井口健二のOn the Production
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2004年08月15日(日) 第69回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回もトラブル解消…、ということにはならなかったが、
ちょっと意外な展開となった話題で、前回トラブルを報告し
たトム・クルーズ主演の“Mission: Impossible 3”に替っ
て、クルーズ主演、スティーヴン・スピルバーグ監督による
H.G.ウェルズ原作“War of the World”の再映画化が、
突如来年夏の公開を目指して進められることになった。
 この“War of the World”の再映画化の計画に関しては、
2002年6月1日付の第16回でも紹介しているが、当初はクル
ーズの主演作としてパラマウントから発表されたもので、そ
の後に『マイノリティ・リポート』の撮影中に話し合ったと
いうスピルバーグの参加が報告されていた。しかし、総製作
費が1億ドルを越えると予想される計画には、なかなかゴー
サインが出なかったものだ。
 ところが、前回報告した“M:I3”のトラブルで、ジョー・
カーナハン監督の降板の後、前回もお伝えしたJ.J.エイ
ブラムスによる引き継ぎが交渉されたのだが、テレビ界に籍
を置くエイブラムスには、すでに今秋からの新番組の計画が
進行中で交渉は成立せず、結局この計画は来年に延期される
ことになってしまった。因に、一部米誌では来年計画されて
いる撮影は、エイブラムスが行うとしているところもある。
 一方、スピルバーグ監督には、今年5月1日付の第62回で
報告した、1972年のミュンヘン・オリンピックでの事件を題
材にした作品の撮影が6月に計画されていたが、当初はエリ
ック・ロスが手掛けていた脚本に問題が発生、その後トニー
・カシュナーによる書き直しが行われているが、その脚本は
まだ完成されていないようだ。
 そこで“M:I3”のキャンセルで、来年夏のスケジュールに
空白のできてしまったパラマウントが両者との交渉を行い、
48時間の協議の末に、“War of the World”の再映画化に向
けてのゴーサインを出したというものだ。
 なお、撮影は11月に開始の予定で、その前のプレプロダク
ションの期間は10週間しかないが、この計画ではすでにデイ
ヴィッド・コープによる脚本も完成されており、これだけの
メムバーが揃えば、製作は何とかなりそうだ。
 とは言うものの、VFXなどのポストプロはかなり大変に
なりそうだが、報道によるとコープの脚本は現代化されたも
のが採用され、期待された19世紀末が舞台のものではないと
いうことなので、それならVFXの手間も多少は軽減されそ
うだ。因に、そのVFXは、ILMがデニス・ミューレンの
指揮下で担当することも発表されている。
 いずれにしても待望の企画の実現だが、製作期間の短さは
クルーズ、スピルバーグの実力でカバーして、素晴らしい作
品を作り上げてもらいたいものだ。
        *         *
 お次も、再映画化の情報で、『ヴァン・ヘルシング』では
オリジナルの老教授を、一躍スーパーヒーローに仕立て上げ
たスティーヴン・ソマーズ監督が、次なるスーパーヒーロー
の計画として、往年の連続活劇でも有名な“Flash Gordon”
の権利を獲得し、その映画化を目指すことが発表された。
 この作品は、元々は1934年に発表されたコミックブックに
よるものだが、1936年、38年、40年にユニヴァーサルが連続
活劇で映画化して大人気となった。その後は新聞の連載漫画
やアニメーション、テレビシリーズにもなっている。そして
1980年には、ディノ・デ・ラウレンティス製作による大作映
画が公開され、このときはロックバンドのクィーンが手掛け
た主題歌も話題を呼んだものだ。
 その再映画化が計画されているものだが、実は今回の計画
では、全米第3位のコミックス出版社トップ・カウによるコ
ミックスの再開も視野に入っていて、ソマーズは映画化と同
時に、新作コミックスのストーリーにも関わる意向と伝えら
れている。これにより、ゴードンとその恋人のデール・アー
デン、そして科学者ハンス・ザーコフ博士らの活躍が、映画
とコミックスの両方で再開されることになりそうだ。
 ただし、現状ではソマーズは映画の脚本にも未着手のよう
だが、このまま進めば彼の次回監督作となる可能性は高そう
だ。因に、製作費2億ドルをかけた『ヴァン・ヘルシング』
の配給収入は全世界で2億7000万ドルに達しており、期待は
もっと上だったようだが、取り敢えず製作費の回収はできた
ということで、次回作への期待も高いようだ。
 なお、ソマーズの関連では、先にサラー・ダン原作による
ロマンティック・アドヴェンチャー小説“The Big Love”の
映画権を獲得したことが発表されているが、その計画では、
彼は製作のみを担当する予定ということだ。
        *         *
 『キング・アーサー』ではまたまた新たな魅力を発揮した
キーラ・ナイトレイが、『マイ・ボディガード』のトニー・
スコット監督の新作に主演することが発表された。
 作品の題名は“Domino”というもので、1960年版の『アラ
モ』などに出演した俳優ローレンス・ハーヴェイの娘ドミノ
を主人公にした実話に基づく物語ということだが…。ドミノ
は、一時はフォードのモデルなども務めていたが、ある日、
華やかなベヴァリー・ヒルズでの生活を捨てて、何とバウン
ティ・ハンター(賞金稼ぎ)になったというものだ。
 そしてこの物語を、再上映が話題の『ドニー・ダーコ』の
リチャード・ケリーが脚本にし、ニューラインの製作で映画
化するというもの。撮影は、今秋10月4日にロサンゼルスと
ラスヴェガスで開始されることになっている。
 アメリカでの民間による賞金稼ぎの実態がどんなものか、
日本人には今一つピンと来ないところだが、映画化の題材と
もなれば、それなりにドラマティックなものが予想される。
しかも、元モデルからの転身ということでは、華麗と壮絶の
両面が見られる作品になりそうだ。
 なお今回の作品は、スコットとは1993年の『トゥルー・ロ
マンス』と、2002年の『スパイ・ゲーム』で組んだことのあ
るサミュエル・ハディダが製作を担当するもので、いずれも
評価の高い作品を生み出したコンビの復活には、期待の高ま
るところだ。
        *         *
 ちょうど1年前の2003年8月15日付の第45回でも紹介した
ワーナーが進めている往年の人気テレビ番組“Get Smart”
(それ行けスマート)の劇場版計画で、主演俳優に現行のテ
レビの人気番組コメディ・セントラルなどで知られるスティ
ーヴ・カレルを起用することが発表された。
 1年前の記事では、『サタデー・ナイト・ライヴ』出身の
コメディアン=ウィル・フェレルの起用の線で計画が進めら
れていたものだが、その時にも紹介したドリームワークス作
品の“Anchorman: The Legend of Ron Burgundy”が、今年
の7月第1週に全米公開されて『スパイダーマン2』に次ぐ
第2位を記録するなど、その後のフェレルの人気は鰻登り、
このため超多忙となったフェレルの起用が断念されて、同作
品で助演していたカレルに計画が切り替えられたようだ。
 なおカレルは、ジム・キャリーが主演した『ブルース・オ
ールマイティ』にも助演していたが、今回の劇場版計画では
『ブルース…』を手掛けたスティーヴ・コーレンが脚本を担
当しており、早速カレルのキャラクターを取り入れた脚本の
手直しが行われることになっている。
 またカレルは、ウッディ・アレン監督の最新作“Melinda
and Melinda”にも出演している他、NBC放送の人気コメ
ディシリーズ“The Office”にはレギュラー出演しており、
さらにニューラインで初主演作の“Furry Vengeance”の公
開が控えているということだ。
        *         *
 日本でもベストセラーになった『かもめのジョナサン』で
有名なリチャード・バック原作で、こちらも全米で1500万部
のベストセラーを記録した“Illusions: The Adventures of
a Reluctant Messiah”(イリュージョン)の映画化権を、
『タイタニック』などのVFX製作会社のディジタル・ドメ
インが獲得したことが発表された。
 同社は、日本では今年公開された『ウォルター少年と夏の
休日』で劇場映画製作に進出したが、本作はそれに続く作品
になりそうだ。監督には“Love Me If You Dare”という作
品がパラマウント・クラシックスから公開されたばかりのフ
ランス監督ヤン・サミュエルの起用も発表されている。
 物語は、アマチュアパイロットの主人公とメシアを名乗る
男との出会いを描いたファンタスティックなもので、同社の
VFX技術を発揮した作品が期待される。因にバック原作の
『かもめのジョナサン』も1973年に映画化されているが、こ
のときはカモメの視点で撮影された浮遊感あふれる映像に、
ジェームズ・フランシスカスらの台詞が乗せられるという一
風変った作品に仕上げられていた。
 なお今回の製作は、バーネット・ベインという製作者との
共同で行われるが、ベインは1998年にドメイン社が視覚効果
賞のオスカーを受賞した『奇跡の輝き』の製作者でもある。
またドメイン社とベインではこの他にも、ダン・シモンズ原
作のSFシリーズで、“Ilium”と“Olympos”という作品の
映画化も企画しているそうだ。
 因にドメイン社のVFXの近作は、フォックス製作『アイ
ロボット』になるようだ。
        *         *
 またまたヴィデオゲームからの映画化で、“BloodRayne”
という作品が、ドイツのウーワ・ボールという監督の下で進
められることになり、この作品に、『サンダーバード』のベ
ン・キングズレーと、『T3』のクリスティーナ・ロケン、
そして『バイオハザード』のミシェル・ロドリゲスの出演が
発表されている。
 ゲームのオリジナルは、1930年代のナチス統制下のドイツ
を舞台にしたもので、人間と吸血鬼のハーフという境遇に生
まれたヒロインが、アンデッドの軍団を組織して人類征服を
目論む父親の野望を阻止するため活躍するというお話。  
 しかし映画化では、全体の物語は同じだが、設定が変更さ
れ、18世紀のトランシルヴァニアを舞台に、近代兵器や飛行
機、自動車もない状況で、ヒロインの活躍を描くということ
だ。そしてこのヒロインをロケン、父親をキングズレー、さ
らにヒロインの親友で人間の女性をロドリゲスが演じること
になっている。脚本は、『アメリカン・サイコ』などのグネ
ヴィア・ターナーが担当。
 人間と吸血鬼のハーフというのは『ブレイド』の設定にあ
るし、吸血鬼ヒロインも『アンダーワールド』の設定だが、
監督は今回の映画化では舞台背景を近代以前の世界にして、
よりシンプルに物語を作り上げたいようだ。そのためには、
18世紀のトランシルヴァニアは最高の舞台だとしている。 
 なお監督は、本作の製作総指揮も兼ねているが、実は個人
で4700万ドルの映画基金を設立して、すでにアタリのゲーム
に基づく“Alone in the Dark”と、セガのゲームに基づく
“House of the Dead”の映画化にも資金を提供していると
いうことだ。またこの基金はさらに拡充され、監督自身の次
回作で、やはりゲームに基づく“Hunter: The Reckoning”
の映画化も進めることになっている。
 また、この作品はドイツ映画ということになるようだが、
クリスティーナ・ロケンは昨年12月1日付の第52回で紹介し
たドイツ映画“The Ring Cycle”(ニーベルンゲンの指輪)
にもブリュンヒルト役で出演している。そしてこの作品は、
すでに完成して“Kingdom in Twilight”の題名でアメリカ
公開がされるようだ。
        *         *
 ヴィデオゲームの次ぎはおもちゃの話題で、1980年代に一
世を風靡した変身おもちゃ“Transformer”を実写映画化す
る計画が発表された。
 このおもちゃは、自動車やトラック、飛行機や戦車などの
原形が、本体の一部を捻ることによってロボットに変身する
というもので、元々はアメリカのハスボロ社が開発したもの
のようだが、日本のタカラが製造を開始してから、瞬く間に
世界中を席巻し、80年代にはコミックブックのシリーズやテ
レビ番組、長編アニメーション映画なども作られていた。
 なお、1986年に製作されたアニメーション映画では、登場
キャラクターの声を、オースン・ウェルズ、ロバート・スタ
ック、レナード・ニモイらが当てていたということだ。
 その玩具の映画を、今度は実写版で製作するというものだ
が、実は昨年行われたこの映画化権の契約交渉の席には、ド
リームワークスを始め、ニューライン、フォックス傘下のニ
ュー・リジェンシー、パラマウントなどが集まり、このうち
早期に撤退したパラマウントをドリームワークスが取り込ん
で、最終的な映画化権を獲得したというものだ。
 そして今回は、その権利に基づく映画製作の発表が行われ
たものだが、この製作には、スティーヴン・スピルバーグが
製作総指揮でドリームワークスを代表するほか、コミックス
の映画化“Constantine”を手掛けたロレンツォ・デ・ボナ
ヴェンチュラ、『リーグ・オブ・レジェンド』のドン・マー
フィ、『Xメン』のトム・デサントという錚々たる顔触れが
製作者として名を連ねている。
 つまりこれだけの顔触れが、この玩具に関して何らかの思
い入れがあるということのようだが、特にスピルバーグは、
一旦は引いたパラマウントを協力者に招き入れて権利獲得を
強く働きかけたということで、相当のものがありそうだ。
 具体的なストーリーは、キャラクターが善と悪に分かれて
戦うという基本設定以外は明らかでないが、公開は2006年夏
を目指しているということで、後は、船頭多くして…になら
ないことを祈るだけのようだ。
        *         *
 ついでにもう一つ玩具?の話題で、1982年にリチャード・
ドナー監督、リチャード・プライヤーの主演で映画化された
“The Toy”(おもちゃがくれた愛)のリメイクが計画され
ている。
 今回の計画は、実はシド・ガニスという製作者が手に入れ
た“Jack and Jay”という脚本に端を発している。この脚本
は、テレビ脚本家チームのボブ・バーンズとマイクル・ウェ
アが執筆し、ガニスは数年前にこれを手に入れたものだが、
最近になってこの脚本をコロムビアの首脳に見せたところ、
「これは“The Toy”だ。ぜひ“The Toy”として映画化して
ほしい」と言われたということだ。
 そこでバーンズとウェアには、改めて脚本の執筆が依頼さ
れているということだが、実は82年のドナー作品は、さらに
1976年製作のフランス映画“Le Jouet”という作品のハリウ
ッドリメイクだったもので、結局、今回の計画では、フラン
ス版の“Le Jouet”と、アメリカ版の“The Toy”、それに
新版の“Jack and Jay”の3者を加味した脚本が作られるこ
とになるようだ。
 なお、82年作品のお話は、ジャーナリスト志望だが失業中
の主人公が、玩具会社の富豪の息子の遊び相手として雇われ
るが、その少年は金には恵まれているが人の愛には恵まれて
いなかった。そこで主人公は少年に人の愛を教えようとする
が…というもの。これをプライヤーの熱演で描いているが、
正直なところは、ちょっとその熱演が空回りという感じの作
品でもあった。
 今回は、その辺も踏まえてのリメイクということになると
思うが、良い作品を期待したいものだ。
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 後半は短いニュースをまとめておこう。
 まずは、来年5月19日に全米公開が予定されている“Star
Wars Episode III”の副題が、“Revenge of the Sith”に
決まったようだ。これは7月末にサンディエゴで開催された
Comic-Conの会場で明らかにされたもので、同大会に出席し
たルーカスフィルムの関係者が羽織っていた上着を脱ぐと、
その下から上記のタイトルの印刷されたTシャツが現れたと
いうことだ。
 因に“Revenge”という言葉は、確か1983年に公開された
第3作が最初は“Revenge of the Jedi”と呼ばれていたも
のだが、ジェダイの精神に「復讐」という言葉は相応しくな
いという判断から、“Return of the Jedi”に変更された経
緯がある。しかし邦題では『ジェダイの復讐』のままだった
ものだ。今回は対象がシスなので、復讐も良いだろうという
ことのようだが、さて邦題はどうするのだろうか。
 お次ぎは、来年11月に公開予定の“Harry Potter and the
Goblet of Fire”の配役で、謎に包まれていたポッターの
最大の敵ヴォルデモート卿を、レイフ・ファインズが演じて
いることが発表された。この役には一時はローワン・アトキ
ンスンの名前がスクープされて、Variety紙の製作リストで
もかなり後まで彼の名前が掲載されていたものだが、結局ま
ともな線に落ち着いたようだ。
 この他には、いろいろ嗅ぎ回ってはポッターを困らせるタ
ブロイド紙のレポーター、リタ・スキーター役に『めぐりあ
う時間たち』に出演のミランダ・リチャードスン、またポッ
ターの恋人役となるチョー・チャン役には新人のケイティ・
リューが発表されている。一方、今回の配役では、魔法界の
トップなどの役柄も登場しており、『アズカバンの囚人』の
映画化ではその辺の話が落ちていた分が、いよいよ本格的な
戦いに向けて登場してくることになるようだ。
        *         *
 後は続報で、DGAとのトラブルからロベルト・ロドリゲ
ス監督の降板が余儀なくされた“A Princess of Mars”の後
任監督に、今年9月17日に全米公開が予定されている“Sky
Captain and the World of Tomorrow”を手掛けたケリー・
コンランの名前が浮上している。ジュード・ロウ、アンジェ
リーナ・ジョリー、グウィネス・パルトロウが共演する第2
次世界大戦前を舞台にしたこの作品は、デ・ラウレンティス
一族が製作するファンタシー大作で、コンランは新人である
にも関わらず脚本監督の二役で映画化を実現したものだ。
 このコンランの前作の詳しい内容は判っていないが、冒険
色の強いファンタシーということで、さらに大型映画の製作
を経験をしたということは、E.R.バローズ原作の『火星
シリーズ』の映画化には持ってこいという感じだ。まだ正式
決定ということではないようだが、早期に決定して早く映画
化を実現してもらいたい。
 もう一つ後任監督の情報で、ブライアン・シンガーが降板
した“X-Men 3”の監督に、“Buffy the Vampire Slayer”
のクリエーターとしても知られるジョス・ウェドンの名前が
噂されている。ただしこの情報、ウェドン自身は否定してい
るということだが、実はウェドンはマーヴェルコミックス発
行の“Astonishing X-Men”のストーリーの執筆も手掛けて
おり、映画の脚本も書けることから最適と考えられているよ
うだ。計画では2006年5月5日の公開が予定されている新作
だが、準備期間を考えると監督決定にはちょうど良い時期に
来ているもので、フォックスの早めの決断が期待される。


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井口健二