井口健二のOn the Production
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2004年05月15日(土) 第63回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、ちょっと喝采したくなったこんな話題から。
 ジョニー・デップ主演で、昨年度全米興行成績で実写No.1
の大ヒットとなった『パイレーツ・オブ・カリビアン』の続
編“Pirates of the Caribbean: The Treasure of the Lost
Abyss”に、ローリング・ストーンズのギタリスト、キース
・リチャーズの出演が取り沙汰されている。
 この作品では、元々前作で海賊船の船長役をオファーされ
たデップが、その役作りの手本としてキースのキャラクター
をイメージしたという経緯が発表されており、キースはデッ
プがイメージする海賊船々長そのもの。そして今回の出演は
デップ自身が強く希望して、今年の1月頃から本人が出演交
渉しているという情報もあったようだ。
 それが実現に向かっている(契約したという情報もある)
ということだが、ストーンズではヴォーカルのミック・ジャ
ガーは、1992年の『フリージャック』などで俳優としても活
躍しているが、キースには『ギミシェルター』などコンサー
トシーンを撮影したドキュメンタリーはあるものの、役者と
しては未知数。従って、本当に出演するか否かはまだ確実で
はないが、実現したら相当の話題になりそうだ。
 因に役柄は、デップ扮するジャック・スパロー船長の父親
ということで、続編のタイトルにもなっているカリブ海に最
初に君臨した海賊船The Abyss号の船長役ということのよう
だ。ただし、情報では撮影期間は4日間だそうで、これでは
当然のことながら出演はカメオ。一体どこでどのようにして
出てくるかも楽しみだが、これがデップとの共演となれば、
注目のシーンになること必至というところだろう。
 撮影は2005年1月に開始の予定で、公開は2006年夏。なお
2003年11月1日付第50回にも書いたように、この続編では同
時に2本分を撮影して、間を置かずに第3作も公開する計画
もあるようだ。
        *         *
 お次は、前々回紹介した“Napoleon and Betsy”に続いて
またまた競作の話題が登場した。しかも今回は、全部で4本
という大盤振舞だ。
 内容は、紀元1世紀のイギリスでローマ帝国の侵略に立ち
向かった王妃ボアディシアを描くというもの。
 お話は、百科事典などの記述によると、A.D.60年、現在の
イギリス・ノーフォークに当るイケニの地を支配していた古
代ケルト族の王が死去し、その領地の支配権を要求するロー
マと、王の遺志を継いで女王となったボアディシアとの戦い
が始まる。この戦いで女王は、圧倒的なローマ軍の前に惨敗
を喫してしまうのだが、彼女が結集を促したケルト族は9世
紀に至るまでローマ帝国への抵抗を続けたとされる。また彼
女は、イギリス最初の女王とも呼ばれているようだ。
 そしてこの映画化では、まず、パラマウントとトライベカ
の計画で“Proof”などの劇作家デイヴィッド・オウバーン
が執筆した脚本に基づく“Warrior Queen”。続いて脚本家
ワロン・グリーンが執筆した“Queen Fury”という計画がド
リームワークスで進められている。さらに、マーサ・リトル
執筆による“My Country”という計画が、ローラ・ビックフ
ォードの製作で進められているようだ。
 そしてさらにこの競作群に、『パッション』の大ヒットを
引っ提げてメル・ギブスン主宰のイコンが参戦してきた。
 今回発表されたギブスン=イコンの計画は、この物語をブ
ライアン・クルグマン、リー・スタンタールの脚本、1999年
公開の“Tumbleweeds”という作品が高い評価を受けている
ギャヴィン・オコンナーの監督で映画化するというもので、
つまりギブスンが監督する計画ではないが、イコンでは、ギ
ブスンがオスカー監督賞を受賞した『ブレイブハート』でも
イギリスの歴史を描いた経験があり、また『パッション』の
成功で資金も潤沢に用意できるということで、一気にトップ
ランナーに躍り出てきそうだ。
 一般的に歴史ものは事実の映画化なので競作に陥りやすい
ものだが、それにしても4本は多過ぎる。今後は、これらの
計画の間で調整が行われて、多分1、2本にまとめられて行
くことになるのだろうが、そこでもギブスン=イコンは一歩
リードしそうな感じだ。
 なおイコンは、現在はフォックスと配給の優先契約を結ん
でいるが、今回の計画ではフォックスがその権利を放棄する
可能性があるようで、その場合はイコン独自で全世界の契約
を結ぶことになる。ここで何故フォックスが権利を放棄する
かについて理由は明らかでないが、確か『ブレイブハート』
はパラマウントとの共同製作だったが、フォックスはあまり
良い思いをしなかったという話もあり、イギリスが舞台の歴
史ものには会社としてトラウマがあるのかもしれない。
        *         *
 続いてはトム・ハンクスの話題で、『レディキラーズ』で
もちょっと思い上がりの強そうな感じの犯罪者を演じていた
ハンクスが、多少共通点のありそうな小悪党を演じる計画が
発表されている。
 この計画は、1994年にポール・ニューマンの主演で映画化
された『ノーバディーズ・フール』などの原作者としても知
られるリチャード・ルッソの小説“The Risk Pool”の映画
化権を、ワーナーとキャッスルロックが獲得し、ローレンス
・カスダンの脚色と監督で映画化するもので、カスダンはす
でに脚本の第1稿を書き上げたとも報じられている。
 お話は、ニューヨーク暮らしで魅惑的だが、実はこそ泥で
ギャンブラーの男が、疎遠だった妻が突然病に倒れたことか
ら息子を引き取る羽目になるというもの。男は自分の暮らす
世界に息子を連れて行き、それまで過保護だった少年の目に
父親の住む世界は、少し暗くはあるが素晴らしい世界に映る
のだが…。そんな生活の中で、徐々に親子の絆が生まれて行
くというものだそうだ。
 そしてカスダンは、この原作を手に取るなりハンクスの主
演を思い浮かべたのだそうで、実は同じ思いは1988年にウィ
リアム・ハートの主演で映画化した『偶然の旅行者』の原作
を手にしたときにも感じたものだが、その時には実現できな
かった思いを、今回は遂げられるということだ。
 因に、ハンクスとキャッスルロックは、1999年の『グリー
ンマイル』と、今年秋公開の“The Polar Express”の映画
化を一緒に行っており、またカスダンは、昨年春公開された
『ドリームキャッチャー』の映画化をキャッスルロックで行
っている。そして今回は、そのキャッスルロックの仲立ちで
2人が一緒に仕事をするチャンスが生まれたものだ。
        *         *
 なお、ついでに“The Polar Express”に関しては、今年
4月1日付の第60回で、Imax-3Dでの上映計画について報告
したが、その計画が正式に発表されている。
 その発表によると、11月19日の通常版の全米封切りから時
間を置かずにImaxの大画面に登場させるということ。また、
3Dの効果については、テスト版の上映を見学したロバート
・ゼメキス監督が、「観客にこのような経験を味わってもら
えることには、最高の興奮を覚える」と絶賛したコメントも
伝えられていた。
 因に、昨年末の集計でImax-3Dの上映できる映画館は、240
カ所、世界35カ国以上に展開しているそうだ。
        *         *
 昨年8月15日付の第45回で紹介した“The Longest Yard”
のリメイクに、オリジナルに主演したバート・レイノルズの
出演が発表されている。
 この計画では、元々はアダム・サンドラー主宰のハッピー
・マディスンが、サンドラーの出演抜きでパラマウントで進
めていたものだったが、その後、今年2月1日付の第56回で
紹介したように、脚本を気に入ったサンドラー本人が出演を
決め、契約の関係で急遽ソニーとの共同製作となった。そし
て共演者には、クリス・ロックらの名前も発表されている。
なお以前の紹介で報告したスヌープ・ドッグの出演は、その
後にキャンセルされたようだ。
 その計画にさらにレイノルズの登場が発表されたもので、
今回彼が演じるのは、サンドラーらの囚人チームを指揮する
コーチの役。オリジナルではマイクル・コンラッドという俳
優が演じていたものだが、あまり印象に残っていない。とい
うことは、それほど重要な役ではなかったのだろうが、今回
それをレイノルズが演じるということは、ちょっと話が変わ
ってくるのかも知れない。
 因にオリジナルのお話は、看守の暴力が横行する刑務所を
舞台に、この刑務所にアメリカンフットボールの元花形選手
が収監されたことから、囚人対看守の試合が行われることと
なり、この試合で日頃の恨みを晴らそうとする囚人たちの痛
快なアクションを描いたもの。ロバート・オルドリッチの監
督で、元フロリダ州立大の花形選手だったレイノルズが、膝
の怪我のためにプロを諦め俳優に転向した後の、最初に成功
を納めた作品と呼ばれるものだ。
 なお、1936年生まれのレイノルズは、1997年の『ブギーナ
イツ』でオスカー候補になった後も次々新作に出演している
が、昨年10月1日付第48回で紹介した“Without a Paddle”
には、『脱出』で演じた役で登場するなど遊び心も豊富なよ
うだ。そしてこの“Without a Paddle”が彼の次回作となる
が、さらにラクウェル・ウェルチ、チャールズ・ダニング、
ロバート・ロッジア共演の“Forget About It”という作品
が撮影完了しており、“Cloud Nine”という作品も待機中だ
そうだ。また、“The Longest Yard”のリメイクの撮影は、
本年6月に開始の予定になっている。
        *         *
 続いてもパラマウントのリメイク情報で、1976年にウォル
ター・マッソー、テイタム・オニールの共演で映画化された
“The Bad News Bears”(がんばれ!ベアーズ)を、ビリー
・ボブ・ソーントン主演で再映画化する計画が発表された。
 オリジナルは、マッソー扮する元マイナーリーグ投手だっ
たが今は飲んだくれの男が、万年最下位候補の弱体少年野球
チームの監督に就任し、オニール扮するおてんば娘や、不良
少年をスカウトして、チームを優勝候補と呼ばれるまでに鍛
え上げるというもの。
 そしてこの作品は、当時のアメリカ国内だけで3200万ドル
を稼ぎ出すヒット作となり、1977年には第1作で不良少年を
好演したジャッキー・アール・ヘイリーの主演に、ウィリア
ム・ディヴェインを監督役として“The Bad News Bears in
Breaking Training”(がんばれ!ベアーズ特訓中)、さら
に1978年には、ヘイリーにトニー・カーティスの監督役で、
“The Bad News Bears Go to Japan”(がんばれ!ベアーズ
大旋風)が作られている。
 なお、第3作は原題通り日本ロケが行われたもので、若山
富三郎が共演。確か、現在は都庁が建っている新宿新都心に
あった空き地で、試合シーンの撮影が行われたはずだ。そし
て主演のヘイリーが成長して、子供ではなくなったために、
この第3作でシリーズは終了となった。
 というヒット作のリメイクだが、今回はこの脚本に、昨年
秋に全米公開されて6000万ドルを稼ぎ出したソーントン主演
のコメディ“Bad Santa”を手掛けたグレン・フィカーラと
ジョン・レクアの脚本家チームを起用し、アップデート版を
製作するという計画で、パラマウントではこの脚本に、7桁
(ドル)の契約金を積んだとされている。
 なお、パラマウントの昨年度の興行成績では、1億600万
ドルを稼ぎ出した『ミニミニ大作戦』のリメイクが稼ぎ頭だ
ということで、僅差(30万ドル差)でオリジナルの『10日間
で男を上手にフル方法』が続いてはいるものの、今後もリメ
イクへの期待は大きいようだ。
 そんな訳で、パラマウントの製作リストでは、上記の2作
品の他、“Stepford Wives”“The Manchurian Candidate”
“What's It All About Alfie”のリメイクがすでに開始さ
れており、さらに、“The War of the Worlds”“Seconds”
“Pet Sematary”“The Warriors”“Last Holiday”“It
Takes a Thief”“The Reincarnation of Peter Proud”の
リメイク計画が進行中となっている。
 オリジナルがあって初めてリメイクが可能であることは、
誰の目にも明白な事実だが、すでに膨大な過去の作品を抱え
ているハリウッドのメイジャー映画会社では、オリジナルの
人気でそこそこの興行が保障されるリメイクの勢いは、今後
も押さえられそうにない感じだ。
        *         *
 お次は、先日『ペイチェック』が公開されたフィリップ・
K・ディック原作の映画化で、1977年に出版された長編小説
“A Scanner Darkly”の計画が発表されている。
 お話は、未来の警察組織で、風貌から人格まで変えて麻薬
捜査を行う潜入捜査官が主人公。彼には2つの人格があり、
その一方の人格は麻薬売人のボブ・アークター。ある日、ボ
ブは仲間の男を殺し、彼自身が究極の麻薬サブスタンスDの
虜になってしまう。そしてもう一方の人格フレッドは、すで
に麻薬常習者となっている捜査官だが、彼は、ボブ・アーク
ターと名乗る麻薬売人を追っていた。
 この物語は、ディックの麻薬体験に基づいて執筆されたも
のと言われ、内容的には、ほとんどのシーンが麻薬による幻
覚を描いているとされる。
 従ってその映画化では、視覚的にいろいろなテクニックが
要求されると言われているが、今回この映画化に挑むのは、
昨年『スクール・オブ・ロック』でスマッシュヒットを飛ば
した監督のリチャード・リンクレイター。実は、彼はその前
の2001年に“Waking Life”という実験的な作品を手掛けて
おり、今回はそのテクニックが再現されると言うことだ。
 そしてそのテクニックとは、一旦実写で撮影を行い、その
映像をアニメーションに移し変えるというもので、このテク
ニックの実現のため、彼は前作でも協力を得たアニメーショ
ン監督のボブ・サビストンに今回も協力を仰ぐとしている。
また全体の調和を図るために、短編アニメーション作家で、
ミュージックヴィデオやゲーム映像などで実績のあるトミー
・パロッタを、プロデューサーとして参加させている。
 製作は、スティーヴン・ソダーバーグとジョージ・クルー
ニー主宰のセクション8で、アメリカ配給はワーナー傘下で
アート系の作品を手掛ける部門のインディペンデンス。出演
は、ワーナー作品には『マトリックス』シリーズ以来となる
キアヌ・リーヴスが主演の他、ウィノナ・ライダー、ウッデ
ィ・ハレルソン、ロバート・ダウニーJrら錚々たる顔ぶれが
揃っており、作品への期待が現れているようだ。
 リンクレイターの脚色で、撮影は5月中に開始される。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 最初はテリー・ギリアム監督の情報で、ベルリンで製作中
の“Brothers Grimm”に続く作品を、9月7日からカナダの
サスカチュアンで撮影することが発表されている。
 この新作は“Tideland”という題名で、ミッチ・コーリン
の原作をギリアムとトニー・グリソーニが脚色したもの。内
容は、テキサスの田舎町に住む少女が過酷な現実から逃れる
ために、胴体から切り放された4個の人形の頭の導きで、い
ろいろなファンタシー世界に入って行くというもの。そして
映画化では、これらの人形の頭の声には、高名な俳優たちが
参加するということだ。
 なお、製作はイギリスとカナダの共同で行われ、ヨーロッ
パ地区の配給権はイギリス側の出資者が確保しているという
ことだが、その他の地域の配給に関してはこれから交渉が行
われるそうだ。
        *         *
 続いても、良く似た感じのファンタシーの計画で、ニュー
ヨークを舞台にした“The Nature of Enchantment”という
作品を、ダニー・デヴィート、クリスティン・スコット=ト
ーマス、そしてマイクル・ケインの共演で9月に撮影開始す
る計画が発表されている。
 物語は、ニューヨークで凶暴な浮浪児の少年が保護され、
ケイン扮する精神科医の元に連れてこられたことに始まる。
やがて医師は、少年が街を妖精の世界として見ていることに
気付く。そこでは、高層ビル群が森林となり、通勤者たちは
小人であり、大鬼であり、魔女たちなのだ。
 そして心優しいトロールと認識された医師は、少年と共に
少年のトラウマとなっている大鬼の城を求めて、ニューヨー
クの街をさまようことになるというもの。因に、スコット=
トーマスは医師の娘、デヴィートは最近死去した医師の元同
僚という配役になっている。どうやらこのデヴィートの役柄
が物語のキーになりそうだ。
 スティーヴン・フォルクのオリジナル脚本から、ミュージ
ックヴィデオ監督のニック・ブランーントが長編デビューを
飾ることになっている。この作品もイギリス/カナダの共同
製作で、撮影はモントリオールで行われるようだ。
        *         *
 もう1本ファンタシーの計画で、昨年11月1日付の第50回
でも報告したスティーヴン・キング、ピーター・ストローブ
共作の“The Talisman”の映画化について、前回報告したヴ
ァディム・ペレルマン監督が降板し、その後を、『ラストサ
ムライ』のエド・ズウィックが引き継ぐことが発表された。
 この物語は、アメリカと同じ地形だが魔物の棲む平行世界
との間を行き来できる少年が、不治の病に罹った母親を救う
ため、平行世界にあるタリスマンを求めて、現実世界と平行
世界を行き来しながら冒険の旅を繰り広げるというもの。内
容的にかなり大掛かりな作品になりそうで、ペレルマンには
荷が重すぎると判断されたのか4月末に降板が発表され、た
だちにズウィックの起用となっている。
 なお脚本は、『ザ・リング』のアーレン・クルガーが執筆
しており、計画では今年8月からの撮影となっていたが、監
督の交替でこの計画はどうなるのだろうか。因にズウィック
は、『ラストサムライ』でも自ら脚本を手掛けているので、
脚本から手直しとなると、ちょっと時間が掛かりそうだ。
        *         *
 最後に映画の製作ニュースではないが、“Harry Potter”
の原作シリーズの第6巻が今年の9月に出版されるという情
報が流れている。前作の“Harry Potter and the Order of
the Phoenix”は、昨年6月21日に発売開始されたが、この
日は夏至だったということで、今度は秋分の日の9月22日が
有力だそうだ。なお、表紙を飾るイラストもすでに完成して
いるとの情報も添えられていた。前作は本の重さにも増して
物語の重さが大変だったが、全7巻が予定されているシリー
ズではその直前となる今回のお話は、一体どんなものになる
のだろう。映画化の行方と共に気になるところだ。


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井口健二