井口健二のOn the Production
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2003年12月01日(月) 第52回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はコミックスの映画化の話題から紹介しよう。   
 最初は続報で、デイヴィッド・ゴイヤー脚本、クリストフ
ァー・ノーラン監督、クリスチャン・ベイルの主演により、
2005年の公開が予定されている新作“Batman 5”(仮題)の
計画で、バットマンことブルース・ウェインの邸宅と地下基
地バットケイヴを守る忠実な執事アルフレッド役に、オスカ
ー俳優のマイクル・ケインの出演が発表された。     
 この役は、過去4作ではバットマン役者は替っても、一貫
してマイクル・ゴーフというイギリス出身の俳優が演じてい
たものだが、今回はバットマンもかなり若返ることから、一
緒に交代ということになったようだ。          
 といってもケインも今年70歳だそうだが、ゴーフは97年の
『バットマン&ロビン』でもカクシャクとはしていたが、見
た目高齢の感じがしたもので、ゴーフに比べれば見た目も若
いケインの出演になったとものと思われる。            
 因にゴーフは、一時死亡説も流れたようだが、本人はまだ
現役の俳優で、2002年にシャーロット・ランプリングの主演
で、マイクル・カコヤニスが監督したチェーホフ原作“The
Cherry Orchard”(桜の園)などにも出演していたようだ。
 また、本作の撮影は2004年の春からの予定だが、ケインは
同時期に撮影される計画になっているサンドラ・ブロック主
演の2000年のヒット作“Miss Congeniality”(デンジャラ
ス・ビューティー)の続編への出演も希望しているというこ
とで、両作はどちらも同じワーナー作品なのでスケジュール
の調整が行われるようだ。               
 それにしても、アカデミー賞では過去2度の助演賞受賞と
1度の主演賞候補に輝くケインが、一体どのようなアルフレ
ッド役を演じるのか楽しみだ。             
        *         *        
 お次は、ジャッキー・チェン主演のリメイク“Around the
World in 80 Days”なども製作しているウォルデン・メデ
ィアから、“Biblionauts”という計画が発表されている。
 この作品のオリジナルは、MTVなどでの番組製作にも関
わっているアダム・モーティマという作家が、グラフィック
ノヴェルシリーズとして計画しているもので、原作の出版は
まだされていないものだ。               
 お話は、2人の子供が、ちょっと変り者の科学者が発明し
た、人間をフィクションの世界に転送する機械を使って、い
ろいろな小説の世界に潜り込み、冒険を繰り広げるというも
の。ところが彼らの冒険によって物語が書き替えられ、その
影響で世界の歴史まで変ってしまうというものだそうだ。 
 物語の世界に入り込むというアイデアは過去にもいろいろ
ありそうだが、それで現実世界までが変化してしまうという
のは新機軸。これが過去の名作の影響ということだと、どち
らかというとタイムマシンもののような作品になりそうだ。
 そして物語の全体はコメディで描かれるということで、こ
れは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が連想される。 
 なお、映画化の経緯は、モーティマが、ドリームワークス
で進められている“At the Mountains of Madness”などの
製作者のスーザン・モントフォードに概要を話し、彼女がウ
ォルデンに企画を売り込んだということで、映画化と同時に
原作の出版も同社の出版部門が行うことになりそうだ。  
 因に、一時、パラマウントによる全米配給が発表されてい
た“Around the World・・・”については、その後、契約が
キャンセルされていたが、最近ディズニーが北米地区の配給
を契約したようだ。これで、アーノルド・シュワルツェネッ
ガーの最後の出演作がアメリカでも上映されることになる。
        *         *        
 もう1本は、『アステリックス/ミッション・クレオパト
ラ』や『ミシェル・ヴァイヨン』などのコミックの映画化の
続くフランスから、孤独なカウボーイLucky Lukeを主人公に
した“Les Dalton”の映画化の計画が発表されている。  
 Lucky Lukeのオリジナルは、ベルギーのコミックス作家モ
ーリスが1946年に執筆を開始した西部劇の世界を舞台にした
シリーズで、その後、1956年からは『アステリックス』など
のレネ・ゴッシーニが参加して、モーリスが亡くなる2001年
まで全69作が発表されている。中でもゴッシーニが亡くなる
1977年までに発表された37作は人気が高く、ヨーロッパ各国
や中国、韓国などでも出版され、その内フランス版だけで毎
巻60万部を売り切ったと言われている。         
 物語は、開拓時代のアメリカ西部を舞台に、カラミティ・
ジェーンやビリー・ザ・キッドなどの実在の人物も登場する
現実とフィクションが入り混じったもの。また映画化の題名
になっているドルトン兄弟も、西部に悪名を轟かした実在の
ギャング団だが、コミックスの中でもLucky Lukeを悩ませる
敵役としてレギュラーで登場していたものだそうだ。   
 そして今回の映画化では、主人公Lucky Lukeをドイツ人俳
優のティル・シュワイガーが演じ、またドルトン兄弟には、
フランスの人気コメディチームのエリック・ジュドアとラム
ジー・ベディアのコンビが扮することになっている。ミシェ
ル・ハザナヴィシウス脚本、フィリッペ・ハイムの監督で、
2500万ドルの製作費が計上され、フランスでの公開は2004年
12月に予定されている。                
 なお、フランスではこの他に、ジャン・ジロー=メビウス
原作で、同じく西部を舞台にしたコミックス“Blueberry”
の映画化も、ヴァンサン・カッセル、ジュリエット・ルイス
主演、ジャン・コウネンの監督で計画されている。    
        *         *        
 続いては、『ハリー・ポッター』に続けとばかりのユース
ファンタシーの計画を紹介しておこう。         
 まずは、こちらも続報からで、第42回で紹介したジェイス
ン・レスコー原作のグラフィックノヴェル“Zoom's Academy
for the Super Gifted”の映画化の脚色に、『スモール・
ソルジャーズ』や『マウスハント』のアダム・リフキンが、
6桁($)後半の金額で契約したことが発表された。   
 お話は、ごく普通の女子高生が謎の父親の指示でスーパー
ヒーローのための学校に入学し、そこで自分の才能に目覚め
るというもの。映画化はスザンヌ&ジェニファー・トッドの
製作で、リヴォルーション傘下で進められている。    
 因に、リフキンは第28回で紹介したパラマウント=ニッケ
ルオデオン製作“Where's Waldo?”(ウォーリーを探せ!)
の映画化の脚色も担当している他、ディズニー=スパイグラ
ス製作のアニメーション“Underdog”にも関わっている。さ
らにニューライン製作の“Detroit Rock City”では監督も
手掛けているそうだ。                 
        *         *        
 お次は小説の映画化で、T・A・バロン原作の“The Lost
Years of Merlin”の映画化が、ミラマックス傘下のジャン
ル・ブランド=ディメンションで進められている。    
 物語は、アーサー王伝説にも登場する魔法使いマーリンの
若き日々を描くもので、オーストリア出身の若者が、古代の
ウェールズの海岸に流れ着き、自分の本当の居所と自分自身
を求める旅を始めるというもの。原作は5巻からなり、アー
サー王との友情や、魅力的な土地を巡る旅が描かれている。
 そしてこの脚色を、ブラッド・ピット、アンジェリーナ・
ジョリーの主演が決った“Mr.and Mrs.Smith”や、アイス・
キューブ主演の“XXX2”などのサイモン・キンバーグが担当
することが発表されている。なお脚色は、原作の第1巻のみ
について行われるもので、当然シリーズ化が想定されている
ということだ。                    
 因に、本家のミラマックスでは、以前から紹介しているエ
オイン・コルファー原作の“Artemis Foul”(全3巻)や、
第35回で紹介したローレンス・イェップ原作“The Tiger's
Apprentice”(全3巻)などの映画化も進めており、後者に
ついては、ジョニー・デップ主演で『ピーター・パン』執筆
の背景を描く“J.M.Barrie's Neverland”を担当したデイヴ
ィッド・マギーの脚色が契約されている。        
        *         *        
 もう1本はオリジナル脚本で、ディズニーからシド・クァ
ジーという脚本家の“King of the Gods”という作品を、傘
下のマイヘム・ピクチャーズで製作することが発表された。
 この作品は、若き日の大神ゼウスが、自らの宿命を知り、
父神を倒して地上と天界を治めるまでを描くというもの。デ
ィズニーではこの脚本に、6桁($)中盤の契約金を支払っ
たということだ。                   
 それにしてもこの物語、最近どこかで聞いたような気がす
るが、第48回で紹介したニューライン製作の“Titans”がや
はり古代ギリシャ神話をモティーフにしていたものだった。
 ということは、競作になる可能性がある訳だが、ニューラ
インの計画は『ハルク』のマイクル・フランシスが脚本を契
約しているものの、スケジュール的には少し先になりそうだ
ったもので、今回の動きでどう対応するか楽しみだ。   
 なお、ディズニーの計画では、ゼウスが神々の王となるま
でを第1部、天界を平定するまでを第2部、そして自らの冒
した失敗により凋落して行くまでを第3部とする3部作の構
成を検討しているということだ。また、製作には大規模なセ
ットやCGIも駆使した大型の作品に仕上げる計画というこ
とで、夏休み向けのテントポール作品を目指すそうだ。  
 因に、ディズニーではもう1本、エヴァ・イボットスン原
作の“Which Witch”という作品が、長編アニメーションで
計画されている。                   
 この作品は、引退しようとした魔法使いが、その前に生涯
の伴侶を見つけようとし、彼はそのためのコンテストを開い
たりするのだが…、という童話が原作の作品のようだ。ただ
しこの映画化の製作を、『12モンキーズ』のロバート・コス
バーグが担当することになっているのが面白そうだ。   
        *         *        
 以下は単発の話題を紹介しよう。           
 といってもこれも続報からで、第42回に紹介の“Memoirs
of a Geisha”の計画で、『シカゴ』のロブ・マーシャル監
督の起用が本決まりになった。             
 この計画は、アーサー・ゴールデン原作の1997年のベスト
セラーを映画化するもので、原作の出版当初から映画化権を
獲得したコロムビアとドリームワークスが共同で計画を進め
ていた。そして一時は、スティーヴン・スピルバーグの監督
で、主なキャスティングまで発表されたものだ。     
 ところが、激動の20世紀を生きた日本人女性の生涯を描い
た歴史作品を英語で製作するとした計画に、故黒沢明監督が
苦言を呈するなどの問題が発生。01年にはスピルバーグが監
督断念を発表していた。                
 その後、後任の監督が選考されていたものだが、以前にも
紹介したロブ・マーシャル監督の起用が可能になったという
ものだ。というのも、実はマーシャル監督が『シカゴ』製作
に際して交わした契約の中に、次回作もミラマックスで撮る
という条項があったもので、このためミラマックスの了解な
しには、他社での計画への参加ができなかった。     
 しかし最終的にミラマックスを加えた3社の共同制作とす
ることで合意がなされたということで、これでマーシャル監
督での製作が可能になったものだ。なお、準備はすべて再ス
タートされることになるようだが、果たして台詞は英語なの
だろうか。                      
 因に、ミラマックスとコロムビアの間では、ラッセ・ハル
ストローム監督の『シッピング・ニュース』とビリー・ボブ
・ソーントーン監督の『すべての美しい馬』が、今回と同様
の契約のために共同製作され、ミラマックスとドリームワー
クスの間でもジョン・マッデン監督の新作“Tulip Fever”
が同様の理由で共同製作されているそうだ。       
        *         *        
 お次はファンには待望の情報で、1978年にセンセーション
となった“Dawn of the Dead”(ゾンビ)などのジョージ・
A・ロメロが、ゾンビテーマのミュージカル映画を監督する
ことが発表された。                  
 この計画は、1973年に初演され1975年に映画化もされたロ
ックミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』の作曲家リ
チャード・ハートレイの計画にロメロが参加するもので、題
名は“Diamond Dead”。ロメロは作詞家のブライアン・クー
パーが執筆したオリジナル脚本のリライトと監督を勤めるこ
とになっている。                   
 お話は、女性シンガーが自分以外は全部男性の1980年代ス
タイルのロックバンドを結成。自分の音楽を始めようとした
矢先にバンドのメンバーが交通事故で全滅してしまう。そこ
で彼女は死神と取り引きし、彼らを連れ戻すのだが、彼らは
ゾンビになっていた。それでも彼女は自分の音楽を追求して
行くというもの。ロメロはオリジナル脚本の死者に対する考
え方と、盛り込まれたユーモアに共感したと参加の理由を語
っているそうだ。                   
 一方、1968年の“Night of the Living Dead”、1978年の
『ゾンビ』、そして1985年の“Day of the Dead”に続く、
本家のゾンビシリーズの第4作もフォックスサーチライトで
準備中だが、この計画では映画の題名を巡って揉めていると
いう噂があるようだ。                 
 因に、この計画では、当初予定されていた題名は、“Dead
Reckoning”というものだったが、これを統一性を持たせた
“Land of the Dead”に変更したいとするロメロ側の申し入
れに映画会社が難色を示しているそうで、この辺のごたごた
も今回のミュージカル映画の根底にあるのかもしれない。 
 それにしてもこのシリーズは、まだ“Dusk of the Dead”
ではないようだ。                   
        *         *        
 続いては、トニー・スコット監督が12年間温めて来た大型
西部劇“Tom Mix and Pancho Villa”が、『T3』のインタ
ーメディアの製作とメキシコ政府の協力で実現されることに
なりそうだ。                       
 この計画は、クリフォード・アーヴィングの同名の原作を
映画化するもので、物語は1910年代から1935年まで活躍した
映画スターのトム・ミックスが、映画界を去った後にメキシ
コ革命に加わり、革命の英雄パンチョ・ヴィラと共に活躍し
たというもの。ドイツ製の戦闘機やタンクで攻撃してくる政
府軍に対して、ミックスは様々なアイデアを駆使した奇襲で
反撃を繰り返したということだ。そして映画では生い立ちの
違う2人の男が築き上げた深い友情も描くとされている。 
 なおスコットは、過去に2作品をメキシコで撮影したこと
から、先日メキシコ大統領府に招かれ、その席で大統領に夢
を語って賛同を得たということだ。           
 因にメキシコの映画事情は、過去に『007』なども撮影
されたチュルブスコスタジオの設備も近代化され、また最近
は、“Harry Potter and the Goblet of Fire”を監督中の
アルフォンソ・キュアロンなどの人材も輩出、また映画学校
も充実しているということで、スコットも、この地での映画
製作に期待を寄せているようだ。            
        *         *        
 もう1本はドイツ映画の話題で、リヒャルト・ワグナーの
歌劇『ニーベルンゲンの指輪』(英題名The Ring Cycle)か
らインスパイアされた作品が製作されている。      
 この物語は、元々は13世紀にまとめられたドイツ語の叙事
詩『ニーベルンゲンの詩』に基づくもので、ジーグフリード
のドラゴン退治やライン川に眠る財宝などが歌われている。
そしてラインの黄金で作られ、全てのものを統治するといわ
れる指輪の物語は、そのまま“The Lord of the Rings”の
基ともなったものだ。                 
 そしてこの物語を、今回はミュンヘンに本拠を置くタンデ
ム・コミュニケーションズが映画化しているもので、ダイア
ン・デュアン、ピーター・モーウッドの脚本から、ユーリ・
エデルが監督。11月17日から南アフリカのケープタウンで撮
影が開始されている。                 
 またこの映画化には、ジーグフリード役で、ブレイアン・
ヘルゲランド監督、ヒース・レジャー主演の“The Order”
などに出演しているベンノ・ファーマンが主演の他、クリー
ムヒルト役に『トゥー・ウィークス・ノーティス』のアリシ
ア・ウィット、そしてブリュンヒルト役で『T3』のクリス
ターナ・ロケンが出演。他にジュリアン・サンズやマックス
・フォン・シドーの出演も報告されている。       
 ジーグフリートやクリームヒルトの物語は、無声映画時代
からドイツでは繰り返し映画化されてきたものだが、今回映
画化しているタンデムは、テレビミニシリーズ版の“Dune”
や、ディスカヴァリー・チャンネルで放送されたCGIによ
る長編ドキュメンタリー“Dragons' World”を共同製作する
など、技術力も持ち合わせている会社で、ファンタシーアド
ヴェンチャーの色彩を濃くするという今回の映画化の完成が
期待されるところだ。                 
        *         *        
 最後に、去年も紹介したアカデミー賞長編アニメーション
作品賞部門の予備候補について紹介しておこう。     
 まず、今年の予備候補作は11本。従って予備候補作が16本
未満なので、最終候補は3本ということになる。     
 そしてその予備候補作11本の内容は、まずディズニーから
“Brother Bear”“Finding Nemo”“The Jungle Book 2”
“Pokemon Heroes”“Piglet's Big Movie”の5本。その他
では、ドリームワークスから“Millenium Actress”(千年
女優)、ワーナーから“Looney Tunes: Back in Action”、
パラマウントから“Rugrats Go Wild!”、ソニークラシック
スから“The Triplets of Belleville”、ソニーピクチャー
ズから“Tokyo Godfathers”、そしてドイツの作品で“Till
Eulenspiegel”となっている。
 まあ、何と言ってもディズニーからの5本というのが目を
引くが、その内1本も含めて各社から日本作品が3本挙げら
れているのも嬉しいところだ。
 最終候補は、“Finding Nemo”は受賞もほぼ決まりだろう
が、それに加えてさてどの2作品が選ばれるのだろうか。
 なお、全ての部門の候補の発表は2004年1月27日、受賞式
は2月29日の日程になっている。


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井口健二