井口健二のOn the Production
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2004年10月31日(日) オペラ座の怪人、レディ・ウェポン、砂と霧の家、カンフー・ハッスル、誰にでも秘密がある、ULTRAMAN

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※(今回は東京国際映画祭での特別上映作品を含みます。※
※ なお他の出品作品については別途紹介する予定です)※
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『オペラ座の怪人』“The Phantom of the Opera”    
アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲による舞台ミュージカ
ルを、作曲者自身の製作で完全映画化。監督は、『バットマ
ン・フォーエバー』などのジョエル・シュマッカー。   
試写会では、上映前にロイド=ウェバーとシュマッカーの挨
拶が行われたが、それによると、ロイド=ウェバーは自分が
描いた世界を永遠に記録しておくため映画化を行ったものだ
そうだ。従ってこの映画には、舞台がほぼそのまま映像化さ
れているということだ。                
僕は舞台は見ていないが、主題歌やマスカレードなどの音楽
は聞き覚えがあるし、地下の水路を船で行くシーンなどは映
像でも見たことがある。それらのシーンが次から次へ登場し
てくる。これらは正しく舞台の完全再現だ。       
しかしこの映画の見所はそれだけではない。シュマッカー監
督はこの作品に、舞台では不可能な、映画にしかできない要
素をふんだんに取り入れているのだ。          
例えば『ウェストサイド物語』の巻頭のニューヨークの街角
で群舞や、『サウンド・オブ・ミュージック』でスイスアル
プスを背景にマリアが歌う開幕の場面は、当時の映画ミュー
ジカルが、舞台にできないことをやってのけた名シーンとい
える。                        
しかしこの映画の舞台は、オペラ座という閉ざされた空間、
屋外野外のシーンは出来ないものだが、ここにシュマッカー
は、最新のディジタルVFXを取り入れて、見事な空間を作
り上げて見せた。これ以上は、これから見る人には説明でき
ないが、この映像を堪能するため、僕は何度もこの映画を見
ることになると思っている。              
出演は、クリスティーヌに弱冠17歳のエモー・ロッサム。ラ
ウルにパトリック・ウィルスン。いずれも映画の出演は数本
で、ほとんど新人と言っていい2人だが、舞台の経験は長い
人たちだそうで、見事な歌唱力で役を演じている。    
それに対して、ファントムを演じた『トゥームレイダー2』
などのジェラルド・バトラーには、正直言って僕はちょっと
歌唱力に物足りなさを感じた。また、カルロッタ役のミニー
・ドライヴァーには吹き替えが使われているようだが、これ
はドライヴァーのコメディエンヌとしての演技力と合わせて
良い効果を上げていたようだ。             
なおドライヴァーは、エンディングロールに流れるロイド=
ウェバーが彼女のために書き下ろした新曲で、自分の歌声も
披露している。                    
さらに本作には、ファントムの生い立ちなど舞台では演じら
れないエピソードも盛り込まれており、舞台を見た人にも新
しい発見が楽しめるようになっている。         
                                     『レディ・ウェポン』“赤裸特工”           
『HERO』『LOVERS』『少林サッカー』などのアク
ション監督で知られるチン・シウトンが監督した女性アクシ
ョン。シウトンは9月に紹介した『沈黙の聖戦』の監督も担
当していたが、元々は『チャイニーズ・ゴースト・ストーリ
ー』などの監督作品で知られていた人だ。        
そして今回の作品は、2002年の製作のものだが、原題の“赤
裸”というのは1992年から続くシリーズだそうで、その最新
作ということでもあるようだ。因にこのシリーズは、題名か
ら想像が付くように、本来はかなりエロティックなものらし
いが、本作に限ってはベッドシーンやヒロインの乳首が出た
りはするが、エロと言うほどではない。         
それよりも見所は、シウトンがその監督も手掛けたアクショ
ンシーンで、ワイアーを駆使したその描き方は、なるほど第
1人者と言われるだけのことはあると言う感じだ。    
特に、それぞれの決めポーズから流れるようにアクションに
入って行く演出が見事だし、またアクションごとにカメラ位
置が絶妙に変ったり、アクションが存分に写されているとい
う点も、見ていて気持ちの良いものだった。       
お話は、特殊訓練を受けたプロの女性暗殺者と、それを追う
CIAというありがちなものだが、ユーモアも適度に利かせ
て、展開も悪くなかった。ただ、CIAがこういう捜査をす
るかというとちょっと違う感じで、これはインターポールに
でもしておいた方が良かったという感じはしたが…    
                           
『砂と霧の家』“House of Sand and Fog”        
一軒の家を巡って、一人の女性と亡命者の男性が繰り広げる
人間ドラマ。                     
主人公の女性は夫に去られ、アルコール依存症を何とか克服
しているが、まだ情緒不安定なところがある。そんな彼女は
無職で無収入だったが、役所の手違いで所得税を課税され、
その確認書の開封を怠ったために、住居が差し押さえられて
しまう。                       
一方、亡命者の男性は、本国から持ち出した資産で食い繋い
でいるが、その資金も乏しくなり、競売物件を安く手に入れ
て転売で金を稼ごうと考えている。そしてその思い通りの家
の競売の案内を見つけ、その家を手に入れる。      
その家は、彼が祖国で栄華を極めていた頃にカスピ海沿岸で
所有していた別荘にそっくりであり、またその転売でかなり
の資金が得られるはずである。しかし、女性の訴えで役所の
手続きのミスが認められ、彼女の弁護士は競売価格での買い
戻しを通告するが…                  
日本でも競売物件の居座りの話が映画化されているが、この
映画の場合はいわゆる居座りとはちょっと違う。ここではあ
くまでも善意の二人が、役所の手違いで争いに巻き込まれて
しまう。ひょっとしたら自分もそんな目に遭うかも知れない
物語だ。                       
自分自身、戸建ての家に住むようになると、この主人公たち
の家に対する愛着は痛いように判る。しかもそれは、単なる
建物の家ではなく、そこに刻まれた記憶であり、そこから生
み出される希望なのだ。そのぶつかり合いは、そうそう後に
引けるものではない。そんな物語が、ジェニファー・コネリ
ーとベン・キングズレーの共演で見事に描かれる。    
一部には後味の悪い作品という評価もされているようだが、
運命という色合いも濃く描かれるので、僕は純粋な悲劇とし
て捉えられる作品になっていると思う。         
なお、監督のヴァディム・パールマンは、この後『タリスマ
ン』の映画化の監督に抜擢されたが、残念ながらキャンセル
されてしまったようだ。                
                           
以下は、東京国際映画祭の特別上映作品です。

『カンフー・ハッスル』“功夫”            
『少林サッカー』のチャウ・シンチー監督・製作・脚本・主
演による2年ぶりの新作。前作同様、痛快なコメディの中に
見事なカンフーアクションが展開する。         
主人公は、幼少の時に「如来神拳」の奥義の本を購入したも
のの、それはインチキで、以来、人間は悪く生きなければい
けないと納得して成長してきた男。文化大革命の陰でワルた
ちが力を付ける中、その中に入りたいと思っているような男
だった。                       
ところがある日、彼と仲間が訪れた街区には、とんでもない
達人たちが住んでいた。そして、住人たちにひどい目に遭っ
たことがワルの集団の目に留まり、威信を掛けたワル集団の
攻撃が始まったのだが…                
このワル集団が黒服の集団で、この風体の男たちが続々と登
場する。ということで、見事なパロディが始まるのだが、こ
のアクションの振り付けをしているのが、本家『マトリック
ス』のユエン・ウーピンという辺りに、この作品の奥深さが
ある。                        
この他にも、パロディ、アクション、コメディが満載だが、
途中にはほろりとさせられる展開なども用意されていて、エ
ンターテインメントとして見事に完成されていた。    
チャウ・シンチーには次回作も期待したい。       
                           
『誰にでも秘密がある』(韓国映画)          
イ・ビョンホン、チェ・ジウ共演によるラヴ・コメディ。 
専業主婦だが倦怠期の長女と、20代後半になっても処女で恋
愛に臆病な次女、そして恋愛には奔放だが意中の男性を見つ
けられない三女。こんな3姉妹のいる家族に、画廊を経営し
資産家らしいが、素性は謎の青年が入り込む。      
この青年を、最初は三女が見つけるのだが、家族とつきあい
出した青年は、長女や次女にも手を出して行く。そして、当
然女性たちのつながりは密な訳で、すれ違いはしょっちゅう
だが、青年はその間を見事に立ち回って、それぞれの関係を
構築して行く。                    
これだけ書くとかなり不道徳なお話に見えるが、映画には見
事な落ちが付いているので、ラヴ・コメディとして気持ち良
く笑える作品になっていた。なお、最近の韓国映画に特有の
激しいベッド・シーンなどはなく、ソフトなセクシャルムー
ヴィの仕上がりだ。                  
さらに、最近の流行りの時間軸を入れ替える展開で、それぞ
れ前のシーンを別角度で見せる手法が取られるが、それも判
りやすく混乱なく見ることができた。          
因に、チェ・ジウは次女の役で見事なコメディエンヌぶりを
発揮している。                    
                           
『ULTRAMAN』                 
円谷プロ製作の人気テレビシリーズの劇場版。劇場作品とし
ては9作目のようだが、今回はテレビシリーズの延長ではな
く、テレビの設定を離れて単独の作品として製作されたもの
ということだ。                    
しかもこの作品で、ウルトラマンに憑依される主人公は妻子
持ち。この設定はシリーズ始まって以来のことのようだが、
というのも今回の作品では、従来のお子様向けに特化したも
のではなく、大人の観客も獲得したいということの現れのよ
うだ。                        
実はこの作品は前評判がかなり良く、こういうときは一般的
に眉唾なのだが、今日上映を見て、あらためてその意気込み
を感じた。展開は大人向けを意識したと言っても、所詮は怪
獣との闘いがメインになる訳だが、今回はその闘いが一味も
二味も違っていた。                  
まず物語の背景が現代で、その主戦場が現在の新宿西口。こ
の場所は、個人的にも普段見慣れている場所なので親しみも
湧くが、それ以上に、現実に見慣れた風景の中に、見事に怪
獣とウルトラマンが描かれている点には感心した。    
他にも、空中戦もスピーディに見事に作られていた。従来、
ウルトラマンの敵役では空を飛べる奴もいろいろいたはずだ
が、ここまで丁寧に空中戦が描かれたのは初めてだろう。し
かもこの空中戦を、さらに上空から地上をバックに描く辺り
のセンスも気に入った。                
先にも書いたように、今回は大人の観客も呼びたいというこ
とのようだが、所詮お子様ランチの認識は簡単には消せない
訳で、大人を動員するためには、これから公開までにかなり
の口込みを仕掛ける必要がある。宣伝広報の努力に期待した
い。                         
なお、例年東京国際映画祭では、11月3日に『ゴジラ』など
の東宝特撮を見るのが慣わしだった。しかし、今年はなぜか
新作の上映が無く、その代りに上映された感もある『ULT
RAMAN』だが、期待以上の作品だった言えそうだ。  


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井口健二