2004年10月14日(木) |
僕の彼女を紹介します、CEO、陽のあたる場所から、三人三色、運命を分けたザイル |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『僕の彼女を紹介します』(韓国映画) 韓国映画史上最高の日本興行を記録した『猟奇的な彼女』の 監督クァク・ジェヨンと女優チョン・ジヒョンが再び組んだ ラヴ・ストーリー。 主人公は、赴任したばかりの女子高校の青年教師と、思い込 みの激しい熱血女性巡査。この2人が、巡査の誤認逮捕で出 会ってから愛し合うようになり、そして…という物語。 まあ、何しろ思い込みの激しい女性に振り回されながらも、 彼女を暖かく見つめる男の姿が、男の目で見ても気持ち良く 描かれている。 実は、前作は見ていないのだが、本作のコミカルでちょっと 切ない感覚が共通のものならば、なるほど大ヒットしたこと も理解できる。いまさら擦れた大人の目で見てとやかく言う べきものでもないだろうし、こういう作品がヒットしてくれ れば、それはそれで嬉しいものだ。 なお本編は、後半いろいろファンタスティックな展開になっ ていて、それが多少しつこいくらいに描かれるが、ラヴ・ス トーリーというのは、これくらい描いてこそ正解だろう。そ こに挟み込まれるアクションも、アクセントとして様になっ ていて見事だった。 それから、この映画の挿入歌としてX−JapanのTears という楽曲が使われている。彼らは、一時ワーナーの手で世 界進出が試みられたようにも記憶しているが、今回使われた のは監督の意向で、その関係ではないようだ。しかし、朝鮮 語のせりふに日本語の歌詞が被るのは新鮮な驚きだった。 因に、配給会社ではこの作品の題名を、略称で『ぼくかの』 と呼ばせたいようだ。 『CEO−最高経営責任者』“首席執行官” 1984年設立の青島冷蔵庫総廠を前身として、現在では白物家 電の売り上げで世界第6位、アジアの企業では韓国サムスン に次ぐ第2位のシェアを誇る中国ハイアール社の今日に至る 道程を描いた再現ドラマ。 同社は初期の段階でドイツ企業の技術を導入し、それを足掛 かりに徹底した品質管理と、中国政府の開放政策の先を行く 経営体制の改革で、世界の一流企業にのし上がって行く。し かしその道程は、社員の意識改革などいくつもの困難を克服 したものだった。 そのドイツ企業の協力を得るまでの涙ぐましい努力や、どう しても品質の上がらない冷蔵庫76台を工場内の敷地に並べ、 工場長(社長)である主人公自らがハンマーで叩き壊すエピ ソードなど、本当にフィクションのようなストーリーが繰り 広げられる。 もちろん、これらは実話に基づくということだが、ふと今の 日本にこれだけのエピソードを語れる状況があるのかと考え ると、正直、ほとんど存在しないのではないかと思ってしま った。日本という国は、それほどに面白くも何ともない国に なってしまった。 また、映画の途中でヘッドハンティングされた元社員が後日 訪ねてきたところで、「昔は自分が主人公のような気分で働 いていた」というせりふが出てきた。僕も30年ほど前にサラ リーマンを始めた頃は、そんな気分だったような気がする。 しかし、今の日本でそのような気分で働いているサラリーマ ンがどれだけいることか。 この映画には、そんな日本の栄光の時代を再現しているよう な趣もある。その意味では懐かしさも感じるものだが、その 一方で、今の日本は一体どうなってしまったのだと考えさせ られる作品でもある。 なお、試写会の上映後に、監督と脚本家、それにモデルとな ったハイアール社CEOチャン・ルエミン氏とのQ&Aが行 われ、そこではチャン氏が実名を出すことを非常に嫌がった ということについて質問が集中した。 その答えを、チャン氏は明確にしなかったが、代って監督が 2つの諺を挙げた。 その一つは日本と同じ「出る杭は打たれる」だったが、もう 一つは、通訳によると「森から突き出した梢は強い風を受け る」というものだそうだ。どちらも意味は同じことだと思う が、後者には何か前向きの響きがあり、ちょっと良いなと感 じた。 『陽のあたる場所から』“Stormy Weather” 一種の自閉症と思われる女性と、女性精神科医の交流を描い たアイスランド映画。 数年前の実話で、フランスで保護されて精神病院に収容され た女性が、実はイギリス人であることが判明したという話が あり、本作はその実話にインスパイアされた物語。 主人公の女性精神科医は、勤務先のベルギーの病院で一人の 女性患者と出会う。彼女は口を利かず、身元の知れるものは 何も持っていない。そして何時も一人きりで周囲のものとも つきあおうともしない。 そんな彼女が気になる女医は、彼女の話し相手になろうとす るが、なかなか上手く行かない。しかし徐々に治療が進み始 めたとき、彼女の身元がアイスランド人と判明し、大使館の 手で本国に送還されてしまう。 そして治療が途中であることを気にした女医は、アイスラン ドの彼女のもとを訪ねて行くが…。 人間が生きて行くことの難しさ。そしてそれに救いの手を伸 ばすことの難しさ。果たして救いをさしのべることが正しい のか、そんなことをいろいろ考えさせられる作品だった。 なお、アイスランドが舞台の映画というと、数年前に永瀬正 敏が主演した映画を見たことがある。その時は雪ばかりの世 界だったが、今回は雪と共に名物の火山も紹介される。 アイスランドの火山では、以前に、流れ出したマグマに冷た い海水を掛けて人家に被害が及ぶのを食い止めたというニュ ースが紹介されたことがあったが、今回登場するのは正にそ の火山。記念に残されたという半壊した小屋なども紹介され ていた。 物語は火山と直接関係はないが、厳しい現実の象徴として上 手く使われていた感じだ。 『三人三色』(韓国映画) 韓国のチョンジュ映画祭が、ディジタル映像による新しい表 現を求めて始めたアジアの監督による短編映画の競作。2000 年に開始されて5回目になる今回は、韓国のポン・ジュノ、 香港のユー・リクウァイ、日本の石井聰亙がそれぞれ5000万 ウォンの製作費で、各々30分前後の作品を製作している。 その1本目は、『殺人の追憶』などのポン・ジュノ監督によ る『インフルエンザ』。 作品は、ソウル市内の各所にある監視カメラの映像という設 定で、そこに写る1人の男の行状が辿られる。そして、最初 はそこそこだった男が、どんどん崩れて行く姿が見事に写し 出されて行く。 もちろんこれらの映像はフェイクだと思うが、なるほどこん なことになって行くのかという感じで、足を踏み外した男の 姿が見事に表現されていた。上映時間は今回の3本中では一 番短い28分だが、当然テンポも良いし、何しろ笑えるのが良 かった。 逆に考えると、この映像で長編は絶対にきつい訳で、その意 味でも見事に短編映画という感じの作品だ。実験映画的な雰 囲気もあるし、企画の意図が最も理解されている作品という ことができるだろう。 これに比べると後の2作品は、どちらももっと長い作品の抜 粋というような感じで、見ていてもどかしさが感じられた。 もっと言いたいことがあるのに、それが表現し切れていない 感じなのだ。 もともとが長編映画の監督だから、そのテンポから離れられ ないのかも知れないが、1本目の作品が見事だっただけに、 よけいに後の2本が物足りなく感じられてしまったようだ。 『運命を分けたザイル』“Touching the Void” 1985年、ペルーアンデスの6000m級の山、シウラ・グランデ 峰で起きた実際の遭難事件を再現したドキュメンタリードラ マ。 映画は、その遭難を体験した2人のクライマーと、ベースキ ャンプの留守番役で参加した男性の本人へのインタヴューで 始まる。従ってこの時点で観客は、どちらが遭難したかは判 らないが、取り敢えず全員が生きて帰還したことは判ってし まう。 つまりこの作品は、いわゆるヒーローものの主人公が窮地に 陥るのと同様に、絶対に助かることが判って見ていることに なるものだが、それが何とも、どうしてこんな状況から生還 できたかという感じで、ヒーローものと同様、正しく手に汗 握る作品だった。 実際のクライミングの撮影はヨーロッパアルプスで行われた ようだが、ペルー現地の山岳風景と合さって、その美しさ、 過酷さは見事に表現されている感じだ。僕自身は登山の経験 を持たないので、その嘘は見抜けないが、恐ろしさは充分に 感じられたと思う。 なお、主人公の1人は片足を骨折した状態で下山してくるの だが、本当の意味とは違うけれど文字通りの七転八倒で、僕 が今までに見た映画の中で一番痛そうな映画ではないかとも 思った。
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