井口健二のOn the Production
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2004年01月01日(木) 第54回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 明けましておめでとうございます。
 どうにか3回目の正月を迎えました。本年もよろしくお願
いします。
 ということで、早速、本年最初の話題は、ちょっと意外な
展開になったオスカー賞レースの情報から。
 前々回紹介した長編アニメーション作品賞部門の予備候補
に続いて、今回は視覚効果賞部門の予備候補が発表され、
“Hulk”
“The Lord of the Rings: The Return of the King”   
“Master and Commander: The Far Side of the World”  
“Peter Pan” 
“Pirates of the Caribbean:  
            The Curse of the Black Pearl”
“Terminator 3: Rise of the Machines” 
“X2”の7作品が挙げられた。
 この内、ニュージーランドのVFX会社Wetaが担当した 
“The Lord of the Rings”と、 Cinesite担当の“X2”を除
く5作は、いずれもILMの担当作品ということで、依然と
して同社の強さを見せつけた感じだ。ただし“Peter Pan”
には、ディジタル・ドメインとソニー・イメージワークスも
参加しているそうだ。
 というところで、このリストを見て気付かれた人も多いと
思うが、今回発表された予備候補の中に、『マトリックス』
の2作品が選ばれなかった。もちろんこの他にも“Bad Boys
2 Bad”や“Chharlie's Angels/ Full Throttle”など選ば
れなかった作品はいろいろあるが、やはり1999年度の受賞作
の続編についてはちょっと気になるところだ。
 これについてアカデミー委員会からの公式の説明はされて
いないが、実は今回、配給元のワーナーは、同じ年度中に2
作品が連続して公開された同作が、互いに票の喰い合いにな
るのを避けるため、敢えて『リローデッド』の推薦を止め、
『レボリューション』1本に絞る作戦に出ていた。ところが
一部の選考委員からは、『レボリューション』の視覚効果が
前作を上回っていないという意見が出て、そのために予備候
補からも外れてしまったということのようだ。
 しかし、FXシーンの数量では間違いなく、他の予備候補
のいくつかを上回っている作品が、候補に挙げられなかった
ことについては、疑問の声も上がってきている。
 ということで、『マトリックス』の続編が最終候補に挙が
る可能性は全く無くなってしまった訳だが、確かにワーナー
の作戦失敗の感は否めないものの、僕の感覚では、この2作
が1本で作られていれば、恐らくは物語も視覚効果も、もっ
とバランスの良い作品に仕上がっていたと思われる。特に、
『リローデッド』のハイウェイのシーンは映画史にも残る名
場面と思っていただけに、今回予備候補にもならなかったこ
とは、残念と言うほかはない。
 なお、最終候補は3本選ばれるが、その内“The Lord of
the Rings”と“Pirates of the Caribbean”は固いところ
だろう。で3本目は、“Master and Commander”と“Peter
Pan”はまだ見ていないが、“Hulk”か“Terminator 3”、
“Hulk”なら順当という気がする。そしてWetaとILMの対
決となる訳だが、ここでもし“The Lord of the Rings”が
受賞すれば、シリーズ3作が3年連続で受賞となるもので、
シリーズでは最初の『スター・ウォーズ』3部作、会社では
ILMが達成しているとは言うものの、これらを同時という
のは正に快挙と言えるものだ。
 全部門の候補の発表は1月27日、受賞式は2月29日の日程
になっている。
        *         *
 お次は、信条的にはあまり好まないが、一応報告しておき
たい話題で、先日行われたイラクのサダム・フセイン拘束作
戦に使われた名称のOperation Red Dawnが、実は1984年製作
のジョン・ミリウス監督作品『若き勇者たち』から採られた
という噂が広まっている。
 この作品は、原題が“The Red Dawn”というもので、作戦
名からOperationが取れたもの。これだけなら偶然の一致と
いうこともありそうだが、実は作戦の中で場所を示すのに使
われたWolverine One, Twoという名称が、映画の中で使われ
た主人公たちのチームの名前と同じだというのだ。
 ここまで来ると、確かに関連はありそうだが、元々『若き
勇者たち』という作品は、当時の政治状況を背景に、突然ソ
連に占領されたアメリカ合衆国の高校生グループが、山に立
て籠り占領軍にゲリラ戦を挑むというもので、正直に言って
かなり右寄りの作品。ミリウス自身がそういう政治思想の持
ち主ということで、さもありなんという作品ではあるが、軍
事関係者にはかなりファンも多いということで、今回の作戦
名に採用された可能性は高そうだ。
 因に映画は、パトリック・スウェイジ、C・トーマス・ハ
ウェル、それに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出る
直前のリー・トムプスンが主人公の高校生を演じ、アメリカ
のガイドブックでの評価は星1つ半となっている。
 ついでにミリウス監督の情報で、既報の“Conan”の新作
の計画は、アーノルド・シュワルツェネッガーのカリフォル
ニア州知事就任で実現不可能になってしまったが、ミリウス
自身は、彼の知事就任は大歓迎だとしているようだ。そして
ミリウスの次回作には、プロレスラーのトリプル・Hを主演
に抜擢したオートバイを使った西部劇の計画が進められてお
り、ミリウスは起用するレスラーに対して、次世代のシュワ
ルツェネッガーを期待しているということだ。
        *         *
 以下は、通常の製作ニュースを紹介しよう。
 まずは続報。第48回で紹介した“The Amityvill Horror”
の再度の映画化の計画が面白くなってきた。
 この計画で、前の紹介時にエメット/ファーラが進めてい
た計画は、その後、ミラマックス傘下のジャンルブランド=
ディメンションが買い上げ、さらにディメンションは、元々
の屋敷の住人だったジョージ・ランツから、映画化権と製作
への協力を取り付けて、製作準備を本格化させていた。
 これに対して、1979年版の映画の権利を保有するMGMも
リメイクの計画を立上げ、一時は競作の可能性も出てきてい
た。しかし現状での競作は共倒れになる可能性が大きいと判
断した両社は、このほど2つの計画を合体して、1本の映画
として進めることを発表したものだ。
 なお計画では、先に“The Texas Chainsaw Massacre”の
リメイクを成功させたマイクル・ベイ主宰のプラチナム・デ
ューンも参加し、基本的にはMGM作品のリメイクとするも
のの、その内容には、今回エメット/ファーラが用意したシ
ナリオの要素も取り入れるということだ。また、製作には、
両社が用意した予算が投入されるということで、かなりの製
作費が注ぎ込まれることになりそうだ。
 因に契約では、アメリカ国内の配給権をMGMが獲得し、
海外の配給はディメンションが行うということだが、前作は
日本でもかなりヒットしており、日本の配給権はどうなって
いるのだろう。
 また、今回の契約では、もう1本“True Believers”とい
う作品も共同で製作されることになった。
 この作品は、元はMGMが進めていたもので、実は『リン
グ』の中田秀夫監督のハリウッドデビューとなる作品。ホワ
イトハウスを目指す上院議員と、救世主となる子供を産むた
めに死刑囚と結ばれようとする女性との交流を描いたダグ・
リチャードスンの長編小説を、原作者自ら脚色したシナリオ
で映画化するものだが、当然、中田監督向きの捻りのあるも
のなのだろう。
 なお契約で、この作品のアメリカ国内の配給権はディメン
ション側が持つことになっており、同時に製作上の主導権も
同社が持つということだ。まあ、ジャンル映画を手掛ける会
社が主導権を握ることは良いことだが、親会社のミラマック
スの映画に関する姿勢の厳しさは定評のあるところで、中田
監督の頑張りにも期待したいところだ。
        *         *
 日本人監督のハリウッド映画進出の続きで、清水崇監督が
自ら手掛ける『呪怨』のハリウッドリメイクのヒロインに、
“Buffy the Vampire Slayer”と『スクービー・ドゥー』の
サラ・ミッシェル・ゲラーの主演が発表された。
 この映画化は、映画監督のサム・ライミと、製作プロダク
ションのセネター・インターナショナルが立上げたジャンル
ブランド=ゴースト・ハウス・ピクチャーズが製作するもの
で、撮影は1月27日から東京の東宝撮影所で行われるという
ことだ。またアメリカ配給は、ライミが優先契約を結んでい
るコロムビア=ソニーが担当することになっている。
 なおハリウッド版の映画化は、スティーヴン・サスコとい
う脚本家が、日本版オリジナルとその続編を含むシリーズの
全体から脚色したシナリオに基づいて行われ、題名は“The
Grudge”。「恨み」という意味のこの題名は、『呪怨』が海
外の映画祭で上映された際に付けられた副題だったようだ。
 またゲラー以外の配役は未発表だが、その他の配役もハリ
ウッド俳優で固められるはず。一方、ライミは製作者として
名を連ねてはいるが、年末には“Spider-man 2”の追加撮影
の噂もあり、ポストプロダクションも進行中のようで、ライ
ミ自身が現場製作者として仕事をすることはなさそうだ。
 因にゲラーは、“Scooby-Doo 2: Monsters Unleashed”の
撮影は既に完了しており、その後にMGMで撮影されている
パロディ作品“Romantic Comedy”の撮影が終了次第、来日
することになっている。注目度の高い女優の出演だけに、映
画の完成にも期待したいところだ。
        *         *
 続いてはリメイクの情報で、ディズニーがフレッド・マク
マレー主演で1959年に製作した“The Shaggy Dog”(ボクは
むく犬)を、ティム・アレンの主演で再映画化する計画が発
表された。
 オリジナルは、1997年にリメイクされた『フラバー』のオ
リジナルで1961年製作の“The Absent-Minded Professor”
(うっかり博士の大発明・フラバァ)などと並ぶディズニー
コメディの元祖とも言える作品。太古の呪文で大形犬に変身
させられた少年とその家族を巡るドタバタを描いたもので、
家族が変身した息子に寄せる愛情などが見事に描かれ、さす
がディズニーと思わせる作品になっている。
 またこの作品は、ディズニーコメディの正に第1作という
ことで、後の作品ほど洗練されてはいないものの根強いファ
ンが多く、1976年と87年に続編(後者はTVムーヴィ)と、
1994年にはTVMでリメイクもされているということだ。
 そして今回の計画は、ディズニーの製作で続編も作られた
“The Santa Clause”(サンタクローズ)などに主演のアレ
ンの計画として進められているもので、計画ではアレンが犬
に変身する呪文に取り憑かれることになっている。因に、大
人が呪文に掛けられるという設定は、第1作よりも1976年に
ディーン・ジョーンズ主演で製作された続編の“The Shaggy
D.A.”に近いものになりそうだ。
 さらに今回、この監督に『バーシティ・ブルース』などで
知られるブライアン・ロビンスの起用が発表されている。な
お、脚本は犬小屋一杯ほどもあるということで、7月の撮影
開始を目指して最後の調整が行われているようだ。
 またディズニーとアレンでは、本作に続けて“The Santa
Clause”第3作の計画も発表されている。 
        *         *
 この他のリメイク計画では、『チャイナタウン』の脚本で
オスカーを受賞したロバート・タウンが、アルフレッド・ヒ
ッチコックのイギリス時代の作品“The 39 Steps”(三十九
夜)に挑戦することが発表されている。
 この作品は、スコットランド出身の著述家で、イギリス政
府の情報部長から後にはカナダ総督にもなったジョン・バッ
カンが1915年に発表した原作を映画化したもので、第1次大
戦直後のイギリスを舞台に、ギリシャ首相暗殺計画のかぎを
握るスパイを殺したと疑われた主人公が、警察とスパイ団の
両方から追い回されるというお話。ヒッチコックの映画化で
は、かなりコメディタッチの演出が行われていた。
 そしてこの作品のリメイクは、既に1959年と78年の2回、
いずれもイギリスで行われており、今回は4回目の映画化と
なるものだ。なお製作は、カールトン・メディア・グループ
のカールトン・アメリカで行うが、実はこの会社は、ヒッチ
コックの1935年作品から、59年、78年作品の権利も所有して
おり、つまりは本家本元のリメイクということになる。
 またタウンは、今回の計画では脚本と監督も担当すること
になっているが、この作品については、「現在の逃走ものの
作品の全ては、ヒッチコックのこの作品から始まったものと
言って過言ではない。自分の作品もそのように言われるよう
なものにしたい」と抱負を語っているそうだ。
 なお、カールトンではこの他に、アイラ・レヴィンの原作
で、1979年に映画化された“The Boys From Brazil”(日本
未公開)と、人類初の有人火星探査を題材にして、1977年に
映画化された“Capricon One”(カプリコン・1)のリメイ
クも計画しているということだ。
        *         *
 後は新しい計画で、
 最初にパラマウントから、“The Girl Who Could Fly”と
題されたロアルド・ダール作品スタイルのシナリオを、6桁
($)の契約金で獲得したことが発表された。
 このシナリオは、元はロジャー・コーマンの下で“Cry of
the White Wolf”や“Captain Justice”などの脚本を担当
していたヴィクトリア・レイクマンという脚本家が執筆した
もので、お話は、11歳の農場暮らしの少女が、自分が空を飛
べることを発見するところから始まる。
 ところが彼女は、Ministry of Anomoalous Developmental
Needs and Extra-normal Social Services(通称Madness)
と呼ばれる組織に拉致され、さらに南極の永久凍土の下に設
けられた教育機関Institute of Normality, Stability and
Non-Exceptionality(通称Insame)で特殊な能力を失うよう
に矯正される。しかし彼女は、いろいろな能力を持った仲間
と協力して、大人たちを負かしてしまう、というもの。
 確かにダールが書きそうなお話だが、この映画化にはかな
りの視覚効果の投入などで大型の予算規模が予想され、長く
低予算映画の製作に携わってきたレイクマンは、「自分の脚
本がそのような映画化を目指してパラマウントと契約された
ことに、大変なスリルを感じている」ということだ。
 またこの計画と同時に、パラマウントからはもう1本、マ
ーシャル・スミスという作家が1997年に発表した“Spares”
というSF作品の映画化の計画も発表されている。
 このお話は、子供の成長期の医学的な問題を解決するため
に、子供の誕生と同時にそのクローンを作ることが行われて
いる未来社会で、スペアーと呼ばれるクローンに人間として
の教育を与えようと試みた看護師の物語。もちろんその時代
においては大変なタブーに挑戦することになる訳で、当然そ
こでのトラブルが題材となるものだ。
 そしてこの映画化の製作を、年末にアメリカで公開された
パラマウントとドリームワークス共同製作によるフィリップ
・K・ディック原作の映画化“Paycheck”で脚本を担当した
ディーン・ジョーガリスが手掛けることが発表されている。
 ただし今回の計画で、ジョーガリスが脚本を担当するとは
されていないが、製作担当であればそれなりの手腕は発揮す
ることだろう。なお上記のダールスタイルの作品も、ジョー
ガリスが製作を担当している。
        *         *
 続いては、製作主演作の『シービスケット』と、製作作品
の『25時』が近日公開されるトビー・マクガイアの計画で、
アンディ・ベアマンのメモワールによる“Electroboy”とい
う作品に製作主演することが発表されている。
 この作品は、28歳の躁欝病の贋作者で詐欺師の男が、自ら
の性体験や薬物体験や、その治療のための電気ショック療法
などを赤裸々に綴ったもので、かなりの問題作のようだ。し
かしこの作品は、その背景となる1990年代という時代を最も
よく表わしているということで、この原作には、商業作品で
あると同時にそれ以上に意味のある作品になる要素がある、
と考えられているようだ。
 そしてこの脚色に、『ニューオーリンズ・トライアル』を
手掛けたマシュー・チャップマンが起用され、マクガイアの
“Spider-Man 2”のプロモーションなどが終る今年夏からの
撮影を目指して準備が進められているということだ。
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 もう1本は、ニコール・キッドマンとショーン・ペンの共
演、シドニー・ポラックの監督で、“The Interpreter”と
いう作品が進められている。
 この作品は、キッドマン扮する南アフリカ出身の国連通訳
の女性が、政府転覆を図る暗殺計画を聞いてしまったことか
ら、ペン扮する懐疑的なFBIのエージェントと共に、その
解明に乗り出すというもの。『コンドル』などの作品もある
ポラックが得意とする、陰謀と時間に追い捲られる政治スリ
ラーということだ。
 チャールズ・ランドルフという人の脚本で、ワーキング・
タイトルとユニヴァーサルが共同製作する。
        *         *
 最後にちょっと驚きのニュースで、4月に撮影開始が予定
されているシリーズ第4作“Harry Potter and the Goblet
of Fire”の出演者に、ダニエル・ラドクリフ、ルパート・
グリント、エマ・ワトスンの名前があることは以前に紹介し
たが、最新の製作リストによるとさらに2人の名前が追加さ
れ、そこにはまずマギー・スミスと、ローワン・アトキンス
ンの出演が発表されている。
 アトキンスンは言うまでもなくMr.Beanその人だが、2002
年の『スクービー・ドゥー』のゲスト出演に続いて、今度は
現状でのワーナーの稼ぎ頭のシリーズにも登場することにな
ったものだ。なお、役柄は発表されていないが、情報による
と昨年の5月頃からヴォルテモート役への出演交渉が行われ
ていたと言うことで、恐らくはその役ということだろう。 
 それにしても、イギリス人の「名前を言ってはいけないあ
の人」のイメージはああいう感じだったのだろうか。


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