2004年12月14日(火) |
サスペクト・ゼロ、ナショナル・トレジャー、コーヒー&シガレッツ、カナリア、MAKOTO、清風明月、失われた龍の系譜 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『サスペクト・ゼロ』“Suspect Zero” 題名の意味は、連続して犯罪を犯しながら証拠を残さず、手 口などにも一貫性が無いために、捜査上でも連続犯罪と見做 されていない犯罪者のこと。日本で言えば、通り魔的な連続 犯ということになりそうだ。 年間何万もの殺人や誘拐が起こり、その多くが未解決のアメ リカでは、このサスペクト・ゼロの存在が囁かれている。 そんな事実を背景に、この作品では、そのサスペクト・ゼロ の一人を捕えながら、手続き上のミスで放免せざるを得なく なり、結果自らも半年間の停職と、地方への左遷を余儀なく されたFBI捜査官が主人公となる。 そしてその捜査官が赴任したニューメキシコの片田舎で、一 件の殺人事件が起きる。それはFBIの登場を誘うように州 境で発生していた。 この捜査官に、『ザ・コア』などのアアロン・エッカートが 扮し、その同僚にキャリー・アン=モス、さらに事件の鍵を 握る謎の人物にベン・キングズレー。このキングズレーが過 去に関わったという“イカロス計画”なる国家計画が全ての キーとなる。 脚本は、『X−メン2』を手掛けたザック・ペンと、『ニュ ースの天才』では脚本と監督も務めているビリー・レイ。そ して本作の監督は、2000年公開の『シャドウ・オブ・ヴァン パイア』でオスカーノミネートされたE・エリアス・マーヒ ッジ。 何しろ、物語の全てが最後の一点に帰着する脚本が見事だっ た。主人公達のいろいろな苦しみや思いが全て、3人の登場 人物によって一点で結末を迎える。全く無駄の無い脚本で、 演出もその一点に向けて素晴らしい集中力を見せる。 実は、試写会の帰り際に謎解きのプリントが配布されたが、 恐らくSFファンならこのようなプリントは不要だろう。実 はそういう物語でもある。 この脚本には、シルヴェスター・スタローンやマット・デイ モンらも興味を示し、さらにトム・クルーズが主演を希望し て映画化権を獲得。結果クルーズの主演はならなかったが、 製作はクルーズの右腕、C/Wのポーラ・ワグナーが担当し ている。 ただし、このクルーズが関わったという事実には、彼の最近 の作品の中で、成程と思わせるものもあるところだ。 この種の作品で、これだけの満足感が得られたのは、昨年の 『“アイデンティティー”』以来のように感じた。 『ナショナル・トレジャー』“National Treasure” 今の時期に、この題名、しかも3週連続興行トップを飾るほ どにアメリカ人が熱狂した。先々週に『戦争のはじめかた』 を見たすぐ後にこの試写状が届いたときには、何かきな臭さ を禁じ得なかったものだ。 でもそれは全くの杞憂で、映画は全くそういうところの無い アドヴェンチャー・アクション作品。とは言うものの、舞台 はワシントンDCからフィラデルフィア、アメリカ建国の英 雄たちの名前が次々登場するところには、今のアメリカで受 ける理由が判る気もした。 背景は現代。解くべき謎は、200年前のアメリカ建国に大い に力を発揮したとも言われるフリーメイソンの隠し財宝。そ の後、行方不明になったと言われる財宝の在り処を巡って、 代々その謎を追ってきた一家の末裔が、ついに最大の手掛か りを見つけるが… エジプト・ファラオの時代から、アレキサンダー大王、十字 軍のテンプル騎士団などを経て、フリーメイソンがアメリカ に持ち込んだと言われる隠し財宝の話は、日本で言えば徳川 の埋蔵金のようなもので、アメリカで今も追い続けている人 たちはいるようだ。 そんな隠し財宝の話だが、背景は現代、このセキュリティ万 全の時代に、その裏をかきながらの謎解きの展開は、成程う まい話を思いついたものだ。しかも、冒険からアクションま でてんこ盛りのストーリーが繰り広げられるのだ。 『インディ・ジョーンズ』だって、背景を少し前の時代にし なければならなかったのに、この作品では、堂々と現代を舞 台にそれをやってのけている。その点にまず喝采したいとこ ろだ。 その上で、次々登場する謎には全てアメリカ建国の秘話が絡 まり、一方、三つ巴となる追跡劇には、現代アクション映画 の見所が詰め込まれている。今のアメリカ人が熱狂する全て が納められた作品と言うところだろう。 当然、日本人の僕らにはアメリカ建国の歴史などピンと来な い部分もあるが、それを差し引いてもと言うか、そんなこと は気にしなくても、存分に楽しめるアドヴェンチャー・アク ション作品になっているところも見事だった。 また、独立記念館やリンカーン記念館、国立公文書館、アメ リカ議会図書館などの内部が現地ロケで納められているのも 素晴らしい。 製作はジェリー・ブッラカイマー、監督はジョン・タートル トーブ。主演はニコラス・ケイジ、相手役に『トロイ』のヘ レン役のダイアン・クルガー。他に、ショーン・ビーン、ハ ーヴェイ・カイテル、クリストファー・プラマー、ジョン・ ヴォイトらが共演する。 因にヴォイトは、『トゥームレイダー』に続いて、トレジャ ー・ハンターの父親役というのも面白いところだ。 アドヴェンチャー・アクション作品では“Indy 4”の登場も 待たれるところだが、こんな作品が登場してしまうと、また 踏ん切りを着けるのが大変になってしまいそうだ。 『コーヒー&シガレッツ』“Coffee and Cigarettes” ジム・ジャームッシュ監督が、1986年から撮り始めた短編連 作。上映時間1時間37分の中で11の物語が綴られる。 元々は『サタデー・ナイト・ライヴ』からの依頼で第1作を 撮ったもののようだが、その時点でシリーズ化を思いつき、 以来20年近い歳月を費やして撮られたというもの。 内容は、題名の通りコーヒーとタバコに因んだもので、登場 人物たちはコーヒーを飲み、タバコを吸いながら会話を進め るが、それが徐々に紅茶になったり、タバコの吸い過ぎは良 くないというせりふが出てくるなど、変化して行くところも 面白かった。 出演は、第1作は『ダウン・バイ・ロー』の頃らしくロベル ト・ベニーニと、相手役が俳優監督のスティーヴン・ライト に始まって、撮影順では最後がケイト・ブランシェットが2 役を演じる作品と、スティーヴ・クーガンとアルフレッド・ モリーナのエピソードになるようだ。 他にも、スティーヴ・ブシェミ、ビル・マーレイといった俳 優から、イギー・ポップ、トム・ウェイツらのミュージシャ ンまで多彩な顔ぶれが登場する。 中でも、ブランシェットが演じる2役は、合成で互いに対話 をするというもので、その間の取り方などは、編集のテクニ ックもあるのだろうが見事だった。 また、クーガンとモリーナは、ちょうど『24アワー・パーテ ィ・ピープル』の頃らしく、モリーナがクーガンを立てる形 になっているが、『フリーダ』『スパイダーマン2』が出た 今では、立場は逆転だろう。そんなことを思って見るのもま た面白いところだ。 世間話のようなものや、珍妙な機械が登場したり、いろいろ なシチュエーションが登場するが、一部には前の話が登場し たり、微妙に脈絡があったりするところも面白く構成されて いる。 ただ基本的には、コーヒーとタバコでのんびりとした時間が 流れて行く。ふと入った喫茶店で隣の席の会話が聞こえてく る。そんな生活の休み時間を描いたような作品集で、映画館 でもそんな気分で楽しみたいものだ。 『カナリア』 オウム真理教を思わせるカルト集団に親と共に入信し、事件 によって児童相談所に収容され、親戚などに引き取られて行 った子供たち。しかし、そのほとんどの子供たちが現実に引 き戻される中で、ただ一人教えに留まった少年がいた。 物語は、その少年が収容所を脱走し、祖父に引き取られた妹 を探して旅をする姿を中心に描かれる。 現実の事件が起きたのが1995年、あれから10年が過ぎようと している。今までにもオウムを扱った映画は作られているの かも知れないが、僕自身がこの種の題材の作品を見るのは今 回が初めてだった。 映画では、教団内での生活の様子なども再現されており、あ る意味、事件を見つめ直す仕組みにもなっている。現実の事 件では、どうしても被害者に目が行きがちなのだが、あれだ けの集団の中には、当然このような子供たちもいた訳で、そ れを描くことには意味がある。 しかしこの作品では、主人公を演じる2人の子役、特に少年 と行動を共にする少女の演技がうま過ぎて、どうもそちらに 目を奪われがちなのが痛し痒しだった。 それに、今も教団が生き残って事件を起こし続けている現実 を考えると、この作品の結末はちょっと甘いと言わざるを得 ない。実際に、逃亡犯も未だに捕まっていない訳で…でも、 この映画のように希望を持たせることが、作品として最善の 結末であろうことは理解する。 また、物語の背景も田園から都会、さらに元信者たちが更生 する姿なども織り込んで変化に富ませており、その見せる努 力を買う。ただし、主人公の少年の心理的な変化を、あのよ うに唐突ではなく、もう少し丁寧に描いて欲しかったという 感じは持った。 ただ、今の時点で事件を見つめ直すことは必要に思うし、こ のような作品がもっと出てくる必要性は感じるものだ。 『MAKOTO』 霊の見える監察医を主人公にした郷田マモラ原作のコミック スの映画化。監督は『踊る大捜査線』などの脚本家として知 られる君塚良一(初監督)、主演は1991年の東映やくざ映画 『本気<マジ>!』以来の映画出演となる東山紀之。 霊が見えると言う設定の映画は、『シックス・センス』の成 功のお陰で五万と作られているが、本編もその1作。一応、 いろいろな捻りどころはあるが、それが本筋の物語と余り関 ってこないのが本編では残念なところと言うか、不満足なと ころだ。 その本筋の物語は、主人公の妻の死を巡るもの。本来は伝え なければならないことを残した霊だけが見えてくるはずの主 人公の前に、いつまでも妻の霊が見えるところに謎が隠され ている。 という謎解きが本筋のはずなのだが、主人公の設定の説明が 不充分なのか、どうもその辺の緊張感がうまく描かれていな い。これでは、ただ妻の思慕のようにも思えてしまう訳で、 そうではないことを、もっと前面に出すべきだったようにも 感じる。 巻頭の海面に浮かぶ霊の姿などは、無気味さがあり、上記し たその意味が判るにつれ納得できてくる訳だが、その辺の巧 さをもっと本筋の物語で発揮して欲しかった。 主人公の設定を説明するための2つのエピソードと、それか ら本来の物語に入って行く筋立ては、定石通りで問題はない が、やはり主人公がもっと早く妻の思いに気付き、悩み苦し む姿があった方が良かったのではないかという感じだ。 特に、最初の幼児の霊のエピソードが、短い中にいろいろな 要素が巧みに織り込まれて上手く作られていただけに、この 畳み掛けるような構成演出の力を、本筋の物語でも再現して 欲しかったところだ。 哀川翔、ベッキーら脇役のキャラクターも良く、全体的には 好ましい作品であるだけに、歯痒さを感じるものだった。 『清風明月』“清風明月” 『MUSA』『アウトライブ』などに続く韓国製の武侠映画 (韓国では武術映画と呼ぶようだ)。 コメディ映画を多く発表しているキム・イソク監督の作品だ が、元々監督は本編のような武侠映画を撮りたかったのだそ うで、その思いが叶っての作品。本来なら上の2作より早く 作られるはずだったが、諸般の事情で遅れたもののようだ。 ただ早くに企画されたものであることは、この作品が全て韓 国国内で撮影されたという事実から明らかになる。上記の2 作はいずれも中国で撮影されており、本作はその流れに抗し ている感じだが、実はそれ以前から準備された作品であるこ とを物語っているもののようだ。 そして、その丁寧なロケーションハンティングで再現された 時代背景となる韓国の風景は見事なものだった。 物語は、戦乱の続く朝鮮王朝時代。同じ将軍の許に修業を積 み、「いつも清らかに、明るい月を愛でることのできる平和 を願う」という意味の銘の彫られた剣を授けられた2人の剣 士が、心ならずも敵味方に分かれて戦う姿を描く。 この剣の由来も2人の剣士の存在も、全てこの映画のために 作られたフィクションだそうで、全くの映画のための物語と いうことだが、その意味ではかなり大掛りな作品をよく作り 上げたものだと思う。 しかもこの2人の剣士を、『ユリョン』のチェ・ミンスと、 『悪い男』のチョ・ジェヒョンという韓国を代表する男優が 見事に演じており、まさに映画という感じの作品だ。 さらに建設に2年掛けたという川面に25隻の船を並べた延長 250mの浮き橋と、総勢1450人のエキストラによるラストシー ンは、なかなかの出来映えだった。 自分の目からすると、事情があるとは言え敵側に寝返り、そ の上層部まで登り詰める主人公にはちょっと違和感があり、 他方の刺客となって高官を襲う剣士の側に感情移入がしやす く感じる。 しかし、映画は寝返らざるを得なかった側を中心に描くこと でドラマを作っており、その点の理解はするが、やはり重く なりすぎた感じは持つ。やはり、両者のバランスをもう少し 平等にしてくれた方が、もっと楽しめたのではないかという 感じがした。 主人公の葛藤もそれなりに理解できるし、何より円熟した男 優2人のぶつかり合いには見応えがあったが、折角の『友へ /チング』キム・ボギョンのヒロイン役が、見せ場も余りな く、役不足のようにも感じた。 なお本作では、最近の韓国映画には珍しく、最初の題名及び キャスティングの紹介にハングルだけでなく、漢字も振られ ていた。これは監督の意向なのだろうか。 『失われた龍の系譜』“龍的深處−失落的垪圖”(垪は正し くは手遍) ジャッキー・チェンのプロダクションの製作で、チェンの父 親の足跡を追ったドキュメンタリー。 映画は、独りっ子だと思っていたチェンが、両親がそれぞれ 事情を持っての再婚で、父と先妻との間に2人の兄と、母と 先夫との間に2人の姉がいること、さらにチェンの本当の苗 字が、陳ではなく扇(ファン)であることなどを知らされる ところから始まる。 そこから、父親の思い出話とその映像による検証、さらに口 が不自由になっている母親に代っての2人の姉の証言や、2 人の兄の証言も加えて、第2次大戦前からの中国の人々が辿 った苦難の道が描かれる。 実際、国民党の支持者だった父親の証言は、今でも共産中国 という言い方を変えない辺りに、その苦難の跡が忍ばれる。 ただし最初の内がかなりの大言壮語気味で、まあ昔の人の話 は皆こんなものだという感じではあるが、少し心配になると ころはあった。 ところが、それに続く日本軍の空爆から南京大虐殺に至る証 言は、検証の映像も含めたかなりリアルなもので、これはい ろいろの意味での論議を呼びそうな感じだ。 一方、大陸に残された2人の兄はその後行方不明となり、年 月を経て探し当てられるが、その間の苦労も忍ばれる。しか し、それらの苦労は中国人のほとんどが多かれ少なかれ味わ ったものだと言い切られてしまうと、もはや我々には何も言 えない。 勿論これは、日本だけでなく、北京政府も絡む問題だが… 上海で知り合った男女が別々に行動しながらも香港で巡り会 うなど、まさに事実は小説より奇なりといった感じの物語。 ただ、香港へ渡る下りはさすがに映像での検証はないが…と いうことで、現在この物語をドラマ化する計画も進んでいる ようだ。
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