井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2004年02月01日(日) 第56回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、1月27日(日本時間28日)に発表されたアカデミ
ー賞候補作の話題から。なおメインの部門については、他の
メディアでもいろいろ紹介されると思うので、ここでは僕が
興味を引かれた作品に関連した部門だけ報告する。    
 まず視覚効果賞候補は、第54回で予想した通り“The Lord
of the Rings”と“Pirates of the Caribbean”に加えて、
第3の候補には“Master and Commander”が選ばれた。  
 この第3の候補作品については、その後に試写を見たが、
1月31日付でも紹介したように、ホーン岬のシーンでのミニ
チュア撮影を始め、最近のディジタルFXとは違う視覚効果
の味わいがあり、選ばれて成程という感じがした。期待した
“Hulk”ではなかったが、まあ納得というところだろう。 
 なおこの3作は、メイクアップ賞候補にも一緒に選ばれて
いる。因にメイクアップ賞部門も予備候補は7作で、最終候
補に選ばれた3作の他には、“Cold Mountain”“The Last
Samurai”“Monster”と“Perter Pan”が挙げられていた。
 また、長編アニメーション作品賞候補も、第52回で予想し
た通り“Finding Nemo”と、他にはディズニーの“Brother
Bear”、そしてソニー・クラシックスが配給したフランス作
品の“Belleville Rendez-Vous”(アメリカ公開題名:The
Triplets of Belleville)が選ばれた。         
 またしてもディズニー対決の様相だが、実は、第3候補の
フランス作品の評価が極めて高く、昨年の『千と千尋』のよ
うな捉えられ方もされているようだ。しかし、今度ばかりは
ちょっと難しそうだ。                 
 さらに他の部門も見渡すと、“The Lord of the Rings”
は全11部門(他は、作品、監督、脚色、編集、作曲、歌曲、
美術、衣裳、音響ミックス)、“Master and Commander”は
全10部門(他は、作品、監督、撮影、編集、美術、衣裳、音
響編集、音響ミックス)、“Pirates of the Caribbean”は
全5部門(他は、主演男優、音響編集、音響ミックス)で候
補になっている。                   
 また“Finding Nemo”は他に、脚本賞と音響編集賞の候補
になり、“The Triplets of Belleville”も、他に歌曲賞の
候補になっている。                  
 この他、気になる作品では、昨年がチャンスだった外国語
映画賞には本国の推薦が得られず、候補にすらなれなかった
ブラジル映画“City of God”が、昨年度アメリカ公開され
たことで、今年は晴れて監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞の
4部門で候補になっている。また1月31日付で映画紹介した
“Big Fish”は、作曲賞の候補になっている。              
 以上が、今年のオスカーで気になる作品だが、先日のゴー
ルデングローブ賞でも、候補になった4部門の全てを受賞し
た“The Lord of the Rings”が、今度はどこまで受賞の数
を伸ばせるか。もし全11部門を制覇すると、これは『ベン・
ハー』『タイタニック』に並ぶ史上最多の記録となる。  
 発表受賞式は、2月29日(日本時間3月1日)の予定だ。
        *         *        
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。なお、今回
はかなりニュースの数が多いので、多少端折りながら紹介す
ることにする。                    
 まずは待望の情報で、『タイタニック』の歴史的な大ヒッ
トから6年、ついにジェームズ・キャメロン監督の次回作の
構想が公表された。                    
 “Titanic”以後のキャメロンの作品では、製作を担当し
たテレビシリーズの“Dark Angel”と、監督作品では、Imax
で上映されたドキュメンタリーの“Ghosts of the Abyss”
(タイタニックの秘密)、それにドイツの戦艦ビスマルクを
撮影したドキュメンタリーが公開され、もう1本Imaxドキュ
メンタリーで“Extreme Life”という作品が待機中のようだ
が、本格的な劇映画となると、1998年のアカデミー賞で11部
門を獲得した“Titanic”以来のことになる。       
 なおこの情報は、1月21日にロサンゼルスで行われた『T
2』の特別上映会の席で監督本人の口から明らかにされたも
ので、題名は未定だが内容は大型予算のSF映画になるとい
うこと。また、撮影には“Ghosts of …”で開発したHD-3D
ヴィデオカメラが使用されるということだ。       
 さらに監督は、「“The Lord of the Rings”などの作品
で、デジタル・エフェクトの可能性を目の当りにし、自分で
もやりたい気持ちを押さえられなくなった」ということで、
正にエフェクト満載の作品が期待できそうだ。      
 因に、キャメロンの計画では以前から、海洋SFと言われ
る“Avatar”と、実在のフリーダイヴァー、フランシス・フ
ェレラスとその妻を描く“The Dive”、それに日本製アニメ
ーションの実写版で“Battle Angel Alita”などの情報が流
されていたが、今回の計画は、そのどれでもないとのこと。
また監督は、史上初の有人火星探査を描いた作品を撮りたが
っているという情報もあり、今後の詳細の発表が待たれると
ころだ。                       
        *         *        
 お次は、『ステュアート・リトル』などの原作者E・B・
ホワイトの作品をCGIと実写の合成で映画化する計画が、
パラマウントで2本進められている。          
 その1本目は、1970年に発表された“The Trumpet of the
Swan”。この原作は、1985年に他界した作者の最後の童話
とも言われるもので、生まれつき声の出ない白鳥が、父白鳥
が楽器店から盗んできたトランペットを吹いて声の代りをさ
せることになるが…という寓意に満ちた物語。実は同じ原作
では、2001年にトライスターが長編アニメーションを製作し
ており、この作品はビデオ発売に先立って劇場公開が行われ
たために、同年のアカデミー賞長編アニメーション作品部門
の予備候補にも上げられていた。            
 その原作を、今回は実写を絡めた映画化で計画しているも
ので、脚色に、“Miss Congeniality”(デンジャラス・ビ
ューティー)のケイティ・フォードが契約したことも公表さ
れている。                      
 そしてもう1本は、1952年に発表されたホワイトの代表作
とも言える“Charlotte's Web”。農場を舞台に小豚とクモ
の交流を描いたこの作品も、1972年にハナ=バーベラ製作で
長編アニメ化されたことがあるが、こちらも新たにCGIと
実写の合成で再映画化するということで、この映画化では、
“Erin Brockovich”のスザンナ・グラントの脚色が発表さ
れている。                      
        *         *        
 2002年1月に急死したテッド・デミ監督が、当時エスケイ
プ・アーチスツで進めていた映画“Nautica”を、話題のテ
レビシリーズ『24』を手掛けるスティーヴン・ホプキンス
監督が引き継ぐことが発表された。            
 この作品は、バハマの海に遊びに来た3人の若者が興味本
位で始めた沈没船の宝捜しで、隠し置かれた大量のドラッグ
を見つけてしまうというもの。1977年に公開されたピーター
・ベンチュリー原作の映画“The Deep”に似ているという指
摘もあったが、若者向けの海洋サスペンスアクションには好
適なお話と言えそうだ。                
 なおこの計画は、脚本家のリチャード・マクブラインが発
表した企画を、2001年にエスケイプ社が6桁($)半ばの金
額で獲得したもので、同社とアメリカ国内の配給権で優先権
を持つコロムビアとの間でもすでに契約が結ばれていた。
 このためエスケイプ社も、早期の製作実現を目指していた
ものだが、後任の監督には、一時予定されてアメリカで昨秋
公開された“The Rundown”に関わるために降板したピータ
ー・バーグの他、“The Cell”のターセム・シンの名前も挙
がっていたそうだ。                  
 しかし、最終的に今話題の監督の起用が決まったことで、
製作にも弾みが付きそうだ。因にホプキンスは、映画製作に
使用されるストーリーボード画家の出身で、1998年に公開さ
れた映画版の“Lost in Space”や、昨年日本公開されたリ
メイク版の“Under Suspicion”なども手掛けている。   
 また主演には、2002年当時はヒース・レジャーが決ってお
り、その後ユアン・マクレガーにリプレイスされていたが、
現在はレジャーに戻っているようだ。          
        *         *        
 1986年に全米放送された新版“The Twilight Zone”のエ
ピソードからホラー作品を映画化する計画が発表された。 
 この作品は、原題名が“Button Button”というもので、
“Duel”(激突!)などの原作者リチャード・マシスンが、
米版プレーボーイ誌の1970年6月号に発表した短編を映像化
したもの。因にこの短編は、日本版では1979年11月号に『死
を招くボタンゲーム』の題名で翻訳掲載されている。     
 内容は、ある日、若いカップルが住む家の玄関口に置かれ
た木の小箱。その上に付けられたボタンを押すと、直ちに富
が得られると同時に、どこかで同じボタンを押した見知らぬ
誰かが殺される。つまり富か死かの究極のゲームが行われる
という仕組みの物語だ。                
 そして今回はこの原作から、“Donnie Darko”のリチャー
ド・ケリーと、ティーンズホラー作品の“Cabin Fever”が
話題になっているエリー・ロスが脚色、ロスが監督すること
になっている。                    
 なお、映画化の題名は“The Box”とされ、また製作は、
先日開催されたサンダンス映画祭で、500万ドルの配給権が
契約されて話題になった“Garden State”などのキャメロッ
トが担当している。                  
        *         *        
 第45回で紹介した“The Longest Yard”のリメイクで、ア
ダム・サンドラーとクリス・ロック、それにスヌープ・ドッ
グの出演が発表された。                
 この計画は、元々サンドラー主宰のハッピー・マディスン
とパラマウントが進めていたものだが、前に報告したように
当初の計画ではサンドラーの出演は予定されていなかった。
しかしその後にシェルドン・ターナーが書き上げた脚本を見
たサンドラーが、自ら出演を決めたもので、このためサンド
ラー作品の優先権を持つソニーも製作に参加、海外配給権を
獲得することになっている。              
 オリジナルのお話は、前にも紹介したように、刑務所を舞
台にした囚人と看守の因縁のアメフトゲームを描いたもの。
また、一昨年日本公開されたイギリス映画の『ミーン・マシ
ーン』は、それをサッカーに置き換えてインスパイアされた
作品として製作されたものだが、いずれも元選手だった俳優
が主演していたものだった。              
 これに対してサンドラーには、元スポーツ選手という経歴
はないが、1998年にディズニーで主演した“The Waterboy”
はアメリカンフットボールを背景にした作品で、彼の作品で
は最初に1億2500万ドル以上の興収を挙げてブレイクした作
品としても知られており、その辺で映画ファンの納得は得ら
れそうだ。因に、今回パラマウントの代表を務めているドナ
ルド・デラインは、当時のディズニーの代表だったそうだ。
 なお以前の計画では、パラマウント傘下MTVのミュージ
シャンを出演させることになっていたが、その計画は今も踏
襲され、さらに現役及び元NFLの選手たちの出演も交渉さ
れているそうだ。またサンドラーは主人公なので囚人で選手
の役ということになるはずだが、対するロックの役柄は世話
人、ドッグの役はチームのメムバーとなっている。    
        *         *        
 日本でも今夏の公開が予定されている続編“Shrek 2”に
続いて、“Shrek 3”を製作する計画がドリームワークスか
ら発表された。                    
 “Shrek 2”については、今年のカンヌ映画祭に招待され
るという情報もあるようだが、その続編の脚本を担当したデ
イヴィッド・ステム、ジョー・スティルマン、デイヴィッド
・N・ウェイスに対して、3部作とする要請が出されたとい
うこと。また、この第3部では、主人公のシュレックがアー
サー王の円卓の騎士に列せられるという話もあるようだ。 
 ただし“Shrek 2”の製作では、製作費が第1作の6000万
ドルから8〜9000万ドルに高騰。これは、声の主演のキャメ
ロン・ディアス、マイク・マイヤーズ、エディ・マーフィが
それぞれ500万ドルの出演料を得たためという話もあり、さ
らに第3作ではどうなるかと心配もされているようだ。  
 因に、第1作の興行収入はアメリカだけで2億6700万ドル
で、第2作もこれに匹敵すれば何の問題もないと思えるが。
        *         *        
 往年の作品のリメイクの情報で、“Lassie”を再映画化す
る計画が発表されている。               
 ラッシーと言えば、僕らにはテレビシリーズでお馴染みだ
ったが、元は1940年にエリック・ナイトという作家が発表し
た小説に基づくもので、1943年にMGMから最初の映画化の
“Lassie Come Home”が、子役時代のロディ・マクドール、
エリザベス・テイラーらの出演で発表されている。    
 また1945年には、欧州戦争を背景に、同じタレント犬パル
と一部の出演者の再登場で、続編の“Son of Lassie”が製
作され、さらに1954年と78年に第1作のリメイクと、1994年
にはインスパイアされた作品も製作されているようだ。  
 そしてテレビシリーズでは、1954年の放送開始から71年ま
ではCBSで、さらに地方局向けには74年まで連続したシリ
ーズが製作され、またABCでアニメーションシリーズや、
地方局向けには1989年から91年にもアップデート版のシリー
ズが再製作されていたようだ。             
 そして今回の再映画化だが、ラッシーのキャラクターに関
しては、現在はクラシック・メディアという会社が管理して
おり、今回の計画も同社が進めているもの。すでにチャール
ズ・スターリッジという脚本家が脚色を済ませて、彼の監督
で春からの撮影と、2005年の公開が計画されているようだ。
 なお今回の物語は、MGM作品のリメイクではなく、原作
に立ち返って、1938年のスコットランドを舞台にしたものに
なるということだ。                  
        *         *        
 新しいヴィデオゲームの映画化の情報で、2002年1月15日
付の第7回でも紹介したゲームクリエータのAmerican McGee
が、新たに開発中のゲーム“American McGee's Oz”につい
て、その映画化権をジェリー・ブラッカイマー、及びディズ
ニーと契約したことが発表された。           
 以前に紹介した“American McGee's Alice”は、Alice in
Wonderlandのゲーム化で、ルイス・キャロルの物語をゴシッ
ク調に再構成したものということだったが、今回の作品につ
いては、Wizard of Ozであることは明らかなものの、その詳
細は不明。しかしAliceと同様のゴシック調の作品だろうと
いうことだ。                     
 そして、今回契約された映画化については、すでにダン&
ケヴィン・ヘイグマンという兄弟脚本家チームが、撮影用の
スクリプトを執筆しているということで、そのスクリプトは
3部作の第1作となるように執筆されているそうだ。   
 ウェス・クレイヴンの製作監督、ジョン・オーガスト脚本
で進められる計画だった“Alice”についてはその後の情報
がないが、今回の“Oz”につては意外と早く実現しそうな感
じで、その勢いで“Alice”の計画にも火が点いてくれるこ
とを期待したい。                   
        *         *        
 以下は、短いニュースをまとめて紹介しよう。     
 まずは“Hulk 2”の計画がマーヴルから発表されている。
この続編についてマーヴルでは、前作が心理描写をし過ぎて
失敗したとの批判に応え、よりアクション中心の、より面白
い作品にするということで、すでにそのためのタレントを備
えた脚本家との交渉に入っているということだ。     
 ジャパニーズホラーのハリウッドリメイクで、すでに何度
か紹介している『ターン』の監督に、“The Texas Chainsaw
Massacre”のリメイクを成功させたマーカス・ニスペルが
発表された。この計画については2002年6月1日付の第16回
で紹介したが、見直すと同じ回に“Chainsaw”の記事も書い
ていたようだ。なおニスペルは、先にダイアン・レイン主演
の精神科医もので“Need”という作品を監督することになっ
ており、本作はそれに続いて計画されている。      
 またニスペルは、マーティン・スコシージと作家のディー
ン・クーンツが計画している“Frankenstein”のテレビシリ
ーズ化の計画にも参加しているようだ。         
 ポール・ヴァーホーヴェン監督の新作で、2000年の“The
Hollow Man”(インビジブル)以来となる計画が発表されて
いる。この計画は“One Step Behind”と題されているもの
で、スウェーデンの作家ヘニング・マンケルの原作に基づく
映画化。クルト・ワランダーという刑事を主人公に連続殺人
事件を題材にしたスリラーということだ。そしてこの計画で
は、ヴァーホーヴェンのオランダ時代の盟友であるジェラル
ド・ソエトマンが脚色を担当することも発表されている。な
お原作は刑事を主人公にしたシリーズの第5作だそうだが、
今回の映画化はシリーズ化を目指すものではないようだ。ま
たソエトマンの脚色では、舞台を原作のスウェーデンからア
メリカに移すことになっている。撮影は今年の秋か来年早々
に開始の予定。
 ワーナーの計画で、なかなか進まない“Superman”のキャ
スティングに、VFXバイクアクションの新作“Torque”に
出演したマーティン・ヘンダースンの名前が浮上している。
ヘンダースンはハリウッド版“The Ring”にも出演し、その
続編にもオファーされたが出演は断っているそうだ。しかし
“Torque”の続編には出演したいということで、その製作会
社のワーナーからのオファーに応えて“Superman”のスクリ
ーンテストを受けたということだ。次から次へいろいろな名
前の挙がるキャスティグだが、今回はどうなることか。  
 最後に、“The Ring”と“The Ring 2”の脚本も手掛けた
アーレン・クルガーが、アネット・カーティス・クラウス原
作のヤングアダルト小説“Blood and Chocolate”の脚色を
担当することが発表された。この作品は16歳の狼人間の少女
と人間の少年とのラヴストーリーを描いたもので、『ロミオ
とジュリエット』のような要素もある作品ということだ。M
GMの製作で夏からの撮影が予定されている。      


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二