井口健二のOn the Production
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2004年10月01日(金) 第72回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 前回に続いて、ソニーのMGM買収についてもう少し書か
せてもらう。
 前回、最後で危ない賭けと書いたが、今回の買収劇で一番
気になるのは、その買収資金の調達の仕方だ。
 以前にソニーがコロムビアを買収したときには、その資金
の大半は銀行からの借入金だった。このように銀行から借り
入れの場合には、以後は、その利息分だけ払い続ければ、借
入金の元本が膨らむことはない訳で、実際に、「コロムビア
には利息分だけ稼いでもらえればいい」というような話を、
当時コロムビア買収の中枢にいた人から聞いたことがある。
ただし、後年ソニーはその総額を一括返済しており、現在は
その分の借入金は解消されている。
 ところが今回のMGMの買収では、複数の投資家グループ
との共同で買収したということで、実は、今回の買収額の総
額50億ドル弱の内でソニーが用意したのは3億ドル程度、残
りの40数億ドルはその投資家グループが資金を提供したとさ
れている。これだけで読むと借入金もなく健全そうに見える
のだが、実際の契約では、ソニーは投資家グループの出資金
を順次買い取って、最終的には総額をソニーが支払うという
もので、つまり分割払いの契約を結んでいるものなのだ。
 実際問題として、投資家グループなる人たちが映画会社の
権利を持っていても、その運用ができなければ何の意味もな
い。では何のために資金を出したかといえば、それは、この
分割払いの間の利息を儲けるためのもの。つまりソニーは、
クレジットでMGMを買ったようなもので、そのお金は必ず
返済しなければならないし、その間の利息は、当然銀行から
の借り入れよりも高いものと考えられる。ソニーはそういう
資金に手を出しているということなのだ。
 もちろん、企業の運営において、大きな投資をする場合に
は資金の借り入れは当然のことだし、それが銀行であれ投資
家グループであれ、双方が綿密な調査の上で決定しているこ
とは間違いない。しかし、今回の買収では銀行が動かなかっ
た分だけ、リスクも大きいものだったと考えられる。
 さて、ソニーがそれほどのリスクを負ってまでMGMを買
収する理由だが、これはもうDVDの次期規格を巡る覇権争
い以外には考えられない。実際ソニーの連結決算では、ここ
数年収支の改善が見られないが、実は、本体の電機メーカー
の部分はさらに大幅な赤字で、それを他のゲームや映画、金
融などの黒字で補填している状態なのだ。ここで電機メーカ
ー部分の不振は、ウォークマンなどのようなヒット作が生ま
れないことによるものだが、その電機メーカーとしてヒット
を狙うために必要なのが、DVDの次期規格の覇者となるこ
となのだ。
 現在ソニーは、DVDの次期規格としてブルーレイ・ディ
スクを提唱しているが、今回MGM買収を争ったワーナーは
東芝と提携しており、その東芝は別の規格の陣営に属してい
る。従ってMGMがワーナー傘下に入ると、MGM作品の全
てがその規格でソフト化されることになり、これはブルーレ
イ・ディスクの将来にかなりの脅威となるものだった。
 しかし、ソニーがMGMを買収したことで、ブルーレイ・
ディスクの将来にも明るい展望が開けてくることにはなった
ものだが、まだその覇権が完全に決まったものではなく、こ
れでももし覇権が取れないとなると、それはソニーの浮沈に
も関わってくることになりそうだ。ソニーの危ない賭けは、
まだまだ続いているのだ。
 もっとも、映画会社としては、本社の業績がどうなろうと
あまり関係ない訳で、ここでコロムビアがMGMを買収して
どうなるかを映画会社として見ると、いろいろ面白いことが
起こりそうだ。
 その一つは、前回はあまり冴えないとは書いたものの、や
はり007シリーズで、ここでソニーが一時期に狙っていた
“Thunderball”のリメイクは今更と思うが、実は1967年に
製作された“Casino Royale”が、イアン・フレミングの原
作の中では唯一まともに映画化されていない作品として残っ
ている。この67年作品は、元々が1954年に製作されたテレビ
ドラマ(007の最初の映像化作品)のリメイクなのだが、
007のパロディとして製作された映画は当時コロムビアが
配給し、現在もその権利を所有している。従ってコロムビア
とMGMが統合されたら、この作品の本格的なリメイクは、
かなり実現性が高そうに思えるのだが…。
 以上、ソニーのMGM買収について、自分の考えを書いて
みました。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、ジョナサン・モストウ監督が、2005年の撮影開始
で“Terminator 4”の準備を進めていることが公表された。
 準備の状況は、脚本を『T3』の最終稿を仕上げたジョン
・ブランカートとマイクル・フェリスが担当しているという
もので、前作の結末からの進展が描かれる脚本の準備稿は、
すでに完成されているということだ。
 ただし出演者では、前作主演のニック・スタール、クレア
・デインズに続編の契約がしてなかったという情報もあり、
一方、カリフォルニア州知事となったアーノルド・シュワル
ツェネッガーの出演は?もっともこちらは、クリスタナ・ロ
ーケンが引き継いでくれれば、それもいいと思うのだが…。
 製作は、前作で権利を確立したマリオ・カサール、アンデ
ィ・ヴァイナのC−2プロダクションとインターメディア。
配給はインターメディアが取り仕切るが、前作同様、アメリ
カ地区はワーナー、海外はソニーが担当することで話し合い
が行われるようだ。ただし、海外の一部地域では別の権利が
確立しており、日本は東宝東和が行うことになるようだ。 
 なお、このシリーズは言うまでもなくジェームズ・キャメ
ロン監督が創始したものだが、前作から引き継いだモストウ
が“T4”を完成すると監督本数は2対2となり、名実とも
にモストウのシリーズになってしまいそうだ。
        *         *
 ユニヴァーサルが来年夏の公開を目指しているヴィデオゲ
ームの映画化“Doom”の監督に、ポーランド出身で元撮影監
督のアンジェイ・バートコウィアクの起用が発表され、10月
半ばからの撮影が予定されている。
 この作品は、アクティヴィジョン社から発表されている同
名のゲームシリーズの内、“Doom 3”として発表された作品
に基づくもので、特殊作戦に従事する兵士を主人公にしたア
クション映画になりそうだ。
 そしてこの主演には、ニュージーランド出身で『リディッ
ク』などに出ていたカール・アーバンが抜擢された。また、
女性科学者役で『ダイ・アナザー・デイ』やジョニー・デッ
プ主演の新作“The Libertine”にも出演しているロザムン
ド・パイク、さらにドウェイン“ザ・ロック”ジョンスンの
共演も予定されている。
 なお監督のバートコウィアクは、ジェット・リー主演で昨
年公開された『ブラック・ダイヤモンド』など、アクション
映画の監督で実績を積んでいるが、今回は前任監督の急な降
板を受けての起用で、期待に応えたいところだ。またザ・ロ
ックには、ジョン・ウー監督で同じくヴィデオゲームの映画
化“Spy Hunter”の計画もあったはずだが、どうなっている
のだろう。
        *         *
 昨年春に公開されて、全米で1億ドル突破の大ヒットを記
録したパラマウント映画“How to Lose a Guy in 10 Days”
(10日間で男を上手にフル方法)の続編が計画されている。
 この続編は、前作と同じくミシェル・アレクサンダーとジ
ーニー・ロングが発表したユーモアブックに基づくもので、
本の題名は、“How to Tell He's Not the One in 10 Days
(and Other Warning Signs)”というもの。因に、この危険
信号には、「彼があなたより沢山宝石を付けたとき」とか、
「あなたが行こうとしているどんな場所でも、そこでセック
スをするのが如何に最高かということを、彼が言い始めたと
き」などの事例が挙げられているそうだ。
 そしてこの本の映画化権を、前作を製作したクリスティン
・ピータースが今年初めに獲得し、脚本家が選考されていた
もので、この度この脚色を、元スタンダップ・コメディアン
の女性脚本家グレン・ウェルズに任せることが発表された。
なおウェルズは、先にワーナーで“Diary of a Mad Bride”
や“Boyfriend on a Box”などのコメディ作品の脚本を手掛
けているということだ。
 前作は、ケイト・ハドスンとマシュー・マコノヒーの共演
で製作されたが、今のところ続編の配役は未定のようだ。
        *         *
 “Scary Movie 3”(最‘狂'絶叫計画)では、『サイン』
『ザ・リング』などのパロディで全米1億ドル突破の興行を
達成したデイヴィッド・ズッカー監督が、今度はスーパーヒ
ーローのパロディを計画している。
 この計画は、“Scary Movie 3”と同じく製作ロバート・
K・ワイス、脚本クレイグ・メイジンとのトリオで進められ
るもので、題名は“Superhero!”。今度は、『スパイダーマ
ン2』や“Batman Begins”“Fantastic Four”などが料理
されるようだ。配給も同じくディメンションが担当。
 なおズッカーは、最初は“Scary Movie 4”の計画を練っ
ていたそうだが、そのためには“The Ring 2”のようなキー
となる映画の公開が必要ということで、それらを考えている
内にスーパーヒーローのパロディがやりたくなったそうだ。
製作開始は来年春の予定。それに続けて“Scary Movie 4”
の製作も進める計画になっている。
 ところで“Scary Movie 3”は、前2作を手掛けたウェイ
アンス一家が、金の力でディメンションから他社に移籍して
しまった後を受けて、ズッカー監督が立ち上がったものだっ
たが、この作品では、ウェイアンス一家が他社で進めていた
SF映画のパロディ計画をいち早く先取りして、結果ウェイ
アンス一家の計画を葬ってしまったとも言われている。
 つまりは、ズッカー監督の実力を見せつけた形にもなった
訳だが、元々はジム・エイブラハムや兄弟のジェリー・ズッ
カーと組んでパロディ映画を量産してきたズッカー監督の復
活で、この勢いは当分留まりそうにないようだ。
        *         *
 前回も報告したジョージ・A・ロメロ監督のゾンビシリー
ズの新作“Land of the Dead”の情報で、この作品の、一部
フランス語圏を除く全世界配給権をユニヴァーサルが獲得し
たことが発表された。
 この作品は、当初はフォックスで計画が進められていたも
のだったが、題名を巡るトラブルなどでロメロが契約を解消
し、2カ月ほど前に、製作者のマーク・カントンが新設した
アトモスフィア・エンターテインメントと、パリに本拠を置
くワイルドバンチというプロダクションが資金を提供して、
ロメロが独自に製作を行うことになっていた。しかしその時
点では全世界向けの配給は決まっていなかったものだ。
 また今回の発表に絡めて報告された映画の情報では、今回
の作品は、従来からのロメロのゾンビシリーズの流れを引き
継ぐものではあるが、新たな展開があり、今後に続く新たな
ゾンビシリーズの開幕の作品となるということだ。これで、
Night−Dawn−Dayと続いたシリーズから、題名がLandに変っ
た理由も判る感じだが、この後はやはりContinent−Worldと
続くのだろうか。
 新作の内容は、7月15日付第67回でも紹介したが、地上の
ほとんどがゾンビによって支配され、生き残った人々はゾン
ビの進入防止用の壁に囲まれた都市に住んでいる世界を描く
もので、撮影は10月11日にカナダのトロントで開始される。
出演者は交渉中ということだが、ロメロの希望では、主演に
デニス・ホッパーを迎えたい意向だったようで、その希望は
叶ったのだろうか。
 また、本作の製作費には1500万ドルが用意されているとい
うことだが、このシリーズの第1作は14万ドルの製作費で、
世界中から2000万ドルを稼ぎだし、第2作は120万ドルの製
作費で4000万ドルを稼いだそうだ。
 ところでユニヴァーサルでは、今年の春にはリメイク版の
“Dawn of the Dead”を配給、また9月第4週にはパロディ
版の“Shaun of the Dead”も配給しており、今年に入って
2本のロメロ=ゾンビ関連の作品を配給していた。そして今
回の契約では、ついに本家の作品を手に入れることになった
ものだ。なおリメイク版については、僕はちょっと首を傾げ
る作品だったが、パロディ版の評価はかなり高く、期待でき
るようだ。
        *         *
 『ヴィレッジ』に続いて、ピーター・ジャクスン監督の新
作“King Kong”に出演しているオスカー俳優エイドリアン
・ブロディが、“Truth, Justice and the American Way”
という作品に主演する計画が発表された。
 この題名を見ただけでお判りの方も多いと思うが、これは
テレビ版『スーパーマン』の巻頭のナレーションの一部で、
日本語版では「正義と真実を守るため」としか訳されなかっ
たが、実は原語では、「真実」の後に「American Way=アメ
リカのやり方」という言葉が続いていたものだ。
 そして今回の作品は、このテレビ版『スーパーマン』に主
演した俳優ジョージ・リーヴスにスポットライトを当てたも
ので、特に1959年自殺したリーヴスが、彼自身をスターダム
に押し上げたスーパーヒーローから受けた様々な影響や、彼
が感じていた重圧が検証されることになるようだ。
 ポール・バーンバウムの脚本から、スチーヴン・キング原
作のテレビシリーズ“Golden Years”などを手掛けたアレン
・コウルターが監督する作品で、製作は『0012捕虜収容所』
のスター=ボブ・クレインの後半生を追った“Auto Focus”
(ボブ・クレイン)のフォーカス・フィーチャーズ。
 なおブロディが演じるのは、リーヴスの役ではなく、彼の
自殺事件の捜査に当った刑事の役だそうだ。
        *         *
 粘土を使ったクレイメーションで一時代を築いたウィル・
ヴィントンの流れを汲むアニメーションハウス=ヴィントン
・スタジオに、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』を手
掛けたヘンリー・セリック監督が参加し、ニール・ゲイマン
原作のヒューゴー賞受賞作“Coraline”の映画化を進めるこ
とが発表された。
 この原作は2002年に発行された児童書で、主人公の少女が
引っ越してきた新しい家の秘密の扉を潜り抜けると、そこに
は別世界が開けていて、その世界で彼女はヒロインになる資
質を備えていたというもの。そしてこの映画化では、当初は
実写での製作が計画されていたが、セリックの参加でアニメ
ーションによる製作が検討され、最終的にその方針に決まっ
たということだ。
 なお、セリックはウェス・アンダースン監督の実写とアニ
メーションの合成作品“The Life Aquatic”のアニメーショ
ン監督を担当し終えたところで、この後には彼自身が監督す
る短編CG作品の“Moongirl”という作品の準備が進められ
ているそうだ。ということは、現在ヴィントン・スタジオで
進められているティム・バートン製作の“Corpse Bride”に
は、セリックの参加はないということだろうか。
        *         *
 古代エジプトの女神イシスが着けていたブレスレットが、
現代アメリカの10代の少女に神秘のパワーをもたらすという
“Legend of Isis”の映画化が、パラマウント傘下のグラム
ネット・プロダクションで進められている。
 この作品は、ダーレン・デイヴィス原作のコミックスシリ
ーズに基づくものだが、実は今年21歳のアリ・ラッセルとい
うUCLAの脚本家クラスを出たばかりの女性が、女性版の
ピーター・パーカーのような物語を探していたところ、この
作品に行き着いたということで、彼女の執筆した脚本は最高
50万ドルでの金額でグラムネットが契約したというものだ。
 物語は、10代の少女がイシスのブレスレットを発見し、そ
のパワーを身に付けるが、それは同時に闇の力も目覚めさせ
てしまうというもの。1984年公開の『ロマンシング・ストー
ン/秘宝の谷』と、テレビの“Buffy the Vampire Slayer”
を合せたような作品と紹介されていた。
 なお、製作はグラムネットで行われるが、同社はパラマウ
ントとは優先契約を結んでおり、この作品ならパラマウント
の配給になりそうだということだ。また、グラムネットでは
この他に“Inner Bitch”と“Honeymoon From Hell”という
コメディ作品を準備中だそうで、後者の題名はちょっと気に
なるところだ。
 それにしても、「女性版ピーター・パーカー」という言葉
は2カ所の記事でいずれも何の注釈なしに使われていたが、
アメリカの読者はこれで判ってしまうということのようだ。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 パラマウントで、ビーチバレーを題材にした映画が計画さ
れている。この計画は、リサ・アッダリオとジェイ・シラキ
ュースの夫妻脚本家チームが進めているもので、すでに50万
ドル前後の金額で脚本の契約が結ばれているということだ。
なお、夫妻はアテネオリンピックの女子ビーチバレーの試合
中継を見ていて物語を思いついたということだが、内容は、
2人のライヴァルだった選手がチームを組むことになり、勝
利のためにお互いプレイスタイルを理解しようとする、とい
うもので、それなりにビーチバレーの特徴の出た作品になり
そうだ。因に、夫妻はソニー・アニメーションで進められて
いるCGI作品“Surf's Up”や、コロムビアで計画されて
いる“Mai the Psychic Girl”の脚本も担当している。 
 同じくパラマウントで、中断中の“Mission: Impossible
3”の来年再開に向けて動きが出ている。この再開では、監
督をテレビシリーズ“Alias”などのJ・J・エイブラムス
が担当することが発表されているが、そのエイブラムスが、
“Alias”をともに作り上げた脚本家のアレックス・カーツ
マンとロベルト・オーチを呼び入れ、“M:I 3”の準備稿か
ら作り直していることが報告された。従ってこの報告が正し
いなら、すでに紹介されている全ての準備は無に帰すること
になるが、元々ストーリーは発表されていなかったものの、
契約済みの共演者などはどうなるのか。撮影は来年行われ、
公開は2006年夏とされている。
 最後に、ピーター・ジャクスン監督の“King Kong”の製
作がいよいよ開始され、製作費2億ドルをかけた撮影がニュ
ージーランドで進められている。なおその撮影準備では、主
演のナオミ・ワッツやジャック・ブラックにも、VFXを行
うウェタ・スタジオの見学ツアーが用意され、充分な理解の
上で撮影に臨めるよう気が配られたということだ。公開は、
2005年12月14日に全世界一斉で行われることになっている。


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井口健二