井口健二のOn the Production
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2003年11月01日(土) 第50回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は意外な展開となったこの話題から。       
 ちょうど1年前の第26回で紹介した70年代の人気テレビシ
リーズ“The Six Million Dollar Man”(600万ドルの男)
の映画化の計画で、主演をジム・キャリーとし、コメディタ
ッチで映画化する計画が発表された。          
 元々この計画は、2年程前から、マーティン・ケイディン
の原作“Cyborg”の映画化権を購入したディメンションと、
テレビシリーズに基づく権利を所有するユニヴァーサルとの
間で共同製作による計画が進められていたものだが、1年前
の報告ではトレヴァー・サンズという若手作家の脚本が採用
され、サンズの監督で映画化するものとされていた。また製
作には、ケヴィン・スペイシーが主宰するプロダクションが
参加し、スペイシーの主演も期待されていた。      
 しかしこの計画は結局キャンセルされたようで、新たに、
キャリーの主演と、今年2月に公開されて最終的に7500万ド
ルの興行を記録したウィル・フェレル主演のコメディ“Old
School”を手掛けた監督トッド・フィリップス、脚本スコッ
ト・アームストロングのコンビの起用が発表されたものだ。
 因に経緯は、キャリー側からテレビシリーズに基づくアク
ションとコメディを結合するアイデアが先に提出され、これ
によりキャリーの主演が決まった時点で、フィリップスとの
契約が結ばれたということだ。             
 それにしても、『600万ドルの男』のコメディ化とは大胆
な計画が建てられたものだが、ユニヴァーサルとしてはこの
夏の『ハルク』がちょっと期待外れの結果に終ったことで、
真面目な映画化には躊躇があったのかも知れない。また、い
ずれにしても映画化にはかなりの製作費が見込まれることか
ら、キャリーの主演とすることで、ある程度の興行が保障さ
れるという効果はあるようだ。             
 ただし、フィリップスとアームストロングは、現在はディ
メンションで、1960年にイギリスで製作されたコメディ映画
“School for Scoudrels”という作品のリメイク計画に携わ
っており、それが終了次第、本作の脚色に取り掛かるという
ことだ。                       
 一方、キャリーも、現在はチャーリー・カウフマン脚本の
“Eternal Sunshine of the Spotless Mind”の撮影が終っ
て、ブラッド・シルバーリング監督の“Lemony Snicket's A
Series of Unfortunate Events”の準備中、その後には、
前回紹介した“Fun With Dick and Jane”の撮影が控えてお
り、今回の計画が実現するのは、来年の秋ごろになるという
こと。この分では公開は05年夏になりそうだ。      
 なお、フィリップスとアームストロングは、ワーナーとデ
ィメンションの共同製作で、これも70年代の人気テレビシリ
ーズ“Starsky & Hutch”を、ベン・スティラーとオーウェ
ン・ウィルスンの共演でコメディ映画化する計画にも参加し
ているようだ。                    
        *         *        
 もう1つジム・キャリーの情報で、リヴォルーションが製
作する“The Hypnotist”という作品に主演する計画が発表
されている。                     
 この作品は、スティーヴン・スピルバーグの監督、トム・
ハンクス、キャサリン・ゼータ=ジョーンズ共演で撮影中の
“Terminal”の脚本家サシャ・ジャヴォージが発表した脚本
を映画化するもので、お話は、世界的に著名な催眠術師が、
ある日突然その力を失い、それを回復するためには、女性に
求愛して恋に落ちなければならなくなるというもの。   
 見るからにキャリー向きの作品だが、実は前職ジャーナリ
ストのジャヴォージが、実際に催眠術師を取材しているとき
に思いついたアイデアで、脚本執筆の段階からキャリーとの
話し合いが持たれたというものだ。そして完成された脚本は
キャリーの主演がセットされてセールスされ、各社争奪戦の
末、リヴォルーションが100万ドル以上の金額で獲得した。
 因に、ジャヴォージは、93年に自死した俳優ハーヴ・ヴィ
レチェイズについて、彼の死の1週間前に行ったインタヴュ
ーに基づいて執筆した“My Dinner With Herve”という脚本
で評価されているようだ。また、上記の“Terminal”は、当
初は『SIMONE』のアンドリュー・ニコルのために書か
れた脚本だったそうだ。                
 なお、同様のキャリー主演の計画では、ニューラインにも
“I Know That You Know That I Know”という81年製作イタ
リア映画をリメイクする計画が契約されているそうだが、上
にも書いたキャリーのスケジュールで、一体、何時これらの
作品は実現されるのだろうか。             
        *         *        
 続いては、ファンにはうれしい話題で、今年の夏の大ヒッ
ト作“Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black
Pearl”(パイレーツ・オブ・カリビアン)の続編が製作さ
れ、しかも2部作で公開されるという計画が発表された。 
 この続編については、前作のエンディングロールの後に、
見るからに何かありそうな映像が付いていたことから、そこ
そこの興行成績が上がれば続編が製作されることは自明とい
う感じもしていたが、アメリカでの興行成績が3億ドルを突
破し、“Finding Nemo”に次ぐ実写ではトップという成績で
は、もはや確定という感じになっていたものだ。     
 そしてその3億ドル突破の週に、正式に続編製作の発表が
あったもので、しかも2本分を同時に撮影して、2部作で公
開するというものだ。                 
 なお、同様の同時撮影2部作公開の作品では、古くは89、
90年に公開された“Back to the Future II, III”などもあ
るが、最近では、3部作が同時に撮影された“The Lord of
the Rings”や、2部作の“Matrix”、それに状況はちょっ
と違うが“Kill Bill vol.1, 2”など、一種のブームのよう
な感じにもなって来ている。              
 ということで、この計画もかなり早い時期から検討されて
いたと思われるが、実は今回の発表は、監督のゴア・ヴァー
ビンスキーが続編の監督も担当することになったというもの
で、脚本家のテリー・ロッジオとテッド・エリオットはすで
に参加が決まっているということだ。ただし脚本の完成は未
だのようだ。                     
 一方、出演者では、主演トリオのジョニー・デップ、オー
ランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイについては、ディズ
ニーの公式発表で言及されており出演は確定のようだ。敵役
のジョフリー・ラッシュの名前がないのがちょっと気になる
が、別段断る理由があるとも思えないし、隠し玉のような感
じになるのかも知れない。               
 いずれにしても、撮影時期も続編の題名も決まってはいな
いということだが、“Back to the Future”のように、正編
から5年も待たせるようなことはしないで欲しいものだ。 
        *         *        
 続けて、続編の話題をまとめて紹介しよう。      
 まずはロンドンで撮影中のシリーズ第3作“Harry Potter
and the Prisoner of Azkaban”で、新たな先生役にエマ・
トムプスンの出演が発表された。            
 今回の映画化では、新登場のSirius Black役にゲイリー・
オールドマンや、Professor Lupin役のデイヴィッド・チュ
ーリスなどが先に発表されているが、トムプスンが演じるの
は、Proffesor Sybill Trelowney。ホグワーツ魔法学校の占
い学の先生で、原作の最新巻“The Order of the Phoenix”
にも登場しているレギュラー・キャラクターだ。ちょっとエ
キセントリックな印象もあるキャラクターだが、アカデミー
賞主演女優賞の他に脚色賞も受賞している才媛の演技に期待
したい。                       
 因にトムプスンは、第2作の『秘密の部屋』でProfessor
Lockhartを演じたケネス・ブラナーとは一時期結婚していた
間柄で、実は最新巻にはそのLockhartも登場している。2人
が一緒に登場するシーンではないが、映画化がそこまで進む
と、一応そういうこともあるということだ。       
        *         *        
 もう1本は、続編と呼んで良いかどうかはちょっと問題の
ような気もするが、98年にテリー・ギリアム監督、ジョニー
・デップの主演で映画化された“Faer and Loathing in Las
Vegas”(ラスベガスをやっつけろ)の原作者ハンター・S
・トムプスンの足跡を、30年後に同じホテルに宿泊した作家
ジェームズ・マクマナスの目で追ったノンフィクション作品
“Positively Fifth Street”の映画化が進められることに
なった。                       
 内容は、同ホテルで開催されたポーカー・ワールドシリー
ズの取材で訪れたマクマナスが、トムプスンと彼の作品の足
跡を追うという形式のようだが、その一方で、マクマナスは
出版社から貰った取材費を注ぎ込んで自ら試合に参加し、5
位に入賞してしまったり、試合中にカジノの経営者の息子が
殺され、その婚約者だったストリッパーとその男友達が逮捕
されたりという、とてもノンフィクションとは思えないお話
が展開する。そしてこの原作から、『スリー・キングス』や
『アンダーカバー・ブラザー』のジョン・リドリーが脚色し
て監督も手掛ける計画ということだ。          
 ギリアム作品は、「原作の味わいは随所に見られるが、全
体としては失敗作」と言われたものだが、リドリー監督で今
度はどうなることか。製作は、ニューヨーク所在の独立系の
プロダクション2社の共同で行われることになっている。 
        *         *        
 前回も1本紹介したが、またまたザ・ロックことドウェイ
ン・ジョンスン主演作品の計画が発表されている。    
 今回の作品は、『タイタニック』でアカデミー賞を受賞し
たVFXスタジオのディジタル・ドメインが、ニューライン
と共同製作するもので、題名は“Instant Karma”。    
 内容は、ジョンスン扮する金庫破りの主人公が死亡し、そ
の後にいろいろな生物に転生して、食物連鎖を辿って行くと
いうお話で、CGIと実写の合成技術が使用され、その実写
シーンには、ピアーズ・ブロスナン、ミラ・ソルヴィノ、デ
イヴィッド・アラン・グリア、アーサー・キットらが出演す
る一方、動物たちの声優として、バート・レイノルズ、ドム
・デ=ルイス、ジーン・ワイルダー、そしてコメディ劇団の
ブロークン・リザードなどが出演するということだ。   
 脚本、監督は、これがデビュー作となるポール・ヘルナン
デス。彼の作品では、“Sky High”と題されたスーパーヒー
ロー養成学校を舞台にした脚本がすでにディズニーと契約さ
れているということだが、今回の計画は来年4月からの撮影
が予定されているということで、この作品の方が先に実現さ
れることになるようだ。なお、今回の製作費には7000万ドル
が予定されている。                  
 また、この作品は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の
脚本家チーム、テリー・ロッジオとテッド・エリオットが製
作者として参加しているが、彼らはディジタル・ドメインと
親密な繋がりを持って、他にも“Shadowplay”というスリラ
ー作品の計画を進めているということだ。        
 なお、ディジタル・ドメインの映画製作はこれが第2作と
なるが、第1作の“Secondhand Lions”(実写によるファミ
リーコメディ)は今年9月に公開され、4週間で3500万ドル
の興行成績を上げている。               
 この他のジョンスンの話題では、第46回で紹介したように
F・ゲイリー・グレイ監督で進められることになった『ゲッ
ト・ショーティ』の続編“Be Cool”に、ジョン・トラヴォ
ルタ扮するチリ・パルマーのボディガード役で出演する計画
も発表されており、この作品は11月に撮影開始されることに
なっているようだ。                  
        *         *        
 そろそろシーズンということで、クリスマステーマの映画
の話題が2本届いている。               
 まずは、『女神が家にやってきた』のアダム・シャンクマ
ンの監督で、“Four Christmases”というコメディ作品がス
パイグラスで計画されている。             
 内容は、共に両親が離婚してそれぞれ別の結婚をしている
という経験を持つ若いカップルが、クリスマスの日にその4
つの家族を訪問するというもの。オリジナルは、マット・ア
レンとケイレブ・ウィルスンという脚本家コンビが執筆し、
今年6月にスパイグラスが最低65万ドルから、最高100万ド
ルの契約金で購入した作品だが、現在はこれをテレビ出身の
ハワード・グールドがリライトしているということだ。  
 そしてこの映画化にシャンクマンが契約を結んだというも
ので、さらに映画の配給を新たに契約したコロムビアで行う
ことも発表されている。因に、スパイグラスは、元はディズ
ニーと、02年からはドリームワークスと配給契約を結んでい
るが、今年からさらにコロムビアとも契約を結んだもので、
その第1作としてこの作品が選ばれたということだ。   
 一方、コロムビアでは、01年にジェニファー・ロペスが主
演した『ウェディング・プランナー』でシャンクマン監督作
品を配給したことがあり、その繋がりでも好適の作品となっ
たようだ。                      
 ただし、シャンクマン監督のスケジュールでは、次回作に
はディズニーで“Enchanted”が予定されており、同社でリ
メイクの“Topper”と、さらにワーナーで“The Jetsons”
の計画にもタッチしているということで、一応、第1作と明
言されている限りは、この内のどこかに割り込むことになる
のだろうが、前作が1億ドル突破の監督では、その交渉も大
変になりそうだ。                   
        *         *        
 もう1本は、『ブロードウェイと銃弾』などの名バイプレ
イヤー、チャズ・パルミンテリが長編映画監督に初挑戦する
作品で“Noel”。                   
 内容は、いろいろな問題を抱えるマンハッタンの人々が、
クリスマスの季節の魔法によって、それぞれの問題に向かう
勇気を持つようになる姿を描くもの。デイヴィッド・ハバー
ドという作家の脚本にパルミンテリが目を止め、自らの監督
で映画化を進めたというものだ。            
 因に、パルミンテリは、93年にロバート・デ=ニーロが初
監督した『ブロンクス物語』の脚本でも知られるが、元々こ
の作品はパルミンテリがブロードウェイで上演した一人芝居
を映画化したもので、劇作家及び演出家としての評価は以前
から高いようだ。                   
 そして今回の映画化には、パルミンテリ自身の他、ポール
・ウォーカー、スーザン・サランドン、ペネロペ・クルスら
が出演を熱望し、特にウォーカーは、脚本を呼んだ後でエー
ジェントに連絡し、以前に紹介した“Into the Blue”への
出演スケジュールを再調整して、その撮影前に本作への出演
ができるようにしたということだ。           
 撮影は、11月3日にモントリオールとニューヨークで開始
され、04年のクリスマスシーズンに公開できるように計画さ
れている。製作はニューヨークのネヴァーランドという会社
が担当し、配給権は同社の管轄でこれから交渉される。  
        *         *        
 お次は待望の情報で、スティーヴン・キングとピーター・
ストローブが共作し、84年に発表された異世界ファンタシー
小説“The Talisman”の映画化がようやく実現することにな
った。                        
 この映画化については、元々はスティーヴン・スピルバー
グが監督を希望し、長く期待されていたものだったが、結局
スピルバーグは監督を断念し、製作総指揮として参加するこ
とになっている。そして監督には、ドリームワークス製作の
“The House of Sand and Fog”でデビューを飾ったばかり
のヴァディム・パールマンが抜擢されることになった。  
 内容は、12歳の少年が病弱で余命いくばくの母親の命を救
うための謎のタリスマンを求めて、現実世界と並行世界の両
方を旅して冒険を繰り広げるというもの。僕も以前に翻訳を
読んでいるが、かなり前のことで記憶は定かでない。しかし
かなり長大で込み入った物語だったという印象はある。  
 そして今回の映画化では、この原作から『ザ・リング』を
手掛けたアーレン・クルーガーが脚色を担当し、製作準備は
すでにプレプロダクションの段階にあるようだ。また、製作
はドリームワークスとユニヴァーサルの共同で行われ、配給
はアメリカ国内をドリームワークス、海外をユニヴァーサル
が担当することになっている。             
        *         *        
 もう1本待望の情報で、アイザック・アジモフ原作の大河
SF“Foundation”の映画化が動き始めた。       
 この原作は、元々は1942年から49年に雑誌連載で発表され
た長編小説で、その後3部作として出版されたものだが、人
類が作り上げた壮大な宇宙帝国の滅亡とその再興を数100年
の単位で描いて、そのスケールでは当時黄金時代と言われた
アメリカSFの中でも群を抜く作品といえる。そしてこの映
画化についても、10年以上も前から計画が発表され、最初は
トライスター、次いでフォックスが計画を進めていた。  
 因に、アジモフの原作は、80年代以降にさらに書き継がれ
ているが、今回の映画化はその最初の3部作に基づいて行わ
れるもの。そしてその脚色を、来年公開される“I, Robot”
の脚色も手掛けたジェフ・ヴィンターが担当することが発表
された。なお、脚色は3部作の全体を1つの物語として行わ
れるが、映画は2本に分けて公開されるということだ。  
 ただし、ヴィンターは、その前にニューラインでデイヴィ
ッド・ゴイヤーが製作するDCコミックスの映画化“Y: The
Last Man”の脚色を担当することも発表されており、差し
当ってはニューライン作品が先行するということで、『銀河
帝国の興亡』が見られるのは少し先になりそうだ。    


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井口健二