井口健二のOn the Production
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2004年08月01日(日) 第68回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 前回はトラブルの話題をいくつも紹介したので、今回はト
ラブル解消の情報からお伝えしよう。
 1992年のヒット作“Basic Instinct”(氷の微笑)の続編
の製作に関して、女優のシャロン・ストーンと製作者のアン
ディ・ヴァイナ及びマリオ・カサールとの間で争われていた
裁判が結審し、晴れて“Basic Instinct 2”が実現すること
になりそうだ。
 オリジナルは1992年3月に全米公開され、今回Variety紙
の報告によると、米国内だけで1億1700万ドル、全世界では
4億ドルの興行収入を上げたとされている。そして同年4月
には早くも続編の情報も流されていた。
 ところがその後にオリジナルを製作したカロルコが倒産、
その所有資産の処分を審議したロサンゼルス破産裁判所は、
1997年2月に、この続編とリメイクの映画化権をMGMが獲
得したことを発表した。しかしこのとき、オリジナルに主演
したストーンはパラマウントに映画化権の獲得を要請してお
り、同社が獲得に失敗したことから、ストーンの去就も注目
されることになった。
 一方、MGMでは、オリジナルのスタッフキャストを再結
集させるべく交渉を開始、そして1998年1月には、ストーン
もそれに参加することが発表された。さらにこの頃からは、
カロルコ倒産後は個別に行動していたオリジナルの製作者の
ヴァイナとカサールが再び手を結び、C−2プロダクション
を設立して『ターミネーター3』の製作が開始された。
 そして2000年6月、MGMはC−2を製作プロダクション
に招き、ストーンを主演に据えた続編の製作を正式に発表し
たのだが…。その後にオリジナルに続いて共演するはずだっ
たマイクル・ダグラスが降板を表明、これに対してC−2は
共演者にベンジャミン・ブラットを指名、しかしこれにスト
ーンが反対を表明して、このときC−2側が、「まだストー
ンとは正式契約を結んでいない」と発言したことが裁判に発
展してしまった。
 なお、ストーン側の主張は、彼女とC−2が会った際に、
口頭で出演料1400万ドル、または興行収入の15%という約束
がされており、ハリウッドでは、このoral agreementが有効
だとするものだ。確かにこの口約束というのは、以前に別の
映画製作でも問題になったことがあるが、契約書社会とも言
われるアメリカの中で、ハリウッドだけは別世界のようだ。
 その裁判が2001年に提訴され、それがようやく決着したも
ので、決着の具体的な内容は明らかにされていないものの、
これにより映画製作への障害はなくなったとして、MGMで
は早速その準備を始めたとされている。
 因に、今回の裁判はストーンとC−2の間で争われたもの
で、MGMはその当事者ではなかった訳だが、MGMではそ
の間、“Risk Addiction”という題名も用意して、ストーン
の出演がなくなった場合には、独立の作品として映画化する
ことも検討していたということだ。しかし今回の結果で、ま
だ正式な契約書へのサインはないものの、彼女の復帰の可能
性はかなり高くなったとし、晴れて“Basic Instinct 2”と
して製作ができそうだとしている。
 監督(一時は、ジョン・マクティアナンやデイヴィッド・
クローネンバーグの名前もあった)や、他の共演者の名前も
未発表だが、脚本は、ノンクレジットで『ミニミニ大作戦』
のリメイクなどにも関わり、2001年製作の監督デビュー作品
“The Believer”が好評を得ているヘンリー・ビーンと、レ
オーラ・バリッシュによるものが予定されているようだ。
        *         *
 お次もトラブル解消の続報で、前回報告したMcG降板に
よる“Superman”の後任監督に、前回も噂を紹介したブライ
アン(Xメン)シンガーの契約が発表された。
 そしてこの発表の席で、シンガーは、「何年も前からスー
パーマンには興味を持っていた。実際リチャード・ドナーの
作品には、『Xメン』の世界を映像化する上でいろいろな示
唆を与えられたものだ。自分ではスーパーマンの復活はもっ
と早くても良かったと思うが、今こそ彼を再び舞い上がらせ
るときになった」と抱負を語っている。因に、彼の意志はか
なり早くから固まっていて、McGの降板が発表されるや、
直ちに契約となったようだ。
 ところでこの情報については、その1週間ぐらい前から噂
が流されていて、結局それが現実のものになったものだが、
前回も紹介したように、その実現のためにはいくつもの障害
があった。しかし、その内の“Logan's Run”のリメイクに
ついては、同じワーナーの製作ということで、シンガー本人
は今でも希望しているという説もあるが、すでにワーナー製
作のコミックスの映画化“Constantine”を手掛けたフラン
シス・ローレンスが後任監督に噂されているようだ。
 一方、問題はフォックスでシリーズの前2作を手掛けてき
た『Xメン』の第3作だが、これについてはシンガーと同社
との間では包括的な契約はあったものの、シンガーはそのプ
ロジェクトからは降板することになるようだ。この作品は、
2006年5月5日の公開予定で、このまま進めば“Superman”
のライヴァルとなるものだが、フォックスではこれから後任
監督の選考などが大変になりそうだ。
 また、今回の監督交替で、ワーナーでは今までに用意した
脚本などはすべて白紙に戻すとしており、シンガーの下で、
『Xメン2』も手掛けたマイクル・デュガーティ、ダン・ハ
リスとの共同による新たな脚本が、年末にオーストラリアで
予定されている撮影開始に向けて準備されることになるよう
だ。さらに、前々回報告した製作者の問題も白紙に戻され、
ジョン・ピータースの復帰もないとされている。
 従って、以前から報告されていたJ.J.エイブラムス脚
本による「スーパーマンの誕生から、地球に飛来してのレッ
クス・ルーサー及びクリプトン星からの謎の刺客との闘い」
という物語もどうなるかは判らない情勢で、さらにMcG監
督の下で行われた主役のスクリーンテストの結果も採用され
るかどうかも判らなくなってきた。なおこの主役について、
1週間前に臨時ニュースを掲載したが、この件は僕の誤解の
基づくものだったので削除しました。悪しからず。
 ということで、“Superman”の2006年夏の復活はほぼ決定
になったようだが、ワーナーでは今夏の“Catwoman”の後、
来年夏には“Batman Begins”、さらに“Superman”と続け
て、2007年にはやはりDCコミックスの原作から、ジャック
・ブラック主演による“The Green Lantern”の計画も進め
られているということで、このスーパーヒーロー路線は当分
継続することになりそうだ。
        *         *
 以上、トラブル解消の話題を2つ紹介したが、トラブルの
種は尽きないのが映画製作。続いては新たな問題の発生で、
トム・クルーズの製作主演で進められているシリーズ第3作
“Mission: Impossible 3”から、監督ジム・カーナハンの
降板が発表された。
 この往年のテレビシリーズの劇場版では、1996年の第1作
をブライアン・デ=パルマ、2000年の第2作をジョン・ウー
と、いずれもスタイリッシュな演出をする監督が起用され、
今回の第3作の製作に当っても、当初はデイヴィッド・フィ
ンチャーの起用が発表されていた。しかし、フィンチャーに
他の作品の計画が発表され、その後任として『ナーク』で鮮
烈なデビューを飾ったばかりのカーナハンの大抜擢が発表さ
れたものだ。
 この起用はクルーズの意向が強く働いたもので、このため
クルーズは、『ナーク』の公開に向けて自分の名前を製作者
として冠させるなど、いろいろな協力を行ってきた。とは言
うものの、いきなりのVFX多用の超大作の監督は、如何に
クルーズの後ろ楯があろうとも、かなり厳しいのではないか
という心配は最初からささやかれていた。
 しかも、今回の製作では、春先から開始される計画だった
撮影が遅れ、配給担当のパラマウントは、公開を当初予定の
2005年5月6日から、7週間遅らせて6月29日にするなどし
たものの、製作スケジュールが極めてタイトなものになるこ
とは明らかになってきていた。
 その状況で監督の降板となったものだが、これは新人監督
の立場としては、ある意味仕方なかったという感じもする。
なお、カーナハンには、パラマウント/ドリームワークス共
同製作による犯罪ドラマ“Killing Pablo”や、ユニヴァー
サル製作の“Void”などの計画も進められており、今後はそ
ちらで頑張ってもらいたいものだ。
 という状況だが、実は本作の製作では、すでに脚本はフラ
ンク・ダラボン、ダン・ギルロイによるものが決定され、配
役も、クルーズの他に、ヴィング・レイム、キャリー=アン
・モス、ケネス・ブラナー、スカーレット・ヨハンソンが契
約済み、さらに製作スケジュールでは、今月8月4日にプラ
ハ、ベルリンなどで撮影開始と発表されている。
 となると、これを引き継げるのは相当に修羅場に強い監督
になりそうだが、噂では、テレビで“Alias”というスパイ
シリーズを手掛けるJ.J.エイブラムスの名前も挙がって
いるようだ。この名前は、“Superman”の脚本家としてすで
にお馴染みになっているが、果たしてこの修羅場を乗り切れ
るものかどうか。場合によっては、クルーズの監督兼任も面
白いと思うのだが。
        *         *
 2002年の“Stolen Summer”(夏休みのレモネード)に続
いて、昨年は“The Battle of Shaker Heights”という作品
が製作されたベン・アフレック、マット・デイモン主催の新
人発掘イヴェント=プロジェクト・グリーンライトの第3回
が行われ、初めてホラー作品の選出が発表された。
 選出された作品は“Feast”という題名のもので、パトリ
ック・メルトンとマーカス・ダンストンの共作による作品。
内容は、過去の数多のホラー作品の中から、ステレオタイプ
のキャラクターとシチュエーションを借りまくってパロディ
化し、それを息もつかせぬ勢いでまとめ上げた作品というこ
とで、スプラッタホラーの最高作といわれるサム・ライミ監
督の“Evil Dead 2”(死霊のはらわたII)を髣髴とさせる
ものになっているということだ。
 なおこの脚本、興味のある方には、Project Greenlightの
公式ウェブサイトで読むことができるようになっている。
 そして映画の製作に当っては、第2回からは併催されてい
る短編映画部門の受賞者が監督する決まりになったようで、
今回は、俳優でカメラマンでもあるというジョン・ガラガー
が監督を担当する。さらに製作者として『エルム街の悪夢』
や『スクリーム』の監督のウェス・クレイヴンが参加して、
映画作りの全般の指導に当るということだ。
 完成作品は、商業映画としてミラマックスで配給も行われ
るものだから、アマチュアの映画製作とは規模も全く違った
ものになるが、これを、クレイヴンらがしっかりとサポート
するというのもうれしいところだ。
 因に、今回の選考で最終選考には3本がエントリーされて
おり、後の2本は、リック・カー応募の“Does Anyone Here
Remember When Hanz Gubenstein Invented Time Travel?”
というタイムトラヴェルコメディと、マーシャル・モスリー
が応募した“Wildcard”という犯罪ものだった。今回、この
2本は選から漏れた訳だが、最終選考の3作では、それぞれ
プロのアドヴァイスに基づくリライトも行われており、脚本
としては完成されているようなので、いつかはこれらの作品
も陽の目を見ることを期待したいものだ。
        *         *
 今回は“Basic Instinct 2”の情報から始めたが、この他
にも続編の計画がいろいろ発表されている。後半は、それら
をまとめて紹介しよう。
 まずは、昨年夏に公開されて1億600万ドルの興行収入を
記録し、パラマウント社の年間トップの成績を収めた“The
Italian Job”(ミニミニ大作戦)の続編計画で、すでに前
作を手掛けた夫婦脚本家チーム、ウェイン&ドナ・パワーズ
に草稿の執筆が依頼されたということだ。
 計画は、前作をパラマウントのトップとして手掛けた製作
者のジョン・ゴールドウィンと、現同社トップのドナルド・
デ=ラインの間で進められているもので、物語の詳細は極秘
とされているが、前作でヴェニスとロサンゼルスで展開され
た作戦は、次回はサントロペ、パリ、そしてスイスアルプス
で展開されるという情報もあるようだ。
 また、この続編では、前作を監督したF・ゲイリー・グレ
イや、主演のマーク・ウォルバーグ、シャーリズ・セロンら
の去就も注目されるが、特にセロンは、前作の次に主演した
『モンスター』でオスカーを受賞。さらにパラマウント製作
“Aeon Flux”の契約では、彼女自身の出演料の記録を900万
ドルに伸ばしたところで、さて、彼女の再登場は一体いくら
で決着するかというところも話題を呼びそうだ。
 製作時期などは未定だが、脚本ができれば、後は速そうな
感じもする。因にゴールドウィンは、彼の祖父のサミュエル
・ゴールドウィンが製作した“The Secret Life of Walter
Mitty”(虹を掴む男)のリメイクも進めているところだ。
        *         *
 お次もパラマウントで、これは続編ではなく前日譚だが、
1987年ブライアン・デ=パルマ監督の“The Untouchables”
(アンタッチャブル)に関連して、同作でロバート・デ=ニ
ーロが演じたアル・カポネの若き日を描く計画が進められて
いる。
 オリジナルは、ケヴィン・コスナーのエリオット・ネス役
で、警官役で共演したショーン・コネリーにオスカー助演賞
をもたらしたものだが、今回はネスが登場する以前の物語と
いうことで、カポネがシカゴの暗黒街に君臨して行く姿が描
かれるということだ。これで“The Untouchables”かと言わ
れると、ちょっと考えてしまうところだが、今回の作品は、
前作を手掛けたアート・リンスンが製作するもので、題名も
“The Untouchables: Mother's Day”と付けられている。 
 脚本はまだ作られておらず、従って製作はごく初期の段階
ということだが、監督には『キング・アーサー』を手掛けた
アントワン・フークアがすでに名乗りを挙げているというこ
とで、脚本が完成すれば彼の次回作の可能性もある。また、
配役では、デ=ニーロが演じたカポネの若い日を誰が演じる
かも話題になりそうだ。
        *         *
 この春公開された“The Texas Chainsaw Massacre”でも
前日譚の計画が発表された。
 オリジナルは、言うまでもなく1974年トビー・フーパー監
督による『悪魔のいけにえ』(原題同じ)のリメイクだが、
このフーパー版からはその後に3本の続編が製作され、その
第4作ではマシュー・マコノヒーとルネ・ゼルウィガーが主
演していたことでも有名になった。しかしこのフーパー版か
らは前日譚が作られたという記録はない。
 といってもこれらの続編は、いずれも第1作のリメイクと
言ってもよいもので、その意味で、今回あえて前日譚と名乗
るのには、それなりの何かがありそうだ。
 そして、その脚本を手掛けるのは、MGM/ディメンショ
ン共同で進められている“The Amityville Horror”のリメ
イクで、スコット・コーサーのオリジナル脚本のリライトを
担当したシェルドン・ターナー。前日譚は彼自身のアイデア
によって描かれるということだ。因に、ターナーはパラマウ
ント/ソニー共同で進められている“The Longest Yard”の
リメイクの脚本も手掛けている。
 なお、製作は、先のリメイクも手掛けたマイクル・ベイ主
宰のプラティナム・デューンズと、ニューラインシネマ(N
LC)で行われるが、実はこの計画では、当初は1作のみの
リメイクの予定でシリーズの契約はされていなかった。この
ため今回の前日譚の製作では新たに契約が結び直されること
になったが、前作の時は100万ドル以下だった契約金は、一
気に4倍近くに跳ね上がったということで、NLCでは、最
初からシリーズの契約をしておけば良かったと、悔やむこと
頻りだったようだ。
        *         * 
 すでに情報はかなり流されているようだが、マーティン・
キャンベル監督、アントニオ・バンデラス、キャサリン・ゼ
タ=ジョーンズ共演の1998年作品“The Mask of Zorro”の
続編は、“The Legend of Zorro”という題名になり、監督
及び主演2人の再結集も決まって、2005年の公開を目指した
準備が進められている。
 そしてこの続編に、新登場のキャラクター=アーマンド役
として、2001年公開『Rock You!』などのルーファ
ス・スーウェルの共演が発表された。因にこの役柄は、ゼタ
=ジョーンズ演じるエレナの恋人ということで、ゾロには突
然のライヴァル出現となるようだ。
 また、この作品の製作には、先にコロムビアと優先契約を
結んだスパイグラス社が共同製作で参加することも発表され
ている。因にスパイグラスは、『シックスセンス』などの製
作でも知られるが、今回の優先契約を結ぶに当っては、特に
コロムビアが所有する高額製作費の企画に興味を持ったとい
うことで、それらの共同製作に参加する資金として、5年間
の総額で2億5000万ドルを用意しているということだ。
 ということで、他にもいろいろな大作を期待できそうな契
約だが、実は今回の発表ではもう1本、ロブ・マーシャル監
督が進めている“Memoirs of a Geisha”の題名も挙げられ
ていた。この作品も2005年の公開が予定されているもので、
最近ではチャン・ツィイーの主演も噂されているようだが、
こちらの実現も可能性が高くなってきたようだ。
        *         *
 最後は、本年度アカデミー賞に監督賞など4部門でノミネ
ートされたブラジル映画“Cidade de Deus”(シティ・オブ
・ゴッド)の続編の計画が発表されている。
 発表したのは、前作でオスカー候補にもなったフェルナン
ド・メイレレス監督で、続編の題名は、Variety紙には英語
題名しか紹介されていなかったが“City of Men”。ポルト
ガル語では、“Cidade dos Homens”となるようだ。さらに
主演には、前作にも出演していたダグラス・シルヴァとデュ
ラン・クンハが予定されているということだ。
 “City of God”の続編で“City of Men”というのは判り
やすい展開だが、実はこの題名は、前作の後を受けて2002年
にメイレレス主宰のO2フィルムスが製作し、ブラジルのテ
レビ局で放送されたミニシリーズの題名でもある。またシル
ヴァとクンハはこのミニシリーズでも主演していたようだ。
 つまり、今回の計画はこのテレビのミニシリーズから、さ
らに映画版を製作するというもののようだが、前作を生き抜
いた子供たちが成長した姿を見せてくれるというのもうれし
い話だ。今のところ、アメリカ配給を担当したミラマックス
からは、続編に関する正式のコメントは出されていないよう
だが、前作のような素晴らしい作品を期待したい。


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井口健二