井口健二のOn the Production
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2003年12月02日(火) ラブ・アクチュア、タイムライン、デッドロック、ショコラーデ、レジェンド・オブ・メキシコ、N.Y.式ハッピー・セラピー、牙吉、コール

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ラブ・アクチュアリー』“love actually”       
九つか十の恋愛物語が同時進行するアンサンブルドラマ。 
アンサンブルドラマというと、最近作ではロバート・アルト
マン監督の『ゴスフォード・パーク』が話題になったが、一
応核になるストーリーのあったアルトマン作品に比べて、本
作は全くそういうものがなく、いくつもの物語が独立して見
事に進行する。                    
しかもそれぞれの物語は独立しているのだが、それらが着か
ず離れず微妙に連携しているところも見所で、全く関係ない
はずの人物がおやと思うようなところに登場したりする。そ
の辺りの組み立ても見事な作品だった。         
そしてこのアンサンブルドラマを、エマ・トムプスン、アラ
ン・リックマン、ヒュー・グラント、キーラ・ライトレイ、
ローワン・アトキンスン、リーアム・ニースンという、本当
の意味で、今のイギリス映画を代表する人たちの共演で描く
のだからたまらない。                 
特にグラントのイギリス首相なんか、出てくるなり「有り得
ない」という感じなのだが、その首相が、ビリー・ボブ=ソ
ーントン扮するアメリカ大統領と対立して、とんでもない反
撃の演説をする辺りは、イギリス国民ならずとも喝采してし
まうところだ。                    
実際これだけの恋愛ドラマを描いた脚本の良さもあるだろう
が、これだけの物語を混乱を生じることなく手際よく並べて
みせた演出の手腕も素晴らしい。そしてこれらの物語のどこ
かに自分がいるような、そんな気持ちにさせてくれるところ
も素晴らしかった。                  
物語の最初と最後は、空港の到着ロビーの風景で、一般の人
たち(?)のいろいろな再会のドラマが写し出されるが、特
に最後は一体どれだけの時間撮影したのだと言いたくなるよ
うな見事なコラージュが美しい。            
そしてその最後に、一瞬ハートが浮かび上がるところをお見
逃しないように。                   
                           
『タイムライン』“Timeline”             
マイクル・クライトンのベストセラーの映画化。     
『アンドロメダ…』で『宇宙戦争』、『ジュラシック・パー
ク』で『失われた世界』、『ターミナルマン』で『フランケ
ンシュタイン』、『スフィア』で『チャレンジャー海淵』な
ど、様々のSF名作に挑んできたクライトンが、ついに『タ
イムマシン』に挑戦した作品。             
と言ってもこの作品は、ウェルズのように遠い未来に行くの
ではなく、600年前の英仏百年戦争の時代が目的地になる。
そして、その地で行方不明になり、発掘中の遺跡を通じて救
援を求めてきた老考古学者の救出作戦が物語の中心だ。  
まあ、正直に言ってクライトンという作家は、アイデアは面
白いがストーリーテリングは巧い方ではない。この作品も、
原作は読んでいないが、映画を見た限りでは展開がかなり荒
っぽいというか、よく言ってテンポが良過ぎる。     
しかしこの荒い作品を、さすがにヴェテランのリチャード・
ドナー監督は見事にまとめ上げてみせる。特に、映画の後半
でフランス軍の総攻撃が始まった辺りからの畳み掛けるよう
な展開の巧さは、見事としか言いようのないものだ。   
前半、登場人物たちの馬鹿さ加減にちょっと退き気味だった
僕も、後半になって映画にのめり込めた感じがした。特に結
末に至るというか、現代と過去を絡めた伏線の敷き方が、タ
イムパラドックスも含めて巧くできている感じがして、好ま
しく思えた。                     
                           
『デッドロック』“Undisputed”            
監獄で行われるボクシング試合を題材にしたウォルター・ヒ
ル監督作品。                     
主人公は10年間67戦無敗の監獄ボクシングのチャンピオン。
彼のいる同じ監獄に、現役の世界ヘヴィー級チャンピオンが
収監されてくる。世界チャンピオンは有名であることを盾に
所長を手懐け、監獄を我が物にしようとするが…。果たして
真のチャンピオンはどちらなのか。           
このお話を、監獄チャンピオンに『ブレイド』のウェズリー
・スナイプス、世界チャンピオンを『コン・エアー』のヴィ
ング・レエム、その他、ピーター・フォーク、ウェス・ステ
ューディなどを脇に据えて描くのだから、さすがヒル監督と
いう感じの作品だ。                  
しかも、脱税で収監された元プロモーターという役柄のフォ
ークが、ボクシングの歴史を語り続け、それに実際の試合の
記録フィルムが挿入されるという念の入れようで、ファンが
見たらたまらない作品ということになりそうだ。     
まあ物語は、ご想像の通りスナイプスとレエムの壮絶な試合
へと向かうのだが、これが当然フェイクではあるものの、逆
に充分に演出された作品という感じで、巧い展開になってい
た。この辺もさすがウォルター・ヒルというところだろう。
なお、スナイプスが髭を落とし、冷静沈着な監獄チャンピオ
ンという、『ブレイド』とは全く違った演技を見せているの
も見物だった。                    
                           
『ショコラーデ』“Meschugge”             
世界大戦の終戦から60年近く経って、いまだに癒えていない
傷跡を描いたドイツ映画。               
ユダヤ人一家の経営するチョコレート工場がネオナチに襲撃
され放火される。その事件を切っ掛けに、ナチスの迫害を逃
れてアメリカに渡ったユダヤ人女性が自分の家族の消息を知
ろうとするが、それは戦後60年間隠されていた重大な秘密を
暴いてしまう。                    
実際にこのような話があったのかどうかは解からないが、実
に巧くできたお話で、本当にあってもおかしくないような感
じがした。それにしてもドイツは、いまだにこのような贖罪
の物語を描き続けている訳で、その辺の国民性には頭が下が
る。                         
製作は、以前に『ネレ&キャプテン』を紹介したXフィルム
ス。先の作品は東西分裂ドイツの問題を描いていたが、今度
はナチスに関わる問題で、一つの国でこんなにもいろいろな
問題を解決しなければならないということにも、今更ながら
ショックを受けた。                  
もちろんドイツにだって、アウシュヴィッツはなかったと主
張している連中はいるようだが、その類のことを記者会見で
平然と公言してはばからない政治家がいないだけ、国民性が
真摯だということだろう。               
すでに戦争があったのかどうかさえも解からないような日本
人との感覚の違いには、まるで異次元に迷い込んだような感
覚さえした。                     
                           
『レジェンド・オブ・メキシコ』            
            “Once Upon a Time in Mexico”
『スパイキッズ』のロベルト・ロドリゲス監督が1993年に発
表したデビュー作『エル・マリアッチ』から数えればシリー
ズ第3作、ただし2作目の『デスぺラード』は第1作のリメ
イクということになっているから、その意味では第2作とな
るアクション映画。                  
メキシコのクーデターを背景に、CIAの捜査官や麻薬王、
将軍、伝説のガンマンなどが入り乱れる。        
物語は、ジョニー・デップ扮するCIA捜査官サンズから始
まる。クーデターの動きを察知しているサンズは、それに乗
じてある作戦を巡らせている。そしてその手立てとして、2
つの町を一人で全滅させたという伝説のガンマン、エル・マ
リアッチを探し出す。                 
クーデターは麻薬王バリーリョとマルケス将軍が手を結んで
進めている。そこでサンズはマリアッチを雇い、首謀者マル
ケス将軍の殺害を依頼する。しかしマリアッチとマルケスの
間には、マリアッチの妻と娘を巡る因縁があった。    
マリアッチ役のアントニオ・バンデラスと、その妻カロリー
ヌ役のサルマ・ハエックは、『デスペラード』と同じ役を演
じている。その意味では続編としてのつながりはあるが、全
体的にはそのような経緯は余り関係がない。       
今回は、クーデターを巡って、その陰で上手く立ち回ろうと
する男たちと、実直に自分の意志を貫く男たちの物語だ。実
際の話、前作『デスぺラード』では後半のこれでもかという
銃撃戦が見所だったが、今回はもっとちゃんとしたドラマを
見せてくれる。                    
それでも、銃撃戦を中心としたアクションの凄まじさは、前
作の味わいをしっかりと再現している。それに加えてドラマ
とロドリゲス特有のユーモアが盛り込まれているのだ。  
なお原題はOnce Upon a Timeとなっているが、映画の中では
テレビはワイドスクリーンだし、携帯電話も使われている。
使用される銃器も現代のものということで、背景は現代なの
だが、それを敢えて原題のように言っている辺りがロドリゲ
スらしさと言える。                  
それにしても、デップが撮影に参加したのは9日間だけだっ
たという情報もあるのだが、映画は完全にバンデラスとデッ
プの2人主役。さすがにデップのシーンでは、周到な準備を
必要とするような大掛かりなアクションはないが、それが逆
にバンデラスの動と、デップの静の対比のようにもなってい
て、上手い構成になっていた。             
なお、音楽は全体がマリアッチで綴られるが、バンデラスと
デップ、それに元FBI捜査官役のルーベン・ブラデスは自
分の登場シーンの作曲も担当している。また、エンディング
の歌曲はハエックが歌っているなど、音楽も注目の作品だ。
                           
『N.Y.式ハッピー・セラピー』“Anger Management” 
アダム・サンドラー、ジャック・ニコルスン共演のコメディ
映画。                        
アメリカでは大人気のサンドラーのコメディで、この作品も
4月にナンバー1ヒットを記録している。ところが僕はどう
も彼のコメディが性に合わず、特に『リトル・ニッキー』や
『変心パワーズ』のようなファンタシー系の作品がお手上げ
だったものだ。                    
しかし『ウェディング・シンガー』にはそれなりに共感した
ところもあり、今回は共演がマリサ・トメイとニコルスンな
ら、そう酷くはなるまいという気分で見に行った。で、その
結果は、ちょっと期待以上という感じで、特に、クライマッ
クスではかなり良い気分に浸れた。           
主人公は全く自分を主張できない男。昇進を口約束されて企
画会社に勤めているが、仕事は上司の下働きばかり、しかも
上司に昇進の希望を言うことすらできない。       
そんな主人公が、ちょっとした誤解から、搭乗した旅客機の
フライトアテンダントに暴行したとして逮捕される。そして
裁判所の判事に、怒り抑制セラピー教室への参加を命じられ
たことから、彼の人生が狂い始める。          
その教室のセラピストは、彼の怒りを抑制するどころか、煽
りたて、彼は自分でも思いもよらない怒りに見舞われて、ど
んどん深みに引き摺り込まれてしまうのだ。       
セラピストと患者のコメディでは、続編も作られたロバート
・デ=ニーロ、ビリー・クリスタル共演の『アナライズ・ミ
ー』が思い浮かぶが、本作はニコルスンがセラピストなのだ
から話はちょうど逆。それにしてこのセラピストはかなりや
ばい。                        
確かにお話にはかなりの無理もある。それをニコルスンの演
技力などで強引に見せられてしまう感じだ。しかしそれぞれ
のギャグや展開には嫌みがなく、最後は見事にカタルシスを
感じさせるなど、上手く構成されていた。        
それとキーとなる音楽に、『ウェストサイド物語』のI Feel
Prettyが使われているのも良い感じだった。そういえば、
『アナライズ・ユー』でも『ウェストサイド』の楽曲が使わ
れていたが、やはりニューヨークには一番似合う音楽のよう
だ。                         
                           
『跋扈妖怪伝・牙吉』                 
『さくや妖怪伝』の原口智生監督による劇場映画第2作。 
前作は公儀妖怪討伐の侍の娘と河童の少年を主人公に、人間
の側から妖怪との戦いを描いたが、本作では、人狼の血を引
く男を主人公に妖怪側からの人間との戦いが描かれる。  
主人公の牙吉は腕の立つ浪人。今しも襲いかかった河童の一
味を難なく打ち倒し、近江百井藩のとある宿場町にやってく
る。                         
百井藩は国境に関所を設けず、往来を自由にしていたが、そ
れは藩の家老と手を結んだ妖怪が、諸国の悪人をおびき寄せ
ては喰らうための策略だった。そして家老は、悪人討伐の手
柄で筆頭家老になったときには、妖怪たちに安住の地を与え
ると約束していた。                  
そんな宿場にやって来た牙吉は、妖怪の頭目の鬼蔵から協力
を求められる。しかし過去に人間を信じたために仲間を失っ
た牙吉には、人間との約束などは信じられなかった。そして
牙吉の危惧が現実となる日がやってくる。        
元々特撮造形の第一人者として知られる原口監督は、本作の
特撮ではCGIを排して、特にクライマックスの闘いのシー
ンでは、ワイヤーから火薬まで、ほとんどが実写指向で映像
を造り出している。                  
この特撮をどう見るかは、見る側のスタンスにも拠るが、例
えば『マトリックス』では、1が一番、3が三番の順で好き
な僕としては、やはり生身の人間が演じていることの魅力は
大きいものがある。チープといえばチープだが、それも魅力
ということだ。                    
それから、京都撮影所を使った時代劇は、周囲が背景を熟知
している魅力もある。特にファンタシー系の日本映画では、
監督の指向はあっても周囲がそれを理解していない弱さを感
じることが多いが、本作はその点が時代劇でカヴァーされ、
安心してみていられる。                
主人公の牙吉は原田龍二、相手役に清水健太郎と『さくや』
の安藤希(殺陣が見られないのは残念)。他に元モンテディ
オ山形のJ2リーガー中山夢歩が敵役を演じている。   
ハリウッド映画のおかげもあって、チャンバラが見直されて
いる時期でもあり、良い成果を期待したい。なお本作は第1
部と記されており、第2部の製作も進んでいるようだ。  
                           
『コール』“Trapped”                 
グレッグ・アイルズ原作『24時間』を原作者自身が脚色した
映画化。                       
特許権収入で裕福な麻酔医の幼い娘が誘拐される。犯人は3
人、講演旅行中の父親と自宅の母親のそれぞれに犯人が密着
し、身代金の受け渡しも被害者が直接行うという周到さで、
逃れる道はない。しかも彼らはすでに4件を同じ手口で成功
したと豪語する。                   
ところが今回は思わぬトラブルが発生する。娘が喘息だった
のだ。娘を死なせては元も子もない犯人は、その薬の受け渡
しのために母と娘の接触を認める。そして齟齬が次第に拡大
する。                        
30分ごとの連絡が絶えると娘を殺すと言うなど、被害者を精
神的に追い詰める犯行の手口は相当に説得力がある。また、
携帯電話やページャー(ポケットベル)、eメールなどを駆
使した展開もよく考えられていた。           
しかも、後半それがちょっと薄弱になり始めた辺りから、今
度は大掛かりなアクションを展開させて、否応なしのクライ
マックスに持ち込んで行く辺りの構成も見事だった。さすが
にヴェテラン、ルイス・マンドーキ監督の手腕というところ
だろう。                       
そしてもう一つ特筆すべきなのが、幼い娘を演じたダコタ・
ファニングの名演技だ。『アイ・アム・サム』や『TAKE
N』などでも定評のある子役だが、3つの場所が独立したド
ラマを展開する本作では、完全に主役として見事に演じてい
る。                         
他にシャーリズ・セロンやケヴィン・ベーコン、コートニー
・ラヴらが出演。クライマックスのクラッシュシーンも見も
のだ。                        


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井口健二