井口健二のOn the Production
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2004年11月30日(火) きみに読む物語、照明熊谷学校、永遠のハバナ、戦争のはじめかた、ネオ・ファンタジア、シャーク・テイル

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『きみに読む物語』“The Notebook”          
1996年に出版されて、NYタイムズのベストセラーリストに
56週間(1年以上)連続で掲載され、全米で450万部が発行
されたというニコラス・スパークス著の長編小説の映画化。   
老人ケア施設で、一人の老女に熱心にノートに綴られた物語
を読み聞かせる老人。そこに綴られたのは、1940年の夏に起
った17歳の金持ちの娘と、時給40セントで働く労働者の青年
の恋の物語。                     
青年は、夏の別荘に逗留して町に遊びに来ていた娘に一目惚
れし、最初はすげなくされるが、猛烈なアタックで彼女の心
を射止める。しかし娘には大学への進学が決まっており、夏
が終れば別れなくてはならない運命が待っていた。    
そして2人の恋は激しく燃え上がるのだが…ラヴ・ストーリ
ーの部分は、いわゆる青春ものによくあるパターンかも知れ
ない。しかしここに織り込まれるのが、アルツハイマー病の
女性と、彼女にこの物語を読み聞かせる老人の、もう一つの
ラヴ・ストーリーだ。                 
実は、身内にこの病の患者を持っており、その目で見ている
と、この物語の真の悲しみがひしひしと伝わってくる。幸い
僕の身内はまだここまでの症状にはなっていないが、いつか
こうなってしまうのかと思うと、その恐ろしさも感じてしま
うところだ。                     
しかし全体は、至上の愛の物語と言って良いだろう。恋愛映
画では『マディソン郡の橋』と比較されているようだが、今
から考えるとただの情欲に走るばかりの写真家との不倫の話
などとは、比較することができないほどの純愛の物語が本作
では描かれている。                  
ただ、アルツハイマー病の患者に対する接し方の部分では、
ちょっと説明不足の感じがした。多分治療の一環として、こ
のような接し方が正しいのだろうが、展開として奇異な感じ
もしたし、もう少しその辺の説明が欲しかったところだ。 
それから、ノートが書かれた経緯についても説明があってし
かるべきだろう。原作がどうなっているのかは知らないが、
本来ならここにも大きなドラマがあったはずだ。その物語が
原作にもないとしたら、それはちょっと残念なところだ。 
映画のような奇跡が起ることは、医学的には何の根拠もない
ものだが、やはり奇跡を願わずにはいられない、それが患者
を身近に持つものとしての感想だ。           
                           
『照明熊谷学校』                   
大映京都を出発点に、日活のSP(sister pictureの略だと
いうことを初めて知った)で一本立ちし、その後はロマンポ
ルノから『人間の証明』までの日本映画を支えてきた照明マ
ン、熊谷秀夫氏の足跡を辿ったドキュメンタリー。    
以前『さよならジュピター』の撮影を見学したときに、照明
係の人が長い竹竿1本で天井に吊るされたライトの向きなど
を、いとも簡単に変えるのを見たことがある。原始的なやり
方だと思う反面、こういう人たちが映画を支えているのだと
思ったものだ。                    
このドキュメンタリーでは、そんな原始的な話までは出てこ
ないが、熊谷氏が編み出したいろいろなテクニックや苦労話
が、完成された作品の映像と共に紹介される。その映像の数
25本というのは、日本のこの手のものとしてはよく集められ
たものだ。                      
僕自身、元々が技術系の勉学をした人間であるし、このよう
な創意工夫や苦労話は聞いていて非常に興味がある。その点
では面白く見させてもらった。しかし半歩下がって、このド
キュメンタリーを一般の人が楽しめるかというとちょっと疑
問に思う。                      
ほとんどがインタビューと映像の羅列というのは、余りに芸
が無さ過ぎる。確かに、出演俳優やスタッフ・監督などへの
インタビューで変化は付けられているのだが、何かもっと工
夫があってもいいのではないかと感じた。        
少なくとも都内で行われたロケの現場などは再訪して、その
場で何をしたのかを再現映像を交えて聞く、そんな構成があ
っても良かったのではないかとも思う。音声が充分に取れて
いないところもあり、プロが題材なのにプロの作品ではない
感じがした。                     
題名にある通りの「学校」での教科書としては、良い内容だ
とは思うが。                     
                           
『永遠のハバナ』“Suite Habana”           
各地の映画祭で数々の受賞に輝くキューバの映画作家フェル
ナンド・ペレス監督が、自らの生まれ育ったハバナを題材に
作り上げたドキュメンタリー。政治も何も絡まない現在のハ
バナに暮らす複数の家族の生活が描かれる。       
モロ要塞の灯台の明りが消え、ハバナが朝を迎えるところか
ら映画は始まる。その町での暮らしは楽ではないし、将来に
大きな希望を持つこともできないのが現実。そんな中で人々
は日々の暮らしを続けている。             
病気の息子に寄り添うために、定職をなげうって、就業時間
の短い職に就いた父親や、市場で仕入れたピーナッツを自宅
で煎り、紙筒に詰めて公園で売る老婆。鉄道や壊れかけた家
を黙々と修理し続ける人々。それしかできない人たちの姿が
淡々と描かれる。                   
昼間は黙々と働きながら、夜になるとダンスホールに粋な出
で立ちで出かける人々。そんなことで良いのかと思いながら
も、ラテンの乗りの中で一日が終ってしまう。目標を持って
努力している人もいるが、夢も希望も失ってしまった人もい
る。人は様々だ。                   
でも考えてみれば僕らだって、彼らと同じようなものかも知
れない。そんな共感を覚えてしまったりするところも、この
映画の魅力なのかも知れない。             
                           
『戦争のはじめかた』“Buffalo Soldiers”       
ピュリッツアー賞の候補にもなったロバート・オコナー原作
の映画化。                      
映画は2001年に完成。9月8日のトロント映画祭で上映され
て絶賛を浴び、10日にはミラマックス配給で全米公開が決ま
ったが…。11日以降は、一気に高まるナショナリズムの中で
試写の度に罵声を浴び、2003年まで全米公開ができなかった
という作品。                     
舞台は、1989年の西ドイツ、シュツットガルトの駐留米陸軍
基地。主人公のエルウッドは窃盗の罪で1年の服役か3年の
軍役かの選択を迫られ駐留軍にやってきた男。しかし、もは
や戦争の気配はなく、「戦争は地獄だが、平和は死ぬほど退
屈」という状態。                   
平和ボケの中、軍の上層部は昇進を狙った上官のもてなしパ
ーティに明け暮れ、基地にはドラッグも蔓延している。そし
て主人公は、当然その中を掻い潜って補給物資の横流しやド
ラッグの売買で稼いでいたが…             
ある日、ヴェトナムの勇士だったという曹長が赴任し、基地
内の浄化を始める。しかも、主人公はその曹長の娘に恋心を
持ち、当然父親である曹長の目の敵にされることに…   
『キャッチ22』や『M★A★S★H』などの流れを汲む戦争
コメディだが、舞台は平時の基地、従って戦闘シーンはない
のだが、これが何とも最初から死人の続出でかなりブラック
な物語。しかも、その死は全て服務中の名誉の死として処理
される。                       
原作者のオコナーは、軍隊経験も、ドラッグ経験も、ドイツ
を訪れたこともないということだが、この作品は取材に基づ
いた真実の物語だと言う。また映画化にあたって監督らが行
った調査でも、真実の裏づけが取れたという。      
「平和なとき、戦争は自らと戦争する」ニーチェの言葉だそ
うだが、その通りの愚かな軍人の姿が描かれる。9月11日以
降のアメリカで糾弾されたのも頷ける作品だ。しかし糾弾し
なければならないほど、ここには真実が描かれているという
ことなのだろう。                   
そして、こういう連中を支援するために、「思いやり予算」
があるということだ。                 
                           
『ネオ・ファンタジア』“Allegro non Troppo”     
1976年にイタリアで製作されたオムニバスアニメーション。
クラシック音楽をモティーフにした6本の短編と、プロロー
グ、エピローグ、及び各短編の間を繋ぐ実写のシーンとから
構成される。                     
クラシック音楽は、『牧神の午後のための前奏曲』『スラヴ
舞曲第7番』『ボレロ』『悲しみのワルツ』『ヴァイオリン
協奏曲ハ長調』『火の鳥』の6曲。           
当然『ファンタジア』から想を得たものだが、本作にはディ
ズニーとは違ってかなり毒がある。その毒の具合が滅法面白
く、大人の楽しめる作品になっているというものだ。   
またディズニー作品では、それなりに統一されたイメージが
あったが、本作では各曲ごとに、セルやクレイも使って全く
違うイメージのアニメーションが展開される。オーソドック
スなものや実験的なものもあり、いろいろ楽しめた。   
実は、1980年に一度日本公開されており、その当時に見てい
るはずだが、全く記憶から抜けていた。見直してそれなりに
思い出したところもあったが、全部ではなく、おかげで新鮮
に見られたものだ。                  
その感想としては、今見ても全く古びたところが無く、却っ
て24年前より今のほうがマッチするのではないかと思ったほ
どだ。特にポスターにもなる『悲しみの…』の猫などは、今
時のアイドルキャラとしても充分通用する感じだ。    
また、『スラヴ…』や『火の鳥』の文明風刺の部分が、今も
通用することにも感心した。逆に、当時は感動したはずのS
F的な『ボレロ』が、今見るとちょっと物足りない感じがし
た。SFの難しさがここにあるという感じだ。      
上映時間は85分。試写は本編だけの上映だったが、1月2日
からの一般公開では、本作と同じブルーノ・ポツェットの監
督による短編が同時上映されるようだ。         
                           
『シャーク・テイル』“Shark Tale”          
今春『シュレック2』を公開したばかりのドリームワークス
・アニメーションが製作した最新作。アメリカでは10月1日
に公開され、3週連続の興行成績第1位を記録した。   
珊瑚礁の海の海底の物語。そこには沢山の小魚たちの住む街
が広がり、人間社会と同じような生活が営まれている。ただ
問題は、時々現れては小魚たちを捕食するサメの存在。サメ
が現れるとサメ警報が発せられ、小魚たちは姿を隠さなけれ
ばならない。                     
ところがある日、1匹の小魚が凶暴なサメを倒してしまう。
それは偶然の作用によるものだったが、彼は自分の活躍を調
子よく吹聴し、そのため一躍英雄となる。そして…    
この小魚の主人公の声をウィル・スミス、そのガールフレン
ドをレネー・ゼルウィガー(本作からレネーという表記にな
るようだ)、英雄となった主人公に言い寄る雌魚をアンジェ
リーナ・ジョリー。                  
一方、マフィアを模したサメ一家のドンをロバート・デ=ニ
ーロ、その息子で、心優しいヴェジタリアンのサメをジャッ
ク・ブラック。さらにマーティン・スコセッシら錚々たる顔
ぶれのヴォイスキャストが共演している。        
ドリームワークスのアニメーション作品は、『シュレック』
シリーズがディズニー作品のパロディ満載なのは見て判る通
りだが、その前にはディズニーの『バグズ・ライフ』に対抗
して『アンツ』を作るなど対抗意識は旺盛。そして今回は、
『ファインディング・ニモ』に対抗しての『シャーク・テイ
ル』という訳だ。                   
しかも、ディズニーの作品がそれなりに魚の世界を描こうと
していたのに対して、本作はサメをマフィアに模すなど、完
全に人間社会のパロディ。従ってかなり汚いギャグも出てく
るし、その辺は大人向けとしてみなければいけない作品とい
えそうだ。                      
登場するパロディも、『シュレック』以上に捻りが利いてい
るし、本作ではさらに大人の観客を目標にしている感じだ。
これで3週連続の1位というのだから、アメリカの観客のレ
ヴェルの高さを感じてしまう。             
ただし日本では、アニメーションは子供向きに売らなければ
ならないというのが難しいところで、本作も来年3月の春休
み公開となっているが、その辺りの壁をなんとか打破しても
らいたいものだ。


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井口健二