井口健二のOn the Production
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2003年11月09日(日) 第16回東京国際映画祭(後半)

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※このページでは、東京国際映画祭で上映された映画の中※
※から僕が気に入った作品のみを紹介します。     ※
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<コンペティション>                 
『サンタスモークス』“Santa Smokes”         
ドイツ資本で作られたアメリカ映画。          
クリスマス間近のニューヨークを舞台に、俳優を目指す若者
の生活が描かれる。オーディションに失敗した主人公は、サ
ンタの衣装をしてビラ配りのアルバイトを始めるが、そこで
エンジェルと名乗る女性と巡り会う。          
別段ファンタスティックという物語ではないが、殺伐とした
ところも余りなく、中途半端と言われればその通りだが、見
終って不愉快ということもない。悪い映画ではないが、それ
以上でもない。                    
映画の中では、多分、ちょっとした奇跡は起きているのかも
知れないし、これがクリスマス・ムーヴィというものなのか
な。そんなジャンルがあるのなら。           
                           
『ヴァイブレータ』(日本映画)            
寺島しのぶ、大森南朋共演のドラマ。          
主人公は31歳のフリーライター。ちょっとアルコール依存症
気味で、過食したものを吐き戻す癖がある。そんな彼女が、
ある日、深夜のコンビニで長距離トラックの運転手と巡り会
い、東京−新潟を往復する行程を共にする。       
脚本、監督は、元々ピンク映画系の人たちということで、男
女の情愛が丁寧に描かれる。そして寺島は必要なところはち
ゃんと脱ぐし、その意味では偉いというか、よくがんばって
いると言えるだろう。                 
いわゆるロードムーヴィのスタイルだが、物語の中には、フ
リートラッカーの実情やCB無線のことなど、いろいろな情
報も語られていて結構面白かった。           
30代の女性の揺れ動く心情なども丁寧に描かれていて、優れ
た作品だったと思う。                 
                           
『ほたるの星』(日本映画)              
120年の歴史を持つ山村の小学校を舞台に、都会から来た新
米教師と生徒たちの交流が描かれる。教師は、生徒と共にホ
タルの羽化を試みるのだが、その前にはいろいろな障害が立
ちはだかる。しかし周囲の助けも得て、ついに羽化に成功す
るという感動作だ。                  
ホタルの飼育の話は全国的にいろいろあるようだが、そこに
は環境問題や河川管理の問題なども絡んで、社会的なテーマ
にも繋げ易い。ということで、見た目お手軽な話の割には、
いろいろ考えさせられる作品になっている。       
また、最後にはCGIでホタルの大群舞を見せてくれる。一
応、子供の頃に本物のホタルの飛ぶ姿を見たことのある人間
としては、ちょっとやりすぎの感じもしないではないが、そ
れはそれでよしとしなければいけない作品だろう。    
なお、「モーニング娘。」などと同じハロープロジェクト絡
みの作品ということで、ヒロインの転校生の役を、そのキッ
ヅに選ばれた女子が演じている他、数人が出演している。ま
た、挿入歌と主題歌をつんく♂が手掛けている。     
                           
『ドリーミング・オブ・ジュリア』“Cuba Libre”    
共産革命前夜のキューバを舞台にしたドラマ。      
主人公は小学生の少年、地主の家に育った彼が、革命前夜と
いう状況の中で成長して行く姿が描かれる。と言っても、僕
らにはピンと来ない部分もある。当時の情勢などはいろいろ
な映画での知識もあるが、それらとはまた違った状況もあっ
たということだろう。                 
物語で、主人公の一家は結局没落して行くことになるが、映
画は特にそれを描こうとしている訳ではない。主人公の家の
隣が映画館だったということで、当時映画のシーンが挿入さ
れ、ハリウッドから移り住んだという女性などが彩りを添え
る。                         
『影なき恐怖』『カサブランカ』『ヴァイキング』などの映
像は年配の映画ファンには懐かしいだろうし、それらの名台
詞が物語のキーに使われたりもしている。その辺を楽しめれ
ばいいという作品。                  
なお、添えられた英語題名が“Dreaming of Julia”となっ
ているが、『影なき恐怖』の原題は“Julie”、どうした訳
だろう。                       
                           
<特別上映作品>                   
『ミシェル・ヴァイヨン』“Michel Vaillant”      
45年以上の歴史を誇るフランスの人気コミックスの映画化。
2002年のル・マン24時間レースに2台の車を正式エントリー
し、実際のレース中の撮影を敢行したという作品。脚本と製
作をリュック・ベッソンが手掛けており、さすが現代フラン
ス映画の牽引車の力業という感じの作品だ。       
物語は、ヴァイヨンチームの新型エンジンが完成し、ル・マ
ンに参加を決めるところから始まる。しかしミシェルの母親
は、大事故の悪夢に悩まされていた。そしてそのレースに、
宿敵リーダーチームの5年振りの復帰も発表される。母親の
悪夢は正にそのチームとの争いで起きるものだった。        
映画はその悪夢のシーンから始まるが、実際のレース場を使
ってのデッドヒートのシーンは迫力だったし、オンボード・
カメラを駆使した事故の模様も見事だった。                 
それにしても、物語の中でのリーダーチームの妨害工作が、
犯罪すれすれというより、まるで犯罪行為ばかりで、その姑
息さといったら、アニメのブラック魔王並みなのだから笑っ
てしまう。さすがコミックスの映画化という感じがした。 
結末もそんな感じで、結局、その辺を許せるかどうかが評価
の分れ目になりそうだが、僕は許していいと思っている。 
なお、映画の前半では山岳ラリーの様子が描かれるが、これ
はTaxiシリーズで経験を積んでいる感じで見事だった。
                           
『ハードラックヒーロー』(日本映画)         
今年のベルリン映画祭に出品された『幸福の鐘』で、アジア
最優秀作品賞を獲得した監督SABUがジャニーズ系アイド
ルのV6を主演にして作った作品。           
元々はジャニーズ側から企画を持ち込んだようで、脚本も手
掛ける監督としては6人全員を主人公にするという、一種の
挑戦を試みた作品のようだ。しかも、V6を使える撮影期間
は3日間だったようで、それもまた挑戦だったという訳だ。
それにしてもSABU程の名のある監督が、よくこのような
企画に乗ったものだと思うが、結局、上記のような挑戦をし
てみたかったというところだろうか。そしてその挑戦には、
それなりの成果があったという感じだ。         
物語は、キックボクシングを使った賭博場に居合わせた2人
ずつ3組6人のメムバーが、それぞれの事情で逃走しなけれ
ばならなくなり、町中を疾駆および疾走するというもの。ほ
とんどのシーンがパニック状態という設定は、細い演技の必
要を無くす配慮だろう。                
とはいえ、V6の面々がそこそこの演技力の持ち主であるこ
とは、途中森田、三宅の組がチンピラに絡まれるシーンで、
チンピラ役の連中の演技との差ではっきりする。さすがアイ
ドルといっても侮れないというところだ。        
内容は、70数分で3つの物語を完結させる訳だから、深みは
ないし、物足りないが、製作の条件を考えると、逆に実験映
画としては良くできているという感じがした。夢を追い続け
ることの大事さみたいなテーマもそれなりに伝わってくる。
なお、本作もベルリンへの招待が決まったそうだ。    
                           
<アジアの風上映作品>                
『リング・ウィルス』(韓国映画)           
『リング』の韓国版リメイク。             
98年に公開された日本版の評判は韓国にも伝わったが、ワー
ルド杯以前の日本文化の流入が制限されていた中では、この
作品が韓国で上映される可能性はほとんどなく、このため同
国の映画人が国内のみの上映を前提とした権利を取得して99
年に製作した作品。                  
その作品を、今回は原権利者である角川書店などの特別許可
で上映したもので、従って今後、この作品が日本で再度上映
される可能性はほとんどないということだ。       
物語は、日本版とほとんど変わるところはなく、正しくリメ
イクという感じ、いくつか違いを挙げれば、主人公の子供が
女の子になっていることや、ヴィデオを見た後に掛かって来
る電話のシークェンスが最初を除いて省略されていた。  
特に後者に関しては、このシーンが除かれることで恐怖感は
かなり薄らいでいる感じがした。また結末に関しても、ハリ
ウッド版のような改変はなく、日本版より明確に以後の展開
を示している感じで、全体的に恐怖を煽るより物語をはっき
りさせる意志を感じた。                
つまりその辺りが、日本と韓国の映画作りの基本的な違いの
ような感じもして、興味深いものがあった。       


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井口健二