2003年11月05日(水) |
第16回東京国際映画祭(前半) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、東京国際映画祭で上映された映画の中※ ※から僕が気に入った作品のみを紹介します。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <コンペティション> 『カレンダー・ガールズ』“Calendar Girls” 英国ヨークシャーの小さな村の婦人会で、慈善事業の資金集 めのために作った主婦たちのヌードカレンダーが、大反響を 巻き起こしたという実話に基づくヒューマンドラマ。 元々は主婦仲間の一人の夫が白血病で亡くなり、その未亡人 の親友が、彼の残したメッセージに触発されて思い付くのだ が、当然幹部会は大反対。それを掻い潜って撮影から発表に 漕ぎ着けるまでの顛末や、最後はアメリカにまで進出してし まうお話などが描かれる。 インスパイアと表記されているので、多分ほとんどの部分は フィクションなのかも知れないが、実に人情味とユーモアに あふれた物語で、しかもこれをへレン・ミレンを始めとする ベテラン女優たちが見事に演じるのだから、それは素晴らし い作品に仕上がっている。 一つ一つのエピソードの積み上げ方も見事だし、主婦たちが ヌードに挑戦する過程も自然に納得できる。また実現するま での努力や、それによってちょっとしたことからお互いの間 に生まれる確執なども上手くドラマになっている。 イギリス映画だが、すでにブエナヴィスタ(ディズニー)の 手でアメリカ配給も決まっている作品、それだけのことはあ るという感じだった。 『オーメン』(タイ映画) オキサイド&ダニー・パン兄弟が、製作、脚本、編集を手掛 けた作品。兄弟の作品は以前の映画祭の上映などで何本か見 ているが、今回の作品は兄弟の支援を受けて新人監督がデビ ューを飾ったものだ。 物語は、幼なじみで成長しても一緒に広告業界で働く3人の 若者が、不思議な体験をして行くという、ちょっとオカルト 気味のお話。パン兄弟の作品もその傾向があるが、タイとい うお国柄のせいか、因果応報といった感じのお話はそれなり に様になっている。 3人の内の一人がちょっとした自動車事故の後で、謎めいた 老婆に巡り会う。そして彼女にいろいろ予言されるが、半信 半疑の彼はその言葉に従えない。しかしそれが徐々に仲間の 別の一人の生死に関わってくる辺りから、緊迫の度を増して くる。 全体として良いお話なので、それはそれで構わないのだが、 ただちょっと結論と言うか、最後の部分が急ぎすぎていて、 一部釈然としない感じが残った。それがオカルトと言われれ ばそれまでだが。 『謎の薬剤師』“Le Pharmacien de Garde” 世界中で続く環境破壊に、過激な方法で一人立ち向かった薬 剤師と、そうとは知らず彼の友人となった殺人課刑事を巡る 物語。 最初は、海洋汚染を引き起こした海運業者が、突然できた石 油溜まりで溺死体で発見される。次いで煙草会社の社長が、 数十本の煙草をくわえて肺の火傷で死亡する。 この事件を追う刑事は、現場に残された印からドルイド教の 一派の仕業と割り出すが、それは過去のお話のはずだった。 娯楽作品としての完成度はかなり高い。薬剤師に超能力の雰 囲気を匂わせる辺りも巧みだし、薬剤師と刑事との関わりの 付け方もスムースに上手く描かれている。演出も良いが、脚 本もまた巧みな作りで面白い。 謎解きや最後の詰めの部分も納得できる感じで、最近好調の フランス映画らしい作品。日本の配給は決まっていないよう だが、このまま消えるのは惜しい感じがした。 なお、刑事役をジェラールの息子のギョーム・ドパルデュー が演じている。また、海洋汚染のニュースフィルムには、数 年前の日本海沿岸のものも使われていた。 『暖〜ヌアン』“暖” 『山の郵便配達』が日本でも高い評価となったフォ・ジェン チー監督の新作。第3作までというコンペティションの規定 が今年から撤廃されたことで出品された監督の第4作。 「白狗秋千架」という短編小説の映画化ということだが、と ても短編で描き切れる内容ではなく、映画のための脚色が相 当に入っていると思われる。そしてその映画としての素晴ら しさが随所に見られる作品だった。 歌と踊りが上手く村の花だった少女と、勉強ができてやがて は都会の大学に進む若者。相思相愛で、周囲も認める中だっ た二人が、10年の歳月で全く異なる人生を歩んでしまう。そ れはちょっとした偶然の悪戯。 田園の広がる中国の農村を舞台に、ちょっとした行き違いか ら二人の幸せを掴み損ねた男女の青春時代と現在が見事に交 錯して描かれる。貧しいが、今が幸せだと思わざるを得ない 人生。決して悲劇ではないのだけれど、最後は本当に泣けて しまった。 主人公の二人は中国人の俳優だが、キーとなる役で香川照之 が出演。はまり役と言えるような見事な演技を見せている。 『ウィニング・チケット』“Telitalalát” 1956年、共産主義政権下のハンガリーで起きた実話にインス パイアされたという作品。 共産主義の名の下に苦しい生活を強いられている民衆たち。 ところがある日、主人公はトトカルチョで100年分の給料を 上回る賞金を獲得する。しかし、その賞金を現金で鞄に詰め て持ち帰ったことから、疑心暗鬼に陥り、やがて生活が破綻 していってしまう。 実話の当選者は、その後行方不明になったということだが、 映画の主人公も、ソ連軍の進駐や一時的な反政府活動の決起 などに翻弄される。映画らしい偶然もいろいろあって、実話 とは思えない部分も多いが、当時の悲惨な生活を垣間見せて いるという感じもする。 昔の東欧圏の国で、共産主義を批判することは、今もまだ危 険が伴うという話を聞いたこともあるが、この映画では、偶 然を重ねておとぎ話的に描くことで、その批判をかわす意図 があるのかも知れない。 現代の日本を基準にして観ると、馬鹿馬鹿しく感じてしまう かも知れないが、これが現実だった世界もあったということ だ。 『ゴッド・イズ・ブラジリアン』“Deus é Brasileiro” ブラジルのとある川岸に住む若者のもとに、神様がやってく る。神様はちょっと休暇を取る為に、その間の代行となる聖 者を求めてやってきたのだ。ところが、その聖者になるはず の男はすでに移り住んだ後だった。そこで若者と神様の、男 を探す旅が始まるのだが…。 今の時期にこのテーマだと、どうしても『ブルース・オール マイティ』が思い浮かんでしまうが、VFXで奇跡を起こし まくるハリウッド映画とは違い、こちらの神様はいたって素 朴だ。しかも、胡散くさい宗教家にころりと騙されたりもし てしまう。 でも最後まで出突っ張りの神様は、その間にろいろなことを 語り、人類とはいったい何なのかを考えさせる。全体はコメ ディだし、別段深遠なことを語ろうという意図はないのだろ うが、語られる話は結構面白かった。 ちょっとだけあるVFXもそれなりに決まっていた。 『さよなら、将軍』“¡Buen Viaje, Excelercia!” 1975年に亡くなったスペイン・フランコ政権末期の内幕を描 いた作品。 すでに老人性痴呆症の兆候を見せているフランコを、その存 在だけで政権に留まらせようとする取り巻きたちの姿を皮肉 たっぷりに描き出している。 実際に、その頃の圧政は民衆をかなり困らせたようだが、30 年近く経って、ようやくそれを見直すことができたというと ころのようだ。 テクニック的には、当時のニュースフィルムにフェイクの画 像を繋ぎ合わせるなどの手法もかなり効果的に使われている が、映画の最後で明かされる、一人2、3役ずつをこなした 俳優たちの演技も面白かった。 当事者でない我々には、ピンと来ない部分も多いが、首相が 掲げた選挙の定年制でのドタバタを見せられたばかりのとこ ろでは、なるほどと思わせるところも多々あった。 それからこの作品でも、スペインリーグのトトカルチョに興 じるシーンが描かれており、そこはそれなりに理解できた。 『心の羽根』“Des Plumes dans la tête” ちょっと目を離した隙に、5歳の息子を死なせてしまった母 親の心が癒されるまでの1年を描いた作品。 正直に言って、見ていて途中まで不快に感じていた。それは 例えば子供の死が描かれているはずのシーンで、ことさら陽 気なコーラスが流れたり、不必要な感じのセックスシーンが 描かれている点だった。 しかし途中で、その不快感が、多分、遺族の気持ちを追体験 しているものであることに気づいた。恐らくは当事者にとっ て、周囲のこのような無神経さが一番こたえるものなのだろ う。それに気づいてこの映画が理解できた気がした。 母親は精神に異状をきたしかけて、無感覚になっているのだ が、その気持ちも何となく理解できる感じがした。その辺を 考えると、かなり良くできた脚本ということなのだろう。 なお、死んでしまう子供が、生前のシーンでずっとゴジラの ソフビ人形を持っている。本映画祭を意識してのことかどう かは判らないが、ちょっと気になった。 <特別上映作品> 『スカイハイ劇場版』(日本映画) 連載マンガを原作に、テレビ朝日系列で放送されたシリーズ の映画版。テレビシリーズは見ていないが、その結末から新 たな物語が構築されたようだ。 監督は北村龍平。以前にこの監督の長編第1作を評価した割 りには、その後は短編を1本見ているだけだったが、本作を 見て自分の評価が間違っていなかったと再確認した。 心臓だけを抜かれて殺されるという連続猟奇殺人事件が起こ り、その事件を追う刑事の婚約者も結婚式の式場でその被害 者となる。そしてその復讐を誓う刑事だったが、そこには現 世と来世を繋ぐ怨みの門を巡る闘いが待ち受けていた。 現世で恨みを残して死んだ人間が、恨みを忘れて来世に生き るか、霊魂となって現世に留まるか、恨みを晴らして地獄に 堕ちるかを選択する怨みの門。この基本設定が、映画ではさ らに拡大され、その設定が見事に活かされていた。 テレビはホラー仕立てだったようだが、映画版はアクション 中心、特にチャンバラをたっぷり見せてくれる趣向になって いる。それを演じるのが、テレビで門の守護者を演じていた 釈由美子と、悪役大沢たかお。ワイアーワークも使ってかな りのシーンが展開する。 またコメディリリーフでありながら、キーマンともなる田口 浩正の役柄も上手く利いていて、脚本も良く練られている感 じがした。途中、女性観客が目を拭うシーンも見られた。 上映ではすぐ後ろに、多分ファンタ系の雑誌記者らしい外国 人が2人いて、彼らが終るなり大興奮しているのが微笑まし かった。 『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(日本映画) 恒例のゴジラは第27作。昨年の『ゴジラ×メカゴジラ』に続 く完結編となっている。 監督は前作に続いて手塚昌明が担当、彼は思い入れたっぷり の脚本も手掛けている。彼の脚本は、ある意味ゴジラとはい ったい何なのかという辺りを懸命に模索したものだ。 とは言っても、ゴジラ映画の本分は特撮シーンにある。従っ て、91分の上映時間からその特撮シーンを除いた部分でのド ラマとなると、どうしても駆け足にならざるを得ない。 そこは、モスラの小美人にテーマを語らせるなど、工夫はさ れているのだが、最後に主人公が翻意する辺りなどは、やは りもう少し説明が欲しかったところだ。全体的にドラマが描 き切れない分、物足りなさは残る感じがした。 でも、それは無い物ねだりと言うところかも知れない、この 短い上映時間の中で、しかも3体の闘いを描くのだから、無 理は承知というところだろう。実際今回の特撮では、東京タ ワーをへし折り、国会議事堂を木端微塵にしてしまうのだ。 来年はいよいよゴジラ誕生50周年だが、どうなることだろう か。
|