井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2004年03月01日(月) 第58回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、僕も思わず喝采したこのニュースから。
 すでに一般マスコミでも報道されているが、『ラスト・サ
ムライ』で好演した渡辺謙が、3月にロンドンで撮影開始さ
れるクリストファー・ノーラン監督の“Batman 5”に、敵役
のラーズ・オル・グール役で出演することが発表された。
 この敵役については、2003年12月15日付の第53回でも紹介
しているが、このときは『28日後...』のキリアン・マーフ
ィが配役されたというものだった。それがいきなり渡辺謙と
なった訳だが、実は、最新のVariety紙の製作リストでも、
マーフィの名前は後の方に掲載されており、結局、彼はDr.
ジョナサン・クレインこと、今回はサブの敵役のスケアクロ
ウ役だったようだ。
 それにしてもこの製作リストでは、ブルース・ウェイン=
バットマン役のクリスチャン・ベイルに続く出演者の2番目
にKEN WATANABEと記され、しかもその後に、マイクル・ケイ
ン(執事アルフレッド役)、リーアム・ニースン(助言者デ
ュカード役)、ケイティ・ホームズ(恋人レイチェル役)、
モーガン・フリーマン(ウェイン社・会長役)、デニス・ク
ェイド(ゴードン署長役)らの名前が並んでいるのには感動
する。何と言っても、オスカー受賞者のケイン、ニースン、
それにハリウッドの黒人スターの重鎮とも言えるフリーマン
の前に渡辺の名前があるのだ。過去にこれほど厚遇された日
本人俳優がいただろうか。
 しかし、それほどの快挙だと言うのに日本のマスコミの扱
いの小ささには少なからずショックを受けた。同じ日にゴシ
ップの報道が出たのは偶然かも知れないが、それとこれのど
ちらがより重要な話題なのか。実際に海外では、『ラスト・
サムライ』での好演ということもあって、かなり大きく報じ
ていたところもあった訳で、少しは世界に目を向けてほしい
と感じたものだ。まあ、日本でも映画ファンサイトがかなり
盛り上がったということでは、多少ほっとしたが…。
 因に、ラーズ・オル・グールは、1971年6月に初登場とい
うことで、バットマンに登場する敵役の中では比較的新しい
キャラクターだが、実は彼には娘がいて、タリアという名前
のこの娘は、バットマンの中では数少ないブルース・ウェイ
ンとバットマン両方の恋人ということになっている。ここで
父親が日本人なら、娘も日本人の配役を期待したいところだ
が、実は今回ホームズの演じているレイチェルが、タリアの
隠蓑という説もあり、期待通りには行きそうにない。
 ただしラーズとタリアは、最近のコミックスでは、バット
マンのシリーズを離れてスーパーマンのシリーズの方で主に
活躍しているという情報もあり、これでもし渡辺=ラーズが
評判になれば、製作が行き詰まっている“Superman”の映画
化にも登場の可能性が考えられる。そうなると、一時ジム・
キャリーが狙っていた両シリーズへの敵役での登場を、渡辺
が実現してしまうことになる訳で、これも大変な出来事とい
えるのだ。こんな夢の実現を、本当に期待したいものだ。
 なお、“Batman 5”の正式題名が“Batman Begins”に決
定したという情報もあるようだが、この題名が何を意味する
かという辺りも気になるところだ。また、配役は未定(ガイ
・ピアースにオファーされているという情報もある)だが、
1995年の『バットマン・フォーエバー』でトミー・リー・ジ
ョーンズが演じたハーヴェイ・デントが、トゥー・フェイス
になる前の姿で登場するという話もあるようだ。
        *         *
 次は、ちょっとショッキングなニュースで、イギリス映画
の振興を支えてきた映画基金の税法上の優遇処置が2月中旬
に突然打ち切られ、これらの基金の大半が打ち止めになって
しまった。実際この基金では、アメリカのインディペンデン
ト系の作品などもかなり恩恵を被っていたようだが、結局放
漫経営などで資金の流れが不明朗になっていたことが、今回
の優遇処置打ち切りの根底にもあったようだ。
 そしてこの影響をもろに受けたのが、1月15日付の第55回
で紹介したジョニー・デップ、ジョン・マルコヴィッチ共演
の“The Libertine”で、2200万ドルとされた製作費の30%
程度がこの基金に依っていたために、前回紹介した2月23日
からの撮影予定は実行不能になってしまった。実際、これ以
前に撮影が開始されていた作品では、イギリス政府の援助が
与えられて生き延びた作品もあったようだが、本作は撮影前
ということで、その対象にもならなかったものだ。
 ということで大変な事態になってしまった訳だが、さすが
デップ、マルコヴィッチ共演という注目の作品には、直ちに
別の資金提供者が現れ、多少の製作体制に変更は生じたもの
の、3月3日に撮影が開始されることが発表された。
 その変更というのは、不足する資金の提供をイギリス本土
とアイルランドの間に浮かぶマン島の映画基金が行うという
もので、その代わりに、当初ロンドンのスタジオで行う予定
だったセット撮影を、マン島のスタジオで行うということに
なったものだ。
 因にマン島では、マルコヴィッチが故スタンリー・クーブ
リック監督にオマージュを捧げたと言われる前作“Color Me
Kubrick”を撮影していたということもあり、話し合いは順
調に進められたようで、最終的にイギリス政府の援助が得ら
れるか否かは微妙なところもあったようだが、一気に思い切
ったというところのようだ。
 と言っても、デップ、マルコヴィッチの共演ともなれば、
インディ作品であっても世界中から引き合いは間違いない。
しかもその作品には、昨年度実写ナンバー1のヒット作に主
演したデップが、以前にも紹介したように破格に安い出演料
で出ている訳で、資金を提供する側にとってはこんなに美味
しい話は滅多にないと言えるもの。マン島側も、実に良い選
択をしたと言えそうだ。
 なおマン島は、24時間のオートバイレースが行われること
などでも有名だが、イギリスの一部でありながら、イギリス
連合王国の正式名称をGreat Britain and Man Isleと名乗ら
せたり、貨幣や郵便切手も独自に発行するなど、自治性はか
なり高い土地ということだ。
        *         *
 続けてジョニー・デップの情報で、ユニヴァーサルが進め
ている元Elle Franceの編集者だったジャン=ドミニーク・
ボウビイの自伝“The Diving Bell and the Butterfly”の
映画化にデップの主演が交渉されている。
 この作品は、1995年、当時43歳の現役編集者だったボウビ
イが突然脳溢血で倒れ、全身麻痺に陥って、かろうじて左目
の瞬きだけができるという状態になったというもの。原題の
Diving Bellというのは、こういう状態になったことを指す
医学用語ということだ。
 そしてボウビイは、左目の瞬きだけで、アルファベットを
一文字ずつ指示して、彼自身の思い出や夢を綴った自伝を作
り上げたということで、彼はこの自伝が出版された2日後に
亡くなっている。
 一方、映画化については、1997年に作品が紹介された直後
からソニーとドリームワークス共同で、ロン・バスの脚色、
スコット・ヒックスの監督による計画が進められたが、結局
バスの脚色が完成せず、計画放棄の発表がされていた。
 その計画をユニヴァーサルが引き継ぎ、今度は『戦場のピ
アニスト』のロナルド・ハーウッドの脚色、『バスキア』の
ジュリアン・シュナベル監督で進めることになったものだ。
 なお、実際の契約はハーウッドと結ばれているだけのよう
だが、彼の脚色には数多くの監督が映画化を希望したという
ことで、その中からシュナベルが選考されたということだ。
またデップは、監督の第2作の『夜になるまえに』に出演し
ており、その線で交渉が進められているようだ。
 同じような物語では、ダルトン・トランボが1971年に自作
の小説を映画化した『ジョニーは戦場に行った』が思い出さ
れるが、今回は実話の映画化ということで、特に伝記の映画
化で評価の高いシュナベルが、どのような作品に描き出すか
楽しみだ。
        *         *
 リメイクの情報で、1972年に製作され、デザスター映画ブ
ームの発端になったと言われる“The Poseidon Adventure”
(ポセイドン・アドベンチャー)をリメイクする計画がワー
ナーから発表されている。
 この作品のオリジナルはフォックスが配給したものだが、
製作したのは当時テレビシリーズの製作者として有名だった
アーウィン・アレンのプロダクションで、この後アレンはワ
ーナーに籍を移したために、アレンの所有していた権利は、
現在はワーナーが管理しているようだ。
 そして今回この計画を進めているのは、アレンと同じくテ
レビシリーズ製作者のマイク・フライスと、それにウルフガ
ング・ペーターゼンが加わることになっている。
 ペーターゼンは、現在は“Troy”の仕上げも終った頃のよ
うだが、ドイツ時代に手掛けた『Uボート』や、近作では海
洋デザスター作品とも呼べる『パーフェクト・ストーム』を
監督しており、今回のリメイクには最適と言える。ただし、
今回の計画では、ペーターゼン自身の監督は考えられていな
いということで、製作者の立場から映画製作を見守ることに
なりそうだ。
 とは言うものの、ペーターゼンは、『パーフェクト・スト
ーム』で描いた大波のシーンには相当の自信があるようで、
「素晴らしいテクノロジーの進歩によって、今こそが“The
Poseidon Adventure”のリメイクに最適の時だ」と語ってお
り、「我々はこの作品を、最高の恐怖と、そして数多くの楽
しさに満ちた作品に仕上げることができる」と抱負を語った
ということだ。
 確かに30年前の作品では、横波を受けた大型客船が転覆す
るシーンはミニチュアで撮影されたもので、当時としては大
掛かりで良くできていたとは言うものの、やはり現実感には
乏しいものだった。それが現在の技術でどこまで迫真のもの
となるか、ペーターゼンは相当の自信がありそうだが、その
辺も楽しみな作品となりそうだ。
 なお、フライスは『テキサス・チェーンソー』の製作にも
名を連ねており、またこの夏公開のユニヴァーサル作品では
監督デビューもしているようだが、彼も本作の監督は担当し
ないということだ。となると、これから選考される監督にも
注目が集まることになりそうだ。
 因に、1972年のオリジナルは、アカデミー賞の助演女優賞
(シェリー・ウィンタース)を始め、撮影賞、美術賞、音響
賞、編集賞、作曲賞、衣装デザイン賞にノミネートされ、主
題歌賞と視覚効果賞(特別賞)を受賞している。
        *         *
 お次も、製作会社の変更に関連する話題で、2001年12月15
日付の第5回で紹介したようにユニヴァーサルからミラマッ
クスに移管された“The Green Hornet”の映画化の計画が、
いよいよ本格的になってきた。
 この計画は、ユニヴァーサルではジョージ・クルーニーと
ジェット・リーの共演が予定され、『ユージアル・サスペク
ツ』のクリストファー・マカリーの脚本なども用意されてい
たものだったが、結局、最も出演を希望していたリーのスケ
ジュールの都合などで実行に至らず、すでに1000万ドルを費
やしたといわれる映画製作の権利を、300万ドルでミラマッ
クスに売り渡したものだった。
 しかし、ミラマックス側もこれに直ちには着手せず、タイ
ミングを見ていたもので、今回はこの計画の脚本と監督に、
昨年日本公開された『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への
逆襲』を手掛けたケヴィン・スミスの起用を発表している。
 因にスミスは、ミラマックスとは専属契約を結んでおり、
3月には新作の“Jersey Girl”という作品が公開されるこ
とになっているが、今回はミラマックストップのハーヴェイ
・ワインスタインが、長編6作目となる彼に、高額のテント
ポール作品の監督を任せることを承認したというものだ。
 なおスミスは、元々コミックスの大ファンだったというこ
とだが、1994年に監督デビュー作の『クラークス』を製作す
るためにそれまでに集めたコレクションを売り払ったことも
あるそうだ。ただし、現在はニュー・ジャージーで自らコミ
ックスの専門店も経営しているということだが、実は、彼自
身はコミックスの映画化は希望していなかったそうだ。
 その彼が“The Green Hornet”を作りたいと考えたのは、
テレビなどのお陰でホーネットやカトーの名前は有名だが、
彼らの本質は理解されていないと考えてのこと。もちろん、
ホーネットには大きなファン組織なども存在して、彼らを満
足させるのは大変だが、それに挑戦したいということだ。
 そして彼は、ワインスタインに、これを実現できるのは自
分しかいないと訴えたということだ。まあかなりの入れ込み
ようというところだが、こうなった以上は、彼の思い通りの
期待に叶う作品を作ってもらいたいものだ。また、配役に関
しては未定だが、スミス自身は、ユニヴァーサルが計画した
2人についても興味を引かれると語っているそうだ。
        *         *
 続いてもテレビシリーズの映画化で、1965〜70年に放送さ
れて日本でも人気の高かった“I Dream of Jeannie”(かわ
いい魔女ジニー)の映画版の監督に、『ベッカムに恋して』
のグリンダ・チャーダの名前が挙げられている。
 オリジナルはバーバラ・イーデンの主演で、2000年前のペ
ルシャの王女がさまざまな理由で魔法の壺に閉じ込められ、
海に流される。それが2000年後、とある南の島に不時着した
NASAの宇宙パイロットに拾われ、ヒューストンに来てし
まうというもの。つまり古代の魔法と最先端の宇宙科学が共
存する面白さを売り物にしたコメディ作品だった。
 そしてこの計画も、ソニー傘下のコロムビアで立上げられ
てからかなり経つが、これがようやく少し目処が立ってきた
というところのようだ。ただアジアから見ると、ペルシャの
王女の話をインド人の監督というのには、ちょっと違和感も
あるが、ハリウッドはお構いなしというところだろう。
 なお、脚本はコーマック&マリアニー・ウィバリーのもの
がすでに用意されているということだが、実はチャーダには
別にフォックスで“Tucker Times”という作品も予定されて
おり、どちらが先になるかは判らないとのこと。ただし、企
画が進行した場合には、『ベッカム…』に出演してブレイク
したキーラ・ナイトレイの主演も期待されているそうだ。
        *         *
 またまたCGIアニメーションの話題で、今度はソニー・
ピクチャー・アニメーション(SPA)からその第1作の計
画が発表された。
 この作品は“Open Season”と題されているもので、狩猟
シーズンを迎えた北米の森林を舞台に、体重900ポンドのグ
リズリーベアのボーグと、痩せこけて角が1本しかない牡鹿
のエリオットと、そしてボーグを子供の頃に育てた女性森林
レンジャーのベスを巡る物語。元々は新聞漫画家のスティー
ヴ・モウアという人のアイデアに基づくものだそうで、原作
者は製作総指揮も担当している。
 そしてこのアイデアから、ジル・カールトンがアニメーシ
ョンの監督をすることになっているが、カールトンは、『モ
ンスターズ・インク』のストーリーでクレジットされている
他、『バグズ・ライフ』や『トイ・ストーリー1、2』のス
トーリーにも関わっていたということで、かなり期待の膨ら
みそうな計画だ。
 因にアニメーションの製作は、『スパイダー・マン』など
のVFXを手掛けたソニー・イメージワークスが担当。そし
て声の出演者には、ボーグ役にマーティン・ローレンス、エ
リオット役にアシュトン・カッチャー、ベス役にデブラ・メ
シングなども発表されている。またこの作品の公開は2006年
に予定されているが、その後SPAでは、12〜18カ月に1作
の割合で新作を発表することも希望しているということだ。
        *         *
 後は、監督のニュースを2つ。
 最初は、2001年12月1日付の第4回で紹介したクリス・ヴ
ァン=オールズバーグ原作“Zathura”の映画化について、
コロムビア=ワーナー共同製作の『恋愛適齢期』には俳優と
して出ていたジョン・ファヴロウの監督起用が発表された。
ファヴロウは、アメリカで年末に公開されたニューライン配
給の“Elf”に監督主演して、1億7000万ドルの大ヒットを
記録するなど好調に実績を挙げているが、1995年のヒット作
『ジュマンジ』の続編という形を取る今回の作品にもその手
腕が期待される。なお脚本は、『スパイダーマン』のデイヴ
ィッド・コープがすでに書き上げており、今回の監督の決定
で長く期待されていた作品の実現に向けて一気に加速される
ことになりそうだ。
 もう1本はシリーズで、1968年製作のディズニーのヒット
コメディ『ラブ・バッグ』の新作“Herbie: Fully Loaded”
の監督に、サンダンス・フェスティヴァルで人気を呼んだ短
編コメディ“D.E.B.S.”のアンジェラ・ロビンスンの起用が
発表されている。因に、ロビンスンは話題作の長編版をソニ
ー傘下のスクリーン・ジェムズで監督してプロデビューして
いるが、300万ドルの製作費から一気に5000万ドル映画を手
掛けることになるようだ。なお物語は、知性を持ったフォル
クスワーゲンがNASCARのカーレースの挑戦するという
もので、主演には『フォーチュン・クッキー』のリンゼイ・
ローハンの出演も検討されている。
        *         *
 最後に、記者会見の報告で、『ゴシカ』の公開前日の2月
27日に主演のハル(会場ではハリーと呼ばれていたようだ)
・べリーの来日記者会見が行われた。今回は、自分でも質問
をしたので、そのことを報告しておこう。
 僕が行った質問は、オスカー受賞以後、ジャンルムーヴィ
への出演が続いているように思うが、特別な意味はあるかと
いうことだった。
 それに対するべリーの答えは、自分は女性のキャラクター
の強い作品を選んでいるだけで、特にジャンルへのこだわり
はない。オスカー女優というブランドで作品を選びたくは無
いが、オスカーを取ったことで選べる作品が増えたことは感
謝している、ということだった。
 結局、ジャンルに対する思い入れみたいなものは否定され
たが、後の質問で超自然現象を信じるかという問いには、そ
れを信じられる大きな心を持ちたいと答えたり、好きなホラ
ー作品という問いには、『シャイニング』『エクソシスト』
『ハロウィン』と即答するなど、かなりの理解は示してくれ
た感じだった。もっとも、ホラー作品の最初に2本がともに
ワーナー作品と言うのは出来過ぎの感じもするが。
 いずれにしても、次回作が“Catwman”のベリーには今後
も注目したい。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二