井口健二のOn the Production
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2003年09月02日(火) 息子のまなざし、エヴァとステファンとすてきな家族、バッドボーイズ2、女はみんな生きている、スパイキッズ3−D

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『息子のまなざし』“Le Fils”             
少年犯罪とその被害者の親とを巡るベルギー製作の人間ドラ
マ。                         
主人公は、職業訓練施設で大工の仕事を教えている中年の男
性。その男の許へ、一人の若者が訓練を受けたいと現れる。
その若者は少年院を退所してきたばかりで、その若者の履歴
書を見た男は、一旦は断るのだが、やがて自分のクラスへ招
き入れる。                      
男の離婚した元妻は、別の男の子供を妊娠し、再婚するつも
りだと男に告げる。男は了解するが、彼にもとへ若者が来る
ことを告げる。2人の間の幼かった子供を殺した少年が…。
その言葉に元妻は激しい怒りを見せる。         
日本でも社会問題となっている少年犯罪。特に、幼い子供が
被害者となっているときの親の心情は察するに余りある。 
多分、日本では犯罪者と犯罪被害者がこんなに近くに暮らす
ことはないだろうし、このようなシチュエーションは起こら
ないと思うが、果たして人は、このような許しを若者に与え
なければいけないのだろうか。             
映画はその理由を語らない。こうなることもあるかも知れな
いという示唆をしているだけだ。ただし主人公も、決して若
者を許していないことは判るし、一方的に怒る元妻を描くこ
とで、そんな微妙なところを、この作品は見事に描き出して
いる。
                           
『エヴァとステファンとすてきな家族』“Tillsammans”  
70年代の反体制運動を背景にしたスウェーデン製作のファミ
リードラマ。                     
エヴァとステファン姉弟の母親は、夫の暴力に耐え兼ねて、
郊外の家に住む弟の許へやってくる。そこではフリーセック
スの信奉者や、共産主義者、ゲイやレズビアンの人たちが共
同生活をしていた。                  
そんな生活環境の激変に馴染めない姉弟は、父親のもとを訪
れたり、家の前に停車したバンに閉じ篭もったりもするのだ
が、徐々に周囲の人たちの信条も理解して行く。     
確かに生活用品などは今より貧しいし、共産主義者の声高な
演説などはいまさらなのだけれど、それでも何か懐かしいよ
うで、現在が失ってしまったものがここにはあるような感じ
がしてくる。                     
ノスタルジーに逃げるのは姑息な手かも知れないが、現代の
若者にこのような自由があるのだろうか、というようなこと
も考えさせられてしまった。人間はもっと自由にあるべきだ
ということを、この映画の作者は言いたいのだろう。その意
見には僕も賛同する。                 
                           
『バッドボーイズ2バッド』“Bad Boyd 2 Bad”     
『アルマゲドン』『パール・ハーバー』のマイクル・ベイ監
督と製作者ジェリー・ブラッカイマーが最初に手を組んだ、
1995年作品『バッドボーイズ』の続編。しかも主演のウィル
・スミスとマーティン・ローレンスも戻ってきた。    
主人公はフロリダ・マイアミで麻薬捜査の一翼を担う2人組
の刑事マイクとマーカス。               
この2人の許にオランダからの大量のエクスタシー錠剤の密
輸入の情報が伝わってくる。しかし大がかりな作戦で押収し
たのは2つの小袋だけ。事件の黒幕には、キューバに繋がる
男とロシアマフィアがいるらしい。           
一方、マイクはマーカスの妹と恋仲になっていたが、兄に告
げることをためらっている。そんな時、麻薬捜査局で事務整
理をしているはずの妹が、マイアミに現れ、やがて彼女は、
潜入捜査に従事していることが判明するのだが…。    
果たしてこの3人の活躍で、麻薬組織は撲滅できるのか。 
麻薬捜査というのは、アメリカでは最も何でもありというこ
とで、囮捜査や潜入捜査は当然のお話。したがって映画化の
アクションも何をやってもOKということで、とにかく物量
から行動地域まで、思わずオイオイといいたくなる展開が繰
り広げられる。                    
それを何しろ最後まで突っ走ってしまう勢いの良さがこの作
品の魅力だろう。特に後半などは、これだけで1本の映画が
できそうな大掛かりな作戦が、一つのエピソードとして描か
れてしまうのだ。                   
まあ、人もたくさん死ぬし、かなりグロいシーンもあるが、
その辺りは多少目をつぶるとして、製作者から監督、出演者
まで作り手たちのサーヴィス精神は間違いなく堪能できる作
品。それと主人公の周囲を縦横に動く、目の廻るようなカメ
ラワークも秀逸だった。                
                           
『女はみんな生きている』“Chaos”           
ハリウッドリメイクされた『赤ちゃんに乾杯』の女性監督コ
リーヌ・セローの新作。                
専業ではないけれど、いつも家事や夫と息子の世話に追いま
くられていた平凡な主婦が、偶然知り合った娼婦を助けるた
めに、売春組織を敵に回して大活躍する女性映画。    
主人公のエレーヌは、もはや夫婦仲も冷え切った夫と、ぐう
たらな息子の世話に明け暮れている。そんな夫婦でディナー
に行った帰り道、夫の車の前に血みどろの女性が助けを求め
てくる。しかし夫は車のドアにロックをし、見て見ぬ振りを
決め込んでしまう。                  
その場は夫の車で立ち去ったエレーヌだったが、翌日救急病
院を探し当て集中治療室に横たわる女性を見舞うと、彼女の
看病に没頭するようになる。このため顧みられなくなった家
庭は大混乱。しかし彼女は看病を続ける。        
その看病の甲斐もあって彼女は奇跡的に回復し始めるが、そ
こに怪しげな男たちがつきまとうようになる。実はノエミと
名乗るその女性は、売春組織で仕事をしていたが、とある老
人の莫大な遺産を手に入れて隠し、そのため組織の追求を受
けていたのだ。                    
この事態にエレーヌは、いろいろな機転を利かし、フランス
・スイスを股に掛けて、組織との闘いを始めるのだが…。 
いやまあ、何しろ女性が頭が良いし、強くて痛快きわまりな
い。『ファム・ファタール』の主人公も男性を手玉にとった
が、今回のお話は主人公が主婦というのが味噌で、デ=パル
マほどファッショナブルではないけれど、逆に誰にでも起こ
りそうな話で面白い。                 
それにしてもこの夫と息子が馬鹿丸出しというのが、男性に
はかなりきついかも知れないが、男は所詮こんなものという
ことも自覚できるところでもあった。          
                           
『スパイキッズ3−D:ゲームオーバー』        
              “Spy Kids 3-D: Game Over”
ロベルト・ロドリゲス製作、脚本、監督のシリーズ第3作に
して最終章は、昔懐かしい赤青の立体映画で登場した。  
前2作で活躍したスパイキッズ姉弟の弟ジュニは、組織の裏
切りに愛想を尽かし、引退して私立探偵を開業している。そ
こに元長官の現大統領から特別指令が届く。それは世界征服
を目論む男が開発したゲーム世界で行方不明になった姉カル
メンの救出作戦。                   
実は、秘密諜報組織OSSのヴァーチャル牢獄に捕えられて
いたトイメーカーという男が新しいヴィデオゲームを開発。
それは、ゲームに夢中になった子供たちを洗脳してしまうと
いうもので、これによって世界を征服しようと企んでいたの
だ。                         
そこでジュニに与えられた使命は、ヴァーチャル世界に入り
込み、姉カルメンを救出するとともに、ゲーム世界を破壊す
るというもの。しかしその際に、トイメーカーが開放される
ことは防がなくてはいけないのだ。           
こうしてヴァーチャル世界に入り込んだジュニは、β版テス
ターたちやグランパの力を借りて、姉の捕えられたレヴェル
4と、トイメーカーの潜むレヴェル5を目指すのだが。その
過程では、格闘技やレースなどいろいろなゲームをクリアし
なければならなかった。                
まあ、ここまで徹底的に子供にサーヴィスした作品というの
も凄い。このシリーズは第1作からそうだったが、最終章に
至ってそのテンションはぎりぎりまで高められたという感じ
だ。何しろいろいろなゲームが立体映像で体感できてしまう
のだ。                        
試写会は小学生以下の子供同伴が認められるとあって、お子
様がかなりいたが、字幕だというのに最後まで食い入るよう
に見ていたのが、ロドリゲスの狙い通りという感じで、お見
事と言うしかない状況だった。             
サルマ・ハエックやスティーヴ・ブシェミ、アラン・カミン
グスらの前作までの登場人物も総出演。そして敵役のトイメ
ーカーには、意外にも悪役は初めてというシルヴェスタ・ス
タローン、さらにイライジャ・ウッドまでカメオ出演してい
る。                         
なお、赤青の立体映画はテレビでも再現可能だが、実際には
放送法との関係で放送することはできない。DVDなら可能
だが、この立体感は大画面の映画館で見るしかないようだ。
とは言え、赤青の立体は偏光板以上に目が疲れる。本作でも
疲労の蓄積を防ぐため、途中何度かメガネを掛けたり外した
りするようにされているが、劇中の主人公たちと共にメガネ
を外すと、主人公たちも目をしばたかせて目が疲れたと言っ
ているのには笑えた。                 


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