2004年10月13日(水) |
オーバー・ザ・レインボー、ボン・ヴォヤージュ、スカイキャプテン、エメラルド・カウボーイ、エクソシスト・ビギニング |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 次の紹介文には重大なネタばれがあります。読むときはその つもりで読んでください。反転すると読めます。 『オーバー・ザ・レインボー』(韓国映画) 交通事故で部分的記憶喪失になった気象予報士の男が、記憶 の中の女性を求めて自分の過去を検証して行く物語。それに 協力するのは、大学時代のサークルのメンバーで、同じくメ ンバーだった親友の恋人だった女性。 しかしいくら調べても記憶の中の女性の正体は判らず、やが て献身的に協力してくれる女性に好意を感じた主人公は、過 去を探ることをやめ、現実の彼女を愛そうとするが…。その 直後、彼女の職場である地下鉄の遺失物係に重大な手掛かり が届けられる。 主人公が記憶喪失の物語というと、どうしても『心の旅路』 を引き合いに出さない訳に行かない。しかし、ジェームズ・ ヒルトンの原作をマーヴィン・ルロイ監督が映画化した1942 年の作品は、今ではちょっと時代がかったメロドラマという イメージだ。 その点で、この作品の展開は現代的で全く見事としか言いよ うがない。最初は部分的記憶喪失という現象がちょっと都合 が良すぎるようには感じるが、そこにはちゃんと理由もある し、最後に辻褄が合って行く様子は見ていて納得でき、気持 ちの良いものだった。 なお、試写会では結末の映像に疑問を持っている人がいたよ うだったが、あれはカメラの目線であって、登場人物の目線 ではないことは理解するべきだろう。こういう手法はよく使 われるものだし、その直前のシーンも同様だから誤解は生じ ないはずだが…。 未来を予想する気象予報士と過去を保管する遺失物係という 主人公たちの人物設定にも上手さを感じるし、過去と現在を 交錯させながら、徐々に謎を解いて行く展開も巧みで見事。 特に韓国では兵役で空白が生じてしまうという事情も上手く 利用されていた。 物語に破綻は見当たらなかったし、チョ・ミュンジュの脚本 は実に巧みで、監督のアン・ジヌは新人のようだが、さすが 『シュリ』などのカン・ジェギュ・フィルムの作品という感 じだ。主演のイ・ジョンジェとチャン・ジニョンの雰囲気も 良かった。 ただし、劇中劇で主人公が雨の中で踊るシーンでは、踊りは “Singin' In The Rain”なのに、音楽が“Raindrops Keep Fallin' On My Head”になっていたのは何故なのだろう。 このシーンでは、踊りと音楽が妙に一致しているのも不思議 な感じだったが、1952年製作の原作映画の著作権が切れた年 に本作は製作されているものだし、最近このダンスシーンの パロディ染みた使われ方は結構見ているようにも思うが、わ ざわざこのようにした理由が思い当たらない。 因に、本作の主題歌には、題名にもなっている『オズの魔法 使い』の主題歌がストレートに使われているのだが…
『ボン・ヴォヤージュ』“Bon Voyage” イザベル・アジャーニの主演で、1940年6月のパリ陥落を背 景にした歴史ロマン。 アジャーニは1955年生まれだから来年には50歳になる。その 彼女が2003年製作のこの作品では、見事に可愛い女を演じて いるのだから、演技力の凄さを感じてしまう。 1940年のパリ。アジャーニ扮する女優のヴィヴィアンヌは、 主演の新作の試写会を終えた夜、以前からしつこく言い寄っ ていたパトロン気取りの男を自宅で殺してしまう。そして、 その死体の始末を幼馴染みの作家の男に頼むのだが…。 やがてパリ陥落が迫り、女優は知遇を得た大臣の力を借りて ボルドーに脱出。しかしそこには、彼女の罪を被って収監さ れたが偶然脱獄した作家や、殺された男の遺族。さらには原 爆の材料の重水を抱えてイギリス脱出を願う学者とその助手 なども集まっていた。 何しろ多彩な登場人物がしっちゃかめっちゃかな行動を繰り 広げる中、主人公の女優は次々に男を手玉にとって危機を潜 り抜けて行く。これがまたアジャーニの名演技というか、元 来が女優という役だから、それは見事に男を手玉にとって行 くというものだ。 この男たちを、重鎮と呼べるジェラール・ドパルデューを始 め、『E.T.』が懐かしいピーター・コヨーテ、さらに新人 のグレゴリ・デランジェールらが演じる。 脚本、監督はジャン=ポール・ラプノー。彼は、小学生だっ た当時、実際にパリからボルドーへ逃れた体験を持っている ということだ。しかし彼は、出来事を深刻に捉えるのではな く、恐らくは当時の小学生が感じていたままに、ユーモアを 込めて軽快に描いている。 その監督の想いを見事に表現したのが、アジャーニの演技と も言えそうだ。 他に共演は、ジョニー・デップのゲスト出演も話題になって いる“Ils se marierent et eurent beucoup d'enfants”の 監督でも知られるイヴァン・アタルや、『8人の女たち』の ヴィルジニー・ルドワイヤンなど、特に学者の助手に扮した ルドワイヤンが儲け役で良かった。 『スカイキャプテン−ワールド・オブ・トゥモロー−』 “Sky Captain an the World of Tomorrow” ジュード・ロウ、グィネス・パルトロー、アンジェリーナ・ ジョリーの共演で、1939年のニューヨークを舞台にした冒険 活劇。 1939年、ニューヨーク万博の開かれたこの年のある日、ニュ ーヨークを始め世界の大都市が突如巨大ロボットの大軍に襲 われる。この事態に、ただちにスカイキャプテンに救援が求 められ、辛くもニューヨークはロボットを撃退するが…。 ロウ扮するスカイキャプテンは、プレス資料には空軍のエー スパイロットとあるが、どうもこの空軍は傭兵部隊らしく、 自前の滑走路と整備基地を持っていて、そこでは技術開発も 行われている。 一方、ジョリーが扮するのは飛行船の応用で空に浮かぶ空中 空母の女艦長。こちらこそ英国空軍の所属のようにも見えた が、取り敢えずはこの2人が協力して地球の安全を守ってい るという設定らしい。 そして、この2人にパルトロー扮するスカイキャプテンの元 恋人の新聞記者が絡んでというか、主にはロウとパルトロー が世界中を股に掛けて、ロボット軍団を操る謎の科学者の陰 謀に立ち向かって行くというお話だ。 この手の地球を守る個人組織というと、最近ではサンダーバ ードということになりそうだが、僕の記憶では、子供の頃に 読んだ講談社の全集でアップルトン原作のTom Swiftが好き だった。1910年代の作品だが、科学と冒険の夢にあふれてい たものだ。 脚本監督のケリー・コンランも、このようなジュヴィナイル SFにどっぷり漬かって育ったのだろうか。この『スカイキ ャプテン』にも、そんな子供の頃の夢がぎっしり詰まってい るような感じがした。 なおコンランは全くの新人だが、いきなりこのような大作を 手掛けたもので、次回作にはさらに超大作になるはずのE・ R・バローズ原作『火星』シリーズを任されることになって いる。本作でもCGI多用の作品を見事にまとめ上げた監督 の手腕に期待したい。 『エメラルド・カウボーイ』“Emerald Cowboy” 南米のコロムビアでエメラルド王と呼ばれるまでになった日 本人、早田英志の自伝を基に作られたセミドキュメンタリー 作品。 早田は、この映画の製作総指揮、脚本、共同監督にも名を連 ねていて、功なり名を遂げた男が自画自賛の映画を作ったと いうところだが、映画ではエメラルド取り引きの実態なども 描かれていて、予想以上に面白い作品だった。 1940年生まれの早田は、東京教育大学を卒業後にアメリカに 渡り、さらに30代でコロムビアに移住、Esmeralderoと呼ば れる原石取引業者を振り出しに、現在はエメラルド鉱山、輸 出会社、警備会社なども経営しているということだ。 しかし常に10人以上のボディガードに周囲を固めさせ、自ら も9mmの拳銃を腰に挿して、過去には4回ほど身を守るため に撃ったこともあると言う。中で本人も語っているが、正し く開拓時代のアメリカ西部。そこに憧れ、そして暮らしてい る男の物語だ。 多分、本当はもっと汚いこともしていたのだろうが、映画で は比較的きれいごとの部分しか描かれない。その辺の物足り なさは拭えないが、それは自伝映画では仕方のないこととし て、全体的には興味深く見られた作品だった。 『エクソシスト・ビギニング』 “Exorcist: The Beginning” 1973年に公開され、センセーションを巻き起こした『エクソ シスト』から30年経って映画化された、オリジナルの25年前 の物語。 30年前の映画の巻頭で、アフリカの砂漠での遺跡発掘のシー ンが描かれるが、本編では、その発掘現場で起きた物語の全 容が明らかにされる。 オリジナルでマックス・フォン・シドーが演じ、本作ではス テラン・スカルスゲードが演じるメリン神父は、オランダ人 で第2次大戦中のナチの侵攻下、助けを求めてきたユダヤ人 を救えなかったことが原因で信仰を捨てたとされる。 そして考古学者となって世界の遺跡を発掘して歩く内、ケニ アで5世紀に建設された教会の発掘に立ち会う。そこへは謎 の男の指示で向かったものだが、歴史的には存在しないはず の教会は完成直後に埋められたと推定され、怪しげな雰囲気 が漂っていた。 この教会に潜む謎を、現地の少年や、『007/ゴールデン アイ』でロシア人コンピュータ技師を演じたイザベラ・スコ ルプコ扮する女医らと共に明かして行くというものだ。 完成直後に埋められた教会という設定は、最近別の映画でも あったと思うが、邪悪なものを封じ込めておく手段としてキ リスト教関係ではよくやることなのだろうか。だったら、も う少し慎重に事を運んでもいいようなものだが…。 因に、今回公開される作品はレニー・ハーリン監督によるも のだが、実はこの作品の製作では、ポール・シュレイダー監 督で一旦完成された作品が、衝撃度が足りないとして全面キ ャンセルされ、ハーリン監督で撮り直された経緯がある。 このシュレイダー版もアメリカではDVD発表されるという 情報もあり、両監督の作風を比較できる楽しみが期待されて いるものだが、現状でハーリン版を見ただけの感じでは、ハ ーリンも余りおどろおどろしさを演出しているようには思え ず、結構ストレートな物語になっていた。さてシュレーダー 版はどうなのだろうか。
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