井口健二のOn the Production
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2004年01月15日(木) 第55回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はこの話題から始めることにしよう。
 前回の最後に報告した“Harry Potter and the Goblet of
Fire”の記事で、ローワン・アトキンスンがポッターの敵
役ヴォルテモートを演じるという情報について、1月7日付
のイギリスの大衆紙SunのWeb版に同様の記事が掲載された。
 この情報、元はと言えば、昨年12月19日付Daily Variety
紙のFilm Production Chartという情報ページで、“Goblet
of Fire”の出演者欄にアトキンスンの名前があるのを見つ
け、昨年の5月頃にヴォルテモート役にオファーされていた
という情報と併せて紹介したものだが、スクープでは勇名を
馳せるSun紙より先にこの情報を流せたということは気分が
良い。これからもこの調子でやっていきたいと、気持ちを新
たにしているところだ。
        *         *
 というところで今回は、1月2日付で発表された昨年度の
アメリカ映画興行成績の結果から報告しよう。
 昨年度全米興行成績の第1位に輝いたのは3億3971万ドル
を稼ぎ出した“Finding Nemo”。次いで第2位は3億541万
ドルの“The Pirates of Caribbean”で、ディズニーはアニ
メーションと実写で見事に1−2フィニッシュを達成した。
 そして第3位には、2億9041万ドルの“LotR: The Return
of the King”となったが、実は、この作品は昨年12月17日
に全米公開されたばかりで、たった15日間だけでこの数字を
叩き出したもの。この先どこまで伸びるかは解からないが、
取り敢えずは第3位ということになっている。
 第4位は“The Matrix Reloaded”の2億8152万ドル。第
5位は“Bruce Almighty”の2億4261万ドル。第6位“X2:
X-Men United”の2億1495万ドルで、ここまでが2億ドル突
破となった。
 さらに第7位に1億7087万ドルの“Elf”。第8位には昨
年末公開の“Chicago”の1億5921万ドル、なお前年からの
合計では1億7068万ドル。第9位には“Terminator 3”の1
億5035万ドル。第10位は“Bad Boys 2”の1億3840万ドルと
なっている。
 以下、SF/ファンタシー系の作品では、第11位に“The
Matrix Revolutions”(1億3829万ドル)、第14位に“The
Hulk”(1億3214万ドル)、第18位に“Spy Kids 3D”(1
億1168万ドル)、第19位に“Freaky Friday”(1億1018万
ドル)。さらに、第20位には“Scary Movie 3”(1億956万
ドル)、第21位“The Italian Job”(1億613万ドル)、第
25位“Deardevil”(1億254万ドル)、第26位“Charlie's
Angels: Full Throttle”(1億79万ドル)などが続いて、
1億ドル突破は全部で26作品だった。
 なお、第21位の“The Italian Job”は、夏前の最初の公
開では1億ドル以下だったが、夏作品の封切りの為に好調時
に打ち切られたと判断したパラマウントが、秋に再公開を実
施して1億ドルを達成したものだ。
 この他、気になる作品では、“The Last Samurai”(9002
万ドル:28位)と“Master and Commander”(8300万ドル:
32位)は12月公開なので、まだ数字が伸びる可能性があり、
特に“The Last Samurai”の1億ドル突破は固いところだろ
う。また“LotR: The Two Towers”は、7308万ドルで38位だ
が、これは昨年度分だけの数字で、前年からの合計では3億
4175万ドルとなっている。
 そしてこれらの結果を踏まえて、歴代の興行成績では、第
1位の“Titanic”(6億79万ドル)、2位の“Star Wars”
(4億6100万ドル)、3位の“E.T.”(4億3497万ドル)、
4位“Star Wars Ep.I”(4億3109万ドル)、5位“Spider
-Man”(4億371万ドル)、6位の“Jurassic Park”(3億
5706万ドル)までは変わらなかったが、7位に“LotR: The
Two Towers”が食い込み、8位に“Finding Nemo”、16位に
“The Pirates of Caribbean”、18位に“LotR: The Return
of the King”が入ることとなった。
 ただしこの内の“LotR: The Return of the King”につい
ては、まだまだ数字は伸びる可能性があり、3億1478万ドル
で現在11位にランクされている“LotR: The Fellowship of
the Ring”から尻上がりに数字が高くなっている事実と考え
あわせると、史上6作目の4億ドル突破の可能性も見えて来
ている。後は賞レースの行方次第という感じだが、出来れば
アカデミー賞の作品賞を期待したいところだ。
        *         *
 さて以下は、製作ニュースを紹介することにしよう。
 まずは昨年度、実写では第1位となる興行成績を記録した
“The Pirates of Caribbean”に主演のジョニー・デップの
最新情報で、第41回でも紹介したジョン・マルコヴィッチ共
演“The Libertine”の撮影が、2月23日にロンドン郊外で
開始されることが発表された。
 この作品は以前にも紹介したように、17世紀のイギリスの
詩人で、国王チャールズ2世の側近でもあったジョン・ウィ
ルモット・ロチェスターの生涯を描くもの。元はマルコヴィ
ッチがロチェスター役を演じた舞台劇の映画化だが、1996年
のシカゴ・ステッペンウルフ劇場での初演の時から、マルコ
ヴィッチは映画化に値する作品と考え、その際にはデップに
主演してもらいたいと考えていたそうだ。
 それがようやく実現する訳だが、前回も紹介した総製作費
の1600万ドルは、現在ハリウッド作品がデップに出演交渉す
る際の最低金額にも満たないということで、これが実現する
のは、デップ自身がハリウッドの大型予算の作品と、インデ
ィーズの小規模な作品に交互に出演したいという希望を持っ
ているからだということだ。
 また、今回の映画化実現までに8年も掛かってしまったこ
とについては、資金調達の問題もあったが、他方で上演時に
かなり話題にされた猥褻性の問題があり、それを芸術性を損
わずにソフト化するために時間が必要だったということだ。
そして映画のレイティングがNC-17になったらどうするかと
いう問いに対し製作担当者は、「質問の意味は理解するが、
そのような恐れはない」という回答だったそうだ。
 まあ、現状で気になるのは“The Pirates of Caribbean”
で増えているはずの子供のファンがどう反応するかだが、公
開までには1年以上が掛かると予想される作品では、それま
でに別の作品も何本か公開される予定になっており、それほ
ど気にすることもないというところだろう。
 因にデップの作品では、すでにアメリカでは“Once Upon
a Time in Mexico”(レジェンド・オブ・メキシコ)が昨年
9月に公開(5585万ドル、52位:日本は陽春予定)されてい
るが、他にも第14回で紹介した“J.M.Barrie's Neverland”
と、スティーヴン・キング原作の“Secret Window”が待機
中で、後者は2004年8月全米公開、日本は2005年の予定にな
っている。
 また、今回発表された“The Libertine”に続いては、す
でに紹介している“Charlie and the Chocolate Factory”
と、“The Pirates of Caribbean 2”への出演も本人が希望
しているそうだ。
        *         *
 ところで、デップ関連の情報ではもう1本、第52回で紹介
した“Diamond Dead”の主演にもオファーされていたことが
公表された。
 これは、昨年12月に同作品の公式ホームページに掲載され
た情報で、監督のジョージ・A・ロメロが直接デップに出演
依頼の手紙を出したということだ。それによると、ロメロは
主役の一人バンドリーダーDr.D役にデップの出演を希望し、
他に主人公の女性シンガー役には『ホワイトオランダー』な
どのアリスン・ローマン、また死神役にはデヴィッド・ボウ
イかサー・イアン・マッケランを希望しているようだ。なお
この死神役には、当初はクリストファー・リーを希望してい
たという情報もある。
 ただしこの手紙では撮影を3月にロンドンで行うとあり、
残念ながら上記の“The Libertine”の撮影と重なってしま
うことになる。従って、撮影のスケジュールが変わらない限
りはちょっと望み薄の感じだが、デップのバンドリーダーで
ゾンビ役というのも面白そうだし、ロメロもここまで手紙を
公表しておいて今更引き下がるというのも情けないし、何と
かスケジュールの再調整を期待したいものだ。
        *         *
 お次も続報で、第53回で紹介した“The Pacifier”でコメ
ディに挑戦するヴィン・ディーゼルに、強力な助っ人が登場
した。前回は未定だった監督に、『女神が家にやってきた』
のアダム・シャンクマンの起用が発表されたものだ。
 この作品は、前回も紹介したように、要人警護担当の潜入
捜査官の主人公がいろいろな経緯から子供の警護を命じられ
るというもの。シュワルツェネッガー主演のアクションコメ
ディ作品にも比較されていたが、ディーゼルにとっては事実
上初のコメディ作品となるもので、しかも子供相手というの
は、主人公ならずともかなりきつい仕事になりそうだった。
 そこにシャンクマン監督が決ったもので、『女神が家にや
ってきた』では、興行成績1億3253万ドルで昨年度の第13位
の大ヒットを記録したコメディ得意の監督の起用は、ディー
ゼルにとってもかなりの朗報と言えそうだ。
 なお、大ヒット作を手掛けて注目度の高いシャンクマンほ
どの監督が、今回突然に起用が決ったのには裏があって、実
はシャンクマンは、スパイグラス製作、ソニー配給で、第50
回に紹介した“Four Christmass”の計画を、4月撮影開始
予定で進めていた。
 ところが、その後に第53回に紹介したジョー・ロス監督の
“Skipping Christmass”の計画がリヴォルーションから発
表され、ソニーはその配給を手掛けることになった。しかし
同じ2004年のクリスマスシーズンを目指す作品が2本では共
倒れになると判断したソニーは、スパイグラスとシャンクマ
ンに1年間の製作延期を要請。これに対しスパイグラスは、
一旦は他社での配給を検討したものの、結局はソニーの要請
を受け入れることにしたものだ。
 そこでスパイグラスが、改めてディズニー配給で進めてい
たディーゼル作品の監督をシャンクマンに要請した訳だが、
シャンクマンはこれを問題なく受け入れたということだ。ま
あシャンクマンにしても、今が旬のディーゼルを演出するこ
とには興味を引かれたというところかもしれないが、いずれ
にしても八方丸く納まることにはなったようだ。
        *         *
 続いても監督決定の情報で、ジェームズ・エルロイ原作の
犯罪小説“The Black Dahlia”の映画化の計画に、ブライア
ン・デ=パルマ監督の名前が発表された。
 この作品は、1947年に発生して迷宮入りとなっている女優
エリザベス・ショート殺人事件という現実の事件を題材にし
たもので、事件を追った二人のロサンゼルス市警刑事を主人
公にして描かれている。彼らは事件を追う内に死んだ女性に
魅せられて行き、ついには事件の真相に辿り着くのだが…と
いう展開のものだ。
 そしてこの映画化の計画は、同じくエルロイ原作の『LA
コンフィデンシャル』がアカデミー賞脚色賞などを受賞した
1998年に最初に発表され、このときは『セブン』『ゲーム』
で勢いに乗るデイヴィッド・フィンチャーが、『ファイト・
クラブ』の次に監督する予定になっていた。しかしその計画
は実現せず、そのまま今に至っていたものだ。
 その計画が、今回はデ=パルマが1987年に監督した『アン
タッチャブル』などを手掛けた製作者アート・リンスンの下
で進められているもので、その関係からデ=パルマにオファ
ーされ、監督を引き受けることになったようだ。
 また、共同製作者には、当初からこの計画を進めているル
ディ・コーエンとモシェ・ディアマントも参加しており、彼
らが用意したジョシュ・フライドマンの準備稿がデ=パルマ
の心を捉えたということだ。
 なお主演には、同じく準備稿が気に入ったというマーク・
ウォルバーグとジョッシュ・ハートネットも発表されている
が、実現するとハートネットは、『ハリウッド的殺人事件』
でも演じたロサンゼルスの刑事役を再び演じることになる。
 因に、今回の製作にはハリウッドの映画会社は参加してい
ないようで、製作費は海外配給権の契約によって調達される
他、ドイツの映画基金アポロ・メディアが利用されるという
ことだ。
        *         *
 もう1本、監督の情報で、第21回で紹介したパラマウント
が進めている1966年製作のジョン・フランケンハイマー監督
作品“Seconds”(セコンド)のリメイク計画に、ジョナサ
ン・モストウの監督が改めて発表された。
 この計画では、元々はモストウの監督で準備が進められ、
一度は2000年公開の『U−571』の次の作品としての発表
も行われていた。ところがその頃から、モストウには『ター
ミネーター3』への参加が要請され、結局そちらを優先する
ことになったモストウに代って、第21回の時点では、『ザ・
コア』のジョン・アミエルの監督が発表されていた。 
 しかしそのアミエルは監督を断念し、『T3』を終えたモ
ストウが再び監督の椅子に戻ることになったものだ。
 なおモストウは、今回の監督再就任に当って1964年に発表
されたデイヴィッド・エリーの原作を読み返したということ
で、モストウはフランケンハイマー版よりさらに原作に忠実
な映画化を目指したいとしている。
 なお物語は、人生をやり直したいと思った老人が若い容姿
と、今までとは異なる人格や身分を手に入れるが、個人的な
問題のために新しい生活に耐えられなくなり…というもの。
1966年版では若返った男をロック・ハドスンが演じており、
作品はアカデミー賞の白黒撮影賞にノミネートされた。
        *         * 
 続いてはリメイク…と言っていいかどうかという話題で、
1968年にジーン・ワイルダー、ゼロ・モステル主演、メル・
ブルックスの監督で映画化された“The Producers”(日本
未公開)のミュージカル版の映画化が計画されている。
 実はこの計画、元々はブルックス監督がアカデミー賞のオ
リジナル脚本賞を受賞した映画作品によるものだが、これが
2001年に舞台ミュージカル化され、この年のトニー賞では、
何と12部門で候補になって、その全てで受賞するという高い
評価を受けたものだ。また、昨年末に始まった再演は、初演
の時と同じネイザン・レーンとマシュー・ブロデリックの共
演で行われているが、4月4日までの公演がすでに全て予約
で満席となり、今まで記録的と言われた“The Lion King”
の舞台版をも上回る興行を続けていると報告されている。
 そしてこのミュージカル版の映画化が計画されているもの
だが、計画しているのは元の映画作品のリメイク権を所有し
ているユニヴァーサルで、このほど同社は、主演のレーンと
ブロデリックに対して映画出演の契約を結んだことを発表し
ている。さらにブロードウェイの舞台の製作者でもあるブル
ックスと共同脚本家のトーマス・ミーハン、舞台監督のスー
ザン・ストロマンについても参加が話し合われているという
ことで、ブロードウェイの舞台そのままの映画化が行われる
ことになりそうだ。
 なお計画では、2005年の早い時期からの撮影、同年の後半
に公開というスケジュールが立てられているようだ。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 まずは、前回サラ・ミッシェル・ゲラーの主演を報告した
『呪怨』のハリウッドリメイク“The Grudge”で、相手役に
“Roswell”のジェイスン・ベアの出演が発表された。なお
ベアは、ゲラー主演の“Buffy the Vampire Slayer”にも最
初の頃に登場していたということだが、テレビシリーズの他
には、1998年の『カラー・オブ・ハート』や、2001年の『シ
ッピング・ニュース』などにも出演していたようだ。また、
今回のリメイクで彼が演じるのは、主人公の男友達で東京の
大学に通う学生の役ということで、本当に設定や舞台もオリ
ジナルそのままのリメイクが行われるようだ。
 次も続報で、第21回で報告したドウェイン“ザ・ロック”
ジョンスンの主演が予定されているヴィデオゲームの映画化
“Spy Hunter”の脚本に、昨年『フレディvsジェイソン』
を担当したマーク・スウィフトとダミアン・シャノンのチー
ムが発表された。この計画では、『ワイルド・スピード2』
を手掛けたマイクル・ブランデットとデレク・ハースのチー
ムがゲームからインスパイアされたオリジナルのコンセプト
を提供したが、彼らでは脚本を完成できなかったようで、新
たにスウィフトとシャノンのチームが招請されたものだ。な
お計画では、撮影は6月に開始の予定になっており、2005年
夏のテントポールを目指すということだが、これから6月ま
ででは脚本の作業もかなり忙しそうだ。
 もう一つ、ヴィデオゲーム絡みの話題で、トニー&リドリ
ー・スコットが経営する映像製作会社スコット・アソシエイ
ツが、ゲームメーカーのアタリ社が3月に発売する新ゲーム
ソフト“Driv3r”のプロモーション用に、3分の短編映画を
製作したことが発表された。このゲームソフトは“Driver”
“Driver 2”に続くシリーズ3作目になるものだが、ゲーム
に収録される音声には、マイクル・マドセン、ヴィング・レ
イム、ミシェル・ロドリゲス、ミッキー・ロークらが声優と
して参加しており、物語性はかなり高いもののようだ。そし
て製作された短編映画は、“Run the Gauntlet”と題された
もので、内容は世界を股に掛けた窃盗団を追いつめる潜入捜
査官の活躍を描いたもの。因にこの作品は、自動車会社のB
MWが展開する映像サイトBMWfilm.comで公開されている。
        *         *
 最後にちょっと期待の湧く情報で、ピーター・ジャクスン
監督の“The Lord of the Rings”3部作でガンダルフを演
じたサー・イアン・マッケランが、新年に放送されたイギリ
スのテレビ番組で、3部作の前日譚となる“The Hobbit”の
映画化の可能性について語っている。
 それによると、“The Hobbit”の映画化権は、現在はニュ
ーラインとMGMが折半で所有しており、またジャクスンが
ユニヴァーサルで“King Kong”の計画を決めたことから、
両社が映画化に向けた問題解決を話し合うのに充分な時間が
与えられたということだ。そしてマッケラン自身は、灰色の
ガンダルフを再び演じることには大いに興味を持っていると
いうことで、ジャクスンが希望すればいつでも話し合いの席
に着きたいそうだ。
 なお、ジャクスンも“LotR: The Return of the King”の
ワールドプレミアの席で“The Hobbit”の映画化に対する期
待を表明しているということで、これはかなり早期の実現が
期待できそうな雰囲気だ。


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井口健二