井口健二のOn the Production
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2004年01月14日(水) Oasis、ゴシカ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『Oasis』(韓国映画)              
一昨年のヴェネチア映画祭で、監督賞(イ・チャンドン)、
新人俳優賞(ムン・ソリ)、国際批評家連盟賞を受賞した作
品。前科3犯の男と、脳性麻痺で身体の自由の利かない女性
との純愛を描いた衝撃的なラヴ・ストーリー。      
男は2年半の刑に服しても、全く反省の色さえ見えない屑の
ような人間。そんな男が、寒空の下を出所してくる。しかし
家族にも疎まれる彼には、弟の案内でようやく辿り着いた兄
の家にも身の置場などない。              
その男が、訪ねた家で一人の障害者の女性に気を留める。彼
女もまた家族に疎まれた存在で、家族の引っ越した後のアパ
ートの部屋に一人で住んでいる。そして男は、最初は興味本
意から、その女性に接近して行くのだったが…。     
何と言っても、受賞したムン・ソリの演技が凄い。脳性麻痺
の人の生活は、過去にドキュメンタリー映像などで見たこと
があるが、それを完璧に表現している。         
それにしても、口元は多分入れ歯を使ったのだろうが、目の
演技は一体どうやっているのか、驚異的な演技力だ。特に、
彼女が何かを訴えようとするときの演技には鬼気迫るものが
あった。                       
確かにムン・ソリ自身は、飛び切りの美人という人ではない
ようだが、ごく普通の容姿の女性が病気のためにこのように
変貌してしまう。そんな哀しさも見事に表現したものとも言
える。                        
現時点でこの映画を見ると、どうしても昨年の『ジョゼと虎
と魚たち』と比較せざるを得ない。昨年の作品を見たときに
は、僕はそれを高く評価した。その考えは今も変わらない。
福祉問題などを考えるとき、あの作品は大きな問題提起をし
てくれる。                      
しかし今回この作品を見ていると、自分の甘さに気付かされ
る。現実がもっと厳しいものであることは前の作品を見たと
きにも感じてはいたが、一面ではそれを映像に描くことは不
可能とも考えていた。それを見事に描いてくれたのがこの作
品だ。                        
この作品の中で福祉問題などは、多少矛盾点が指摘される程
度で、ほとんど話題にもされていない。それよりももっと厳
しい現実が突きつけられる。しかしここに描かれるのは、純
粋に男女の愛の物語だ。しかもそれが、普遍的なものに描か
れてるところが素晴らしい。              
そして映画では、随所に描かれるファンタスティックなシー
ンの構成も見事だ。このような幻想シーンは、下手にやると
違和感が生じるものだが、ここでは見事にまとめ上げられて
いる。それをまとめ上げた監督の技量は、確かに監督賞に値
するものだ。                     
                           
『ゴシカ』“Gothika”                 
『TATARI』などのホラー映画ブランド=ダークキャッ
スルの最新作。00年公開『クリムゾン・リバー』のマチュー
・カソヴィッツ監督が、ハル・ベリー、ペネロペ・クルスの
共演で描いたゴシックホラー。             
ベリーが演じるのは、女子刑務所の中の精神病院棟に勤める
女医。彼女は、悪魔に強姦されていると主張するクルス扮す
る女囚などの治療に当っている。しかしある豪雨の晩、帰宅
途中の女医は路上に佇む少女を避けて事故を起こし、少女に
近づいたところで意識を失う。             
そして意識を取り戻したとき、女医は夫殺しの容疑で逮捕、
収監されていた。彼女は記憶を辿り少女と出会ったことを思
い出す。しかしその少女は、もはやこの世には存在せす、彼
女の発言を信用するものはいない。           
ダークキャッスルの作品であるから、もちろん超常現象が絡
むお話ではあるのだけれど、その存在を、ベリーの役を含め
て、クルスを除くほとんど全員が否定して始まるところが面
白い。しかもそれを徐々に信じなくてはならなくなる過程が
丁寧に描かれる。                   
確かにコケ脅かしのようなシーンや偶然が重なる展開もある
が、それ以上にこの作品ではドラマがしっかりと存在してい
ることに感心した。さすが敏腕製作者ジョール・シルヴァが
見抜いたカソヴィッツの手腕というところだ。      
中世の館のような刑務所の景観が良い感じだったし、その中
に設置された現代技術を駆使した施設にも現実感があった。
またそれが迷路のように描かれる演出も見事だ。それに、見
終って何となくほっとするような結末も良かった。    


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井口健二