井口健二のOn the Production
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2003年09月15日(月) 第47回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは訂正というか、続報から。           
 前回、イギリス人俳優抜擢の噂を紹介した“Batman 5”の
計画で、ワーナーから公式に、次回作の主演俳優決定の発表
があった。発表されたのは、クリスチャン・ベイル。来年ク
リストファー・ノーラン監督で撮影される第5作の主演は、
イギリス出身で、30歳以下の俳優では現在最も注目を浴びて
いるというアイドルスターの起用に決まったようだ。   
 ベイルは、今春公開された『サラマンダー』にも主演して
いたが、元々はスティーヴン・スピルバーグ監督の87年作品
『太陽の帝国』の主演に13歳で抜擢されて脚光を浴び、賛否
両論の巻き起こった00年の『アメリカンサイコ』では陰影の
ある演技で高い評価を受けている。           
 そして今回の起用でも、主人公ブルース・ウェインの明る
い面と陰の面をバランスよく演じられる俳優として期待され
ているものだ。なお監督のノーランは、「クリスチャンの中
にブルースの具現化を見た」と期待の度合いを語っている。
 この役柄は、映画シリーズでは過去に、マイクル・キート
ン、ヴァル・キルマー、ジョージ・クルーニーが配役されて
いるが、いずれも30代後半の頃に演じており、来年30歳のベ
イルはかなり若いことになる。そこに二面性のある演技とい
うのだから、これはかなり期待されているし、また自信もあ
るということだろう。                 
 デイヴィッド・ゴイヤーの脚本、ノーランの監督で、撮影
は来年早期に開始され、公開は05年の予定になっている。 
        *         *        
 お次は、前回“The Last Samurai”の記者会見を報告した
トム・クルーズの新たな計画が発表されている。     
 今回発表されたのは“The Few”という題名で、第2次世
界大戦の中で最初に撃墜死したアメリカ人パイロットを史実
に基づいて描くもの。クルーズにとっては『トップ・ガン』
以来のパイロット役への挑戦となるものだ。       
 物語の主人公はビリー・フィスク。オリンピック代表選手
で、アメリカ軍の戦闘機パイロットでもあった彼は、一方で
アメリカ人とイギリス人のハーフという血筋もあり、1940年
のチャーチルの呼びかけに応えて、若いパイロットのグルー
プを率い義友軍としてイギリスに渡る。それはまだアメリカ
が参戦を決意する前の出来事だった。          
 監督は、現在クルーズと10月撮影開始の“Collateral”を
準備中のマイクル・マン、脚本は、“The Last Samurai”お
よびマン監督で製作中の“The Aviator”も手掛けているジ
ョン・ローガン。ただし戦史作家のアレックス・カーショウ
が執筆する原作はまだ未完成で、実現するのは少し先のこと
になりそうだ。またローガンも“Gladiator 2”の次に取り
掛かりたいとしている。                
 製作は、マン監督主宰のフォワード・プレスとクルーズ−
ワグナー(C−W)、配給はC−Wと優先契約を結んでいる
パラマウントが予定されている。            
        *         *        
 ところで、C−Wとパラマウントの間では、この発表に先
立ってもう1本、第2次世界大戦を描いた作品の契約が結ば
れている。                      
 その作品は“The War Magician”という題名で、第2次大
戦中の北アフリカを舞台に、ロンメル将軍と対峙するイギリ
ス戦闘部隊が、そこに現れた愛国心に溢れる手品師ジャスパ
ー・マスカリンのイリュージョンマジックによって戦果を納
めるというもの。                   
 史実に基づく物語ではないようだが、デイヴィッド・フィ
ッシャーの原作から『ジュラシック・パーク3』のピーター
・バックマンが脚色し、オーストラリア出身のピーター・ウ
ィアーが監督することになっている。          
 因に、C−Wでは数年前からこの原作の映画化権を所有し
てチャンスを狙っていたが、『ガリポリ』などの戦記ものの
実績のあるウィアー監督の参加でようやく実現できたという
ことだ。また本作は、元の計画ではクルーズの主演が予定さ
れていたが、現状では困難ということで、クルーズは製作だ
けの参加となっている。                
 なお、20世紀初頭に、ジョン・ネヴィル・マスカリンとい
う脱出とイリュージョンマジックを得意としたイギリス人の
マジシャンがいたようだが、彼は1917年に死去しており、こ
の物語とは関係ないようだ。              
        *         *        
 もう1つクルーズ関連の情報で、来年1月に撮影開始予定
の“Mission: Impossible 3”に登場する新たな女性キャラ
クターのプロフィールが紹介されている。        
 それによると、名前はリーア・クイント、アメリカ人のI
MF訓練生で天賦の上品さがあり、暖かさと弱さもあるとい
うことだが、同時に同じ年代の他の人間では経験できない体
験をしてしまうというもの。また思慮深いが、一旦ことが決
まると、鉄の意志とタフさを持った人物に変身する、という
ものだそうだ。                    
 このプロフィールに合せて24歳から36歳のアメリカ人のア
クセントの話せる女優が選考されるということだが、エマニ
ュエル・ベアール、タンディ・ニュートンに続く相手役は、
一体誰になるのだろうか。               
        *         *        
 『戦場のピアニスト』で今年のオスカーを獲得したロマン
・ポランスキー監督が次回作として、来年の夏にヨーロッパ
で、イギリス人キャストによるチェールズ・ディケンズ原作
“Oliver Twist”に挑戦する計画が発表された。     
 この計画では、456ページの原作を2時間の映画に凝縮し
て描くというもので、ポランスキーは自分の10歳と5歳の子
供たちを見ていて映画化を思いついたとのこと。自ら「ファ
ミリー・ムーヴィに仕上げたい」と抱負を述べている。  
 なお、同じ原作の映画化は、1912年の映画化から1ダース
以上を数えるということだが、最新の実写の映画化は68年の
キャロル・リード監督によるイギリス作品の『オリバー!』
ということで、この作品は舞台ミュージカルの映画化だった
が翌年アカデミー賞で作品、監督など4部門に輝いている。
 それにしてもポランスキーの口からファミリー・ムーヴィ
とは、今までの作品からは考えられない発言だが、まあそう
いうことを言える自信があるということなのだろう。なお、
製作費の調達は、『戦場のピアニスト』と同じメムバーで行
うが、配給は映画が完成してから決めるということだ。  
        *         *        
 一方、同じく『戦場のピアニスト』でオスカーを受賞した
主演男優のエイドリアン・ブロディの計画で、『パイレーツ
・オブ・カリビアン』のキーラ・ナイトレイとの共演が発表
されている。                     
 この作品は“The Jacket”という題名で、ブロディが演じ
るのは殺人を犯して精神鑑定に掛けられている兵士。しかし
そのために入院した精神病院で彼は、時間を越える旅をした
と言い始める。そしてナイトレイが演じるのは、彼が時間旅
行の中で子供時代を見たという女性。彼女は、彼が本当に殺
人を犯したかを探究する手助けをするというものだ。   
 『12モンキーズ』に通じるところもあると言われる脚本の
執筆は、マーク・ロッコとマッシー・テイジェディン。監督
は、98年に坂本龍一が音楽を担当した『愛の悪魔』の脚本監
督を手掛けたジョン・メイベリーが担当。製作は、ピーター
・グーバーのマンダレイとジョージ・クルーニー、スティー
ヴン・ソダーバーグのセクション8で、アメリカ配給はワー
ナーが手掛けることになっている。           
 因にこの計画では、元はマーク・ウォルバーグの主演で進
められていたようだが、彼の降板で製作が滞っていた。しか
しブロディ、ナイトレイという今最も話題の2人を主演に迎
えて、今後は一気に最高の注目作ということになりそうだ。
        *         *        
 続いては、女性主演のコメディ映画の話題をいくつか紹介
しよう。                       
 まずは、ジェニファー・ロペス主演で“Monster-In-Law”
という作品がニューラインで計画されている。      
 この作品は、元フォックス傘下のデイヴィス・エンターテ
インメントで製作担当重役を勤めていたアニヤ・ココフとい
う女流脚本家(今まではペンネームを使っていたそうだ)が
手掛けた脚本に基づくもので、この脚本に関しては、今年の
2月に争奪戦の結果130万ドルでニューラインが獲得したこ
とでも話題になっていた。               
 お話は、恋愛運に恵まれない女性がようやく巡り会った理
想の男性。しかし将来の義理の母親(mother-in-law)は、
悪夢に登場するmonsterのような史上最悪の母親だったとい
うもの。もちろんコメディ作品だが、この義理の母親役をジ
ェーン・フォンダが演じることでも話題になっている。  
 そしてこの作品の監督を、『キューティ・ブロンド』のロ
バート・ルケティックが次回作として手掛けることも発表さ
れている。因にルケティックは、現在はドリームワークスが
来年初に公開する“Win a Date With Tad Hamilton!!!”と
いう作品のポストプロダクションに入っており、今回の計画
はその次の作品となるようだ。             
        *         *        
 もう1本は、キム・ベイジンガー主演で“Elvis Has Left
the Bilding”が、9月15日にニューメキシコで撮影開始さ
れている。                      
 この作品は、『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』
のジョエル・ズィック監督が進めているもので、ベイジンガ
ーが演じるのはエルヴィスのコンサート中に誕生したことか
ら、全てのことにエリヴィスとの繋がりを感じてしまうとい
う化粧品のセールスウーマン。             
 ところが彼女の客だったエルヴィスの物まね芸人が相次い
で死んでしまったことから、彼女はFBIの手配を受けるこ
とになってしまう。一方、彼女に興味を持つ広告会社の重役
が現れて・・・。物語のクライマックスは、ラス・ヴェガス
で開催されるエルヴィス・コンヴェンションの会場が舞台に
なるということだ。                  
 そしてこの作品のベイジンガーの相手役に、『ビッグ・フ
ァット』にも出演したジョン・コーベットの共演が発表され
ている。因に彼は、ゲイリー・マーシャル監督、ケイト・ハ
ドスン共演の“Lucky”という作品を撮り終えたところだそ
うだ。                        
 脚本は、アダム−マイクル・ガーバーとミッチェル・ゲイ
ネム。ロンドンに本拠を置くキャピトル・フィルムスの製作
で、同社が全世界の配給権を保有している。因に同社は、第
45回で紹介したケネス・ブラナー出演のネズビットの映画化
“Five Chilren and It”の映画化も行っている。     
        *         *        
 女性主演映画の流れで、この秋公開されるユマ・サーマン
主演“Kill Bill”の第2部の公開日が決定した。     
 この作品の公開が前後編の2部作になることは第44回で紹
介したが、それぞれ“Volume One”“Volume Two”と名付け
られた内の03年10月10日アメリカ公開の第1部に続いて、第
2部のアメリカ公開が、04年2月20日に行われることになっ
た。結局年内の2部作の公開は出来なかった訳だが、これで
賞レースへの影響がどう出るかにも興味が集まっている。 
 今回のケースでは当然“Volume One”は今年の対象作品、
“Volume Two”は来年ということになるのだが、このまま行
くと、ちょうど“Volume One”の賞キャンペーンの期間に、
“Volume Two”の宣伝が始まる訳で、上手くすると相乗効果
が狙えるし、逆に混乱を招く恐れもある。いずれにしても宣
伝にはかなり気を使うことになりそうだ。        
 因に、“Matrix Reloaded”と“Matrix Revolutions”の
2作は、両作とも今年中に公開されることになるが、ワーナ
ーでは賞レースのキャンペーンについては“Revolutions”
に集中し“Reloaded”では行わない方針ということで、混乱
が生じないようにしているようだ。           
        *         *        
 第41回に既報、9月23日に撮影開始される『ブレイド』シ
リーズの第3作“Blade: Trinity”(という題名になった)
で、新たに登場する女性ヴァンパイア・ハンター役としてジ
ェシカ・ビールの出演が発表されている。        
 この役は、クリス・クリストファースン演じるエイブラハ
ム・ウィスラーの娘という設定もので、原作コミックスでは
ブレイドとコンビだったハンニバル・キング(ライアン・レ
イノルズが演じる)というキャラクターとチームを組んで、
ヴァンパイアハンティングを続けているというもの。   
 デイヴィッド・ゴイヤーの脚本で、ゴイヤー本人が監督も
務める第3作では、地上の命運を掛けたヴァンパイアとの最
終決戦が描かれるということだが、実は製作会社のニューラ
インでは、彼女とハンニバルのチームを主人公にした新シリ
ーズの展開も狙っているという情報もあるようだ。    
 因にビールは、98年製作“I'll Be Home for Christmas”
というPG作品に準主役で出演している他、ニューライン製
作で近日公開の“The Texas Chainsaw Massacre”のリメイ
クにも出演している。                 
        *         *        
 ドリームワークス傘下のロバート・ゼメキスのプロダクシ
ョン、イメージムーヴァースから昨年大学を卒業したばかり
の新人監督の企画を進めることが発表されている。    
 この企画は“Monster House”という題名で、3人の子供
が隣の家が生きたモンスターであることを発見するが大人は
信じてくれない。そこで彼らだけで悪魔の企みに対抗しよう
とする冒険物語。                   
 計画の中心となる新人のジル・ケナンは、昨年UCLAの
映画プログラムを卒業したということだが、その卒業製作の
10分の作品がディジタルヴィデオとストップモーションアニ
メーションの混合で、映画各社から注目を浴びていたという
ことだ。そして今回彼の企画が実現に向かうことになったも
ので、未だ脚本家などは決まっていないが、いきなりドリー
ムワークスでの監督デビューが決まったものだ。     
 なおイメージムーヴァースでは、現在ゼメキスの監督で、
トム・ハンクスがCGIの中のいろいろな登場人物を演じる
“Polar Express”の製作を進めているが、この作品の撮影
ではソニー・イメージワークスが開発した最新型のモーショ
ンキャプチャー・システムが使用されているということで、
今回の“Monster House”でもその機材が活用されることに
なるようだ。                     
        *         *        
 M・ナイト・シャマランの監督で、10月14日にフィラデル
フィアで撮影開始される“The Woods”にいろいろな俳優が
集まり始めている。                  
 この作品では、最初にアシュトン・カッチャー、ジョアキ
ン・フェニックス、ブライス・ダラス・ハワードの主演が発
表されていたが、この内カッチャーは降板して、替りに上の
記事にも登場した今年のオスカー主演男優賞エイドリアン・
ブロディの出演が決まっている。            
 さらに以前に紹介したシゴウニー・ウィヴァーに続いて、
85年のオスカー受賞者のウィリアム・ハート。そして今度は
今年のトニー賞にノミネートされた舞台女優のジェイン・ア
トキンスンの出演が発表された。因に、彼女の役柄は、ハー
トの妻役だそうだ。                  
 とまあ、19世紀を舞台に、森に棲む謎のクリーチャーとの
交流を描いた作品には、シャマランの人気もあって錚々たる
顔ぶれが揃う訳だが、実はここに来てちょっと心配なことが
持ち上がっている。というのも“The Woods”という全く同
じ題名の作品の撮影計画がユナイトから発表されたのだ。 
 こちらはデイヴィッド・ロスの脚本、ラッキー・マッキー
という監督の作品で、これにパトリシア・クラークスンとア
グネス・ブラックナーの主演が発表され、9月15日からモン
トリオールで撮影開始されているのだ。         
 内容は、親元を離れて森の奥に寄宿学校に入れられた少女
が、クラスメイトの失踪事件から、森に潜む謎の存在に気づ
くというサイコホラー作品。ところがこの映画の計画は、多
分シャマランの計画より先に発表されていたものなのだ。 
 実は、僕もシャマランの計画が発表されたときには多少気
になっていたのだが、その後の音沙汰がなかったし、まさか
この時期にぶつけてくるとは思わなかった。ということで、
このまま行くと、ユナイト作品に題名の優先権があるようだ
が、さてどうなりますか。               
 なお、ユナイト作品に主演のクラークスンは、ラース・フ
ォン・トリアー監督の新作“Dogville”に出演しており、マ
タブラックナーは、昨年公開されたサンドラ・ブロック主演
の『完全犯罪クラブ』に出演していたそうだ。      
        *         *        
 最後は、続報をまとめて紹介しておこう。       
 まずは、前回紹介した“The Body Snatchers”のリメイク
計画で、監督に『ジーパーズ・クリーパーズ』のヴィクター
・サルヴァの起用が発表されている。なお、サルヴァは会見
の席で、「アベル・フェレイラの作品も、フィル・カウフマ
ンの作品も、もちろんオリジナルも大好きだ。一つのものか
らそれぞれの作家たちが、様々な視点でいろいろな作品を生
み出している。このやり方は素晴らしいと思う」と語ったと
いうことで、彼の視点の映画化がどうなるか楽しみだ。  
 第45回で紹介したクライヴ・カッスラー原作“Shara”の
映画化で、ヒロインにペネロペ・クルスが発表されている。
マシュー・マコノヒーが主人公のダーク・ピット、スティー
ヴ・ザーンがその相棒を演じるこの作品で、クルスが演じる
のは国連が派遣した医師団の科学者。北アフリカで発生した
謎の疫病を調査して、海洋汚染の危険をいち早く察知すると
いう役柄で、そのために命を狙われるというものだ。ブレッ
ク・アイスナーの監督で、今秋撮影が開始される。


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井口健二