2004年09月30日(木) |
Movie Box−ing、爆裂都市、薄桜記、ブエノスアイレスの夜、トリコロールに燃えて、2046 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『Movie Box−ing』 2002年の4月1日付で紹介した『パコダテ人』を誕生させた 函館港イルミナシオン映画祭のシナリオ公募で、2002年度の 短編部門を受賞した3作品を映画化した短編映画集。 プレスシートの巻頭に「どれがいちばん面白い!?」とあっ たが、僕は躊躇無く3本目に上映された『巡査と夏服』が面 白かった。 1本目の『RUN-ing』は、シュールさが売りの作品のはずだ が、妙に説明的すぎてシュールさに入って行けなかった。 2本目の『自転少年』は、同じ監督の最初の中編を前に見て いるが、同じように子供を主人公にした作品で、子供の一所 懸命さばかりが目立ち、前の作品と同様、その一所懸命さが ドラマから遊離してしまっている感じがする。 これに対して3本目の作品は、ドラマもちゃんとあるし、一 所懸命さも見えるし、特に、結末に向かっての引っ張りも良 く演出されている感じがした。また、エンディングには技術 的な工夫も感じられた。 なお2本目と3本目は、一昨年、昨年と発表会を見せてもら ったニューシネマワークショップが制作にクレジットされて いたが、いよいよプロが育ち始めたというところだろうか。 そういえば、今年の発表会の案内がまだ届かないがどうなっ ているのだろう? 楽しみにしているのだが。 『爆裂都市』“爆裂都市” 独立系の洋画配給会社で、日本映画や香港映画の製作も手掛 けるアートポートが、2004年香港で製作した最新アクション 映画。 『フルタイム・キラー』『トゥームレイダー2』のサイモン ・ヤム、『ダブル・タップ』のアレックス・フォンらが演じ る香港警察と、千葉真一、しらたひさこらが演じる国際テロ 組織の闘いが描かれる。 物語は、要人の狙撃事件に始まって、警察とテロ組織との対 決の様子などが手際よく描かれる。後半ちょっとバタバタす る感じはあるが、謎解きやその解決策なども破綻はあまり見 られないし、全体的には98分によくまとまっている感じだ。 また、海外での上映がどうなるか知らないが、千葉やしらた らが、日本語の台詞でそのまま喋っているのには感心した。 もちろん重要な台詞は母国語で喋るのが一番な訳だし、この 感覚は大事にしてもらいたいとも思った。 まあ、千葉が日本語で話しているのに、相手がそのまま英語 や広東語で返事をするのは違和感がないことはないが、お互 いに相手の言語を理解していれば、こういう会話も成り立つ はずで、そんな理解で見られればいいというところだろう。 アートポートには、この後も製作作品があるようなので期待 して行きたい。 『薄桜記』 1959年製作の市川雷蔵、勝新太郎共演作品。1969年に37歳で 夭折した大映スター市川雷蔵の映画デビュー50年周年記念で 行われる「市川雷蔵祭」の1本として上映される。 市川も勝も1931年の生まれだから、2人とも28歳のときの作 品。市川は丹下典膳、勝は堀部(中山)安兵衛に扮して、赤 穂浪士の動きに絡めた2人の剣豪の数奇な運命が描かれる。 高田馬場の決闘から、吉良家討ち入りまで時間の中で、偶然 1人の女性に思いを寄せた2人の剣豪。しかしその思いは、 過酷な運命の中で翻弄される。 当時ロッテルダム映画祭のオープニングに選ばれたという作 品。 当時としてはリアルさが追求されたという市川雷蔵の作品だ が、剣戟シーンには、最近のリアルだけが売り物の殺伐とし たものではなく、ある意味華麗さも演出されている。当時の 海外映画人が憧れた日本の侍映画という感じの作品だ。 映画は、安兵衛のモノローグに始まって高田馬場の決闘へと 続き、勝主演の作品かと思いきや、途中から市川の主演へと 摺り替わって行く。微妙と言うか、かなり思い切った構成だ が、それがちゃんと納得できるところに納まって行くのだか ら不思議な感覚だった。 僕は、学生時代からほとんど洋画一辺倒で通してきたから、 この辺の日本映画はほとんど見ていない。だからかえって新 鮮に感じるのかも知れないが、このように見事な作品を見せ られると、ちょっと続けて見たくなる感じがした。 『ブエノスアイレスの夜』“Vidas Privadas” 『オール・アバウト・マイ・マザー』のセシリア・ロスと、 メキシコの新星ガエル・ガルシア・ベルナル共演で、1976年 のアルゼンチン軍事クーデターに翻弄された女性の運命を描 いた作品。 主人公のカルメンは、軍事クーデターの際に逮捕されて夫を 失い、自身も拷問を受けた痛手から解放後はスペインに移住 し、必要なとき以外は祖国に帰ることはなかった。その上、 彼女はその時以来、男性の身体に触れることも嫌悪する性癖 となっていた。 そんな彼女が唯一行える性的な行為は、隣室の男女の営みの 声を聞きながら自慰に耽ること。そして元貴族の父親の財産 分与の為に5年ぶりに帰国した彼女は、その手続きに掛かる 2週間の間、家族に内緒でアパートを借り、その行為を行お うとしていた。 しかし雇った若いカップルの男に興味を引かれた彼女は、翌 日からは彼だけを呼び寄せ、ポルノ小説を朗読させて、その 声を聞きながら自慰を行うようになる。そんな日々が続くう ち、彼も彼女に興味を抱くようになるが…。 最初は、ちょっと異常な性癖を持つ女性の姿が描かれ、政治 的な意味合いは、言葉では語られるものの深刻には描かれな い。しかし、物語が進むうちに彼女や彼女の周囲の人たちが 徐々に過去の出来事を語り始め、政治的な背景が次第に濃く なって行く。 7月14日付で紹介したアントニオ・バンデラス主演の『ジャ スティス』も、アルゼンチンの軍事クーデターを描いていた が、クーデターに絡んで行われた虐殺行為などは、今も真実 が語られないままの部分が多いようだ。 そんな恐怖の時代を告発する両作だが、バンデラスは超能力 を交えて描き、本作では異常な性癖を交えて描くなど、わざ と正面を外して描いているようにも感じる。未だに、当時の ことを正面切って描くことは難しいかのようだ。 実際、映画の中でも、当時の拷問を行っていた軍人が、今も 比較的恵まれた生活をしている姿なども描かれており、問題 の根は僕らが想像する以上に深いもののようだ。 『トリコロールに燃えて』“Head in the Clouds” シャーリズ・セロンの主演で、20世紀前半を自由に生き抜い た女性の姿を描いた作品。 時代は1930年代、セロン扮する主人公のギルダは、実は14歳 の時に占い師から34歳より先の人生が見えないと言われてい た。そんな彼女は、人生を自由気ままに送ろうとし、アメリ カに渡っては映画に出演し、パリでは写真芸術家として成功 する。 そんな彼女と共に暮らしたアイルランド人のガイとスペイン 女性のミアは、彼女の奔放さに振り回されながらも、共に彼 女を愛し続けていた。しかし2人はスペイン内乱の支援に向 い、パリはナチの侵攻を受ける。そんな中でも、彼女は奔放 に生き続けるのだが…。 共演は、ガイに、セロンの実生活のパートナーでもあるスチ ュアート・タウンゼントと、ミアにペネロペ・クルス。 映画は主にカナダで撮影されているが、ディジタル合成によ って、戦前のパリが見事に再現され、空にはプロペラ機が旋 回するなど、その雰囲気が素晴らしかった。 また、ギルダがフランス人の父親とアメリカ人の母親という 設定で、彼女は英語とフランス語を話し、スペイン内乱のシ ーンではスペイン語、さらにナチ将校はドイツ語と、基本は 英語の作品だが、各国語が飛び交うのも心地よかった。 なおセロンは、オスカーを受賞した『モンスター』の次の作 品ということになるが、前作では13kg増やしたという体重を 減量し、特に巻頭では20歳前後の役ということで愛らしく登 場してみせたのは見事。 しかし映画の中で何回か見せる険しい顔が、『モンスター』 を思い出させたのはショックだった。僕が前作を見てから間 なしなので、記憶が鮮明なこともあるのだろうが、それだけ 前作が強烈だったということもある。『モンスター』という 作品が、それだけのリスクを持った作品だったことも改めて 理解できた。
『2046』“2046” 2000年に撮影が開始されるも、中断。そして昨年突如撮影が 再開され、今年のカンヌ映画祭に招待されたものの、編集の 遅れによってプレス試写のないまま本上映が行われるなどし て話題を撒いたウォン・カーウァイ監督の最新作。 題名の2046とは、1997年に本土返還された香港が、50年間は 現体制が維持されるとした約束の期限の年号。 しかし映画の物語は1960年代を背景とし、2046は、トニー・ レオン扮するその時代に生きる主人公が書く未来小説の題名 でもあり、その小説の中では、人々が夢見る場所の番地でも ある。そして主人公が住もうとし、ある女性が住むアパート の部屋の番号も2046。 物語は、主人公が愛した、または愛そうとした複数の女性た ちとの関係が綴られる。同時に、木村拓哉扮する日本人男性 とアパートの経営者の娘の中国人女性との恋も語られる。そ して主人公が執筆する未来小説の世界も描かれる。 映画をシンプルに見れば、何人もの女性を愛しながらも真実 の愛を求めようとする男の物語。しかし木村が演じる小説の 主人公が、作家を演じるレオンとダブリ始める辺りから、現 実と小説が交錯し、不思議な世界を構築され始める。 とは言うものの、それが本当に監督によって意図された物語 かどうか、僕が勝手に勘繰っているだけなのかも知れない。 いずれにしても、もう1回見て確認したくなる映画だ。 なお撮影は約5年のブランクを置いて行われた訳だが、木村 は微妙に風貌が変っているのが見えて面白かった。もっとも 映画の中でも数年が経ったという設定になっている。 これに対して、木村の相手役のフェイ・ウォンは、後半はア ンドロイドという設定で化粧によっても変化が隠されたよう だ。一方、レオンの相手役のチャン・ツィイーは全然変らな いが、これは恐らく再開後のみの出演なのだろう。 しかし、両方で出演したはずのレオンやコン・リーは全く変 化が判らなかった。多分、年齢的なものもあるのだろうが、 大したものだと思った。
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