2004年04月14日(水) |
白いカラス、父と暮らせば、あなたにも書ける恋愛小説、ジャンプ、キル・ビルvol.2 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『白いカラス』“The Human Stain” 『さよならコロンバス』の原作者フィリップ・ロスが2000年 に発表した小説の映画化。 人種差別発言をしたために大学を追われた老教授と、家庭内 暴力に苦しむ34歳の女性との最後の恋を描いた物語。この老 教授をアンソニー・ホプキンスが演じ、女性をニコール・キ ッドマンが演じている。 原作を知る人には言わずもがなだろうが、老教授には人生を 賭けた秘密があり、その秘密を守り続けた人生が並行して描 かれる。原作にはもっといろいろな要素が描かれているよう だが、映画はほぼこの1点に絞り込んで108分の作品に仕上 げている。 しかし、エド・ハリス扮する女性の夫のヴェトナム帰還兵の 後遺症の問題など、現代のアメリカが抱え続ける問題は明確 に描かれている。また人種差別発言の問題は、逆に言葉狩り の問題としても捉えられ、見事な時代風刺にもなっている。 それにしても、ホプキンス、キッドマンの名演を余すところ なく見せながら、テーマ性を失わず、しかもこの時間に納め たのは見事としか言いようがない。3時間を超えても長くな い映画もあるが、この作品はこの長さで充分に堪能できる。 ニコラス・メイヤーの脚色、ロバート・ベントンの監督、そ してカナダ人の編集者クリストファー・テレフセンの見事な 仕事というところだろう。 なお、作者の分身的存在の役でゲイリー・シニーズが共演。 普段は存在感がありすぎて、僕はいつも出しゃばり過ぎのよ うな印象を受ける俳優だが、さすがに今回はホプキンスを前 に置いて、存分の演技を見せる。その嬉々とした感じも心地 よかった。 キッドマンはかなりの汚れ役ではあるが、先週『コールド・ マウンテン』で深窓の令嬢から徐々に変身して行く姿を見た 後には、ちょうど良い感じだ。これで体当たりの演技と言わ れると彼女も面はゆいだろうが、ホプキンスとの絡みも良い 雰囲気だった。 『父と暮らせば』 井上ひさしの舞台劇を、黒木和雄監督が映画化した作品。 1948年夏、原爆投下から3年目の広島。主人公は、その廃虚 の町に一人で住む若い女性。その女性の前に、突然原爆で死 んだはずの父親が現れる。しかし彼女は動揺しない。それは 亡霊と言うよりは、彼女自身の心の代弁者のようでもある。 一方、図書館に勤める彼女の前に一人の青年が現れる。原爆 の資料を捜しに来たという青年は彼女に好意を持ち、彼女も 彼に引かれる。だが彼女には、原爆の惨禍を一人だけ生き延 びてしまった自分が、幸せになることへの後ろめたさがあっ た。 基本的に外国映画を専門としている僕は、日本映画を見る機 会が少ない。黒木監督の作品を見るのも、多分、昔ATGで 『祭りの準備』を見て以来ではないかと思う。従って今回の 作品が3部作の完結編と言われても、僕は前の2作に言及す ることはできない。 しかしこの作品が、単独でも素晴らしい作品だということは 間違いなく言えることだ。 試写の前に監督の挨拶があり、そこでは映画化に至る経緯と して、原作の舞台を見て感動したことと、映画化の許可を得 る際に原作者から、「舞台は見る人の数が限られるから、映 画化して世界中の人に見せてほしい」と励まされたことが紹 介された。 そして映画を見て感じることは、監督が原作の舞台をものす ごく大切なものとして扱っていることだ。僕はその舞台も見 てはいないが、映画がほぼ舞台を完全にフィルムに写し替え ていることは感じられる。それは一つの台詞も揺るがさない という感じだ。 舞台劇らしい長台詞と広島弁の微妙な言い回し、これらは恐 らく舞台でも評判を呼んだものだろうが、それらを映画でも 忠実に再現している。それを成し遂げた主演の宮沢りえと原 田芳雄にも拍手を贈りたいところだ。 しかもそこに、映画でしか表現しえないものが見事に取り入 れられている。 それは、原爆投下の数日後に撮られた有名な白黒写真の中に 行き交う人々の姿があったり、3年後のまだ廃虚の町並の中 を登場人物の載ったオート三輪が走ったり、というようなも のだが、それらのVFX映像が、違和感無く取り込まれてい るのも素晴らしかった。 原爆投下と、その後に続く恐怖を見事に描き切った作品。こ の映画が、原作者の希望通り世界中で上映されることを願っ て止まない。 『あなたにも書ける恋愛小説』“Alex & Emma” 『恋人たちの予感』のロブ・ライナー監督が、『10日間で 男を上手にフル方法』のケイト・ハドスンを主演に招いて撮 ったラヴ・コメディ。 デビュー作は成功したものの2作目でスランプに陥った作家 が、30日間で第2作を完成させなくてはならなくなり、その ために口述速記者を雇うのだが…。この作家をルーク・ウィ ルスン、口述速記者をハドスンが演じる。 映画では、作家の口述する物語が劇中劇となり、そこではソ フィ・マルソー演じるフランス人女性と、ウィルスン演じる 家庭教師の道ならぬ恋が描かれる。しかし、その物語の一部 は作者の実体験であることが判ってくる。 その物語に、最初はスウェーデン人、次はドイツ人、さらに スペイン人、アメリカ人のメイドとしてハドスンが登場して くる。そして物語は、彼女を含む三角関係へと発展、つまり 作家は徐々に速記者に引かれ始めて行くのだが…。 ハドスンはこれらのいろいろな国籍の役を、誇張を交えてコ ミカルに演じている。何しろ劇中劇の設定なので誇張はかな り強烈だが、一方、ハドスンの芸達者なところも見せてもら える寸法で、なるほどこの映画の狙いがどこにあるかはよく 判ったという感じだ。 ゴールディ・ホーンの娘のハドスンは、見るからにハリウッ ドのサラブレッドという感じで、どんな役も嫌み無くこなし てみせる。 今回は、上記の作品でメグ・ライアンをブレイクさせた監督 とのコラボレーションだが、ハドスンは、すでに『あの頃ペ ニー・レインと』で鮮烈な印象を残し、『10日間…』では 1億ドル突破のメガヒットも記録している。その彼女が、次 に何を演じるかも楽しみだ。 『ジャンプ』 佐藤正午の原作で、2000年の「本の雑誌」ベスト10で第1位 に輝いた小説の映画化。突然失踪した恋人の謎を追う男性の 姿を、ネプチューン原田泰造の主演で描く。 監督の竹下昌男はこれがデビュー作のようだが、フリーの助 監督として大林宣彦監督や根岸吉太郎監督に師事してきたと いうことで、しっかりした映画作りはさすが現場を数多く踏 んできた人という感じだ。 原田の主演だが、本作はコメディではない。突然理由も告げ ず去っていった恋人を、ぼろぼろになりながら捜し回る主人 公をかなりシリアスに描いている。そこに原田自身が醸し出 すユーモアが救いのように入ってくるところが、配役の妙と 言うところだ。 共演は、東京出身だが韓国で活躍しているという笛木優子と 牧瀬里穂。牧瀬はいつもながらの存在感を見せる。 物語の展開で、東京蒲田から、天竜川沿い、博多、能古島、 伊万里へとロケーションが行われ、スケール感というほどで はないが、いい味わいを出している。 なお、鑑賞した試写室で前の作品が『犬と歩けば』だった。 そこで、終了を待ちながら宣伝担当の方を雑談したのだが、 『犬と歩けば』の田中直樹も、この作品の原田泰造もテレビ のキャラクターに近い線でいい味を出しているということに なった。 テレビタレントの起用では、昔、黒澤明監督が所ジョージを うまく使いこなせなかったことが印象としてあるが、さすが に今の監督は、テレビタレントでもそのキャラクターをうま く引き出している。その辺も良い感じの作品だった。 因みに、『犬と…』のキャスティングは、監督が使いたいと 思ったタレントをリストアップして交渉したら、ほぼ全員が 二つ返事で出てくれたのだそうだ。 『レディキラーズ』“The Ladykillers” アレック・ギネス主演の1955年作品、『マダムと泥棒』を、 トム・ハンクスの主演、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟 の脚本監督でリメイクした作品。 オリジナルはロンドンの下町が舞台だったようだが、リメイ クではアメリカ南部の町を舞台に、黒人の老女を家主とし、 教会でのゴスペルコーラスなどをふんだんに取り入れて、物 語は軽快に進められる。といってもコーエン兄弟の作品、物 語には毒もふんだんに盛られている。 ミシシッピー川沿いの静かな町。川には陸上では営業禁止の カジノ船が浮かび、その川には沖合の島に塵芥を運ぶ船も行 き来している。そして川から程近い住宅地の家に、髭を貯え た教授と自称する男が現れる。 男は、その家に住む一人暮しの未亡人の黒人女性に、下宿の 申し込みと、古代音楽の練習のために地下室を貸してくれと 頼むのだが…。実は男の狙いは、その地下室から川岸にある カジノの会計室までトンネルを掘り、資金を盗み出そうとい うものだった。 そして男は仲間を呼び寄せ、地下室で音楽の練習を装いなが ら、トンネル掘りなどの計画を着々と進めて行くのだが、家 主の女性の親切心とお節介から、計画は徐々に破綻を見せ始 める。 実は、物語では仲間喧嘩や神経性腸炎などの、普通の映画で は無意味で嫌になるような展開もあるのだが、これがコーエ ン作品だと、妙に填ってしまうところが面白い。殺人や事故 死なども出てくるが、これもなぜか納得できてしまう。この 辺がコーエン作品の魅力というところなのだろう。 『オー・ブラザー!』を気に入るまで、コーエン兄弟の作品 には何か違和感があったが、以後の作品はどれも面白い。僕 が開眼したのか、兄弟が変わったのか。今回はそれなりに以 前の作品のムードのようにも思ったのだが、それでも違和感 は解消していた。 『キル・ビルvol.2』“Kill Bill vol.2” 昨秋公開されたvol.1に続く完結編。ザ・ブライドの復讐の 旅がクライマックスを迎える。 一言で言えば面白かった。上映時間は2時間18分もあるが、 その間に手を替え品を替えて主人公を次々窮地に陥れては脱 出させ、さらに一対一の対決シーンなど見せ場も満載で、観 客を飽きさせることが無い。正しくエンターテインメントと いう感じがした。 しかも舞台は中国からメキシコまで、その目先の変化の付け 方も見事だった。 元々1本で作られるはずを2本にしたということだが、本作 だけでも2時間を超える上映時間は、本当に1本だったのか と疑いたくなる。しかしエンディングで、vol.1からの出演 者を登場場面付きで見せる辺りは、元が1本だったことを主 張しているようだ。 ただし、予告編で主人公自身が「映画を見た人にはやり過ぎ と言われ」と述懐していた影響なのか、vol.2では、vol.1 のような血の川が流れるほどの描写は無い。僕自身は血の川 を拒否はしないが、その手の描写が苦手の人にも勧められる 作品にはなっている。 また、vol.2では、もっとマカロニウェスタン調になるので はないかと予想していたのだが、思いのほか最後までチャン バラとカンフーに拘わってたところは、やはり元が1本の映 画だったことの現れかもしれない。 ただし、ガンファイトもしっかりと描かれていて、特に銃で 撃たれる瞬間を撃たれる側の目線で描く辺りは、マカロニウ ェスタンの色調も感じられる。もっともこのシーンの撮影で は高価なレンズを2本お釈迦にしたそうで、さすがタランテ ィーノというところだ。 宣伝コピーにもなっているからご存じの方も多いだろうが、 後半にはあっと驚く展開も用意されている。実は僕自身、前 半の展開の勢いに押されて、後半にこの展開があることすっ かり忘れてしまい、本当に驚くというか、直前にああそうだ ったと思い出す始末だった。 そのくらいに全体の構成がバランスよく計算されていたとい うことなのだろう。なお、この展開については、エンディン グのクレジットでそれを反映した記載がされているのも嬉し かったし、それが一種のカタルシスになっているのも見事だ った。 それにしても、この後半の展開の中で主人公が見るヴィデオ は、そのナレーションが丁寧に流されることからいって、主 人公のその後の姿を示唆しているのだろうか。 なお、嘘か誠かvol.3の情報もあるようだが、それについて は明日付で更新予定の第61回を見てください。
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