井口健二のOn the Production
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2004年09月29日(水) 血と骨、パニッシャー、クリスマス・クリスマス、ナイトメア・ビフォア・クリスマス、巴里の恋愛協奏曲、ターンレフト・ターンライト

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『血と骨』                      
梁石日の原作を、崔洋一の脚本監督で映画化した作品。同じ
コンビでは、1993年の『月はどっちに出ている』が作られて
いる。                        
梁石日の原作の映画化では以前に『夜を賭けて』を見ている
が、崔洋一監督の作品を見るのは今回が初めて。いずれにし
ても在日の韓国朝鮮の人たちの姿を描いたものなので、基本
的には日本人の自分とは別世界の話になるが、今回は、戦後
の混乱期などが背景になっているので、日本人の自分の目に
も判りやすかった。                  
戦前に済州島から出稼ぎにやってきた男の一代記を、その息
子の目から描いている。原作者の父親がモデルということだ
が、傍若無人、暴力に明け暮れる男の生き様が描かれる。そ
の一方で、男は金に執着し、家族や親戚を搾取しながら小金
を貯め込んで行く。また、数多くの女を愛し、それがまた幾
多の確執を生んで行く。                
まあ、確かにひどい男の物語だが、その当時に生きた人たち
のヴァイタリティのようなものは見事に描かれている。自分
の父親も多分同世代だと思うが、特に戦後の混乱期に、目端
を利かせて小金を稼いで行く様子は、ある部分では似ている
感じがした。                     
楽天やライヴドアの社長のように何100億を稼いだ訳ではな
いが、この映画の主人公のように小金を稼いだ奴は、当時は
ざらにあった話かも知れない。小さいけれどそれでも満足で
きる夢を、数多くの人が実現できた時代の物語という感じが
した。こんな夢を、今の時代の大多数の人たちが失っている
ことは間違いない。                  
なお、主人公の韓国人妻を演じた鈴木京香の老けのメイクや
演技が結構様になっていた。              
                           
『パニッシャー』“The Punisher”           
マーヴェルコミックス原作の映画化。          
犯罪組織によって家族を奪われた元FBI捜査官の男が、法
の手が及ばない組織のトップを追いつめて行く。しかしこれ
は復讐ではない、自らの正義に基づく制裁(punish)だ。 
言うなれば、アメリカ版「必殺仕事人」というところだが、
コミックスでの最初の登場は1974年ということなので、どち
らが先なのだろうか。                 
今回の映画化はその発端で、元捜査官がパニッシャーとなっ
て、最初の仕事を仕上げるまでが描かれる。まあ、誰が見た
ってこの最初の仕事は復讐以外の何物でもないと思うが…。
それは別として、ヒーローコミックスの映画化といっても、
本作は基本的に生身の人間の話だから、銃撃戦などはあるけ
れど、ど派手なCGIアクションなどは事実上描けない。そ
の替わりに主人公の人間性が描かれるかというと、それも無
表情であまり無いのだが…。              
本作では、主人公が隠れ住むアパートの住人たちがそれなり
に丁寧に描かれていて良い感じだった。実は、彼ら自身が世
間からは見捨てられたような存在なのだが、その彼らが主人
公に寄せる友情というか、家族愛のようなものの感じが、清
涼剤的に利いていた。中でも、『X−メン』や『ファム・フ
ァタール』などのレベッカ・ローミン=ステイモスが、儲け
役で良い感じだった。                 
主演は、パニッシャーに、『ドリームキャッチャー』などの
トム・ジェーンと、最初の仕事の相手となる組織トップの男
にジョン・トラヴォルタ。今回は、トラヴォルタの方がいろ
いろ人間的に描かれているのも面白いが、シリーズ化された
ら毎回の敵役が楽しみになりそうだ。          
『スパイダーマン』などよりは、もう少し年齢層が上の観客
を狙った作品と思われるが、その手のアクションものにも関
わらず、ベッドシーンが全く無いというのもすがすがしいも
のだった。また、使用される銃器にもかなり凝ったものが使
われていたようだ。                  
                           
『クリスマス・クリスマス』              
WAHAHA本舗の座付作家すずまさ原作によるファンタスティッ
ク・ラヴコメディ。                  
主人公は、恋も仕事も倦怠期の男。そんな男がある日、ふと
したことから「ファンタジー保存協会」なる秘密組織に関わ
り、その理念に賛同して、一緒に活動することになる。  
「ファンタジー保存協会」とは、UFOやネッシーから、カ
ッパ、ツチノコに至るまで、世界中のファンタスティックな
出来事を演出(捏造)して、ファンタジーを保存しようとす
る世界的な組織。当然その存在は秘密で、その秘密保持に失
敗すると、組織からの除名と、本部が研究開発したプチ魔法
による「おしおき」が待っている。           
ところが彼の関わった支部は、秘密の保持に失敗。除名と恐
怖の「おしおき」を回避するためには、組織の最大イヴェン
トであるクリスマスの日、プレゼント配りでのノルマ達成し
かないことになるが…。                
アイデアは悪くないし、物語の展開もさほどの破綻もなく良
くまとまっている。本部から届いた封筒が状況に応じて変色
したり、プチ魔法が実在していたりという辺りの、展開の押
さえも上手く機能している。さすが長く芝居を書いている人
の作品という感じだ。                 
出演は、主人公に大倉孝二、その恋人に伊藤歩、彼女の周辺
の人の役で柴田理恵。一方「保存協会」側には、近藤芳正、
生瀬勝久、古田新太ら。他に久本雅美、マギーなどの劇団系
の役者が脇を固めている。               
監督は、ミュージックヴィデオやTVCF演出を手掛け、本
作が映画初演出の山口博樹。最近、この種の日本映画を見る
機会が増えているが、当り外れも大きい中で、今回は当りの
方に入りそうだ。                   
                           
『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』         
          “The Nightmare Before Christmas”
1993年、『バットマン』の成功で力を得たティム・バートン
が、独自の企画で作り上げた人形アニメーション。その日本
公開10周年を記念した再上映が行われる。        
クリスマスの約2カ月前に行われるハロウィン。幽霊や怪物
たちが我がもの顔に町を歩き回るこのお祭りを仕切るのは、
ハロウィンタウンの住人たち。しかし、そのリーダーのカボ
チャ大王ジャックは自分のやっていることに虚しさを感じて
いた。そして、ふと紛れ込んだクリスマスタウンの活気に、
自らその町のリーダーになり替わることを試みるが…。  
監督は、同じくバートンが製作したロアルド・ダール原作の
映画化『ジャイアント・ピーチ』も手掛けたヘンリー・セリ
ック。セリックは現在、バートンの新作“Corpse Bride”も
製作しているヴィントン・スタジオに所属しているが、本作
は彼らのコラボレーションの原点とも言える作品だ。   
十年一昔とは言うけれど、この手の作品が色褪せることは全
く無い。自分が良かれと思ってしたことが酷い結果を生んで
しまう。でも、過ちを認めることが何より大事、そんなメッ
セージが見事に描かれた作品。             
またジャックを中心に、幽霊犬のゼロや、ジャックに思いを
寄せるサリーなどのキャラクターは今見ても素晴らしい。 
なお、今回の再上映では、日本では劇場未公開だったバート
ンの初期の短編“Vincent”と“Frankenweenie”も併映され
る計画だが、実は、僕はスケジュールの都合で日本語吹き替
え版の試写を見てしまったので、これらの作品を確認できて
いないのが、残念。                  
因に、日本語吹き替え版では、ジャックの声を、歌も含めて
市村正規が担当している。               
                           
『巴里の恋愛協奏曲』“Pas sur la bouche!”      
オペラ作家アンドレ・バルドと作曲家モールス・イヴァンに
よる1925年初演のオペレッタを、1922年生まれのアラン・レ
ネが監督した2003年の作品。              
なお、本作のオリジナルは1931年にも映画化されているそう
だが、今回の再映画化でレネは、上映時間との関係で楽曲の
削除や脚本のアブリッジはしたものの、他の楽曲や台詞には
ほとんど手を加えず、オリジナルのままで1920年代の舞台を
再現しているそうだ。                 
といっても、カメラワークや映像効果には、さすが大ベテラ
ンの手腕が発揮されているという感じで、舞台的な演出も随
所に取り入れて、見事な作品に仕上げている。また、映画の
開幕をトーキー初期の雰囲気にしているのも楽しめた。  
主人公は、フランス人の実業家の妻。彼女は夫との関係も冷
めかけて愛人づくりに励んでいるが、夫は、女は最初に愛を
交わした男の元に必ず戻ってくるという信念の持ち主で、妻
の奔放な行動も意に解さない。             
ところがその妻には、夫と出会う前のアメリカ旅行でアメリ
カ人と結婚したという過去があり、それはたまたま法律上の
手続きの関係で、フランスの戸籍に記載されていなかっただ
けなのだ。つまり、彼女が最初に愛を交わした男性は…。 
そんな過去の秘密を隠し続けてきた彼女だったが、ある日、
夫が自宅に招待したアメリカの取引先の実業家が、その元夫
だったからさあ大変。しかもその元夫は、未だに彼女との愛
を諦めていなかった。                 
さらに、彼女の若い愛人には別の若い女性が言い寄るなど、
彼女を中心に見事なダブル三角関係が…。いやはや、さすが
フランスと言うべきなのだろうか、80年も前にこんなにも見
事なラヴコメディを作り上げていたとは…。       
オペレッタなので歌曲もふんだんに登場するが、特にアメリ
カ人の歌には何となくアメリカ的な感じがするなど、これも
見事。そしてその歌を、大ベテランのサビーヌ・アゼマや、
『アメリ』のオドレイ・トトゥらが自ら歌っていることも注
目される。                      
それにしても、一昨年の『8人の女たち』など、最近のフラ
ンス映画に、ちょっと懐古趣味的なオペレッタ風作品が続い
ているのは興味深い。                 
                           
『ターンレフト・ターンライト』“走左向・走右向”   
台湾の絵本作家ジミー(幾米)原作の「君のいる場所」を、
香港のワイ・カーファイが脚色、ジョニー・トーと共同の監
督、製作総指揮で作り上げたラヴコメディ。       
金城武、ジジ・リョンの共演で、台北が舞台の香港映画。 
主人公の2人は、実は同じアパートの隣同士に住んでいる。
しかし建物の構造上、出入り口は別々で、しかも1人は左の
出口から出て左に向かい、もう1人は右の出口から出て右に
向かうため、2人がその場所で出会うことはない。    
そんな2人が偶然公園で出会い、名前は名乗らず、電話番号
だけを交換するが、急に降った雨でその筆跡が読めなくなっ
てしまう。こうしてお互いを求め合う探索が始まるが、偶然
が偶然を呼んで、2人はいつも擦れ違うばかり。さらに2人
の出会いを妨害する連中も現れる。           
確かに、あまりに偶然が重なりすぎる話ではあるが、これが
ラヴコメディの本領というところだろう。赤ん坊や犬の使い
方も利いているし、回想シーンの使い方などもさすがに見事
なものだ。                      
台湾ならではの事情を描いた部分もあるし、最後の電話は、
ちょっと辻褄が合わないような気もするが、そんな枝葉末節
は横に置いて楽しみたい作品。脇役を勤めた『THE EYE』の
エドマンド・チェンと、テリー・クワンのキャラクターも利
いていた。                      


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井口健二