井口健二のOn the Production
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2004年05月31日(月) ぼくセザール10歳半1m39cm、MIND GAME、マッハ!!!!!、CODE46、好きと言えるまでの恋愛猶予

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ぼくセザール10歳半1m39cm』         
              “Moi Cesar 10ans1/2 1m39”
俳優としても知られるリシャール・ベリの長編監督第2作。
パリ在住、身長1m39cm、小太りで、10歳半の少年セザールの
人生を変える冒険が描かれる。             
父親の共同経営者が亡くなり、盛大な葬儀が行われるが、そ
の共同経営者には闇の部分があるらしい。そして家にも警察
が来るようになる。そんなとき、父親が長期に家を空けるこ
とになり、セザールはてっきり父親が刑務所に入れられたと
思ったのだが…。                   
一方、セザールは2週間前に転校してきたサラに恋心を抱い
ている。しかし彼とサラとの間には、幼い頃からの親友で、
どんなときにも頼りになるモルガンの姿がある。しかもモル
ガンはセザールよりも背が高く、スポーツマンで、頭も良い
のだ。                        
そんなある日、母子家庭で育ったモルガンは、ロンドンにい
るはずの父親を捜しに行くと言い出す。モルガンは、彼が生
まれる前に帰国してしまった父親のことを、名前の他には何
も知らない。そして3人は、親の金を借用して、ロンドン行
きを決行するのだが…。                
ベリはオリジナル脚本も書いているが、実に子供の視点を良
く捉えた見事な作品になっている。主人公にはナレーション
の形で心情も語らせているが、ユニークな発想や、子供らし
い勘違い、さらに鋭い指摘などもあって、結構頷かされると
ころもある。                     
子役3人の芸達者なこともあるが、嫌らしさや引けてしまう
ようなところもなく、素直に物語に入ることができた。子供
が主人公の映画で、素直にこのような気持ちになれたのは久
しぶりのことだ。高さ1m39cmの子供の目線に拘わったカメラ
位置も良かった。                   
主人公のセザールを演じるのは、すでに主演作もあるジュー
ル・シトリュク。サラ役には、監督の娘のジョセフィーヌ・
ベリ。そしてモルガン役は舞台出身で映画デビュー作のマボ
・クヤテ。この3人が何しろ上手かった。        
他には、ロンドンで3人に救いの手を差し伸べるカフェの女
主人役にアンナ・カリーナ。間違いなく老けたけれど、良い
感じの女傑を気持ち良く演じていた。          
またモルガンのロンドンの父親役で、ジョン・ブアマン監督
の息子のチャーリーが出演。『エメラルド・フォレスト』の
あの子が…という感じだった。なお、サラの母親役にも、ブ
アマン監督の娘のカトリーヌが扮している。       
                           
『MIND GAME』                
ロビン西の原作コミックスから、『クレヨンしんちゃん』劇
場版の設定デザインなどを手掛ける湯浅政明の脚本・演出、
『アニマトリックス』などのスタジオ4℃が製作した長編ア
ニメーション。                    
ふとしたことで初恋の幼馴染みと再会した主人公は、彼女の
姉が営む焼き鳥屋に招待される。ところがそこで主人公は、
彼女の婚約者を紹介された上に、借金の取り立てにやってき
たやくざの銃撃で殺されることに…。          
しかし、人生に未練たっぷりの主人公は、神に逆らって現世
に舞い戻り、逆にやくざを殺してしまう。そして、彼女と姉
と共にやくざの自動車で逃亡を始め、追いつめられ、絶体絶
命のところをクジラに呑み込まれ、こうして九死に一生を得
るのだが…。                     
何しろハチャメチャな物語が、結構調子良く展開する。原作
がどんなものか知らないが、作品の雰囲気は、『クレしん』
に通じるところがある。その『クレしん』の新作も評判が良
いようだが、本作もエネルギッシュで結構面白かった。  
絵の雰囲気をどんどん変えていったり、どちらかというと実
験的な部分もあるが、それぞれが様になっていて、全体を通
してはバランスが良かった感じだ。そしてクライマックスに
向かっての盛り上げ方が尋常ではなく見事だった。    
ヴォイスキャストを、主人公役の今田耕司を始め、吉本の芸
人がやっていて、それを聞いたときはちょっと引いたものだ
が、やたらと長台詞がある割りには、どうしてなかなかの出
来だった。そして長台詞もあまり押しつけがましくなく、全
体の感じは良かった。                 
押井作品など、結構重い感じの日本アニメ作品が海外進出し
ているようだが、直接『クレしん』の進出は難しくても、こ
のような作品も海外に出すことは考えてほしいものだ。日本
語の文字もシーンは英語に直せば良いし、その突破口にもな
れる作品と思う。                   
                           
『マッハ!!!!!』“Ong-Bak”              
タイ製作で、本場のムエタイの技をとことん見せてくれる格
闘技アクション映画。                 
タイで撮影された『モータルコンバット2』で、主人公のス
タントダブルも務めたことがあるというスタントマン=トニ
ー・ジャーの初主演作品。               
タイの素朴な田舎の村から、村の守護神の仏像の頭部が盗ま
れる。それを取り戻すべく、一人の村の青年が犯人の住む首
都バンコックへ向かうのだが…。着いて早々、身を寄せた村
出身の男に、村人たちのなけなしの金品を集めた餞別を盗ら
れてしまう。                     
その金を取り返そうと賭けムエタイの闘技場に足を踏み入れ
た青年は、一撃で前チャンピオンを倒してしまう。しかし、
ムエタイを危険な技として禁じられている青年は、賞金には
目もくれず仏像の頭を盗んだ犯人を捜し求める。     
これに仏像の盗掘や密輸を企む裏社会の顔役などが絡んで、
物語は、主人公と裏社会との闘いへと発展して行く。   
ジャーは、元々ジャッキー・チェンに憧れ、タイ映画界のス
タントマンの元祖と言われる人物を師として、訓練を積んで
きたということで、正に満を持しての主演作。しかもこうい
う経緯なので、映画的なアレンジは抜群、見ていて本当に面
白い映画だった。                   
実は、試写前の舞台挨拶でジャー本人によるムエタイの演舞
があり、そこでとんでもない身体能力を見せられていた。従
って、僕らは映画に登場するアクションもすべて本物と確認
できている訳で、その迫力は最高だった。        
夏の一般公開前にも、再来日してプロモーションを行うとい
うことだが、是非とも上手いプロモーションを行って、この
迫力を一般の観客にも伝えて欲しいものだ。       
映画の展開は、格闘技アクションだけでなく、街中での追い
かけっこなどもふんだんに取り入れられている。これらはジ
ャッキー映画で何度も見ているような気もするが、ジャッキ
ー本人がすでにこういうシーンを作らなくなった昨今では、
久しぶりに堪能できたという感じで、うれしかった。   
すでに第2作も製作中ということだが、舞台挨拶に立った俳
優も監督も素朴そうで、思い切り支援したくなるような作品
だった。                       
                           
『CODE46』“Code 46”              
『ウェカム・トゥ・サラエボ』などで注目を浴びるマイクル
・ウィンターボトム監督による近未来SF作品。     
今年のオスカー助演女優賞候補になったサマンサ・モートン
と、助演男優賞を受賞したティム・ロビンスの共演作品。 
体外受精やクローン技術が横行する世界。コード46は、こ
の時代に即応した国際的な取り決め。それに従うと、男女は
妊娠に至る前に遺伝子の検査が義務付けられ、遺伝子が25%
以上一致するカップルの妊娠は厳禁。違反者には過酷な処罰
が待っている。                    
主人公は、その世界を効率良く取り締まるために作られた制
度=パベル(滞在許可証)の発行を独占する企業の捜査員。
ある日、上海の工場で不正の行われていることが発覚し、彼
はその調査のため上海に向かう。そして、そこで一人の女性
に巡り会う。                     
女性は25歳、彼女は毎年の誕生日に不思議な予知夢を見てお
り、今年その予知夢が終局を迎えるかもしれない誕生日に、
彼と巡り会う。                    
SFでしか有り得ない出来事や運命を描く作品は、相当に上
手く描かないと、観客に違和感を抱かせる恐れが多い。この
作品もそんな一篇と言える。特殊な世界観や設定のための規
則、これらが違和感を生じると映画は台無しになる。   
しかしこの作品では、主演の2人の演技力もあってか、違和
感の生じる前にドラマに入り込めたような感じもした。正直
なところは、そんな世界観や設定を外しても2人の関係は描
けたのかも知れない。                 
ただしその設定が、さらに2人の運命を過酷なものにしてい
る。そしてそこに、この作品のSFであることの所以が存在
している。そこが素晴らしい、とも言える作品だった。  
なお、モートンは『マイノリティ・リポート』のプレコグ役
でも知られる女優だが、ロビンスに抱かれるシーンでは、そ
の小柄なところが印象的だった。ところが、映画の中に出て
くる彼女の身上書では、身長165cmとあり、一体ロビンスの
身長は幾らだったのかと、今更ながら驚かされた。    
                           
『好きと言えるまでの恋愛猶予』            
               “La Bande du Drugstore”
1966〜67年を背景にした青春映画。主人公の男性は18歳とい
う設定だから、1948年の生まれ、女性の方の年齢は出てこな
かったが、いずれにしてもこの映画が描いているのは、僕と
ほぼ世代の人たちの物語ということになる。       
しかも男性の部屋には、当時のSF映画専門誌Midi/Minuit
Fantastiqueが無造作に置かれ、本棚にはBarbarellaの単行
本が見えている。また、女性の部屋の本棚にはラヴクラフト
があるといった具合。さらに古本屋で出会った二人は、ジュ
ール・ヴェルヌや未来文庫のUFOという本の話をする。 
僕自身、当時すでにSFファンだったから、この映画を見て
いると何か当時の自分が描かれているような感じもしたが、
実は映画で描いていることは、当時は本当にSFが若者カル
チャーの先頭にいた時代だった、ということなのだろう。 
そして物語は、このような男女2人が互いに好きであること
が意識していながら、もう一歩を踏み出すまでの悶々とした
8カ月が描かれる。ここで現代の若者なら、こんなにも悶々
とすることはないのだろうが、当時はそういう時代だったと
いうことだ。もちろん映画にも、もっと進んだ行動をする若
者は描かれるが、これが青春と言えた時代の物語だ。   
とは言うものの、これを現代の若者たちが見るとどう感じる
のだろうか。因に、原作者で脚本も書き、本作で監督デビュ
ーを果たしたフランソワ・アルマネは、1951年の生まれだそ
うだ。                        


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