井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2004年07月14日(水) ジャスティス/闇の迷宮、ロード88、IZO、マーダー・ライド・ショー、コウノトリの歌、キング・アーサー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ジャスティス/闇の迷宮』“Imagining Argentina”   
クリストファー・ハムプトンの監督、アントニオ・バンデラ
ス、エマ・トムプスン共演による、ちょっと捻りのあるポリ
ティカルスリラー。                  
1976年のクーデターにより軍部が政権を握ったアルゼンチン
で起きた実話を基づく作品。              
ジャーナリストの妻と愛娘と共に暮らす主人公。その妻が、
軍政下で失踪した人々の謎に迫る記事を発表した途端、明ら
かに誘拐され失踪者となる。ところが警察は、確実な目撃者
がいるにも関わらず、まともな捜査を行おうとしない。  
その頃から主人公は幻覚を見るようになる。それは失踪者た
ちの姿が見えるもので、彼自身がそれは真実であると確信す
るようになる。そしてそれを人々に伝えるための集会を開く
が、彼には自分自身の妻の現在を見ることが出来ない。  
一方、誘拐された妻は、軍の監視下におかれ数々の陵辱を受
け続けるが、彼女は自分の信念を曲げない。そしてついに、
彼の集会も軍部の監視を受けるようになり、さらに彼の仲間
や娘までもが失踪者となってしまう。          
映画の最後には、70年代以降の現在までの世界中での政治
に関わる失踪者の数が次々に表示される。その総数がいくら
になるか、計算はしなかったが、物語の舞台のアルゼンチン
だけで3万人、他にコンゴで9万人などと書かれていたよう
に見えた。                      
映画の中では、アウシュヴィッツからの生還者のユダヤ人老
夫婦が出てきたり、軍政内にハーケンクロイツの腕章を付け
た男たちが居たりと、ちょっとやりすぎの感じのする描写も
あったが、全体的に告発したいことは分かり易い。    
主人公の持つ能力も、荒唐無稽かも知れないが、描きたいこ
との本質を描く意味では有効な手段だったように思った。 
なお、ここに描かれた失踪者に関しては、今もアルゼンチン
政府はその全ての事実は認めていないようだ。そして現在の
政治家のやり方を見ていると、日本もいつこうならないとは
言い切れない感じがした。               
                           
『ロード88』                    
映画の最後に骨髄バンクのドナー登録を訴えるテロップが表
示される。今も故夏目雅子さんが登場するテレビCMが流さ
れているが、この映画もその主旨に乗って作られた作品。 
2003年秋、骨髄性白血病と闘う少女が、徳島から、高知、愛
媛、香川へと巡る四国88ヶ所の遍路に挑む。日活や独立系の
成人映画を多く手掛けてきた中村幻児監督作品。     
監督はこの映画の実現のため、出資者の募集などに数年を費
やしたということだが、何が彼をそのような衝動に駆り立て
たかは明らかにされていない。しかし彼の思いが作品の隅々
まで横溢する、そんな感じの作品だった。        
難病の少女を囲む、過去の栄光にしがみつく落ちぶれた芸人
と、彼を再起させようとする製作プロダクションスタッフ、
そして犯罪に手を染めているらしい中年の男。こんな書いて
いても気恥ずかしくなるような人物設定を、いけしゃあしゃ
あと登場させる製作態度が、見事に映画を成功させてしまっ
ている。                       
重いテーマを、極力明るく、そして一種のメルヘンにして描
き上げる。そんな製作のコンセプトは容易に読み取れる。だ
から上述のような強引な人物設定も許されるし、御都合主義
満載の展開も許される。しかし、監督はそこに単純に甘えて
はいない、これらの設定や展開が破綻のないように丹念に描
いている。                      
台詞の端々や設定の端々が、背景の事情や登場人物たちの微
妙な心理を描き出す。そこから物語への想像が膨らむ。さす
がに大ベテランの作品という感じだった。        
主人公をヴォーカルグループBOYSTYLEの村川絵梨が演じ、脇
を、芸人=小倉久寛、スタッフ=須藤理彩、津田寛治、中年
男=長谷川初範らが固める。他に、高松英郎、黒田福美、川
上麻衣子。また、空海の化身らしい遍路役で神山繁が登場す
る。                         
お遍路を描いた映画も、『旅の重さ』や、『死国』なんての
もあったが、四国4県を全てロケした作品は史上初めてなの
だそうだ。かなりの数の寺の風景が実景で写されているのも
良い雰囲気だった。                  
                           
『IZO』                      
過激な暴力描写で話題となることの多い三池崇史監督作品。
1865年5月に処刑された人斬り以蔵の名で知られる岡田以蔵
の魂が、時空を超え、現代、過去を駆け巡って天誅を下しま
くる物語。その矛先は、政治家のみならず、官僚、宗教、財
閥、学会、遂にはその背後に居る御方にも向けられるが…。
一応、R−15指定にはなっているようだが、それは多分性描
写の影響と思われ、人斬りのシーン自体は同じ監督の『殺し
屋1』の方が過激だった。斬って斬って斬りまくる映画とい
うことで多少期待したが、今回はあまり奇想天外という訳に
は行かなかったようだ。                
しかし、物語として明らかに戦後民主主義を揶揄している辺
りは、ニヤリとさせられる。最後は…だが、これはまあ、い
ろいろ考えれば仕方のないところだろう。もっとも脚本家の
思想が左右のどちら側かは定かでないが。        
ただ、主人公のIZOが不死身という設定は判るが、ちょっ
と斬られ過ぎ撃たれ過ぎという感じは持つ。これでは、お互
い異界の存在であるはずの闘いの相手に対して、IZOだけ
が一方的に不死身の感じがして、ちょっと落ち着かない。 
もっと神掛かり的に敵の攻撃を受けないようにしても良かっ
た気もするが、それでは監督が狙う血みどろの映像が描けな
かったというところか。                
なお斬られ役には、実にいろいろな顔ぶれが登場するが、こ
れで話題になれば、それもそれでよしというところだろう。
                           
『マーダー・ライド・ショー』“House of 1000 Corpses”
ロックバンドWhite Zombiesを率いるミュージシャン、ロブ
・ゾンビが手掛けた長編劇映画の監督デビュー作。    
映画は2000年に完成していたが、製作を手掛けたユニヴァー
サルが公開を認めず、監督は権利を買い戻して配給先を探す
が、最初契約したMGMも土壇場でキャンセル。結局、昨年
4月にライオンズ・ゲイト社の手で全米公開されたが、興行
収入はトータル1100万ドルを記録したそうだ。      
お話は、旅行中の若者グループが立ち寄った家で、カルト教
団的な殺人集団の餌食になるという、まあ良く有るティーン
ズホラーのパターンの一つ。取り立てて殺しの手口に新奇性
が有る訳でもなく、全米でのヒットは監督個人の人気に拠る
ところが大きいのだろう。               
こういう人の作品だからもっとぐちゃぐちゃなものかと思っ
ていたが、思いのほかまともな作りで、映画をそれなりに真
剣に考えている点は認めてあげたい。ただもっと新しいもの
を出さなくては…。                  
続編の製作も進行しているようだが、2匹目のドジョウがど
れくらい大きいかは、正直に言って開けてみなければ判らな
い感じだ。                      
なお、殺人集団の母親役でカレン・ブラックが出演。『ファ
イブ・イージー・ピーセス』などで認められた女優だが、最
近はかなりジャンル作品への出演が多いようだ。     
                           
『コウノトリの歌』“vu khuc con co”         
2001年製作のヴェトナム・シンガポール合作映画。    
ヴェトナム戦争をヴェトコン側から描いた作品。     
前回も『フォッグ・オブ・ウォー』を紹介したばかりだが、
あの中でも語られていた「全員が犠牲になっても国を開放す
る」というヴェトコンの思想が、この映画を見るとなるほど
本当だったのだと理解できる。             
もちろん、現在も共産主義国であるヴェトナムで作られた映
画だから、思想が変らないのは当然だが、家族も何もかもを
犠牲にして闘った人々の姿は、アメリカ人にはとうてい理解
できなかったものだろう。               
物語は、従軍カメラマンだったチュイと、南に潜入していた
諜報部員ヴァンの姿を追って描かれる。2人は今も健在で、
映画には本人たちも登場しているが、特に現在も映像作家で
あるチュイは、ナレーターとして映画の進行役も勤める。 
しかし戦闘シーンと言っても、アメリカ映画ほどの物量で描
ける訳もない本作では、主に人間ドラマに重きがおかれてい
るが、その意味では、いろいろな兵士のエピソードが語られ
るチュイのパートは印象が散漫になる。         
それに対して、諜報部員ヴァンのパートは、フィクションの
部分も多いのだろうがそれなりにドラマティックだ。特にサ
イゴン陥落後、初めて軍服姿で以前に暮らしていた家を訪れ
るシーンでは、彼を見つめる年老いたメイドの姿が印象的だ
った。                        
映画の全体的には、正直に言って素朴だし、しかも出演者が
アジア人なので、かなり昔の日本映画を見ているような感じ
だったが、このメイドの姿には、本当の当事者でしか表わせ
ない、そんな雰囲気が漂っていた。           
                           
『キング・アーサー』“King Arthur”          
『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジェリー・ブラッカイ
マーが製作した歴史ドラマ。              
アーサー王伝説は、紀元6世紀ごろの物語と伝えられるが、
本作が描くのはその伝説の元になったとされる西暦415年ご
ろの物語。主人公は、ローマ支配下のブリテンに派遣された
ローマ人と中央アジアの戦士たち。           
映画の始まりでアーサーがローマ人、ランスロットが中央ア
ジアの出身者と言われたときには、正直かなりの違和感を覚
えた。しかし物語が進むにつれ、そのような違和感は消え、
純粋に物語として楽しむことが出来た。         
しかも物語の中には、エクカリバーの伝説や、円卓、マーリ
ン、またグウィネヴィアを巡るアーサーとランスロットの確
執などもそれとなく描かれるから、それなりに楽しむことも
出来るようになっている。               
中央アジアの国サルマート。ローマとの戦争に破れたこの国
の戦士たちは、ローマのために闘うことを義務づけられる。
そして子孫もその義務を負い、少年ランスロットは15年間の
兵役に着くことになる。                
任地はローマ支配下のブリテン。そこでランスロットは、ロ
ーマ人の血を引く司令官アーサーの下、同じサルマートの戦
士たちとともに数々の武勲を立てる。そして15年が経ち、ロ
ーマ法王からの兵役解除の指示書の届く日がやってくる。 
しかし先住民のウォードの反抗と、北からの侵入者サクソン
の脅威に、ローマ法王庁はブリテンからの撤退を決定。そし
て兵役の最後の日、アーサーたちに北の砦にいるローマ人一
家救出の命令が下される。それは、今までにない過酷な命令
だった。                       
脚本のデイヴィッド・フランゾーニは、2000年の『グラディ
エーター』でオスカーを獲得しているが、本作も受賞作と同
様、上からの命令に翻弄される男たちの悲劇が描かれる。こ
れを、『トレーニグ・デイ』のアントワン・フークワ監督が
力強く映像化した。                  
見せ場は戦闘シーンになるが、その描き方は、『タイムライ
ン』や『トロイ』より、まさに人間の戦闘という感じで、ど
ちらかというと『ラスト・サムライ』に近いものを感じた。
雪に包まれた風景などにも雰囲気があり、結構日本人の感覚
にも合いそうな感じもした。              
出演は、アーサーに『すべては愛のために』のクライヴ・オ
ーウェン、グウィネヴィアに『パイレーツ…』のキーラ・ナ
イトレイ、そしてランスロットには大作の主役級は初めての
ヨアン・グリフィズ。特に、ナイトレイにはかなりのアクシ
ョンシーンもあり、よく頑張っていた。         
                           
『・・・』                      
やはり、一応書いておかなければならないと思うので、書く
ことにしよう。                    
実はある作品の試写会で極めて不愉快な事態に遭遇した。 
この試写会はファミリー試写会と称して、1枚の試写状で招
待を受けた本人を含め3人が入場できるようになっていた。
このこと自体は、かく言う僕も家内と高2の息子を連れて行
ったし、いつも一人で試写を見に行っている身としては、家
族サーヴィスの意味でも有り難いものだった。      
ただし、試写会はあくまでも業務試写で、招待客はマスコミ
関係者。また試写状には上映が字幕で行われることが明記さ
れていたものだ。ところが当日の会場には、とうてい招待を
受けた本人が含まれていると思えない餓鬼の3人連れや、字
幕が読めるとは思えない幼児が入場していたのだ。    
そして上映が始まると、僕の左からは幼児の声で、「どうし
たの?どうしたの?」の連続攻撃と、それに答える女性の茶
の間を思わせる声高な会話。さらにしばらくすると、前に座
った3人組の間で、着信メールの回し読みが始まってしまっ
た。                         
この事態に堪忍袋の緒が切れた僕は、映画の途中で両者に注
意をしてしまった。その後はどちらもその行為を止めたのだ
から、特に幼児は最初から黙らせることもできたと思うのだ
が、それをしない神経がまったく理解できなかった。   
最近映画館では、上映前にマナー広告が流れるようだが、特
に業務試写では観客は関係者を想定している訳だし、そのよ
うなことは事前に承知という了解だろう。        
しかし私語や携帯電話以外にも、何のファッションのつもり
か髪をつんつんに立てたり、座席で背筋を伸ばして、わざと
しか思えない状態で、後ろの観客の視野を遮っている輩も目
立つようになってきた。                
僕らは長く映画を見てきているし、そういう関係者の間では
暗黙の了解のマナーが存在していると思う。しかし最近は何
の業界か判らないような連中の進出が多く、そういう連中の
中では、試写会でも連れ立って席取りをしたり、マナー違反
が目に余ってきた。僕はこの状態を由々しく思っている。 
なお、映画に関しては、申し訳ないが冷静でない状態で見て
しまったので、正当に評価をすることができない。従ってこ
の文が映画の紹介でなくなったことを、お詫びします。  


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二