2004年08月14日(土) |
透光の樹、ツイステッド、犬猫、ニュースの天才、クライモリ、トルク、マイ・ボディガード、80デイズ、みんな誰かの愛しい人 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『透光の樹』 1999年に第35回谷崎潤一郎賞を受賞した高樹のぶ子原作の映 画化。青年期に出会い、25年ぶりに再会した男女が、一気に 関係を深めて行く姿を描く。 男は、番組製作会社の社長。彼は25年前に一人の刀鍛冶を追 った番組を制作し、当時高校生だったその娘と出会う。そし て25年後、ふとそのことを思い出した男は、刀鍛冶の消息を 尋ねるが、そこには昔の面影を残す彼女の姿があった。 しかし病気の父親を抱える彼女の生活は困窮し、その窮状を 訴える女に男は金を渡し、その代償として関係を結んでしま う。そのため、男には金で買ったという後ろめたさが生じる が、女は男を求め続ける。やがて男は…、そして女は…。 この男を永島敏行、女を秋吉久美子が演じる。中年というよ り、最早初老に域に入ろうとする男女の純愛。これを根岸吉 太郎監督が克明に綴って行く。 秋吉は1974年日活作品『赤ちょうちん』が本格主演第1作。 その作品を撮った藤田敏八監督に師事していたのが、根岸監 督。また、その製作は本作と同じ岡田裕だった。つまりこの 作品は当時の日活ロマンポルノの流れを純粋に受け継ぐ作品 とも言える。 従ってこの作品には、男女の絡みのシーンがふんだんに出て くる。それを秋吉と永島が演じるのだが、秋吉は、あるとき は年齢を出し、あるときは若い頃を髣髴とさせる表情で大胆 に、そして見事に演じている。 そしてその演出も、シーンを重ねるごとに徐々にエスカレー トさせて行く描き方が素晴らしく、しかもその最後は、まさ に往年のロマンポルノを思い出させるような懐かしい演出で 締め括る。 物語の最後は、さらに15年後の現代で幕を閉じるが、その最 後で彼女の娘の叫ぶ台詞が印象的だった。見事な作品。 『ツイステッド』“Twisted” アシュレイ・ジャド、サミュエル・L・ジャクスン、アンデ ィ・ガルシア共演、フィリップ・カウフマン監督による殺人 ミステリー。 ジャドが扮するのは、殺人課刑事に昇格したばかりの婦人警 官。彼女には、幼い頃に警官だった父親が母親を殺して自殺 したというトラウマがある。その後、彼女は父の相棒だった ジャクスン扮する警察本部長に育てられたが、今回の昇格に は、養父のお陰とするやっかみも聞こえる。 そんな彼女の周囲で殺人事件が起こり始める。被害者は彼女 が関係を結んだ男たち。その事件を彼女はガルシア扮するベ テラン刑事と追うことになるが、彼女には事件が起きた時刻 のアリバイも記憶もなく、第1容疑者が捜査を行うという奇 妙な図式となってしまう。そして決定的証拠が出て、ついに 彼女は身柄を拘束されることになるが…。 2002年にサンドラ・ブロック主演で作られた『完全犯罪クラ ブ』や、先日はアンジェリーナ・ジョリー主演の『テイキン グ・ライブス』など、ハリウッドはこの手の女性刑事ものが 相当にお好きらしい。そんな中で本作は、さすがにカウフマ ン監督が付いただけのことはあって、作りもしっかりしてい た。また、ジャクスン、ガルシアの両ベテランが脇を上手く 締めているのも、心強い感じがした。 まあ、上映時間1時間37分程度の作品ではあるし、それ相応 の作りの作品ではあるが、特にジャドのファンには楽しめる ところだろう。 『犬猫』 2001年のPFFで企画賞を受賞した8mm作品の35mmリメイク バージョン。 幼稚園の頃からの幼なじみだが、性格は正反対。しかし好き になる相手はいつも同じで、従って仲の良いはずのない2人 の女性が、共通の友人の海外留学中、その住居の留守番で一 緒に暮らすことになった様子を描いた作品。 この2人を榎本加奈子と、『犬と歩けば』にも出演していた 藤田陽子が演じている。監督、脚本、編集は、企画賞を受賞 した新人の井口奈己。 新人監督の作品にしては、等身大の世界を描いているせいか 違和感も無く、見ていて緊張するところはなかった。いや、 正直言って、榎本なんてかなり癖のありそうな女優を使って 大丈夫かとも思ったが、良くやっている感じだ。もっとも、 どちらかというと藤田を中心に捉えて、榎本を脇に回してい るのは作戦だったのだろうか。 というか、その藤田が実に良くやっている。『犬と歩けば』 では確か引きこもりの妹の役だったと思うが、今回は外向的 で正反対の役柄だが良い感じだった。今回の新人監督が演技 指導をどこまでやれたかは判らないが、前作の監督の教えを しっかりと活かしているようだ。 実は、僕の見た試写会に藤田が来ていて、僕の1つ置いた横 の席に座っていた様なのだが、本人も落ち着いた感じで見て いて、それも好印象だった。 『ニュースの天才』“Shattered Glass” 1998年。当時の大統領専用機に唯一設置されていた政治雑誌 “The New Republic”で、最年少の記者として数々のスクー プをものにし、脚光を浴びていたスティーヴン・グラスが引 き起こした捏造事件を描く、実話に基づく作品。 僕自身、雑誌にニュース記事を寄稿している立場の人間とし て、この作品は骨身に染みるところと言える。 僕自身、思い違いや読み間違いによる誤報は儘してしまうと ころだが、捏造という段になると、さて自分が思い込みで書 いている部分がそうでないと言い切れるものではない。僕が 書いているのは、記事を判りやすくするための補足だし、そ れまでの経緯などから間違いないと確信を持ってはいるが、 それが想像の産物であることに代りはない。 多分グラス記者がやってしまったことも、初めはそんなもの だったのだろうと思う。しかしライヴァル誌があって、社会 に影響のある記事ではそれは許されないことだったのだ。 そんな訳で、僕はこの主人公に同情的に映画を見ていたのだ が、この映画の製作者たちはかなり手厳しい。主人公に言い 訳の機会を与えることもなく、逆に主人公が自分の過ちを糊 塗しようとすることによって、どんどん窮地に追い込まれて 行く姿が描かれる。 しかし、短期間に27もの捏造記事が、いともた易く雑誌に掲 載されていたとはとても思えない。映画の製作に当っては、 当時の編集長らにも取材したということだが、彼らが全く保 身を考えずに取材に応じたとは思えないところだ。 特に、先代編集長で昨年イラクで殉職したマイクル・ケリー は、自分の現在の地位への影響も顧みず協力したということ だが、美談はそんなところにあるものではないし、事件の核 心もこれでよいものかどうか。 映画を見ながら、裏の裏を考えたくなってしまった。 なお映画では、時代の寵児だったグラス記者が、一瞬の内に そうではなくなる姿が衝撃的に描かれるなど、見事な演出が 見られた。 『クライモリ』“Wrong Turn” 州の面積の75%が森林というウェスト・ヴァージニアを舞台 にしたホラーサスペンス。 2003年のカナダ製作だが、スティーヴン・キングが同年の年 間ホラームーヴィBest1に選んだ作品ということだ。 樹海と呼んでも良さそうな深く暗い森。その中を縫うように 走る細い糸のような道路。地図にも微かにしか描かれないそ の道路に待ち受けているものは…。 主人公の一人は医者の卵、面接に向かう途中のフリーウェイ で事故渋滞に巻き込まれ、その渋滞を避けるつもりでその道 に迷い込む。もう一人は最近振られたばかりの若い女性、彼 女を元気づけようとした男女4人の仲間と共にキャンプ場を 探してその道を辿る。 しかし、誰かが故意に置いた有刺鉄線で車がパンクし、途方 に暮れているところに、医者の卵の車が衝突する。こうして 移動手段を失った若者たちは、徒歩で救援を求めに行くこと になるが…。最初は危機感もなく歩く彼らの背後に謎の影が 迫ってくる。 道に迷って恐怖体験に巻き込まれるというのはティーズ・ホ ラーにはありがちが展開だが、その展開が久しぶりにシンプ ルというか、妙な捻りを加えずにストレートに迫ってくるか ら、何も考えずに結構楽しめた。 しかも、謎の影というのが結局はフリークスなのだが、これ を映画の製作も務めるスタン・ウィンストンが手掛けている からかなりリアル。また、森林や無気味な小屋を舞台にした アクションの演出もよくまとまっていた。 上映時間は1時間24分と短いが、中には恐怖が一杯に詰まっ ていた感じだ。 それにしてもウェスト・ヴァージニアの人は、同じ州の人間 がこんな描かれ方をしても、何も言わないのだろうか。 『トルク』“Torque” 理論上は、最高400km/hも可能というスーパーバイクも登場 するバイカー映画。 製作は、『ワイルド・スピード』のニール・H・モリッツ。 これだけで、映画の内容は大体予想が付く。バイカーグルー プ間の抗争を背景に、主人公が悪の組織を懲らしめるという お話だ。 一人のバイカーが町に戻ってくる。彼は半年前、恋人にも何 も言わずに町を出て行った。それは麻薬取り引きの嫌疑を掛 けられてのことだったが、彼は濡れ衣を晴らすため、そして 真犯人を告発するために戻ってきたのだ。 しかし、彼が出て行った後の町では、グループ間の抗争が激 化し、まさに一触即発の状態。そして彼に濡れ衣を着せた男 は、この機を利用して町を牛耳ろうとしていた。だが、その 全ての鍵を主人公が握っていたのだ。 400km/hは、さすがに実写ではなくVFXで描かれるが、そ れなりに迫力はあるし、ある意味ライドのような感覚で楽し みたい作品というところだろう。そのためには、座席は出来 るだけ前にとった方が良いが、あまり前だと船酔いになる恐 れもあるからご注意。 監督はミュージック・ヴィデオ出身で、本作が劇映画デビュ ー作のジョセフ・カーン。物まね的なシーンも見られたが、 全体的には良くやっている。主演は『ザ・リング』に出てい たマーティン・ヘンダースン、共演はアイス・キューブ。 上映時間は1時間24分、まあさほど肩も凝らせずに見切れて しまうような作品だ。 『マイ・ボディガード』“Man on Fire” A.J.クィネル原作『燃える男』の映画化。 傭兵として数多くの人間を殺し、魂の救いを得る術も失った 男。そんな主人公が、誘拐のはびこるメキシコシティで、幼 い少女のボディガードとして雇われる。 最初は頑なに少女との交流を避ける主人公だったが、やがて 少女の純粋な気持ちに触れ、徐々に人間らしさを取り戻して 行くことになる。しかし誘拐犯は彼らを襲い、犯人の銃撃で 重傷を負った彼には、少女の誘拐を阻止することができなか った。 しかもこの誘拐事件には現職の警官も関わっていた。その警 官殺しの罪での警察の追求と、警官たちの恨みも買う主人公 に、一人の女性ジャーナリストが援助を申し出る。彼女は、 インターポール帰りの連邦捜査官と協力して警察の腐敗を暴 こうとしていたのだ。 こうして協力者を得た主人公は、傭兵として培った能力を最 大限に発揮して、誘拐犯たちを追いつめるべく、壮絶な戦い を展開して行く。 この主人公をデンゼル・ワシントン、少女をダコタ・ファニ ングが演じる。 オスカー俳優のワシントンの名演は当然だが、どの作品で見 ても驚異なのが、9歳のファニングの演技力だろう。誘拐被 害者の役は『コール』ですでに演じているが、今回は誘拐さ れるまでの自然な少女の振舞いが、本当に見事としか言いよ うがない。 監督はトニー・スコット。実は前作の『スパイ・ゲーム』で は、ロバート・レッドフォードの主演で、ちょっと?と思っ たものだが、今回はワシントン、ファニングの主演で良い感 じを取り戻している。特に、多彩に駆使される撮影手法は見 事だった。 それにしても今年60歳のスコットが、9歳のファニングをど のように演出したのか、その風景も見てみたいものだ。 『80デイズ』“Around the World in 80 Days” ジュール・ヴェルヌ原作の1956年のオスカー受賞作を、ジャ ッキー・チェン主演でリメイクした作品。 実は、先に公開されたアメリカでの評価はあまり芳しいもの ではなく、多少心配だったのだが、どうしてジャッキー映画 として見れば、アクションも適度にあるし、ゲストスターは そこそこ豪華だし、結構楽しめる作品だった。 始まりは19世紀末ヴィクトリア朝のロンドン。ロンドン銀行 で盗難事件が発生する。その事件には裏があるのだが、犯人 でチェン扮する主人公は、警察に追われて発明家フォッグの 屋敷に逃げ込み、身を隠すため新発明の実験台を志願する。 こうしてフォッグの召使となった主人公は、主人を80日間 世界一周の賭けに乗せ、その旅を利用して母国中国へ最短日 数の帰還を試みる。こうして始まった冒険の旅だったが、賭 け相手は、カレン・モク扮する中国の女将軍を使ってその妨 害を画策する。 物語の発端などは、原作及び前の映画化ともかなり違うが、 単純に紳士同士の賭けという原作の動機も、現代ではあまり 通じそうもないから、これもまた良しとしたいところだ。 そして、世界10カ国でロケーションが行われたという冒険の 旅が始まる訳だが、その中では原作及び前の映画化にも登場 した日本のシーンがカットされたのはちょっと残念。 しかし、替りに登場する主人公の故郷という設定の中国山間 の村でのアクションは、チェンの昔の映画を見るような雰囲 気もあり、また助っ人も登場して良い感じだった。 この他、アーノルド・シュワルツェネッガーから、キャシー ・ベイツまで登場する多彩なゲストもそれぞれ役柄に良くあ っていて、ただの顔見せでないところも良かった。 アメリカではともかく、日本のジャッキー・ファンには、充 分に楽しんでもらえる作品に思えるのだが…。 『みんな誰かの愛しい人』“Comme une Image” フランスの女流監督アニエス・ジャウイの脚本、監督、出演 による新作で、今年のカンヌ映画祭に出品され、評論家によ る星取表では第1位に輝いたという作品。 主人公は、ちょっと太めの若い女性。彼女の父親は高名な作 家だが、母親とは離婚し、彼女とあまり年の変らない後妻と の間に5歳の妹も誕生している。そして彼女には、父親が自 分に関心を持っていないという思いもあった。 そんな彼女は、声楽の練習をしているが成果は芳しくない。 しかも彼女には、自分に近づいてくる人々が、自分の父親に 紹介してもらいたいからであることも不満だった。そして声 楽の先生も、彼女の素性を聞くと手の平を返したように態度 が変ってしまう。 そんな不満だらけの環境にいる主人公が、それでもその中か ら幸せを見つけ出して行く。実はその幸せは、それまでは彼 女の不満に満ちた目が気づかせてくれなかったもの。こうし て彼女の自立への第1歩が始まって行く。 環境は違っても、こんな不満は誰もが抱えているものだし、 そんなところがこの物語に共感を呼ばせるのだろう。全体は アンサンブル劇のような展開だが、何か大きなドラマの起き るような作品ではない。 しかし、淡々とした中にも暖かいものが流れている、そんな 感じの作品だった。
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