井口健二のOn the Production
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2004年12月01日(水) 第76回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずはこの話題から、アメリカでは2005年12月、日本では
06年3月に公開が予定されているC・S・ルイス原作『ナル
ニア国ものがたり』(The Chromicles of Narnia)の映画化
について、ディズニー映画の配給会社ブエナ・ヴィスタと、
原作本の発行元の岩波書店による共同記者発表が11月30日に
行われた。通常映画の記者会見というのは、公開間際に宣伝
で行うもので、製作国でもない場所でこのように早くから記
者発表が行われるのは異例のようにも思えるが、実はディズ
ニーの宣伝活動は、公開の2年前から始められるのが通例な
のだそうで、今回はその意味では遅れ気味とのこと、多少焦
りも感じられる記者発表だったようだ。
 といっても、この記者発表の出席者はいずれも日本の会社
の代表者で、映画化を行っている本人ではない。従って突っ
込んだ話は聞けなかったが、僕がした質問で、2作目以降の
映画化のスケジュールについては一応の回答が得られた。そ
れによると、第2作の脚色はすでに作業に入ってはいるが、
その製作は第1作の様子を見ながらになるとのこと。少なく
とも第2作までは作られるが、第3作を作るかどうかは第1
作のヒットの具合によるということだった。
 つまり今回の映画化では、全7巻の原作を7本の映画にす
る計画ではないようで、2作目以降はまとめた形での映画化
が予定されているようだ。実は、僕は原作の第1巻は学生時
代に原書で読んだものだが、それ以降の巻はまだちゃんとは
読んでいない。従って正確なことは言えないが、このシリー
ズでは、第1巻をプロローグとして、第2巻以降ではナルニ
ア国の成立から最後までが描かれているということだ。だと
すると、第1巻は単独で映画化して、それ以降はまとめて何
本かに再構成するというのは、無茶な計画ではない。
 それに、この映画化がヒットしないとはまず思えないもの
で、少なくとも2〜3部作、うまくすれば4部作になる可能
性もありそうな雰囲気だった。なお、第1作の“The Lion,
the Witch and the Wardrobe”(ライオンと魔女)の撮影は
現在ニュージーランドで進行中で、本編の撮影は年内に完了
の予定。その後に“Lord of the Rings”を手掛けたWetaの
スタッフによる視覚効果などのポストプロダクションが行わ
れ、初号完成は来年8月頃になるだろうということだった。
 なお、この記者発表は、ワーナー配給の『僕の彼女を紹介
します』の出演者・監督の来日記者会見とぶつかっており、
僕もどちらに行こうか迷ったものだが、恐らくは女優も来て
いるワーナーの方が混むだろうと考えてこちらに来ていた。
しかしこちらの会場も立ち見が出るほどの盛況ぶりで、本作
への関心の高さが伺えたものだ。
        *         *
 以下はいつもの製作ニュースで、最初はこの話題から。
 『マトリックス』の完結から1年、ウォシャウスキー兄弟
の再始動が発表された。
 今回発表された計画は、ワーナーが製作を進める“V for
Vendetta”という作品で、1980年代のDCコミックスに期間
限定で発表されたアラン・モーア原作のグラフィック・ノヴ
ェルを映画化するもの。内容は、ドイツが第2次大戦に勝利
した後のイギリスを舞台に、全体主義に走る体制に反抗する
仮面を付けた謎の怪人を主人公とした物語ということだ。
 この計画、実は数年前から兄弟が脚色を依頼されていたも
のだが、彼らが『マトリックス』を提案したために中断して
いた作品とも言われている。また今回の計画で、兄弟は監督
にはタッチせず、監督は、『マトリックス』シリーズの第1
助監督を務め、“Star Wars: Episode III”でも第1助監督
を務めているジェームズ・マクティーグが担当、本作で監督
デビューすることになっている。つまり本作では、兄弟は製
作のみの担当だが、この製作にはジョール・シルヴァも加わ
っており、『マトリックス』と同様の体制になるようだ。
 因に原作者のモーアは、1980年代の前半にDCコミックス
に加わった初めてのイギリス出身のライターということで、
当時すでにウェス・クレイヴン監督の映画化などで人気のあ
った“Swamp Thing”を、異形でありながら人間味のある怪
人として成功させ、さらに1988年にはシリーズの中では最も
人気が高いという“Batman: The Killing Joke”のグラフィ
ック・ノヴェルの原作も担当している。
 また、モーア原作のグラフィック・ノヴェルからは、ジョ
ニー・デップの主演で、2001年に公開された“From Hell”
(フロム・ヘル)や、昨年ショーン・コネリー主演で公開さ
れた“The League of Extraordinary Gentlemen”(リーグ
・オブ・レジェンド)などが映画化されているものだ。
        *         *
 そして、このモーア原作によるグラフィック・ノヴェルか
らはもう1本、パラマウントで“The Watchman”という作品
の映画化も進められている。
 この原作は、1986年11月から87年10月まで、月刊で12巻の
みが発表された作品だが、モーアの原作の中でも最も成功し
た作品とも言われている。内容は、こちらも第2次世界大戦
後の1950年代を背景にした作品で、普通の人間が変身するタ
イプのスーパーヒーローもの。現実とはちょっと違う世界を
舞台に、仮面を着けるとスーパーパワーを発揮する主人公が
活躍する物語のようだ。
 そしてこの計画も、実は以前から進められていたもので、
3年ほど前にはユニヴァーサルで、『X−メン』のデイヴィ
ッド・ハイターの脚本が契約されていた。しかしユニヴァー
サルでの映画化は実現せず、その後、権利はパラマウントに
移転され、同社では1998年に公開された“Pi”(π)などの
ダーレン・アロモフキーの監督で進めることになっていた。
ところがアロモフスキーは、このページでも以前から紹介し
ている自らの企画の“The Fountain”を進めたいという意向
が強く、10月に正式に降板を表明してしまったものだ。
 そこで後任の監督が検討されていた訳だが、この監督に、
この夏公開の“The Bourne Supremacy”が1億7500万ドルの
大ヒットを記録したポール・グリーングラスの起用が発表さ
れた。なお、グリーングラスはイギリス出身で、以前の作品
では1998年にヘレナ・ボナム=カーターとケネス・ブラナー
の共演で製作された“The Tehory of Flight”(ヴァージン
・フライト)が知られているが、この作品では難しいテーマ
を見事な手際で演出したと記憶している。今夏の新作は未見
だが、この監督なら本作も期待が持てるという感じだ。
        *         *
 お次は、前回“The Fantastic Mr.Fox”を紹介したロアル
ド・ダール原作の映画化の計画が、その後も続々と発表され
ている。
 まずは続報で、前回報告した“The Fantastic Mr.Fox”に
関連して、その後『ジャイアント・ピーチ』のヘンリー・セ
レックによる共同監督が発表された。前回は、ストップモー
ションアニメーションということで危惧を書いたが、これな
ら鬼に金棒どころか、万全の体制と言えそうだ。
 続いて新たに発表された計画で、1本目は“The Twits”
という作品。これは余り上品とは言えないカップルと、彼ら
が所有する動物たちの不幸な音楽隊の物語ということだが、
その映画化が、元モンティ・パイソンのジョン・クリーズの
脚色、主演により、実写とアニメーションの合成で計画され
ている。監督には“Ali G Indahouse”のマーク・マイロッ
ドが起用され、製作は『シュレック』のジョン・ウィリアム
ス、製作会社はディズニーということだ。
 2本目は“The B.F.G.”。このタイトルは、Big Friendly
Giantの略称ということで、内容もその通りの優しい巨人が
活躍するお話のようだが、この映画化の脚色を、『メン・イ
ン・ブラック』のエド・ソロモンが担当している。なお、こ
の計画は、元アムブリンのヒットメーカー、キャスリーン・
ケネディとフランク・マーシャル夫妻がパラマウントで進め
ているものだ。
 この他にも、ロバート・アルトマンがダールの大人向けの
短編集をテレビシリーズ化する計画も進められており、この
計画では、全6話のシリーズの全てをアルトマンが製作し、
内3話は監督も担当するということだ。
 さらに、直接映画の話ではないが、ダールが晩年を過ごし
たイギリスのバッキンガムシャーには彼の記念ミュージアム
も開館する予定。そしてその入り口の扉は、来年夏の公開予
定の映画“Charlie and the Chocolate Factory”に因み、
チョコレート色に塗られるということで、没後15年を迎えた
ダールの再評価はますます盛んなようだ。
        *         *
 現在、シリーズ第4作の“Harry Potter and the Goblet
of Fire”が製作中の『ハリー・ポッター』で、第5弾とな
る“Harry Potter and the Order of the Phoenix”の映画
化を担当する脚本家と監督が発表された。
 このシリーズの脚本は、第4作まではスティーヴ・クロヴ
スが担当していたが、彼は同じくワーナーが製作する“The
Curious Incident of the Dog in the Night-Time”という
マーク・ハッドン原作のベストセラー小説の映画化の脚本、
監督のために降板。替って、1997年にジョディ・フォスター
主演、ロバート・ゼメキスの監督で映画化された『コンタク
ト』や、日本では今春公開された実写版『ピーター・パン』
の脚色を手掛けたマイクル・ゴールデンバーグの起用が発表
されている。
 一方、監督にはいろいろな名前が噂されていたものだが、
結局イギリス人のデイヴィッド・イェイツが担当することに
なった。イェイツはテレビのミニシリーズなどの演出で授賞
の経験もあるようだが、映画は1998年に1作品あるのみ。た
だし現在は、1981年に一度映画化されたイヴィン・ウォー原
作の“Brideshead Revisited”(ブライズヘッドふたたび)
という作品を、ジェニファー・コネリーとポール・ベタニー
の共演でリメイクした作品が待機中だそうだ。
 『ハリー・ポッター』シリーズも後半に入って、物語も急
展開を迎える第5巻だが、新しい血の導入で作品がさらに面
白くなることを期待したい。
        *         *
 ヌ・イメージというプロダクションは、かなり前からSF
やアクション映画を専門に作り続けてきている独立系の映画
会社だが、この会社が先月開催されたAmerican Film Market
(AFM)で発表した新作に配給契約の申し込みが殺到し、
製作予定を早める事態になっている。
 この作品は、“Black Hole”と題されているもので、ロン
グアイランドにあるブルックヘヴンという国立研究所の研究
者が、実験の暴走から、地上にブラックホールを造り出して
しまうという内容。当然このブラックホールは全てのものを
飲み込んで行く訳で、一種のデザスタームーヴィということ
になりそうだ。主演は、“Buffy the Vampire Slayer”のテ
レビシリーズになる前の映画版で最初のバフィーを演じたク
リスティ・スワンスンと、“Breakfast Club”のジャド・ネ
ルス。総製作費は350万ドルとされている。
 そしてこの計画がAFMで発表され、これにヨーロッパの
各国やアジアの配給会社が殺到したというもので、事前には
2005年の前半に開始予定だった撮影が、2004年11月28日に繰
り上げられたといわれている。因みにAFMというのは、元
来がこのように製作を希望する映画会社が企画を出品し、海
外の配給権を契約してその契約金で映画を実現させる資金集
めの場所ということだが、それにしても今回のような反響が
集まったのは珍しいようだ。よほど上手いプレゼンテーショ
ンが行われたのだろう。なお、日本の配給権はアートポート
が獲得したようだ。
 実は手元の資料では、監督や脚本などが判らないのだが、
それにしても突然の撮影開始の繰り上げで、スタッフやキャ
ストの対応は大丈夫なのだろうか。それから発表されている
題名は、1979年にディズニーが製作した宇宙もののSF映画
のタイトルと同じもの(ディズニー作品は最初にTheが付い
ているのが違うと言えば違う)だが、このままの題名で認め
られるのだろうか。
        *         *
 日本では昨年公開された“28 Days Later”(28日後…)
や、2000年にレオナルド・ディカプリオ主演で映画化された
“The Beach”(ザ・ビーチ)の原作者としても知られるア
レックス・ガーランドが発表した新作の脚本に、6桁($)
の契約が公表された。
 この脚本は“Time Keeper”と題されたもので、2人の少
年が、実はこの世では魔法が本当に使えることを発見し、そ
の魔法を使って世界の歴史の中で、普通でない役割を演じる
ことになるというお話。最近流行りの若年向けファンタシー
ということになりそうだが、Variety紙の記事では、1985年
にリチャード・ドナーが監督した『グーニーズ』を、より薄
気味悪く、現代化したような作品と紹介されていた。
 契約を結んだのは、イギリスの映画会社のワーキング・タ
イトルと製作者のバリー・メンデル。因みにメンデルは、年
末に全米公開が予定されているウェス・アンダースン監督の
海洋SF“The Life Acquatic”や、ジョディ・フォスター
が監督する計画で長らく滞っている“Flora Plum”なども手
掛けている。
 “The Beach”は見ていないが“28 Days Later”にはイギ
リスの小説で伝統的な終末ものの味を感じた。今度はイギリ
スのもう一つの伝統のファンタシーということで、ガーラン
ドという作家の持味が本当はどの辺にあるのか判らないが、
期待したくなる作品というところだ。
 なおワーキング・タイトルは、アメリカ配給はユニヴァー
サルと優先契約を結んでいるようだが他の国は不明。日本は
どこが配給するのかも気になるところだ。
        *         *
 トム・クルーズ主演、スティーヴン・スピルバーグ監督に
よる“War of the World”の撮影は、11月7日にニュージャ
ージー州でのロケーションから開始されたが、これから来年
6月29日の全米公開に向けての、文字通りの時間との競争が
スタートしたようだ。
 因みに、スピルバーグの計画では、今回は75日間の撮影期
間を予定しているということ、また大掛りなものから先に撮
影するスケジュールになっているということだ。そして12月
初旬にはニューヨーク州で1000人のエキストラを使った撮影
が計画されているようだ。
 しかし今回製作を担当しているキャスリーン・ケネディの
記録によると、スピルバーグは通常70日以内で撮影を完了し
ているということで、例えば2002年の『キャッチ・ミー・イ
フ・ユー・キャン』では、ロサンゼルスからニューヨーク、
モントリオール、クェベックまで移動した撮影を56日間で行
っている。それに比べると、今回の撮影が如何に大変なもの
になるか想像が出来るというものだ。
 また、VFXに関しては、今回はILMが全て担当するも
のだが、その総数は500ショットが予定されている。そして
その製作は、本編撮影の終了までに少なくとも半数が完了、
または製作中になっていることが期待されているそうだ。 
 実際、このスケジュールはかなり大変なもののようだが、
このためスピルバーグは、撮影監督のジャヌーシュ・カミン
スキーから視覚効果のデニス・ミューレンまで、最も気心の
知れたスタッフを招集しており、ケネディの言葉によれば、
「これが出来る人がいるとすれば、それはスピルバーグ。彼
は、多分それが出来る唯一の監督だ」ということだ。
 なお、パラマウントとドリームワークスが計上した共同製
作の資金は1億2800万ドル。ただしこの中には、クルーズと
スピルバーグの契約金は入っていないということで、2人は
興行収入に対する歩合のみの契約で今回の映画化を行ってい
るそうだ。
        *         *
 『スパイダーマン』の大ヒットで一躍トップ監督の仲間入
りを果たしたサム・ライミ監督が、原点に戻って彼自身の出
世作である1983年の“The Evil Dead”(死霊のはらわた)
をリメイクする計画を発表した。
 この計画は、ライミとオリジナルを製作して以来のパート
ナーのロブ・タペート、それにオリジナルに主演したブルー
ス・キャンベルが進めているもので、ライミとタペートが設
立したゴースト・ハウス・ピクチャーズが主体となり、キャ
ンベルも含めた3人で製作するというもの。因に、この会社
は設立されたばかりだが、第1作として手掛けた『呪怨』の
アメリカ版リメイク“The Grudge”が全米で1億ドル突破の
大ヒットを記録したものだ。
 ライミが製作、脚本、監督を手掛けた“The Evil Dead”
では、その後の1987年に“The Evil Dead II”(死霊のはら
わたII)が発表され、さらに1993年に“Army of Darkness”
(キャプテン・スーパーマーケット)が発表されているが、
今回の計画はシリーズの続きを作るのではなく、第1作のリ
メイクをするというもの。当時は低予算で充分なVFXも使
えなかったものを、今の技術と予算を掛けて完全版を作りた
いという意向のようだ。また、改めてシリーズ化も進めたい
としている。
 ただし今回の計画では、ライミは監督にはタッチしない予
定で、このため最初にシリーズ化も念頭に置いた新監督の選
考が行われ、その監督が決まった段階で新たな脚本が執筆さ
れることになっている。また、キャンベルに代る新たな主役
も選考されることになっているが、キャンベル自身も出演は
したい意向だそうだ。
 なおオリジナルの物語は、人里離れた山小屋に遊びに来た
若者たちが、その山小屋に隠された『死者の本』を発見し、
その記述を読み解いて太古の殺人鬼を甦らせてしまうという
もの。そこから始まるスプラッターの強烈さで話題になった
ものだが、単なるスプラッター描写だけでなく、物語もちゃ
んとしていたところが、今にして思えばさすがライミと思わ
せる作品だった。
 そしてこの主人公の殺人鬼は、一時“Freddy vs.Jason”
の続編に登場させる計画もあったということで、その計画は
立ち消えになってしまったようだが、その計画に絡めたライ
ミらの検討から、今回のリメイクのアイデアが生まれたとい
う可能性はあるようだ。
 いずれにしても、“The Texas Chainsaw Massacre”や、
“Dawn of the Dead”、さらに“Amityville Horror”など
往年のホラームーヴィが次々リメイクされる流れの中で、ま
た1本期待のリメイクが発表されたというところだ。
 さらにゴースト・ハウスの計画では、『The Eye』
のパン兄弟が監督する“Dibbuk Box”、“Scarecrow”、
コロムビア配給の“30 Days of Night”、スクリーンジェ
ムズから2月に全米公開される“Boogeyman”などが予定さ
れているそうだ。


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