果が勝ち取られる。そんなハリウッド映画の王道を行くよう
な作品。こういう映画は見ていて本当に気持ちが良い。  
                           
『恋は五・七・五!』                 
主人公の一人の高校生の餓鬼が煙草を吸い続けている。しか
も、物語の中では1カ所だけそれに言及するエピソードがあ
るが、それ以外は全く何の理由もなく喫煙のシーンが何度も
登場する。このような描写は青少年保護に関する現行法で認
められるのだろうか。                 
なお、僕が見たのは3月に公開予定の最終編集版ではなく、
それより数分長いということだったが、公開版ではこれらの
シーンがカットされることを切に望む。そうしないと青少年
に対する喫煙助長ということで、取り締まりの対象になる恐
れもある。                      
これは、憲法で保障された表現の自由とは全く違う次元の問
題だ。                        
ということで、本来ならこれだけで終りにしてしまってもい
いところだが、本作は内容的にもいろいろ問題があるので、
以下にはそれを記す。なお、以下の文には重大なネタバレが
ありますので、読む人はご注意ください。反転すると読めま
す。        
物語は、統廃合によって廃校になろうとしている県立高校が
舞台。その校長が、校名を記録に残すため、全国で開かれる
高校生選手権と呼ばれるものに全てエントリーすることを思
いつく。そこで一つでも優勝すれば、歴史に名が残るという
計算だ。                       
そんな訳で、主人公たちの全国高校生俳句甲子園大会への挑
戦が始まるのだが…まあこのシチュエーションは理解すると
しても、いくらなんでもその後の展開がいい加減すぎる。大
体、県別の代表が競う全国大会に、このチームがいきなり出
場というのは…                    
それに、準決勝を終えて次のシーンがいきなり優勝盾という
のも、ちょっと話が飛び過ぎでしょう。確かに準決勝で吹っ
切れたということは描かれているが、それでも決勝のハイラ
イトシーンぐらいは入れておいて欲しいものだ。     
この他にも、枝葉末節の事柄はいろいろあるが、正直に言っ
て、主人公が喫煙以外にも、どこで勃起しようとマスを掻こ
うと知ったことではない。でも、少なくとも上記の点ぐらい
は、観客へのサーヴィスとしてクリアしてもらいたいという
感じだ。                       
監督はUSCで映画の勉強をしてきたそうだが、この作品に
は、まだ学生気分が抜け切っていない、そんな感じがした。
撮影を始める前に、まずは脚本の完成度を高めて欲しいし、
製作者も、この脚本ではまだグリーンライトを出すべきでは
なかったと思う。
                  
                           
『香港国際警察』“新警察故事”            
1985年から96年まで4作が製作されたジャッキー・チェン主
演『ポリス・ストーリー』シリーズの再開作。チェンがアメ
リカで正当に評価されるのは、98年の『ラッシュアワー』か
らだから、その直前まで主演し、これを以て香港を離れたシ
リーズとも言える。                  
そして今回は、アメリカでの成功を引っ提げてのシリーズ再
開と言いたいところだが、正直に言ってアメリカでのチェン
の人気は、最近ちょっと頭打ちの感もあり、本作では心機一
転というか、初心に返って体勢を立て直そうという感じにも
見える。                       
お話は、チェン扮する香港警察の敏腕刑事と、凶悪犯罪をゲ
ームのように行う若者集団との対決が描かれる。その発端は
1年前、巨額の現金を強奪した一味を追った主人公率いる刑
事課の面々が返り討ちに合い、主人公は現場から命からがら
脱出するが…                     
そして1年後、事件以来廃人のようになっている主人公の許
に、殉職した刑事の弟と名乗る巡査が現れる。巡査は主人公
を激励し、現場への復帰を求めるのだが、主人公はかたくな
に拒否し続ける。そんな折、犯罪集団が活動を再開する。 
アメリカでは、期待されているものが自分の思惑から外れて
いた。そんなことを語るチェンがこの映画で見せるのは、シ
リアスな演技、しかもかなり重い。これはアクションを期待
して見に行った僕には思惑外れのものだった。      
ただし、この演技がそれなりに見られたのだから、やりたか
ったのがこれだと言われれば納得せざるを得ない。しかしこ
れがジャッキー・チェンの本領かと言われると、ちょっと疑
問符を挟まざるを得ない。               
とは言うものの、1954年生まれで昨年50歳に成ったチェンに
いつまでもアクションを期待するのも酷な訳で、それなりに
変化して行くことは、我々観客も受け入れなければいけない
ところだろう。                    
そして今回、チェンが助っ人に呼んだのが、チェン製作『ジ
ェネックス・コップ』に主演したニコラス・ツェーとダニエ
ル・ウー。さらにジェット・リーの跡を継いだ『ブラック・
マスク2』のアンディ・オンら、若手を揃えての作品だ。 
でも、チェンも簡単には彼らに負けていないのは立派と言え
るところだろう。特に、映画の後半には、かなりハードなア
クションも見せてくれる。この後半こそ、チェンの本領発揮
と思うのだが…なお、ツェーとの本格的な共演は、これから
も期待したいところだ。                    
                           
『スパイダー・フォレスト−懺悔−』(韓国映画)    
昨年の東京フィルメックスや、サン・セバスチャン映画祭の
新人監督部門、トロント映画祭などに出品されたソン・イル
ゴン脚本、監督による作品。              
誰の思い出にも残っていない死者の魂が彷徨うという蜘蛛の
森。主人公はその森の中で二つの死体を発見する。一つは自
分の上司、もう一つは恋人。その現場から逃げた男を追った
主人公は返り討ちに合い、さらに意識が朦朧としたまま車に
跳ねられる。                     
病院で意識を取り戻した主人公は、意識不明のまま14日間が
経過したことを知る。そして事件を警察に通報し、警察は二
つの死体を発見するが…怪しげな気配の森の中で、怪しげな
気配の事件が進行して行く。そして捜査に当る刑事は、次々
に謎に突き当たる。                  
雰囲気は良いし、これでもう少しお話がファンタスティック
だったらと思ってしまう。いや充分ファンタスティックなの
だが、何かもう一歩踏み込むことを躊躇しているような、そ
んなもどかしさを感じる作品だった。          
監督は生真面目な人なんだろうな…そんな印象を持つ。その
真面目さが好感できる作品ではあるが、そこで止まってしま
っている感じだ。先に書いたように雰囲気は良いし、その雰
囲気を楽しむだけでも良いと言える作品なのかもしれない。
でも、何かもったいない感じもした。             


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井口健二