井口健二のOn the Production
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2003年11月02日(日) シービスケット、ニモ、ガーデン、すべては愛のために、ケイティ、戀之風景、気まぐれな唇、アンダーワールド、マトリックス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『シービスケット』“Seabiscuit”           
大恐慌時代のアメリカで、一般民衆に夢を与え続けた競争馬
シービスケットと、その馬に関わった3人の男の姿を描いた
ベストセラーの映画化。                
西海岸で最大の自動車ディーラーになりながらその自動車に
家族を奪われた男と、自動車の発達で仕事を失った荒馬の調
教師、そして大恐慌のために家族が離散したジョッキーの若
者。この3人が1頭の馬を巡ってドラマを作り上げる。  
時代も違えば国も違うこの物語には、正直に言ってピンと来
ない部分はある。しかし、かろうじてハイセイコーを記憶し
ている僕には、西海岸の田舎競馬(地方競馬)から東海岸の
名門レース(中央競馬)に乗り込んで行く話は理解できた。
レースシーンは迫力があるし、特に前半のティファナ競馬の
様子は、まるで馬上の格闘技と言いたいくらいの激しさで、
こんな時代もあったんだと認識を新たにした。その辺は面白
いし、競馬を知る人にはもっと楽しめるかも知れない。  
それからナレーションで、アメリカが不況から脱出できたの
は、公共事業のおかげではなく、人々が希望を持ち続けたか
らだったという言葉には激しく同意。この言葉を、人々の希
望を蔑ろにしてバカな経済政策ばかり続ける今の日本の施政
者たちに聞かせたいと思った。             
                           
『ハリウッド的殺人事件』“Hollywood Homicide”    
ハリスン・フォード、ジョッシュ・ハートネットの共演で、
ハリウッドを舞台にした警察コメディ。         
僕自身、昔は毎年行っていたハリウッドももう10年以上ご無
沙汰になってしまった。その間、ずいぶん風景も変ってしま
ったようだが、それでも、見覚えのあるビルなどが登場する
と嬉しくなる。そんな映画ファンのための映画と言える。 
ハリウッドのクラブでミュージシャンが殺される。目撃者も
発見できないこの殺人事件の捜査を、不動産屋を副業とする
ヴェテラン刑事と、自宅でヨガ教室を開き俳優を夢見る新米
刑事が担当することになる。              
これに、怪しげな超能力者を自称する占い師や、邸宅の売却
を希望する老映画プロデューサー、さらに主人公に敵意を持
つ内部査察官などが絡んで、大混乱のドラマが展開する。 
まあ、ハリウッドという土地のイメージは、アメリカでもこ
んなものだということを、次から次へと見せてくれる。それ
が楽しめればいいのではないか、そんな感じの作品だ。特に
後半のカーチェイスなどは、見事にアメリカそのものという
感じだった。                     
推理ドラマとしてはちょっと荒っぽいが、最後にはそれなり
にハードなアクションもあって、フォードもまだ健在という
ところ。でも、彼ももう61歳なのだと思うと、時代の流れを
感じてしまうところでもあった。            
                           
『ファインディング・ニモ』“Finding Nemo”      
ディズニー=ピクサーの最新作。アメリカでは、本年度興行
No.1がほぼ決定のようだ。               
卵の孵化を待っていたカクレクマノミの夫婦の住処が肉食魚
に襲われ、妻と大半の卵を喰われてしまう。しかし1個だけ
残った卵を父親が育て上げる子育ての物語。       
『チャーリーと14人のキッズ』も男の子育ての話だったが、
今、正にアメリカの目がそこに向いているということなのだ
ろう。そういう時流の掴み方に、この作品の成功の第1の鍵
があったようにも感じた。               
しかし子育ては大変で、反発した息子はあっと言う間にダイ
ヴァーにさらわれてしまう。そこから、子供を救うための父
親と、父親の許に帰ろうとする息子の大冒険が始まる。  
それにしても、話の作り方が上手い。人間と共通する悩みや
問題と、海の中特有のお話とを見事に交錯させて、ディズニ
ーのアニメーションにしては長い1時間41分のドラマを見事
に作り上げている。                  
特に、現実にはありえない異種の生物間のコミュニケーショ
ンや協調が嫌みなく描かれている点もそれなりに買いたいと
ころだ。また、そこに加わらない連中を描くことも、アメリ
カというところだろう。                
僕自身、息子を持つ父親として、主人公の気持ちは非常によ
く解かった。ただ、日本の映画人口のかなりの部分を占める
女性観客がどう見てくれるかが勝負になりそうだ。    
                           
『ガーデン』“Zahrada”                
スロヴァキアの映画作家マルティン・シュリークによる95年
の作品。同監督の作品3本が連続公開される内の1本で、僕
は時間の関係で1本の試写しか見られなかったが、他の2本
も見たくなる作風だった。               
本篇の主人公は30歳の独身男。一応、教師の職はあるが、仕
立て屋を営む父親との2人暮らしで、父親の客の年上の女性
の不倫相手になるなど、怠惰な生活を送っていた。    
しかしついに父親の逆鱗に触れ、家を追い出されて、祖父が
建て父親が昔住んでいた田園の廃屋へとやってくる。   
そしてそこを何とか住める場所にしようとする内、鏡文字で
書かれた日記を発見したり、不思議な雰囲気の少女や、いろ
いろな謎の人物が登場して、主人公を混乱させて行く。  
最終的には主人公の精神的浄化がなされる物語で、その間の
いろいろな物語が、いくつもの章に分けられ、スケッチのよ
うに描かれてゆく。                  
まあ、物語自体それほど深刻な訳ではないし、気楽に見てい
られる。そして最後にちょっと仕掛けがあって、何となく微
笑ましい感じで見終れる。               
メルヘンと言えばメルヘンだろうし、何とも不思議なムード
の作品だった。                    
                           
『すべては愛のために』“Beyond Borders”       
緒方貞子女史の活動で、日本でも名前を知られるようになっ
た国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)。その親善大使
も務めるアンジェリーナ・ジョリーが、ある意味、その活動
のPRの意図も込めて作り上げたと思われるドラマ作品。 
物語は、1984年エチオピアの大飢饉に始まり、1990年カンボ
ジア紛争、1994年チェチェン紛争を背景に、その危険な現地
で活動するNGOの医師と、それを支援するイギリス人女性
を中心に描かれる。                  
ほとんどが寄付によって賄われているUNHCRの活動の困
難さが克明に描写されるが、その一方でCIAの暗躍なども
描かれ、単に綺麗事だけに終らせていないところはさすがと
言うところだ。                    
また、医師と女性の道ならぬ恋を描いてドラマを盛り上げる
が、それも悲惨な現状を描く上での方策といった感じで、全
ての目が厳しい現実に向けられている点は、いわゆるハリウ
ッド映画と違うところだろう。             
大時代的な邦題に、大掛かりなメロドラマを想像したが、全
く予想に反して思わず居住まいを正すような作品だった。で
も日本では、ぜひともメロドラマの線で売って、観客に現実
を突きつける効果を上げてもらいたいものだ。      
                           
『ケイティ』“Abandon”                
『トラフィック』の脚本でアカデミー賞を受賞したスティー
ヴン・ギャガンが、自らの脚本を初監督したスリラー作品。
名門大学で優秀な成績を収め卒業目前の主人公ケイティは、
2年前に突然失踪した恋人のことを思い続けている。彼は大
金持ちの遺産相続者であり、また舞台演出でも話題を呼んだ
カリスマ的な男だった。                
そんな彼女の許へ1人の刑事が失踪事件の再捜査のために訪
れる。そして彼女や学生たちの証言を集め始めるが・・・。
一方、ケイティは自分が誰かに監視されているような感覚に
襲われ、その恐怖心から刑事に接近して行く。      
現実と幻想が入り混じり、さらに現在と過去が交錯する巧み
なプロットで、1時間39分の上映時間は厭きさせなかった。
また、結末に至る展開にも無理はなく、話は納得できた。 
途中で発生する別の失踪事件の下りはちょっとやり過ぎかな
という感じもするが、全体はまとまっていたと思う。   
次回作に期待したい脚本家、監督と言うところだろう。  
                           
『戀之風景』“戀之風景”               
アジア・フィルム・フェスティバルに出品されるNHKと香
港の共同制作作品。                  
同フェスティバル出品作品の試写はこれで3本目になるが、
本篇はさすが香港映画だけのことはあって、今回見た作品の
中では一番まとまりが良かった。            
亡き恋人が書き残した風景画を頼りに、彼の故郷で風景画の
場所を探す女性。彼女は彼との思い出を記憶に留めるため、
時間経過も表わすある作業を続けているが、旅先で巡り会っ
た青年との間で心は揺れ動く。             
この展開だけで充分なメロドラマとなる訳で、あとはこれに
如何に印象的な展開を持ち込むかと言うところだ。その点で
も、この監督は最後に効果的な手法を用いて、上手くまとめ
上げている。                     
監督は『金魚のしずく』のキャロル・ライ。前作はもっと子
供の話だったと記憶しているが、今回は成年男女の機微を切
なく描いて、女性監督らしい作品という感じだった。   
なお、前週一般公開された香港の興行では、『キル・ビル』
を上回る成績を上げているそうだ。           
                           
『気まぐれな唇』(韓国映画)             
00年の東京国際映画祭で、審査員特別賞を受賞した『オー!
スジョン』のホン・サンス監督の02年の作品。この作品まで
3作連続でカンヌ映画祭「ある視点部門」に招待されたが、
この3作目は招待を断ったことでも話題になったそうだ。 
ちょっと自意識過剰気味の男性俳優が、先輩の恋人に言い寄
られたり、逆に自分を知っている女性に言い寄ろうとして、
すったもんだする姿を描いたヒューマンコメディ作品。  
映画は、主人公以外は舞台も登場人物も変る2部構成になっ
ているが、さらに細かい物語の切れ目ごとに小見出しのよう
な字幕が入ったり、「人間が生きていくことは苦しいが、獣
になってはいけない」という警句(?)が繰り返し使われた
り、前半で説明された伝説が最後の落ちになっていたりと、
なかなか面白い構成になっていた。           
撮影は、台本無しで行われ、監督からはストーリーだけが提
示されて、俳優はほとんど即興で演じたということだが、そ
こからこれだけの構成の物語を造り出すというのは見事な才
能だ。                        
また、即興ということは、台詞も生の声というか俳優が感じ
たままが話されている訳で、確かに聞いていて頷いてしまう
ところが多いのは、このやり方が成功だったということだろ
う。まあ、日本も韓国も男女の関係はそれほど変らないとい
うことだ。                      
それにしても、韓国映画のベッドシーンの大胆さにはいつも
ながらに驚かされる。本作でも前後2回のベッドシーンがあ
るが、ちょっと恐れ入ったという感じだ。撮影中、酒は本物
が使われているそうだが・・・。            
                           
『アンダーワールド』“Underworld”          
今年9月にアメリカ公開され、No.1興行を達成したファンタ
シー映画。アメリカ公開は、ソニー・ピクチャーのジャンル
・レーヴェル<スクリーン・ジェムズ>で配給された。  
物語の背景は、長年続いてきた吸血鬼と狼人間の戦い。しか
し400年前、吸血鬼の1人が狼人間の君主を倒して戦いは終
結。そして現代、主人公の吸血鬼の女戦士セリーンは狼人間
の残党の掃討に当っていたが、その任務も終りが近いように
見えていた。                     
ところがある日、セリーンは、狼人間たちが1人の人間の男
性の後を追っていることに気づく。その男性に隠された謎、
それは戦い始まりよりもさらに以前に遡る吸血鬼と狼人間の
間の秘密の関係を暴くものだった。           
女性が活躍するアクション映画がブームだが、本編もその1
本。しかも監督はMTV出身のデビュー作というのだから、
最近の映画の見本のような感じの作品だ。        
映画では、基本的には不死身の設定の女性主人公が、飛んだ
り跳ねたり2丁拳銃をぶっ放したりと大活躍する訳で、特に
若年層に受ける要素は充分というところだ。       
しかも映画では、狼人間に向けられる銃弾が銀製というのは
定番だが、これを液体の硝酸銀にして除去し難くしたり、逆
に吸血鬼に向けられる銃弾は紫外線を発光する曳光弾だった
りと、細かいところがいろいろ押さえられているのも面白か
った。                        
さらに、昔の狼人間は吸血鬼の昼間の守護者で奴隷だったと
いう発言が出るなど、伝説もよく踏まえられていて、物語の
原案は、レイズ役で出演もしているケヴィン・クレヴォーだ
そうだが、かなり良く研究している感じだった。     
なお、第48回の製作情報で紹介した通り、本作は3部作とす
る計画で、すでに続編の準備開始が発表されている。   
                           
『マトリックス/レボリューションズ』         
                “Matrix Revolutions”
初夏に公開された『リローデッド』に続く完結編。    
一般公開は、11月5日の日本時間午後11時に、全世界同日・
同時刻封切される。                  
巻頭、話が突然始まるのにまず面食らった。確かに前作の公
開は半年前だから、憶えているのが当然と言われればそれま
でだが、余計なことは一切排するという潔さも気持ちの良い
ものだった。                     
という訳で、物語は前作の終ったところから始まる。つまり
マシン軍団のザイオン突入まであと20時間余りというところ
から、人類とマシンとの雌雄を決する戦いが描かれるという
訳だ。                        
正直に言って、この手の映画を見慣れて来た者にとっては、
今回の話の展開には、これはと言うような意外性は余りなか
った。と言うか、予想通りの結末に向かって、まあこれ以外
の展開はないというところだろう。それだけに安心して見て
いられた感じだ。                   
とは言え、タイムリミットに向かってのハラハラドキドキの
展開はあるし、女性客の涙腺を刺激するようなシーンも用意
されているという具合で、何しろサーヴス精神の旺盛さには
頭が下がった。よくこれだけの展開を2時間9分に納めたも
のだ。                        
お決まりのネオとスミスの死闘も、たっぷりとしかし長過ぎ
ることなく良い感じで見せてくれるし、バランス感覚も見事
な感じだ。                      
これでこのシリーズは完結、次に兄弟監督はどんな物語を見
せてくれるか、楽しみだ。               


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