井口健二のOn the Production
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2004年04月01日(木) 第60回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回もアカデミー賞効果と言えそうなSF/ファンタシー
映画の話題から紹介しよう。なおこの情報は、前回の更新直
後に届いたものだ。
 2002年6月1日付の第16回で紹介したトム・クルーズ主演
によるH・G・ウェルズ原作“The War of the Worlds”の
映画化に、スティーヴン・スピルバーグの参加が発表され、
2005年後半に撮影の計画が公表された。
 この計画では、元々は『ジョーズ』などを手掛けた製作者
のデイヴィッド・ブラウンが、パラマウントにアンソニー・
バージェスの手になる脚本を持ち込んだのが最初とされる。
 バージェスは、1971年にスタンリー・クーブリックが映画
化した『時計じかけのオレンジ』の原作者としても知られる
イギリスの作家と思われるが、彼は1993年に亡くなっている
ので、この話は少なくとも1990年代前半ということになる。
そしてこの脚本では、物語の舞台を、原作通りの19世紀末の
ヴィクトリア朝ロンドンに設定していたということだ。
 しかしこの計画はなかなか実現せず、ブラウンは一旦この
企画をパラマウントから引き上げ、ドリームワークスに持ち
込んでいる。このときドリームワークスでは、『ディープ・
インパクト』を計画中ということだから、これは1998年より
前の話ということになる。だが、ドリームワークスでも、こ
の企画は実現しなかった。
 因に、『ディープ…』は1951年パラマウント配給、ジョー
ジ・パル製作の『地球最後の日』のリメイクとされるが、そ
の大元にはウェルズ原作の短編小説が存在する。この短編は
1964年の東宝映画『妖星ゴラス』の元になったとも言われる
ものだ。特に、『ディープ…』で人類が地球を脱出しない設
定なのは、ウェルズの作品に近い。
 ということで、今回の計画には、最初からパラマウントと
ドリームワークスは絡んでいたことになる。そしてこの計画
が改めて動き出したのは、第16回で紹介した2002年5月のこ
とだ。ただしこのときは、パラマウントとクルーズ/ワグナ
ーの計画として発表されている。また脚色には、最近クライ
ヴ・カッスラー原作の“Sahara”などを手掛けているジョッ
シュ・フリードマンの名前が上げられていた。そしてこの計
画もなかなか実現されないまま、2年近くが経過していた。
 このようにこの計画は、点いては消え、消えては点きだっ
た訳だが、今回スピルバーグの監督が決まったのには、上記
の経緯もさることながら、前回の発表がちょうど『マイノリ
ティ・リポート』の製作時期に重なっていたのも要因と考え
られそうだ。恐らくは、この時期に顔を合わせる機会の多か
ったクルーズとスピルバーグの間で、この計画も話し合われ
ていたのだろう。
 そしてスピルバーグの関係で、『ジュラシック・パーク』
の最初の2作を手掛けたデイヴィッド・コープが脚色のリラ
イトを担当することも決定し、ここに強力なトリオが実現す
ることになったものだ。因に、クルーズとスピルバーグは、
彼らが気に入る脚本が出来次第、直ちに製作に取り掛かる意
向とされている。
 ただし、スピルバーグは、現在トム・ハンクス、キャサリ
ン・ゼタ=ジョーンズ共演の“The Terminal”を監督中で、
その後には“Indiana Jones”の第4作と、19世紀の演劇界
を描く“The Rivals”という作品も予定されている。この内
“Indy 4”については、ちょっと難しくなってきてる感じも
するが、取り敢えずは2作済ませてからの2005年後半という
ことのようだ。
 また、クルーズは、パラマウント=ドリームワークス共同
製作による“Collateral”の撮影は完了したようだが、続い
ては、パラマウント=クルーズ/ワグナー共同製作、ジョー
・カーナハン監督の“Mission: Impossible 3”の撮影が今
年の夏に控えており、こちらも2005年後半までのスケジュー
ルはタイトなようだ。
 一方、コープは、自ら脚色と監督も手掛けたスティーヴン
・キング原作、ジョニー・デップ主演の“Secret Window”
が全米公開されたところで、この他では、『ジュマンジ』の
続編と位置づけられるクリス・ヴァン=オールズバーグ原作
“Zathura”の脚色を担当することが発表されている。第1
作を大ヒットに導き、第2作では上記の監督のため原案のみ
担当した“Spider-Man”の第3作をどうするかは不明だが、
当面は2002年後半までに、クルーズとスピルバーグの気に入
る脚本を提供できるかということになるようだ。
        *         *
 前の記事で題名が出たついでに、“Indiana Jones”の関
連の話題を一つ紹介しておこう。
 パラマウント所属の製作者スコット・ルーディンが、『レ
イダース/失われた聖櫃』に感動した子供たちによって作ら
れた映画“Raiders of the Lost Ark: The Adaptation”の
製作と彼らの人生を映画化する権利を、6桁($)半ばの契
約金で獲得したことが発表されている。
 この作品は、1981年に公開された映画を見たクリス・スト
ロンポロス、エリック・ザラ、ジェイスン・ラムの3人が、
映画と同じものを自分たちで作ろうと考え、1982年の夏休み
に撮影を開始、その後7年を掛けて完成させたというもの。
 切っ掛けは、主人公を演じる当時10歳ストロンポロスが、
スクールバスの中でザラにアイデアを話したことに始まり、
ザラは映画全体の649シーンに及ぶストーリーボードを描き
元々ホラー映画のファンだったというラムがカメラマンを勤
めている。その総製作費は、5000から8000ドルくらい掛かっ
たということだ。
 なお、作品では、巨大な石のボールが転がってくるシーン
や、生きた蛇のシーン、トラックに引き摺られるシーンなど
が再現されている。ただし、猿が登場するシーンは犬で代用
されたりもしているとのこと。また、成長期の少年が演じる
主人公は、当然のことながらどんどん大人になってしまうの
だそうだ。
 そして完成された作品は、一般に公開されることもなく保
管されていたが、2年前に映画作家のエリー・ロスによって
発見され、2002年12月にテキサス州オースティンで開かれた
映画祭で上映されて話題を呼んでいた。
 その顛末が、本家本元のパラマウントで映画化されること
になったもので、同社では過去に、“Star Trek”ファンの
行動を描いたドキュメンタリー作品“The Trekkies”を製作
したことがあるが、このような形で映画に絡む作品が作られ
るのは珍しいことだ。それにしても、子供時代の遊びが単純
計算で100倍くらいの価値を生み出したことになる。
 2月15日付の第57回でも書いたように、“Indy 4”の実現
についてはかなり厳しい印象を持つが、その代わりとしては
かなり良い感じの作品になりそうだ。
        *         *
 お次は、またまたテレビシリーズからの映画化の話題を紹
介しよう。といっても今回は、ちょっと他の作品とは経緯が
異なるものだ。
 映画化される作品は、“Serenity”という題名。この作品
のテレビシリーズ時の題名は“Firefly”というそうだが、
実はこのシリーズ、2002年にアメリカのフォックス・ネット
ワークで放送され、11エピソードでキャンセルされてしまっ
たものなのだ。
 シリーズの内容は、500年ほどの未来の宇宙空間を舞台に
したもので、基本的には西部劇の宇宙版というようなお話。
高潔な無法者や、掻き回し屋の神父、現実主義の売春婦など
がドラマを繰り広げるというものだ。
 ところが2002年秋開始の放送は、金曜8時台という時間帯
で、野球中継や特別番組などによってたびたび飛ばされ、結
局は安定した視聴率も稼げないままクリスマス前に打ち切り
が決定されてしまった。しかし、シリーズ製作者のジョス・
ウェドンは、物語が中途半端に終ったことに我慢できず、製
作プロダクションの首脳やエージェントなどと、他局での継
続やミニシリーズ化などの方策を検討、その結論として映画
化を目指すことにしたということだ。
 一方、番組のファンたちは、放送打ち切り後もインターネ
ット上のファンサイトなどで継続的に番組を取り上げ、その
結果、昨年12月に発売されたDVDは20万セットを売り上げ
る驚異的なヒット作になってしまった。そしてこの反響にユ
ニヴァーサルが応えることになったもので、映画化を目指す
ウェドンとの契約に踏み切ったということだ。因に、ウェド
ンはテレビシリーズの製作に関してはフォックスと契約を結
んでいたが、映画に関しての契約はなかったそうだ。
 といってもこの作品、映画化の脚本と監督はウェドン自身
が担当するが、彼は劇場用映画は初めてということで、その
契約金は微々たるもの。また、出演者もテレビシリーズのア
ダム・ボールドウィン、モレナ・バッカリン、ショーン・マ
ハーらがそのまま主演するが、彼らも映画界では新人。
 さらに撮影は、主にユニヴァーサルスタジオのセットと、
ロサンゼルス周辺のちょっとしたロケーションのみ。このた
め、総製作費は4000万ドル以下で済みそうだということで、
これでDVDを買ったファンの動員があれば、ほとんどノー
リスクというおいしい話になりそうだ。
 なお、ウェドンは“Buffy the Vampire Slayer”のクリエ
イターとしても知られるが、この作品は、彼が脚本家として
参加した同名の1992年の映画作品をテレビ化したもの。この
映画はヒットしなかったが、テレビ化で大成功を納めたもの
で、今回はその逆を狙うということだ。
 因に、テレビの短命に終ったシリーズから映画化された作
品では、6エピソードで打ち切られた後に映画でシリーズ化
された“Naked Gun”(裸の銃を持つ男:テレビシリーズ名
“Police Squad”)や、テレビではパイロット版の製作のみ
で放送もされなかった“Mulholland Dr.”(マルホランド・
ドライブ)などの先例があるようだ。
        *         *
 続いては、ちょっとトラブルの話題で、前回“A Princess
of Mars”の監督契約を紹介したロベルト・ロドリゲスが、
アメリカ監督協会(DGA)を脱退することが表明された。
 このトラブル、実は3月29日に撮影が開始されたディメン
ション作品“Sin City”を巡って発生したものだが、ロドリ
ゲスはこの作品で、原作者のフランク・ミラーを共同監督と
してクレジットしようとしたところ、DGAが定めた「1作
品1監督の規約」に違反すると注意を受けたというものだ。
 ところがこの作品の映画化に当っては、ミラーを共同監督
とすることが契約の条件とされており、このためロドリゲス
には、DGAを脱退するか、映画化を諦めるかの二者択一と
なって、前者の手段を取ることになったものだ。なお、この
選択についてロドリゲス本人は、「この作品の全てを把握し
ているのは原作者のミラーだけであり、この映画化は彼の協
力抜きには考えられない。従ってこの選択は全く容易なこと
だった」と語っている。
 さらにロドリゲスは、映画の一部をクエンティン・タラン
ティーノに監督してもらうことも希望しており、このため、
‘special guest director’というクレジットも用意してい
るそうだ。
 なお、ロドリゲスは原作者との交渉のために、ジョッシュ
・ハートネットとマーリー・シェルトンの出演で、自費で巻
頭のシーンを製作しており、本編でも多分この2人が主演す
るものと思われるが、実は、その他の出演者は交渉中で、そ
の交渉相手にはレオナルド・ディカプリオ、ジョニー・デッ
プ、ブルース・ウィリス、スティーヴ・ブシェミ、ブリタニ
ー・マーフィ、クリストファー・ウォーケン、マイクル・ダ
グラスらがリストアップされているそうだ。
 また、『レジェンド・オブ・メキシコ』にも出演したミッ
キー・ロークは、物語全体のまとめ役としての出演が予定さ
れ、この部分は先行して撮影が行われているということだ。
 という製作状況だが、実はこれが撮影開始1週間前の情報
で、こんな状態でまともな撮影が可能なのか心配にもなる。
しかし『レジェンド…』でも、ジョニー・デップは契約では
カメオの扱いで、撮影期間も9日足らずだったが、完成した
らほぼ主役だったという話もあり、このようなトリッキーな
映画製作はロドリゲスの得意という説もある。
 まあ、大手のパラマウントの製作で、総製作費に1億ドル
が計上されている次回作では、このような状況には余りして
欲しくない気もするが、ロドリゲス自身は、「自分の映画で
は、1人で20以上の仕事を同時にこなすこともある」と自信
のほどを語っており、彼に任せた以上はこれも覚悟しなけれ
ばいけないことのようだ。
 因にフランク・ミラーは、“Batman”や“Daredevil”の
グラフィックノヴェルでも知られるが、後者で彼が創造した
エレクトラのキャラクターは、映画で演じたジェニファー・
ガーナーの主演で傍系版の映画製作が決まるなど、その才能
は高く評価されているようだ。
 それにしてもDGAの規定は、昨年も問題になっていたよ
うに記憶しているが、以前には1961年の『ウェスト・サイド
物語』ではロバート・ワイズとジェローム・ロビンスが共同
でアカデミー監督賞を受賞しており、また昨年の『マトリッ
クス・リローデッド』でもウォシャウスキー兄弟として共同
でクレジットされている訳で、この規定がどのように運用さ
れているのか、全く訳の分からない話だ。
 なお、最近ではタランティーノと、ジョージ・ルーカスも
DGAを脱退しているそうだ。
        *         *
 後半は、短いニュースをまとめておこう。
 まずは、昨年『マトリックス・リローデッド』のラージフ
ォーマットを上映するなど、協力関係を強めているワーナー
とImaxで、今年はすでに“Harry Potter and the Prisoner
of Azkaban”の上映計画が発表されているが、それに続いて
“Catwoman”を一般上映と同時公開することが発表された。
 因にこの上映フィルムは、Imaxがカナダに所有するラボラ
トリーでのディジタル・リマスタリング処理により、35ミリ
フィルムから70ミリフォーマットに変換するもので、本来の
Imaxではないものの、大型スクリーンの効果は充分に得られ
るということだ。
 そしてさらに年末公開される“The Polar Express”と、
来年公開される“Charlie and the Chocolate Factory”で
は、何とImax-3Dでの上映も計画されている。
 ここで、主演のトム・ハンクスも含めた全てがCGIで製
作される前者については、撮影後に3D化することも可能だ
し、高画質化もできるものだが、実写の後者の場合は撮影時
から3Dで撮影されることが必要になる。これには、ティム
・バートン監督の協力も不可欠となるものだが、実現の可能
性はどれくらいなのだろうか。
        *         *
 次は配役の紹介で、すでに何度か報告しているニコール・
キッドマン主演の劇場版“Bewitched”(奥様は魔女)で、
主人公サマンサの母親エンドラ役にシャーリー・マクレーン
と、父親モーリス役にマイクル・ケインが発表された。
 因にテレビシリーズでエンドラ役は、『市民ケーン』など
にも出演していたアグネス・ムーアヘッド、モーリスは滅多
に登場しなかったが、『猿の惑星』などのモーリス・エヴァ
ンスが演じていた。なお、セミレギュラーのエンドラは、普
通の人間を馬鹿にし、夫の会社の上司や隣人などに魔法を掛
けて、人間関係を掻き廻す役柄だったが、ここにマクレーン
とケインを持ってくるということは、今回はかなり重要な役
になりそうだ。
 また今回の映画化では、夫のダーリン役を“Elf”が評判
のウィル・フェレルが演じる他、キッドマンの2役でサマン
サの妹セレーナの登場もあるということだ。『めぐり逢えた
ら』などのノラ・エフロンの監督で、脚本はノラと妹のダリ
ア・エフロンが執筆、コロムビアの製作で、撮影は7月開始
の予定になっている。
        *         *
 ブラッド・ピットの情報で、西部の荒くれ者ジェシー・ジ
ェイムズを演じる計画が発表されている。
 ジェシーは、一部では義賊という説もあるようだが、今回
の計画は、ロバート・ハンセン原作の“The Assassination
of Jesse James by the Coward Robert Ford”という小説を
映画化するもの。題名中のフォードは、西部一の早撃ちと呼
ばれた男で、彼はジェシーが率いた盗賊団の一員だったが、
ジェシーを背後から撃って殺したとされている。
 そして映画化は、オーストラリア出身で、リドリー&トニ
ーのスコット・フリーに所属するCF監督アンドリュー・ド
ミニクの監督で行われるものだが、実はこの計画は、ドミニ
クが別の作品の調査中に原作を見付け、自ら準備を進めてい
たというもの。一方、ドミニクが先に監督した“Chopper”
という作品がピットの目に留まり、何か一緒にできないかと
いうことになって、今回の計画に発展したということだ。 
 ワーナーの配給で、製作はピットのプランBと、スコット
・フリーの共同で行われる。
 因にドミニクが調査していた別の作品とは、アルフレッド
・ベスター原作の“The Demorished Man”だったそうだ。 
        *         *
 『真珠の耳飾りの少女』や“Lost in Translation”での
演技が話題のスカーレット・ヨハンセンの計画で、彼女自身
が企画にも加わった“Napoleon and Betsy”という作品を、
ライオンズ・ゲイトで製作することが発表された。
 この計画は、ヨハンセンと脚本家のレベッカ・B・ケネデ
ィが進めているもので、内容は、皇帝ナポレオン・ボナパル
トの最後の1年を、ボナパルトとの友情を結んだイギリス人
少女の目を通して描くというもの。彼は最初は脱出して地位
を奪い返すことを企てるが、結局は宿命に身を委ねることに
なるということだ。
 そして、この少女役は当然ヨハンセンが演じることになる
が、彼女とケネディはすでにボナパルト役も選考を進めてい
るということだ。監督は未定だが、撮影は今秋開始すること
になっている。
 なおヨハンセンは、現在ユニヴァーサルでデニス・クェイ
ド共演の“Synergy”という作品を撮影中で、その後には、
ジョッシュ・ハートネット、マーク・ウォルバーグ共演で、
ブライアン・デ=パルマ監督によるジェームス・エルロイ原
作の“The Black Dahlia”に出演することになっている。そ
して今回の作品は、このデ=パルマ作品の後に製作される計
画ということだ。


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井口健二