2004年06月30日(水) |
スパイダーマン2、トゥー・ブラザーズ、フォッグ・オブ・ウォー、恋の門 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『スパイダーマン2』“Spider-man 2” 待望のシリーズ第2弾。物語は前作の2年後、ピーター・パ ーカーは大学生となり、メリー・ジェーン(MJ)は舞台の 新進女優として脚光を浴びている。そして2人の仲は…。 スパイダーマンとしての活動が忙しいピーターには、MJと の仲を発展させる暇はなく、逆にスパイダーマンの恋人と知 れることで、彼女に危害が及ぶのを恐れている。しかし、そ んな想いの判らないMJは、ついに彼との関係をあきらめよ うと決意する。 そしてピーターは、そんな状況に嫌気が注し、ついにスパイ ダーマンをやめようと決意するのだが…。物語は、そんな2 人の恋の行方を追いながら、新たな敵ドク・オクの登場で、 一気に加速する新アクションを展開する。 前作の上映時間は121分、本作は127分だから、ほんの少しだ け長くなったことになるが、前作では何といっても発端の説 明に時間を費やした分、本作では一気にドラマが展開するの だから、その見応えは倍増という感じだ。 それも、以前に特別映像の報告で述べたようなアクションシ ーンから連続してドラマシーンになったり、予告編に流れる ようなドラマから一気にアクションに展開する仕掛けが見事 に決まっているから、いわゆるアクション映画のドラマ=ダ レ場というような雰囲気がない。 何しろ、常に何かが起りそうな雰囲気が持続していて、その テンションの高さは相当のものだ。ギャグまでアクションの 一環になっているのだ。 そして描かれるドラマは、スパイダーマン自身の葛藤。それ は自分自身の存在の意味を問いかけるものだが、これはある 意味、現代人なら誰でもが感じている葛藤を、シチュエーシ ョンで増幅しているのだから、ピーターの想いに共感する人 は多いはずだ。 トビー・マクガイア、キルスティン・ダンスト、それにジェ ームズ・フランコという、言わば現代ハリウッドの若手実力 派と言って良い3人が、前作同様に揃ったドラマは本当に見 応えがあった。他に、ドク・オク役で、『フリーダ』のアル フレッド・モリーナが共演している。 なお、主演の3人は最初から3部作の出演契約を結んでいる ということで、第3作は決定事項。そして、日本で行われた 記者会見では、マクガイアもダンストも、第3作は東京を舞 台にしたいと言っていたが…。はてさて、如何なることか。 『トゥー・ブラザーズ』“Two Brothers” 『愛人/ラマン』や『セブン・イヤーズ・イン・チベット』 のジャン=ジャック・アノー監督の最新作。1988年の『小熊 物語』以来となる野性の動物の姿を追って描いた作品で、ア ノーは監督の他に、原作、製作、脚本も手掛けている。 1920年代のカンボジア。アンコールワット遺跡の中で2頭の トラが誕生する。父母の愛に育まれる2頭だったが、そこに 仏像を盗掘に来たイギリス人冒険家が現れ、1頭は母親と共 に逃げるが、父親が殺され、残る1頭は捕獲されてサーカス に売られてしまう。 一方、その場は逃げた切った母親ともう1頭だったが、その 地の開発を目論むフランス人行政官が催す接待狩猟会のため の罠にかかり、母親は負傷して逃げるが、子は捕獲されて行 政官の息子のペットとされる。 こうして、ばらばらの暮らしとなった2頭だったが、やがて 運命は、成長した2頭を互いの戦いの場へと導いて行く。 元々アノーは、『小熊物語』の構想中からトラを主人公にし た物語も考えており、その時はクマの方が親しみやすそうだ 考えて、1988年の作品が作られたそうだ。従って、何時かは トラの物語も作りたいと想い続けていたということだ。 その想いがようやく遂げられた訳だが、お話は『小熊物語』 と同様、実に童話めいたと言うか、一世代前のディズニーの ような感覚だ。 とは言え、このような感覚の作品が作り難くなっている時代 に、果敢にこういう作品を作り上げるアノーの心意気は買う べきだ。さらに本作は映画の出来も優れているのだから、こ れは文句の付けようがない。しかもフランスでは大ヒットだ そうだ。 自然に対する人間の横暴さや遺跡破壊の問題も巧みに描かれ ているし、当然文科省の特選を付けたいところだが、あれを 得るにはかなりの大金が掛かるようなので、どうするか。そ んなもの無くても、良い映画でいることに変わりないが…。 なお行政官の息子の役を、“Finding Neverland”(旧題J.B. Barry's Neverland)や、“Five Children and It”(砂の 妖精)に出演し、6月に撮影の始まった“Charlie and the Chocolate Factory”の主役に抜擢されたフレディ・ハイモ アが演じている。 『フォッグ・オブ・ウォー』“The Fog of War” ケネディ、ジョンソン時代に米国防長官を務めたロバート・ S・マクナマラの回想インタビューに基づくドキュメンタリ ーで、今年のオスカーを受賞した作品。 ケネディ時代のキューバ危機と、ジョンソン時代のヴェトナ ム。この2つの戦争の裏側を語って、結果的に現在のブッシ ュによるイラク戦争へ大きな警鐘を鳴らしている。 生涯のほとんどを戦争に関ってきたとするマクナマラは、こ のインタビューの中で11の教訓について語っているが、その 最初に挙げているのが、「敵の身になって考えよ」というこ とだ。 その実例がキューバ危機で、当時のケネディ政権は、フルシ チョフをよく知るソ連問題顧問の証言などから彼の立場を分 析し、核戦争の危機を脱することに成功する。しかしそれは 本当に紙一重の事態だったことが、後にカストロとの会談で 明らかになる。 一方、ヴェトナム戦争では、北ヴェトナム政府の考えを読み 違え、ずるずるを泥沼に填り込んでしまう。これは後のヴェ トナム高官との会談で、彼らが自国を開放するためには全員 が死ぬことも厭わないと聞かされたマクナマラの驚きが全て を物語る。 もちろんこの作品は、マクナマラの回想録であり、現在行わ れている戦争については何も語ってはいない。しかしこの2 つの事例を当てはめたとき、現在行われている戦争の行く末 が何となく判ってくるような感じがする。 なお、マクナマラはこの作品の中で、第2次大戦での日本本 土の各都市への絨毯爆撃が、実は彼の進言によるものだった ことも明かしている。 そんな戦争の裏も表も知り尽くした男が、後半生は世界銀行 総裁として世界の貧困と戦った。もちろん毀誉褒貶の大きい 人物ではあるが、感情に左右されない戦略としての戦争を常 に考えていたことは確かなようだ。 果たして現在行われている戦争、またそれに加担している属 国に戦略があるのか、そんな想いが沸き上がってきた。 『恋の門』 俳優や作家としても活躍している劇団「大人計画」主宰・松 尾スズキの長編初監督作品。 上映後に監督とのティーチイン付きの試写会が行われた。 羽生生純原作のコミックスの映画化。石のオブジェで漫画芸 術家を自称する男=門と、コミケに自作漫画を出店するコス プレ・オタク系の女=恋乃、そして、元は売れっ子漫画家だ ったが筆を折って漫画バーを営む男。その3人が思い切り恋 愛ドラマを展開する。 主人公の門を演じるのは松田龍平。この俳優は、大島渚監督 が抜擢したデビュウ作からいろいろ見てきたが、今回初めて 様になる演技を見た気がする。今までは、監督も指摘してい たが、活舌も良くないし、いつも不貞腐れたような感じで良 い印象はなかった。 しかし本作では見事に化けた感じだ。監督は彼の立ち姿が原 作の主人公に似ていたから選んだということだったが、それ 以上に、今までの作品からは見違えるような、声にも張りが あって、まるで主人公が乗り移ったような演技だった。 一方、相手役の恋乃は酒井若菜。彼女も『無問題2』や『木 更津キャッツアイ』などではただのアイドルという感じだっ たが、普通のOLからいきなりコスプレをしたり、はたまた 漫画を書いたりという変身ぶりが見事に様になっていた。 そして元売れっ子漫画家は松尾監督が演じるが、本人も一時 は漫画家志望だったと言うだけあって、その漫画家ぶりは大 げさに戯画化していながらも、いかにもありそうな雰囲気で 見事だった。 ティーチインの中で監督は時間が足りなかったと言っていた が、以前別の舞台人の初監督作品の舞台挨拶で、その監督は 「舞台は公演が始まっても手直しが利くが、映画は撮ってO Kしたらそれで決まりというのが難しかった」と言っていた のと同じ意味だろう。 舞台人にとっては、それはかなり苦しいもののようだが、本 作は、松尾自身が書いた脚本が良いこともあるのだろうが、 見事に完成された作品になっていたと思われる。特に、アニ メやミュージカルの挿入シーンも、バランスが良く見事だっ た。 そして、このアニメを庵野秀明が手掛けていたり、ミュージ カルシーンでは忌野清志郎が歌って踊ったり、コミケがフィ ーチャーされていたり、大竹しのぶがメーテルのコスプレを したりと、映画を盛り上げる仕込も無駄無く決まっていた。 原作は後半かなりヘヴィになるそうで、それをライトに映画 化したことを不満とする声も聞かれたが、僕は原作と映画は 違っていいと思うし、ライトに見えても、根底のヘヴィさが 感じられるこの映画化は上出来どころか、今年のベスト10に 選んでも良いと思った。 公開は秋以降になるようだが、久し振りに人に勧められる日 本映画だった。
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