井口健二のOn the Production
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2004年11月14日(日) ポーラー・エクスプレス、Mr.インクレディブル、ふたりにクギづけ、プリティ・プリンセス2−ロイヤル・ウェディング、ネバーランド

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ポーラー・エクスプレス』“The Polar Express”    
クリス・ヴァン・オールズバーグ原作の『急行「北極号」』
をロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演で映画化し
た作品。                       
オールズバーグの映画化では、過去にロビン・ウィリアムス
主演で実写(VFXを含む)ドラマ化した『ジュマンジ』が
あるが、今回は、原作の絵をそのままCGI化し、さらにハ
ンクスらの演技をデータ化してCGIに取り込む手法が採ら
れた。                        
つまり絵本の中にハンクスらが飛び込んで演技をしている感
じだ。そしてこの技術によりハンクスは、主人公の少年とそ
の父親、車掌、ホーボー、そしてサンタクロースと5役を一
人で演じている。(なお11月12日に行われた記者会見では、
記者会見ではもう1役あるという意見が出されたが、それは
他のキャラクターに操られているものだから役ではないとい
うのがゼメキスの考えのようだ)            
物語は、原作に沿っているが、10数ページの絵本から長編を
作り出すためにはいろいろなエピソードが付け加えられてい
る。その多くは全く新規のものだが、中には、原作の絵の前
と後のシーンといったものもあり、これは原作の読者へのプ
レゼントという感じだ。なお、エピソードの追加には、原作
者のオールズバーグもアイデアを出したそうだ。     
それにしても、作品の全体は見事に子供の絵本の感じになっ
ている。実際、アメリカでの年齢制限のレイティングはG。
全くの年齢制限なしということで、これはディズニーアニメ
ーションでも、最近はなかなか取れないくらいのものだ。 
従ってこの作品を大人の目で見ると、多少の物足りなさは禁
じえない。しかし、ここまで見事にGレイトを勝ち取った映
画製作者には敬意を表して、大人もしっかりと童心に帰って
鑑賞するべき映画ということだろう。          
とは言っても、列車の暴走やプレゼント工場での冒険など、
スピード感あふれるシーンの数々は、一級品以上のアクショ
ン映画の仕上がりになっている。この辺は見事なものだ。 
ただし今回は、新技術のパフォーマンス・キャプチャーに拘
わり過ぎたせいか、キャラクターの表情が少し乏しい感じが
する。これは例えば車掌などの大人のキャラクターではあま
り目立たなかったが、子供の表情は特に平板な感じがした。
例えば“The Lord of the Rings”のスメアゴルの表情など
は、一々アニメーターが手書きで描き込んでいる訳だが、こ
の作品ではそういう作業はしていないということだろう。こ
れは技術の進歩のためにも、敢えてしなかったという感じも
あり、それに対する一般観客の反応が注目されるところだ。
なおアメリカでは、Imax 3-Dによる上映も同時公開で行われ
る。日本でのImax上映はまだ未定のようだが、2D版で見て
いてもかなりの迫力のあるシーンが描かれており、これはぜ
ひとも3Dで見てみたいものだ。            
                           
『Mr.インクレディブル』“The Incredibles”     
ディズニー=ピクサー・アニメーションの最新作。    
両親と子供たち、家族のそれぞれがスーパーパワーを持つ一
家の活躍を描いたアドヴェンチャー物語。        
主人公のMr.インクレディブルは、スーパーパワーを使って
幾多の危機から人々を救い続けてきた。しかしあるとき、予
期せず救われてしまった人物からその行為を訴えられ、いろ
いろなパワーを持つ仲間達とともにそのパワーの使用を禁じ
られてしまう。                    
そして15年、彼らは政府機関の保護プログラムの管理の下、
一般市民に混じって平凡な生活を送ろうとしていた…が、彼
らには天性の人助けの心があり、それは現代社会の生活にお
いて、特に企業活動の中では、周囲との軋轢を生むことの多
いものであった。                   
さらにMr.インクレディブルには、同じくスーパーパワーの
持ち主の妻との間に3人の子供が誕生したが、子供たちもま
たパワーに使用を禁じられているために性格が暗くなりがち
で、家庭内の問題も山積みとなっていた。        
そんなある日、Mr.インクレディブルに、政府機関の代理人
と称する女性から、極秘任務の依頼が届けられる。それは、
絶海の孤島に設けられた秘密基地で、極秘に開発された秘密
兵器の暴走を止めるというものだったが…        
邦題は父親の名前になっているが、原題はそうではないとこ
ろに注目。この原題にこそ物語の本質がある訳で、このお話
は父親個人の物語ではなく、家族全体の物語なのだ。   
それにしても、ピクサーの物語を展開させる上手さには感心
する。オリジナルのアイデア(この作品で言えばパワーの使
用を禁じられたスーパーヒーロー)から、意外性に富んで、
しかも実にありそうな展開が見事に生み出されている。  
これは登場キャラクターたちの性格の捉え方の上手さでもあ
るのだろうが、尋常ではないキャラクターなのに、こんな一
家が隣にいてもおかしくないような、そんな現実味を持った
キャラクターたちが見事に描かれているのだ。      
その一方で、主人公たちの主戦場となる秘密基地の楽しさ。
ここにも子供から大人まで堪能できる仕掛けが一杯に詰め込
まれており、こういったサービスも、ピクサー作品の人気の
秘密と言えそうだ。                  
いわゆるスーパーヒーローもののパロディも満載で、その種
の作品のファンにも納得できる仕掛けも存分に仕込まれてお
り、そういった目で見ても楽しめる作品だった。     
                           
『ふたりにクギづけ』“Stuck on You”         
マット・デイモンとグッレグ・キニアが、30代まで成長した
結合双生児を演じる、かなり過激なコメディ作品。    
東部の漁村でハンバーガーレストランを営むウォルトとボブ
兄弟は結合双生児。しかも、絶妙のコンビネーションで面倒
な客の注文も次々こなす人気者だった。しかし俳優志望で毎
年「一人芝居」を上演しているウォルトには、ハリウッドで
スターになる夢があった。               
そんなウォルトの夢を叶えるため2人はハリウッドへと旅立
ったが、そこはいろいろな思惑が渦巻く大変な場所だった。
それでもウォルトは、偶然も作用してシェール主演のテレビ
番組の共演者の座を得、一躍人気者となったが…     
製作、脚本、監督は『メリーに首ったけ』などのファレリー
兄弟。従来から毒のあるコメディで人気のある兄弟の作品だ
が、今回はそれにもまして過激な設定で、普通ではなかなか
実現しそうもない感じのものだ。しかし、それを見事にコメ
ディに昇華させているところがただ者ではない。     
しかもこれに、デイモン、キニアといういずれもオスカーノ
ミネートの実力俳優を主演させ、さらに共演者にはシェール
本人や、メリル・ストリープも本人役で、かなりポイントと
なる役柄で登場するなど、映画ファンをうならせる作品とな
っている。                      
腰の部分で繋がった結合双生児の2人が、いかにして単独で
番組に出演するかなどの問題が見事に解決されていたり、2
人のコンビネーションプレイの見事さなど、いろいろな要素
が見事に組み合わされたすばらしい作品だった。     
                           
『プリティ・プリンセス2−ロイヤル・ウェディング』  
     “The Princess Diaries 2: Royal Engagement”
2001年に公開されたメグ・キャボット原作の少女小説の映画
化の続編。前作で、ロサンゼルスの女子高生から、突如ヨー
ロッパの小王国の王女になった主人公が、今度はその国の女
王の座に挑戦する。                  
プリンセス・ミアは21歳の誕生日を迎え、女王の座に着ける
ようになる。そこで現女王の祖母クラリスは退位して、ミア
に女王の座を譲ろうとしたのだが…誰もいないと思われてい
た王位継承者がもう一人いたことが判明。しかもそれは、王
国の政権奪取を狙う子爵の甥だった。          
一方、女王となるためには結婚が条件であることが王国の法
の定めであり、その結婚式は30日以内に行われなければなら
ないことになる。こうして花婿捜しが始まり、選ばれた理想
的なイギリス青年との結婚式の日取りも決定するが…   
『プリティ・ウーマン』の大ヒットを生み出したゲイリー・
マーシャル監督が前作に引き続き監督を担当。ミア役のアン
・ハサウェイ、女王役のジュリー・アンドリュースを始め、
前作の登場人物もそのまま引き継がれている。      
マーシャル監督はソフィスティケートされたコメディでは抜
群の力を発揮するが、本作の開幕の部分で、ちょっとドタバ
タコメディ調に進行する部分は少しリズムが合わないように
も感じた。しかしそれも発端だけで、本編が始まれば笑いあ
り、感動ありの見事なコメディが展開する。       
物語も、若年向けのロマンティックコメディにしては、政権
争いといった政治的なものもそれなりに描けていて、大人の
目で見てもそれなりに面白くなっている。その点で、続編を
作るだけの価値はあったという感じだ。         
そしてもう一つの目玉は、劇中でのアンドリュースの歌声。
喉の病気とかで歌は歌えないということだったが…確かに往
年の朗々と歌うという感じではないし、若い歌手の応援を得
たりはしているものの、『メリー・ポピンズ』や『サウンド
・オブ・ミュージック』のマリア先生を思い出させる優しい
歌声には、思わず涙してしまうところだった。      
                           
『ネバーランド』“Finding Neverland”         
ジェームズ・M・バリが『ピーター・パン』を書くに至った
経緯を、事実に基づいて描いたとされる戯曲“The Man Who
Was Peter Pan”の映画化。               
『チョコレート』でハリー・べリーにオスカーをもたらした
マーク・フォースターが監督した。           
1903年、ロンドンのデューク・オブ・ヨーク劇場。上演され
たバリの新作戯曲は評判が芳しくなく、興行主のフローマン
は次の戯曲の執筆を要求する。そして翌日、犬の散歩でケン
ジントン公園を訪れたバリは4人の息子を連れた未亡人シル
ヴィアと出会う。                   
その子供たちの中でも、父親の死で大きな心の傷を負ったピ
ーターが気になるバリは、翌日もその場所で会うことを約束
し、徐々に子供達を支援する行動に動き出す。しかし、美し
い未亡人の家に出入りするバリの姿は噂の種となって行く。
またシルヴィアの母親も、妻のいるバリが傍に寄ることは、
娘の再婚の妨げになるとバリを拒否するが…その時すでにシ
ルヴィアの身体は病魔に侵されていた。そして、1904年12月
27日子供たちの心を癒すために書かれた戯曲『ピーター・パ
ン』が上演される。                  
事実はもっとどろどろしたものだったようだが、映画は未亡
人との関係より、バリと少年ピーターとの心の交流を主題に
して、喪失の悲しみを乗り越えて行く力の偉大さを描く。そ
の点で『チョコレート』の監督が手掛けた理由が判るような
気がした。                      
出演は、バリにジョニー・デップ、未亡人にケイト・ウィン
スレット、その母親役にジュリー・クリスティ、興行主にダ
スティ・ホフマンの錚々たる顔ぶれが揃うが、注目は少年ピ
ーターを演じたフレディ・ハイモア。          
すでに『トゥー・ブラザース』で日本でも知られるが、本作
の後にはネスビット原作の『砂の妖精』に出演、さらに来年
夏公開の“Charlie and the Chocolate Factory”ではジョ
ニー・デップの相手役でチャリーを演じる。       
映像効果にはCGIを含めたVFX等も使用され、ファンタ
シーに満ちた物語が見事に映像化されている。      


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井口健二