井口健二のOn the Production
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2004年02月15日(日) 第57回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは衝撃的なこの話題から。
 『トイ・ストーリー』から『モンスターズ・インク』、そ
して『ファインディング・ニモ』まで、3D−CGIアニメ
ーションの時代を築き上げてきたピクサーとディズニーのコ
ンビが解消されることになった。
 ピクサーは、元々はジョージ・ルーカスの下でVFX用の
3D−CGIアニメーションを研究開発していたチームで、
1985年の『ヤング・シャーロック』に登場したステンドグラ
スの剣士などを手掛けていた。そのチームが独立、1991年の
ディズニー作品『美女と野獣』の舞踏場のシーンで注目を集
め、1995年の『トイ・ストーリー』以後、ほぼ2年に1作の
ペースで、ディズニーを配給元として作品を発表してきた。
 しかし、昨年1月にピクサーが行った新作の製作発表で、
ディズニーとの離別を示唆するなど、今年の契約更改に向け
た行動が始まっていた。そして昨年の『ファインディング・
ニモ』の記録的大ヒットで発言力を強くしたピクサーは、作
品から派生する各種の利権についてより多くの権利を要求、
その結果、交渉が決裂となったものだ。
 確かに交渉しているのだから、それが常にまとまるという
ものではないが、ヒット作、話題作を次々に生み出してきた
コンビの解消はやはり衝撃と言える。ただし、ピクサーとデ
ィズニーの契約はあと2本残っていて、その1本目の“The
Incredibles”は今年の11月、そして最終作となる“Cars”
は2005年末公開の予定になっている。因に、ルート66を走る
自動車を主人公にした“Cars”では、ポール・ニューマンが
声優に挑戦することでも話題になっているようだ。
 また、今回の契約解消では、ディズニー側が過去の作品に
関する権利を確保、この結果、ディズニーは上記の作品や、
1998年の『バグズ・ライフ』などの続編、テレビシリーズを
自由に作ることができ、それに対してピクサーは、通常のロ
イヤリティーを得られるだけとなるようだ。
 とは言え、ピクサーには新しい未来が開かれる訳で、その
第1作は昨年1月に製作発表された作品になるようだが、そ
の作品の題名は未定なものの、内容は、巨大なレストランを
舞台にしたネズミたちの冒険とされている。まあ、ネズミが
主人公の作品を、ミッキーマウスのディズニーで発表すると
いうのもちょっと変だったかも知れないというところだ。 
 そしてその配給権には、フォックス、ワーナー、ソニー、
ユニヴァーサルの各社が名乗りを挙げているということだ。
従って、この内の1社からピクサーの新作が配給されること
になる訳だが、ディズニーとの契約には、最終作が公開され
てから1年間は新作を発表できないとする条項があるという
ことで、新作の公開は早くて2006年11月になるようだ。
 一方、ディズニーも交渉決裂を見越しての準備は進めてい
たようで、昨年来、東京やフロリダに分散していたアニメー
ション部門を、本社スタジオのあるバーバンクに結集。さら
に、今後は3D−CGIを主流としたアニメーションの製作
を進めるとした発表も行われている。
 そしてその第1弾には、絵本作家のウィリアム・ジョイス
が自ら脚本を執筆した“A Day With Wilbur Robinson”の映
画化を、今年の6月に製作開始、2006年夏の公開で行うこと
が発表された。因にこの原作は、失われた過去の記憶を再現
する機械を発明した天才少年が活躍するコメディ・アドヴェ
ンチャーで、映画化の情報は10年以上前から流されていた。
なお映画化は、『ブラザー・ベア』のスティーヴ・アンダー
スンが監督し、製作費は『リロ&スティッチ』並の8000万ド
ルが当てられるということだ。
 またディズニーでは、『シュレック』を手掛けたヴァンガ
ード・フィルムスや、カナダのアニメーション製作会社と提
携を結ぶ動きもあるようだ。
 いずれにしても2006年には、ディズニーから自家製第1号
の3D−CGIアニメーションと、ピクサーの独立第1作の
対決となる訳で、これに恐らくはドリームワークスの作品も
加わって、この年度のアカデミー賞長編アニメーション作品
賞はますます面白いことになりそうだ。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 最初に、スティーヴン・スピルバーグ関連の話題で、長年
彼が関ってきた2作品の実現に向けた動きに、多少明暗が分
かれてきた。
 まずは明の方で、以前から介している日本女性が主人公の
歴史ドラマ“Memoirs of a Geisha”の計画で、新たな脚色
を行う脚本家が決定され、今年秋からの撮影に向けた準備が
本格的にスタートした。
 この計画では、以前にも紹介したように1997年に発表され
たアーサー・ゴールデンの小説からスピルバーグが監督する
予定で脚色が進められ、ロン・バスやアキヴァ・ゴールズマ
ンの脚本が準備された。しかしこの計画は実現せず、2001年
にスピルバーグが断念を発表したものだ。
 その計画が、昨年のオスカー作品賞を受賞した『シカゴ』
のロブ・マーシャル監督の次回作として浮上。これに対して
当初は、監督の次回作の権利を保有していたミラマックスが
難色を示していたが、最終的に同社はイギリス国内の配給権
と引き換えに権利を放棄、実現が可能となっていた。
 しかし、先に準備された脚本はいずれもマーシャルの意に
合わず、新たに脚色が行われることになったもので、その脚
本家には、1994年版の『若草物語』や、1996年にダニー・デ
ヴィートが監督した『マチルダ』、さらに1998年の『プラク
ティカル・マジック』などを手掛けたロビン・スウィコード
が起用されることになった。
 なおスウィコードは、先に発表した“The Rivals”という
オリジナル脚本がドリームワークスで取り上げられ、19世紀
を時代背景にライヴァル関係にあった2人の舞台俳優を巡る
物語が展開するこの作品は、スピルバーグの監督も視野に入
れて計画が進められているということで、今回の起用には、
本作の製作総指揮も務めるスピルバーグの意向も働いている
ようだ。
 ということで、脚本はどうやら英語で作られることになり
そうだが、『ラスト・サムライ』が話題になった後で、最終
的にどのような決断が下されるかも楽しみだ。
        *         *
 そしてもう一つは、直ちに暗という訳ではないが、ちょっ
と気になる情報で、“Indiana Jones 4”の製作が、また少
し遠退く感じになってきた。
 この計画では、『ショーシャンクの空に』などのフランク
・ダラボンが脚本を担当していることが以前から報告され、
実は今回の報道の数日前にも、新たにパラマウントとの優先
契約を結んだダラボン本人が、“Indy 4”の脚本はすでに完
成していると発言したばかりだった。
 ところがこの脚本に、監督のスピルバーグ、製作のジョー
ジ・ルーカス、主演のハリスン・フォードの3人組の中で、
今回はルーカスが反対したということで、結局ダラボンの脚
本は撤回され、その後釜の脚本家には、何と“Memoirs of a
Geisha”と同じロビン・スウィコードが起用されることに
なったという話だ。
 元々この計画では、最初にルーカスが用意した脚本にスピ
ルバーグとフォードが反対したという経緯もあり、ダラボン
の起用もスピルバーグの発案だったという話もあるが、続け
てスピルバーグ側の脚本家で上手く行くものかどうか。
 しかもスウィコードには、先にやるべき脚色がある訳で、
その後の脚本の執筆では、パラマウントが期待した2005年夏
の公開は到底不可能。さらに2005年夏に撮影が行われるとす
ると、その時のフォードは65歳になっているということで、
アクション中心の“Indiana Jones”は大丈夫かという心配
もあるようだ。
 なお今回の計画は、元々が“Indiana Jones”のDVDの
発売に合わせるという思惑もあったということだが、その発
売も既に終了して、この先、本当に実現できるのか、かなり
不安な状況になってきた感じだ。
        *         *
 ついでに、上の記事にも書いたフランク・ダラボンの動向
を紹介しておこう。
 ダラボンは、ここ数年は主宰するダークウッズ・プロダク
ションを通じてキャッスルロックと契約してたもので、脚本
のみを手掛けた“The Salton Sea”と、脚色監督を担当した
『グリーン・マイル』『マジェスティック』を同社から発表
している。しかし今回、その契約を解消して、新たにパラマ
ウントと3年間の優先契約を結んだということだ。
 そして現在、ダークウッズの計画では、まず進行中なのが
ドリームワークスが製作している“Collateral”。トム・ク
ルーズ主演で、マイクル・マンが監督しているこの作品で、
ダラボンは脚本の準備稿を執筆すると共に、マン監督の起用
を実現し、製作総指揮も務めているということだ。
 また、以前に紹介したレイ・ブラッドベリ原作の2度目の
映画化となる“Fahrenheit 451”が進行中。ただし、メル・
ギブスンの主演で、ダラボンの監督も予定されているこの計
画は、ワーナーで進められるということだ。
 と言うことで、ここから後が今回のパラマウントとの契約
に関ることになるが、まずは、伝記ものが2作品で“Tokyo
Rose”と“Rivers in the Desert: William Mulholland and
the Inventing of Los Angels”、前者は第2次大戦秘話に
なりそうだ。
 続いて、アクション・アドヴェンチャーも2作品で“Doc
Savage: The Man of Bronze”と“Way of the Rat”、前者
は、1975年に一度映画化されたケネス・ロブスン原作のちょ
っとファンタスティックな冒険小説のリメイク。さらにスリ
ラーで“Mine”、ロマンスの“Standing Down”、ドラマの
“Back Roads”“Runt of the Litter”となっている。 
 まあ、かなり企画は抱えている感じだが、パラマウントも
目算があって今回の契約を結んだはずで、さて、この内のど
れが実現するのだろうか。
        *         *
 続いては、SF映画の話題で、“The Island”と題された
オリジナル脚本に対して入札による争奪戦が行われ、マイク
ル・ベイの監督が予定されているこの脚本の映画権を、最低
100万〜150万ドルの契約金でドリームワークスが獲得した。
 アンジェリーナ・ジョリー主演の『すべては愛のために』
などを手掛けた脚本家カスピアン・トレッドウェル=オーウ
ェンが執筆したこの脚本は、収穫されることを前提として育
てられる人類をテーマにしたもので、その宿命に疑問を抱い
た主人公がユートピアのような飼育場から逃亡する冒険が描
かれる。
 そしてこの脚本の争奪戦には、パラマウントも参加してい
たということだが、実は同社では、1月1日付第54回で紹介
した“Spares”という作品がよく似たテーマを描いており、
今回の争奪戦で映画化権を獲得した場合には、両者を合体し
て製作する期待もあったということだ。
 しかしドリームワークスに破れてしまった訳だが、ここで
面白いのは、実は“Spares”の企画は、元々は1997年頃にド
リームワークスが進めていたもので、その時はスピルバーグ
の監督で、主演にはトム・クルーズが予定されていた。とこ
ろがドリームワークスでの製作は断念され、それをクルーズ
がパラマウントに持ち込んだものだったようだ。
 ということで、何とも複雑な関係になってしまったものだ
が、このまま両作とも製作されると競作になる恐れもあり、
またドリームワークスとパラマウントでは、『ディープ・イ
ンパクト』から『ペイチェック』まで、SF映画の共同製作
の作品も数多い。となると、今後その可能性も無いとは言え
ないが、それなら今回の争奪戦は一体何だったのかというこ
とにもなりそうだ。
 なお、昨年『バッド・ボーイズ2』の監督と、『テキサス
・チェーンソー』のリメイクの製作を手掛けたベイ監督は、
現在は以前に紹介した“The Amityvill Horror”のリメイク
と、“The Texas Chainsaw Massacre”の続編にタッチして
いるということで、今回の計画が直ちに進められるというこ
とではないようだ。
        *         *
 昨年の4月15日付の第37回と5月1日付の第38回で紹介し
たロバート・A・ハインライン原作“Have Spacesuit-Will
Travel”の映画化で、脚色に『ファインディング・ニモ』で
オスカー脚本賞にノミネートされているデイヴィッド・レイ
ノルズの起用が発表された。
 高校で卒業年次学生の主人公が、大学で学ぶための学資を
捻出する目的で手放そうとした本物の宇宙服が切っ掛けで、
生涯を掛けた大冒険に誘われるというこの物語は、1958年に
発表された原作者の円熟期の作品。1997年にポール・ヴァホ
ーヴェンが映画化した『スターシップ・トゥルーパーズ』の
前年に発表されたものだ。
 そして今回の映画化の計画は、『ハリー・ポッター』シリ
ーズを手掛けるデイヴィッド・ヘイマンが昨年来進めていた
もので、この時期の脚本家の発表は、早ければ今年の秋から
の撮影開始も考えられるということで、前回の報告で一緒に
紹介した同じ原作者の“The Moon Is a Harsh Mistress”よ
り先に実現できる状況になってきたようだ。
 ということで本作は、ワーナー配給で来年中の公開も期待
できそうだが、できれば“The Moon …”の早期の実現も期
待したいものだ。
        *         *
 次もオスカー候補になっている脚本家の情報で、今年度の
脚色賞に“American Splendor”がノミネートされているシ
ャリ・スプリンガー・バーマンとロベルト・パルチーニのコ
ンビに、1935年製作のユニヴァーサルホラーの古典“Bride
of Frankenstein”のリメイクがオファーされている。
 本作のオリジナルは、メアリ・シェリーの原作を映画化し
た1931年の“Frankenstein”の続編として製作されたものだ
が、この作品は前作より高い評価が与えられて、多くのガイ
ドブックで満点が与えられるなど名作として名高いものだ。
 そのリメイクの脚本と監督が、コンビにオファーされてい
る訳だが、実はすでにいくつか作られていた脚本から、さら
に今回コンビにオファーするに当り、ユニヴァーサル側が提
示した条件は、既存の脚本に捕われる必要なしということ。
つまり彼らは自らのコンセプトで、自由に作品を創造できる
ということで、この要望に対して彼らは、現代ニューヨーク
を舞台にした『ローズマリーの赤ちゃん』のような作品を目
指すとしている。
 因に、同作のリメイクでは、1985年にスティングとジェン
ファー・ビールス主演で作られた『ブライド』あるが、今回
の発表ではほとんど無視されていたようだ。また、今年5月
公開予定の“Van Helsing”は19世紀が時代背景で、その中
にフランケンシュタイン博士とその怪物に関するシーンがあ
るそうだが、それとのつながりも持たせないということだ。
 なお事前に作られていた脚本は、実はVFXを多用した未
来的な物語だったそうで、彼らのコンセプトとは大幅に異な
るようだが、すでに『ハムナプトラ』や“Van Helsing”で
VFX満載のリメイク路線を突き進んでいたユニヴァーサル
が、今回はちょっと方向転換しているようだ。
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 元クリントン大統領の演説原稿の執筆者で、昨年公開され
た『ビロウ』の脚本家としても知られるルーカス・サスマン
が、ダーレン・アロノフスキー監督の新作の脚色しているこ
とが発表された。
 この作品は、“Song of Kali”という題名で、ダン・シモ
ンズという作家の小説を映画化するもの。内容は、インド人
の妻と赤ん坊を連れてカルカッタを訪れたアメリカ人の詩人
が、インドの女神カリ神を歌うインド人の詩人を訪ねるが、
彼が訪れたときインド人の詩人は女神を信奉するカルト集団
によって拉致され行方不明になっていた、という発端で始ま
る物語のようだ。
 インドのカルト集団の話では、昨年日本公開された『ホー
リー・スモーク』が面白かったが今度はどうだろうか。製作
はフォックス傘下のニュー・リジェンシー。
 なお、サスマンはこの他に、『ファイト・クラブ』を手掛
けたジム・ユルスと共同で、“Flicker”というオリジナル
作品もリジェンシーで進めており、この作品はBムーヴィが
地球上の生物を絶滅させるプロットに繋がっていることに気
づいたロサンゼルスの映画学生の物語だそうだ。
 また、同じくフォックス傘下のファームというプロダクシ
ョンで、“Silver”というSF西部劇も担当しており、この
脚本は既に完成しているようだ。
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 最後に続報で、昨年7月1日付の第42回で報告した“The
Hitchhiker's Guide to the Galaxy”の映画化で、出演者に
“The Office”という作品にも出演しているマーティン・フ
リーマン、ズーイー・デシャネル、モス・デフという顔ぶれ
が発表され、4月19日からロンドンで撮影開始されることが
公式に発表された。
 噂では、既にアイスランドで一部撮影が行われたという情
報もあるようだが、俳優も含めての正式のスタートはこれか
らとなるようだ。
 なお監督は、前回も紹介したガース・ジェニングスとニッ
ク・ゴールドスミス(前回紹介のときのチーム名ではなく、
個人名でクレジットするようだ)。
 また製作総指揮として、前任監督のジェイ・ローチも名を
連ね、さらに映画化を夢見ながら2001年に他界した原作者ダ
グラス・アダムスの名前も、製作スタッフとしてクレジット
されることになっている。
 スパイグラスとウォルト・ディズニーの共同製作で、世界
配給はブエナ・ヴィスタが担当する。


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井口健二