井口健二のOn the Production
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2003年10月02日(木) ブルース・オールマイティ、味、女神が家にやってきた、シャンハイ・ナイト、ミッション・クレオパトラ、ボブ・クレイン

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『ブルース・オールマイティ』“Bruce Almighty”    
アメリカではコメディ作品の興行記録を塗り替えたジム・キ
ャリー主演の最新作。                 
主人公は、軽妙なリポートで人気のニュース番組のリポータ
ー。ところが、狙っていた番組のアンカーになるチャンスを
逃し、自暴自棄になり勢いで神を呪うと、その神が現れて、
ヴァカンスの間の代役を務めることになる。そして最初はオ
ールマイティの力で特種をリポートし、アンカーの席も手に
入れるが…、というハートフルコメディ。        
キャリーは、アメリカでは最も安定してヒットの狙えるコメ
ディアンといえる。本作もすでに世界興収で4億ドルを突破
している。日本では『グリンチ』のような例もあるが、あの
場合は原作の認知度の問題など仕方のない面もある訳で、そ
ういう点を除けば、概ね良い成績を残しているはずだ。  
そこで本作は、トークギャグからパフォーマンスのギャグ、
VFXのギャグまでいろいろ取り揃えられていて、ギャグ自
体がそこそこ解かり易いし、日本でも受け入れられる部分は
多そうだ。全体もハートウォーミングだし、正月映画には好
適と言える。                     
ただし、トークのギャグは字幕にするのがかなり困難な感じ
で、多分もっと面白いのだろうと思えるところがちょっと悔
しい感じもする。一方、ただ単純にサプライズゲストによる
ギャグには、予期せずに見て本当に驚かされた。     
2001年9月11日から2年が過ぎて、アメリカ人には未だわが
かまりが残っているのだろうが、そんな気持ちをある意味癒
してくれるようなところも、この映画のヒットの要因のよう
な感じもした。神も決してオールマイティではないのだ。 
監督は、キャリー主演の『エース・ベンチュラ』『ラーアー
・ライアー』のトム・シャドヤック。共演はジェニファー・
アニストンとモーガン・フリーマン。特に、フリーマンの神
が素晴らしい。                    
                           
『HELL』“In Hell”                
ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の刑務所アクション。
主人公はロシアの製鉄所に技術指導にやってきているアメリ
カ人技師。契約期間の終了まで6カ月となったある日、妻が
レイプ殺人の被害者に…。しかも捕えられた男は、賄賂によ
って無罪となり、怒った主人公は男を射殺して終身刑になっ
てしまう。                      
こうして主人公が収監されたロシアの刑務所は、正に地上の
地獄だった。そこでは賄賂が横行し、殺人も金でもみ消され
てしまう。劣悪な環境の懲罰房や、所長が友人との賭けに興
じる囚人同士の命がけの格闘技の戦いなど。       
主人公は、最初は生き残るために体を鍛えるが、やがて力だ
けでは物事は変化しないことに気づいて行く。      
絶体絶命からの脱出劇というのは、ヴァン・ダムやセガール
など格闘技系の俳優には最高のパフォーマンスを発揮できる
テーマだが、あえて戦わないという展開の持って行くところ
は、ちょっと進歩の跡が見られるというところか。    
しかしちゃんと最後の戦いが用意されている辺りは、構成も
上手くなったものだ。これもある意味2001年9月11日以降の
作品の感じがした。                  
エンディングのクレジットでは、やたらとSKIとか、Vで終る
名前が多く、映画の中でもロシア語が巧みに使われていて、
どうやら本当にロシアで撮影が行われたようだが、そこでこ
のようなロシアにとって殆ど国辱のような映画がよく作られ
たものだと感心した。                 
                           
『味〜Dream Cuisine』          
文化大革命のためにほとんど失われてしまった山東省の魯菜
料理。その味を日本で守り続けた佐藤夫妻。中国政府から与
えられた正宗魯菜伝人魯菜特級厨師の称号を持つ夫妻と、中
国との関わりを追ったドキュメンタリー。        
上映時間2時間14分で、映画は夫妻の蛇酒論議から始まる。
この恐ろしくテンポの無いプロローグに、正直言って退屈さ
との戦いを覚悟したのだが…。どうして、いろいろ問題が山
積する展開に、最後まで息を抜けずに見てしまった。   
問題はまず夫妻が78歳と72歳という高齢であることから始ま
る。日本人だが山東省生まれで中国に帰りたいと言う妻と、
東京生まれで土地を離れたくない夫。          
さらには、夫妻が東京四谷に開いている店の存続を巡っての
中国側との考えの違い。                
そして極めつけは、砂糖も化学調味料もラードも使わないの
が正統と主張する夫妻に、それらを平然と使って新魯菜料理
と言い切る中国の料理人など。これらが次々に登場して、話
をややこしくしてしまう。               
ドキュメンタリーであるから、作られた物語ではないのだろ
うが、それにしてもこれらの問題に立ち向かって行く夫妻の
姿、特に支えあって行く夫婦愛には頭が下がった。自分もだ
んだん年を取ってきて、こういう物語が身に染みるようにな
ってきたようだ。                   
                           
『女神が家にやってきた』“Bringing Down the House”  
スティーヴ・マーティンの主演、『シカゴ』のクイーン・ラ
ティファの製作総指揮・共演で、『ウェディング・プランナ
ー』のアダム・シャンクマンが監督、アメリカでは今年の春
に大ヒットを記録したハートフル・コメディ。      
仕事一途の生活で家族にも見放された堅物弁護士が、インタ
ーネットの出会い系法律相談サイトで知り合った女性を家に
招くが、現れたのは指名手配中の脱獄囚だが無実を主張する
黒人女性。しかも彼女は弁護士の家に居座り、このため弁護
士の生活は危機の連続となる。             
しかし彼女とのつきあいを通じて、弁護士は今まで見ようと
もしなかった世界を知り、彼自身の人生観も徐々に思いも寄
らぬ方向に変えられて行く。              
この堅物弁護士を演じるマーティンがはまり役で、また、彼
の生活を掻き回すラティファが実にそれらしい。さらに脇役
陣も、ベテランから子役まで良い演技を見せてくれる。  
中でも、保守的な富豪の老婦人を演じるジョーン・プロウラ
イトは、黒人蔑視の言葉を無神経に次々に発するという物語
の一面を代表する役柄で、さすがオールド・ヴィックの出身
でデームの称号を持つという貫禄。           
さらに彼女の飼犬がフレンチブルドッグで、名前がウィリア
ム・シェークスピアという辺りも気が利いている。    
ラップ音楽に合せてのダンス合戦など、マーティンの芸達者
ぶりも見られ、アメリカでの大ヒットも理解できる。僕も、
主人公とは年齢的にそう離れていない状況で、主人公の考え
方も理解できるし、いろいろな面で納得できる映画だった。
                           
『シャンハイ・ナイト』“Shanghai Knights”      
ジャッキー・チェン、オーウェン・ウィルスン共演で、00年
にヒットした『シャンハイ・ヌーン』の続編。      
前作でアメリカに渡ったチョン・ウエンは、西部の町で保安
官として活躍していた。しかしそんな彼の許に父親の訃報が
届く。それはウエンの一族が代々守ってきた中国皇帝の証で
ある龍玉の盗難の知らせでもあった。          
この知らせにウエンは、犯人を追ってロンドンに向かった妹
に合流するため、今はニューヨークで暮らすロイを訪ね、彼
に預けた金を受け取ろうとするのだが、ロイの手元に金はな
く、やむなく密航でロンドンに向かうウエンの側にはロイが
ついてきていた。                   
そしてロンドンに着いた2人は、若き日のチャーリー・チャ
ップリンやコナン・ドイルの助けを借り、妹リンと共に龍玉
を追うのだが、それは同時に英国王室の危機にも対抗するこ
とになるものであった。                
前作は西部の荒野が舞台で、チェンのアクションに上下の動
きが少ないのが物足りなかったが、今回は大都市ロンドンを
舞台にビッグベンなど上下の動きも存分に見せてくれる。ま
た屋根の上でのアクションでは、『メアリー・ポピンズ』を
思い出した。                     
また敵役に、ハリウッドではアクション監督としても活躍し
ている『HERO』などのドニー・イェンを招いて、クンフ
ーの組打ちも存分に見せてくれる。また、ウィルスンのアク
ションもかなり様になっていた。            
お話も解かりやすいし、要所でちゃんと中国語が話されると
ころも良い感じだった。                
                           
『ミッション・クレオパトラ』             
        “Asterix & Obelix Mission Cleopatra”
フランスでは絶大な人気を誇るコミックスをクリスチャン・
クラヴィエ、ジェラール・ドパルデュー主演で映画化したシ
リーズ第2弾。本作では、ゲストのクレオパトラ役にモニカ
・ベルッチを招いている。               
主人公のガリア人は、史実では比較的容易にローマ帝国に占
領されたようだが、本作の主人公たちは魔法の薬の力も借り
て、いともた易くローマ兵を撃退している。       
そのガリア人2人と、魔法使い、それに愛犬が、今回はシー
ザーと賭けをしたクレオパトラの命令で、3カ月で壮大な宮
殿を作らなくてはならなくなった建築家の窮状を救うため、
アレクサンドリアへと向かう。             
物語は多分原作通りなのだろうが、コミックスのはちゃめち
ゃな展開を、そのまま映像化してしまう力は大したものだ。
さすがに前作に続いて本作も大ヒットさせた製作者の自信の
現れと言えそうだ。                  
ギャグ自体はちょっと細切れの感もあるが、パロディあり、
アクションギャグありの多彩さで、それぞれに楽しめる。い
ろいろ背景のあるギャグもあるが、そこはそれなりというこ
とで楽しめるところだけでも楽しみたい。        
魔法の薬は、ポパイのほうれん草のようなものだが、ポパイ
の様に溜めることなく、ふんだんに使ってしまうところも、
単純で心地よい。前作(ゲストはロベルト・ベニーニ)はヴ
ィデオで紹介されているが、それもちょっと見てみたくなっ
た。                         
なお、本作はフランス映画だが、タイトルはフランス語のク
レジットと共に英語表記の題名が表示されていた。    
                           
『ボブ・クレイン』“Auto Focus”           
65〜71年に放送されたドイツ領内捕虜収容所が舞台のヒット
コメディ“Hogan's Heroes”(0012捕虜収容所)で大人
気を博しながら、その後没落、78年に殺人事件の被害者で生
涯を終えた俳優ボブ・クレインの後半生を描いたドラマ。 
クレインが主演したテレビシリーズは僕も大好きだった番組
で、そのクレインがモーテルで殺されたという報道には僕も
ショックを受けたものだ。当時は同性愛絡みという報道もあ
り、いろいろ汚い話も暴露されたが、本作でそれらを丁寧に
まとめ上げている。                  
本人の息子がテクニカルアドヴァイザーとして製作に参加し
ており、その辺りはクレイン寄りに描かれているということ
にもなるが、作品自体はR−18に指定されるほどの、かなり
スキャンダラスな描き方をされている。         
ジャズドラマーとしてプロの腕を持ち、ラジオではNo.1DJ
と呼ばれ、その人気を引っ提げてテレビに進出、大成功を納
める。しかし本人はジャック・レモンが目標で、映画に出ら
れないディレンマに苦しみ、それを紛らわすために淫らな快
楽へと落ちて行く。                  
その背景に登場するのがソニー製のVTRで、初期のヘリカ
ルスキャン型オープンリールからU−マチック、ベータへの
変遷も描かれている。RGBのレンズがデルタ配置されたプ
ロジェクターまで登場したのにはさすがと思ったが、映画の
制作当時はソニーの配給は決まっておらず、全てインターネ
ットを通じて一般から集められたものだそうだ。     
先に公開された『コンフェッション』でも、普段のシーンで
はそれほど似ていないと思ったサム・ロックウェルが『ゴン
グショウ』の再現場面になった途端にそっくりになるのに驚
かされたが、本作でもテレビの再現場面のそっくり振りには
感心した。                      
再現場面は所長室のシーンが何カットか登場するが、中でも
葉巻のボックスを使ったお決まりのシーンでは、クリンク所
長ことウェルナー・クレンペラー役の相手の俳優の似せ方も
見事で、うなってしまった。              
衣装やメイクアップのお陰もあるのだろうが、身体全体の動
かし方や、細かい仕種などが本当に良く研究されているのだ
ろう。いろいろな意味で拘わりの1作という感じがした。 


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井口健二