井口健二のOn the Production
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2003年12月15日(月) 第53回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、前回に続いて動きが加速してきたこの話題から。
 前回、マイクル・ケインのアルフレッド役出演を報告した
デイヴィッド・ゴイヤー脚本、クリストファー・ノーラン監
督、クリスチャン・ベイル主演による“Batman 5”(仮題)
の配役について、さらにバットマンの恋人役と、今回の悪役
が発表されている。                  
 まず、恋人役には、今回はレイチェルという役名が紹介さ
れているが、そのレイチェル役に、ケイティ・ホームズの起
用が発表された。                   
 ホームズは、本年11月2日付映画紹介欄に掲載した『ケイ
ティ』で主人公のケイティ役を演じていた他、『フォーン・
ブース』などにも出演しているが、1996年にアン・リー監督
の『アイス・ストーム』で映画デビューの後、人気テレビシ
リーズ“Dawson's Creek”でブレイクした新進女優で、カー
ティス・ハンスン監督の『ワンダー・ボーイズ』や、サム・
ライミ監督の『ギフト』などにも出演している。また、近作
“The Singing Detective”にも出演しているようだ。   
 一方、今回の悪役には、6月16日付の映画紹介欄に掲載し
たイギリス映画『28日後...』に主演していたキリアン・
マーフィの出演が発表された。             
 バットマンの悪役では、第1作のジャック・ニコルスンに
よるThe Jokerから、ダニー・デ=ヴィートのThe Penguin、
ミシェル・ファイファーのCatwoman、トミー・リー・ジョー
ンズのTwo-Face、ジム・キャリーのThe Riddler、ユマ・サ
ーマンのPoison Ivy、アーノルド・シュワルツェネッガーの
Mr.Freezeと、ハリウッドの人気スターがヘヴィーなメイク
で演じるのが決まりとなっていたものだが、今回は1974年生
まれの、しかもイギリス人の俳優が演じるもので、かなり思
い切った改革が行われているようだ。          
 なお、ゴイヤーが執筆した脚本については、厳重に秘密が
守られていて、今回の悪役が何になるかは明らかにされてい
ないが、噂ではラズオルグル、あるいはスケアクロウという
説が強い。この内、スケアクロウは言うまでもなく案山子の
イメージだが、これに対してラズオルグルというのは、コミ
ックスでは1971年に初登場したキャラクターで、絵を見る限
りはバットマンと同様の筋骨隆々という感じのものだ。  
 そこで、そのキャラクターにマーフィのイメージが合致し
ているかどうかというところだが、実はマーフィは、最初は
バットマン役でスクリーンテストを受けたものの、それを見
たノーランが悪役への配役を決めたということで、監督の見
たマーフィのイメージは、一体どちらなのだろうか。因にこ
の悪役には、一時“The Lord of the Rings”のアラゴルン
役ヴィゴ・モンテンセンの名前も挙がっていたようだ。  
 ということで、2004年の撮影開始、2005年の公開予定で準
備は着々と進んでいるようだが、それにしても、監督以下、
見事にイギリス人の出演者で固められたものだ。映画の舞台
は当然ゴッサムシティのはずだし、台詞はアメリカ英語でな
ければ困る訳で、この辺りに多少の不安は残るところだが、
その中で、唯一のアメリカ人俳優のホームズには注目が集ま
りそうだ。                      
        *         *        
 続いては続編の情報で、第50回で報告した『パイレーツ・
オブ・カリビアン』の続編の題名がスクープされた。   
 この続編に関しては、先にゴア・ヴァービンスキー監督、
脚本のテリー・ロッジオ、テッド・エリオットの再登板と、
ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイト
レイの再登場、そして2部作で製作されることが発表されて
いるが、今回の情報で、その続編の題名が“Pirates of the
Caribbean: Treasures of the Lost Abyss”になると報告
されている。                       
 因に前作の原題“Pirates of the Caribbean: The Curse
of the Black Pearl”の中で、The Black Pearlというのは
デップ扮するジャック・スパロウ船長が乗船する海賊船の名
前だったが、今回の題名でThe Lost Abyssは、カリブ海に現
れた最初の海賊船の名前という設定だそうだ。      
 なおこの情報は、前作にも参加したFX工房ファンタシー
IIの下請けをしている会社から流れたようだが、すでにFX
合成用のスケッチ(それに付された題名のようだ)なども出
来てきているということで、準備は進んでいるようだ。  
 またデップは、2004年の10月以降のスケジュールを撮影の
ために空けているという情報もあり、2005年夏の公開に向け
て準備は着々という感じだ。              
 一方、ついでと言っては何だが、ヴァービンスキー監督の
情報で、監督の次回作の、2004年2月17日からシカゴで撮影
開始されるニコラス・ケイジ主演による“The Weatherman”
が、パラマウントで製作されることになった。      
 この作品は、シカゴのテレビ局でお天気キャスターを務め
いていた主人公が、疎遠になっていた妻と子供とのよりを戻
そうとシカゴを離れニューヨークにやってくるというもの。
“Wrestling Ernest Hemingway”などのスティーヴ・コンラ
ッドの脚本を、争奪戦の末にエスケイプアーチスツが獲得し
たもので、当初は本拠を置いているソニーで製作を進めてい
たが、ソニー側が計画を断念したために、パラマウントに移
して計画を進めることになっている。          
 ケイジの相手役には、『アバウト・シュミット』などのホ
ープ・デイヴィスも発表されており、『ザ・リング』『パイ
レーツ』に続くようなFX多用の作品ではなさそうだが、ヴ
ァービンスキーは、『ザ・リング』の続編を断ってこの作品
に参加しているものだ。そしてこの作品に続けて、『パイレ
ーツ』の続編ということになりそうだ。         
        *         *        
 お次は、“Kill Bill Vol.2”の公開が待たれるクェンテ
ィン・タランティーノ監督の次回作について、“Inglorious
Bastards”という作品の噂が広がっている。       
 この作品は、2001年の夏、当時ユマ・サーマンの妊娠が発
覚して『キル・ビル』の撮影が1年以上遅れると判明した頃
にも話題になったもので、実は、企画自体は『キル・ビル』
よりも前から立てられていた。             
 内容は、1968年の“Where Eagles Dare”(荒鷲の要塞)
や、1967年の“The Dirty Dozen”(特攻大作戦)のような
第2次世界大戦を背景に、特別な作戦に駆り出された男たち
を描く大型アクション映画ということで、2001年夏の時点で
タランティーノは、戦争映画についてのリサーチと、脚本も
半ば書き上げていたと言われている。しかしサーマンとの再
会で、一時脇に置かれてしまったということだ。     
 その企画が次回作として取り沙汰されているものだが、女
性中心の『キル・ビル』の後に男性中心の戦争映画というの
も、バランスが良いと言えそうだ。           
 因に『荒鷲の要塞』は、『ナバロンの要塞』などの冒険小
説作家アリステア・マクリーンの原作、脚本によるもので、
出入りの手段はケーブルカーのみというドイツ軍の山岳要塞
に閉じ込められたアメリカ軍将校の救出作戦を描いた作品。
リチャード・バートン、クリント・イーストウッドらの主演
で映画化され、連続活劇の復活と言われたものだ。    
 また、『特攻大作戦』については、6月16日付映画紹介欄
の『ミニミニ大作戦』の記事にも少し書いたが、元はE・M
・ネイザンスンという作家の小説を、『ミニミニ…』の脚本
家コンビが脚色したもので、12人の殺人犯を含む犯罪者が、
第2次大戦下の戦場で、自らの自由を勝ち取るために危険な
任務に取り組むというもの。『ミニミニ…』の流れで判るよ
うにコメディタッチで描かれた作品だ。         
 それにしても、これらの作品からタランティーノは一体ど
のような戦争映画を作ろうとしているのか、製作は優先権を
持つミラマックスになるはずだが、いずれにしてもかなり大
型の予算規模の作品になりそうで、楽しみだ。      
 なお、タランティーノの次回作ではもう1本、ジョン・ト
ラヴォルタとサミュエル・L・ジャクスンのパイロットに、
パム・グリアのステュワーデスで、“Airplane 2005!”とい
う情報もあったが、これは監督のジョークだったようだ。 
        *         *        
 ちょっと気になる話題で、1980年に公開されたタイムスリ
ップものの大作“The Final Countdown”(ファイナル・カ
ウントダウン)などを手掛けた製作者のピーター・ダグラス
が、フィラデルフィアに本拠を置くスポーツチャンネルなど
を経営する資産家のエド・スナイダーと手を組み、1本当り
3000万ドルから1億ドルの製作費の大作を中心とした製作会
社を設立。しかもこの新会社では、SF映画を中心に映画製
作を進める意向のようだ。               
 そして、その新会社の製作計画が発表されている。   
 まず1本目は、ローランド・エメリッヒの盟友ディーン・
デヴリンが主宰するエレクトリックと、『スチュアート・リ
トル』のロブ・ミンコフ主宰のスプロケットダインとの共同
製作で“Mysterious Planet”。             
 見るからにSFという感じの題名だが、お話は、宇宙探検
隊のメムバーが美しい景色の星を発見して降り立つがそこは
危険な惑星だったというもの。題名からは『禁断の惑星』や
ジュール・ヴェルヌの『神秘島』を連想するが、マルコ・シ
ュナベルという人の脚本から、ディズニーアニメーションの
『美女と野獣』を手掛けたカーク・ワイズが監督することに
なっている。                     
 お次は“Seven Days in May”。1963年製作、ジョン・フ
ランケンハイマー監督の『5月の7日間』のリメイクで、冷
戦時代の物語を現代に置き換えて再構築するということだ。
脚本はマット・マンフレディとフィル・ヘイ。      
 そしてもう1本SFは“Outward Bound”。マシュー・ウ
ェスという人の脚本で、遠隔の惑星に送り込まれた非行少年
たちの「矯正野外プログラム」を描いたものだそうだ。  
 この他、ロバート・デ=ニーロ主宰のトライベカと共同製
作するコメディ作品で、破産した主婦が犯罪に走る姿を描い
たアンドリュー・チャップマン脚本の“Number One”。  
 冬期オリムピックで大怪我をしたスキージャンパーの社会
復帰をコメディタッチで描いたクリス・フェイバー、ダニー
・バロン脚本の“The Agony of Defeat”。        
 デイヴィッド・モレルの原作をミッチ・ブライアンが脚色
し、ロバート・シュエンティケが監督する作品で、西部の小
さな町に隠された秘密を巡るスリラー“The Totem”。   
 ジェニー・スナイダーとヴィクトリア・ウェブスターの脚
本で、5人姉妹とその弟の婚約を巡るロマンティック・コメ
ディ“The Boy”などが計画されている。         
 なおこの新会社には、元CAAのタレントエージェントの
ロブ・パリスも参加しており、その伝ではいろいろなタレン
トも集まる可能性もあるということで期待したいところだ。
        *         *        
 後は、いろいろな話題を紹介しよう。         
 まずは、来春公開が予定されているラース・フォン・トリ
アー監督の『ドッグヴィル』に続く作品“Manderlay”に、
『ビューティフル・マインド』ロン・ハワード監督の娘で、
M・ナイト・シャマラン監督の“The Village”にも出演し
ているブライス・ダラス・ハワードの主演が発表された。 
 この作品は、『ドッグヴィル』を第1作とするフォン・ト
リアー監督のアメリカ3部作の第2作となるもので、当初は
前作に主演したニコール・キッドマンの再演が予定されてい
た。しかしスケジュールの都合などで叶わなかったもので、
その代役としてハワードの起用が発表されたものだ。   
 因にハワードは、“The Villege”でも当初“The Woods”
という題名だった作品にキルスティン・ダンストに代って起
用され、映画デビューとなったもので、続けての代役でビッ
グチャンスをつかんだという感じだ。          
 なお、フォン・トリアー監督の新作は、前作と同様30年代
のアメリカ中西部を舞台としたものだが、前作と同じく撮影
はすべてセットで行うもので、2004年3月1日からスウェー
デンのトロールハッタンのスタジオで開始されることになっ
ている。かなり実験的な作品だが、舞台経験もあるハワード
には向いていると言えそうだ。              
        *         *        
 またまた往年のテレビシリーズからの映画化の計画で、ア
メリカでは79〜85年の6年間に亙って放送された“Dukes of
the Hazzard”(爆発!デューク)の脚本に、“Starsky &
Hutch”の映画化にも参加しているジョン・オブライエンの
起用が発表された。                  
 お話は、南部の町ハザードを舞台に、ルークとボーのデュ
ーク兄弟が、町の顔役やその義兄弟の悪徳保安官と闘いを繰
り広げるというアクションコメディ。軽快なバンジョーの音
楽に乗せてクラシックカーがカーチェイスを行うなど、若者
にターゲットを絞った設定で人気を得ていた。      
 そして、この計画自体は数年前から公表されていたものだ
が、2004年3月5日の“Starsky …”の全米公開を控えて、
次なる計画のスタートとなったようだ。なお主演には、以前
の情報ではアシュトン・カッチャーとポール・ウォーカーが
予定されていた。                   
        *         *        
 2004年には“Pitch Black”の続編の“The Chronicles of
Riddick”が公開されるヴィン・ディーゼルの新作として、
“The Pacifier”という題名のアクションコメディへの出演
契約を結んだことが発表された。            
 この作品は、スパイグラス製作、ディズニーが配給するも
ので、お話は、潜入捜査官の主人公が重要な国家機関の科学
者の警護に失敗し、さらにその家族に危険が及ぶことからそ
の子供の警護を命じられるが、これが最もきつい仕事だった
というもの。                     
 子供を絡めたアクションコメディでは、シュワルツェネッ
ガーの『キンダーガートン・コップ』などが思い浮かぶが、
43歳で役に挑んだシュワルツェネッガーより7歳若いディー
ゼルが、どのような奮闘ぶりを見せてくれるか楽しみだ。脚
本はトーマス・レノン。監督は未定。撮影は04年春に開始の
予定になっている。                  
        *         *        
 『ニューオーリンズ・トライアル』のジョン・グリシャム
原作による“Skipping Christmas”というコメディ作品を、
クリス・コロムバスの脚色、ティム・アレン主演で、リヴォ
ルーション・スタディオ社長のジョー・ロスが監督すること
になった。                      
 お話は、商業主義のクリスマスに嫌気の差した主人公が、
その期間は妻と一緒に旅行に行くことを決めるが、最後の瞬
間に家出していた娘が帰宅して、急遽お祝いをしなければな
らなくなるというもの。                
 因にロスは、出発は監督だが、その後映画各社の社長を歴
任していたもので、コロムバスとはフォックス時代に『ホー
ム・アローン』で、アレンとはディズニー時代に『サンタ・
クローズ』で組んだ間柄。いつかまた一緒に仕事をしていた
いと思っていたそうだ。なおロス監督の近作には、01年製作
の『アメリカン・スウィートハート』がある。      
        *         *        
 ジョージ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグが主
宰するワーナー傘下のプロダクション=セクション8から、
“Syriana”という作品を進めることが発表された。    
 この作品は、CIAの捜査官として20年間在籍したという
ロバート・ベアが発表した“See No Evil: The True Story
of a Foot Soldier in the CIA's War on Terrorism”とい
う実録本を映画化するもので、ワーナーとセクション8では
2年前にこの原作本の映画化権を契約していた。     
 そしてこの脚色を、『トラフィック』でオスカーを受賞し
たスティーヴン・ギャグハンが担当していたものだが、この
ほどそれが完成し、ギャグハンの監督で映画化を進めること
になったというものだ。また主演は、クルーニーが希望して
いるということだ。                  
 なお、クルーニーの計画では、ソダーバーグの監督による
“Ocean's Twelve”が年明けから撮影開始の予定だが、今回
の作品はそれに続けて撮影されるということだ。     
 因にギャグハンは、“Abandon”という作品で監督デビュ
ーを飾った他、ディズニー製作の大作西部劇“The Alamo”
の脚本にも参加している。               
        *         *        
 ダークキャッスル製作のゴシックホラー“Gothika”を担
当した脚本家セバスチャン・グティーレスが、1995年製作の
イギリス映画“Mute Witness”(ミュート・ウィットネス)
のリメイクを手掛けることになった。          
 この計画は、『17歳のカルテ』などのジェームズ・マンゴ
ールドが進めているもので、内容は、3人のアメリカ人がロ
シアを舞台にした映画を作ろうとし、その過程でロシアの裏
社会とつきあうことになるが、その中で口の聞けないメイク
アップアーチストが殺人事件を目撃してしまうというもの。
外国のしかもかなり危険な状態で事件に遭遇する恐怖を描い
た作品で、素晴らしい出来映えの作品ということだ。   
 しかしオリジナルは、マンゴールドに言わせると、「如何
にも低予算で作られたという作品で、もっと大がかりな作品
に作り直す価値がある」と判断したそうだ。       
 なお計画は、スパイグラスとマンゴールド主宰でソニー傘
下のツリー・ラインで行われるが、マンゴールドには次回作
が決まっており、本作の監督はしない予定だそうだ。   
        *         *        
 最後にちょっと残念なニュースで、 第30回と第36回でも
紹介したDCコミックス“Shazam !”の映画化で、第36回で
報告したウィリアム・ゴールドマンの脚色がまとまらず、デ
ィズニーで“Cheaper by the Dozen”のリメイクを手掛けた
ジョエル・コーエンとアレックス・ソコーロフに交代される
ことが発表された。
 因に、コーエンとソコーロフは、『トイ・ストーリー』の
脚本家としても知られており、コミックス系の作品には好適
と言えそうだ。ゴールドマンの脚本でなくなったことは残念
だが、これで早期の実現を期待したい。


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井口健二