井口健二のOn the Production
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2003年09月01日(月) 第46回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初は記者会見の報告から、12月に日米同時公開されるワ
ーナー作品“The Last Samurai”のプロモーションで、主演
のトム・クルーズとエドワード・ズウィック監督が来日し、
世界初公開の映像も含めた記者会見が行われた。     
 初公開された映像は4シーン、全体で20分程度が上映され
たが、特に力が入っていそうな殺陣では、最初はフェンシン
グスタイルで剣を片手持ちで構えていたクルーズが、徐々に
両手持ちの日本刀の構えになって行く変遷が描かれているよ
うで、面白そうだった。                
 ただ、英語の台詞でGeneral Hasegawaに「長谷川将軍」と
いう字幕は、ここだけ見るとかなり奇異に感じた。確かに、
軍事用語でGeneralは「将軍」と訳せるが、この時代の日本
で「将軍」というのは「征夷大将軍」を指してしまう。ひょ
っとしてアメリカ人の書いた原作が、徳川を長谷川と言い換
えているのかも知れないが、だとしたら、字幕は「将軍長谷
川」の方が良いような感じもする。いずれにしても日本語の
字幕には細心の注意が必要と感じた。          
 また会見では、日本側出演者の渡辺謙、真田広之、小雪を
加え、「武士道」の意味などにかなり真剣な発言が聞かれて
面白かったが、途中でフランス人記者の「日本文化をアメリ
カナイズしてしまったことに罪の意識は感じないか」という
質問で、guiltyという単語を使ったためにクルーズがちょっ
と気色ばむ場面があった。この状況でこの単語は、ニュアン
ス的に僕でも使わないだろうという感じのもので、フランス
人の英語力も大したことはないという感じだった。映画とは
関係のない話だが。                  
        *         *        
 以下は、いつものように製作ニュースを紹介しよう。  
 まずは続報で、前回も紹介したロアルド・ダール原作によ
る“Charlie and the Chocolate Factory”の2度目の映画
化に、ジョニー・デップの主演が正式に発表された。   
 この役には、先の情報では『バットマン』のマイクル・キ
ートンや、本年度のオスカー受賞者で『バットマン・リター
ンズ』では陰の支配者マックス・シュレックを演じたクリス
トファー・ウォーケンといった、いずれもティム・バートン
監督ゆかりの俳優の名前が挙がっていたが、最終的にこの夏
の実写で最高のヒット作『パイレーツ・オブ・カリビアン』
に主演したデップとの、『シザーハンズ』『エド・ウッド』
『スリーピー・ホロー』に続く4回目のコラヴォレーション
が実現することになったようだ。            
 また、撮影は来年行われる予定になっているが、この作品
は、どちらかというとクリスマスシーズン向きの内容のよう
に感じるもので、上手くすると公開は04年末という可能性も
ありそうだ。                     
 一方、本作の脚本は、すでにスコット・フランクやグィン
・ルーリーらが手掛けているが、このほどその脚本にパメラ
・ペトラーという脚本家の契約も発表されている。ペトラー
はバートンが製作するストップモーション・アニメーション
作品の“The Corpse Bride”の脚本も手掛けており、同作は
バートンが脚本を気に入って映画化を進めたということで、
監督が認めた才能で、新たなチョコレート工場が作られるこ
とになるようだ。                   
        *         *        
 次は、前の記事にも出てきた『バットマン・リターンズ』
に登場した“Catwoman”の映画化が、ハル・ベリーの主演で
9月に撮影開始されているが、この新作でゲストキャラクタ
ーのローレルという役に、シャロン・ストーンの起用の情報
が流れている。                    
 この役柄は、昼は化粧品会社の女社長、夜は悪の首謀者の
というもので、『バットマン』からスピンオフして誕生する
キャットウーマンの最初の敵役ということになる。なお、そ
の他の配役では、キャットウーマンを追うローン刑事役で、
『ハルク』で恋敵のグレン・タルボット役を演じたジョッシ
ュ・ルーカスの名前も挙がっているようだ。       
 監督は、『ヴィドック』を手掛けたフランス人のピトフ。
脚本は、人気アクションテレビシリーズ“Birds of Prey”
で製作脚本を手掛けるリータ・カログリディスが担当。因に
彼女は、同じくワーナーでジョール・シルヴァが進めている
“Wonder Woman”の脚本も担当しているそうだ。     
 一方、オリジナルの“Batman”のシリーズ第5作について
も少し動きが出てきたようだ。             
 この計画では、今年1月に『メメント』『インソムニア』
のクリストファー・ノーラン監督の起用が発表されたまま、
その後の情報が跡絶えていたが、ここにきて主演俳優決定の
噂が広まっている。                  
 噂に上がっているのはイギリス出身のヒュー・ダンシーと
いう俳優で、この配役にはアメリカの情報誌でも‘who?’と
書かれていたが、2000年にイギリスで製作されたチャールズ
・ディケンズ原作の“David Copperfield”の映画化では主
人公のコパーフィールド役を演じており、他にもイギリス製
作の“King Arther”では、ガルハラド役を演じているそう
だ。因に、“Copperfield”はダニエル・ラドクリフの主演
で話題になった1999年作品とは別の作品だ。       
 ということで、ワーナーが進めているバットマン・ファミ
リーの映画化では、まず“Catwoman”に続いて“Batman 5”
が先に動きそうな気配だが、これに対して、ウォルガング・
ペーターゼン監督で進められていた“Batman vs.Superman”
の計画では、アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーの脚本は
すでに完成しているものの、監督が“Troy”に走ったために
中断。一方、次世代の物語を描く“Batman: Year One”の計
画は、ダレン・アロノフスキー監督とフランク・スタックの
手で脚色が進められており、こちらはまだ進行中のようだ。
        *         *        
 前の記事にラドクリフの名前が出てきたのに絡めて、『ハ
リー・ポッター』シリーズの情報を紹介しておこう。   
 第3作の“Harry Potter and the Prisoner of Azkaban”
(ハリー・ポッターとアズカバンの囚人)の撮影は2月24日
に開始されて、今だに進行中のようだが、それに続く第4作
の“Harry Potter and the Goblet of Fire”(炎のゴブレ
ット)の計画が発表された。              
 それによると、すでに発表されている監督のマイク・ニュ
ーウェルと共に、出演者にはダニエル・ラドクリフ、ルパー
ト・グリント、エマ・ワトスンの名前が挙がっている。つま
り前3作の主演トリオが第4作にも出演するということだ。
 この配役については、特にポッター役のラドクリフは、本
人の成長との兼ね合いで第3作でおしまいという情報もあっ
たものだが、結局第4作にも続けて主演することになってい
る。その後の計画は不明だが、現在の製作状況では、物語は
1年ごとの話に対して、映画化は今後は1年半ごとというこ
とにもなりそうで、そうなると予定されている最終話の第7
作では、物語の主人公は17歳、演じる俳優は20歳ということ
にもなってしまう。                  
 この状況について製作者側は、その程度なら大丈夫という
判断に傾きつつあるようだが、先日発売された原作の第5巻
“The Order of the Phoenix”は第4巻との関係が密接で、
ここで主演の交代はありそうもなく、このまま最終話まで行
く可能性は高そうだ。                 
 なお、第4作の撮影開始は04年4月となっており、脚本は
第3作と同じスティーヴ・クローヴスが担当している。この
スケジュールでは、公開は05年夏も可能のようだが、どうな
るのだろうか。                    
        *         *        
 今回はワーナーの話題が続いているが、あと2つ。   
 まずは、またまたファンタシー3部作の映画化で、フィリ
ップ・アルダー原作で、エディ・ディケンズトリロジーとし
て知られるファミリー・アドヴェンチャーシリーズの映画化
権をワーナーが契約し、その第1作“A House Called Awful
End”の脚色をマシュー・ホフマンが手掛けることが発表さ
れた。                        
 この第1作では、11歳のイギリス人の少年が両親の病気の
ために家族から離され、ちょっと行動の異常な叔父夫妻に預
けられるところから始まる。やがて彼は孤児院に預けられた
りもするのだが・・・。この概要だけだとファンタスティッ
クな感じはしないが、実は原作本の表紙には、登場人物の顔
が描かれており、これが鳥みたいなのや狐みたいなものもい
たりして、何とも不思議な雰囲気なのだ。        
 因に、原作は元々はイギリスで出版されたもので、昨年9
月にアメリカに紹介されたということだ。        
        *         *        
 もう一つは、往年のSF映画のリメイクの計画で、56年ド
ン・シーゲル監督作品“Invasion of the Body Snatchers”
の再々々映画化の計画が発表された。          
 この作品は、『ふりだしに戻る』などの作品で知られるア
メリカの幻想小説作家ジャック・フィニーが55年に発表した
長編“The Body Snatchers”(邦題:盗まれた町)を映画化
したもので、アメリカ中西部の小さな町の住人が、空から降
って来た莢に潜む異星人に複製され、徐々に取って変られる
様子を描いた侵略ものの古典。そして56年の映画化では、そ
の知的で無気味な展開が、現在もカルトムーヴィとして評価
されている作品だ。また、その後の78年と93年にもそれぞれ
リメイクが行われるほどの高い評価を受けている。    
 なお、78年のリメイクではシーゲルと同じ題名を用いて、
舞台をサンフランシスコに移して大規模な侵略を描いたが、
93年作では題名を原作と同じ“The Body Snatchers”として
軍事基地を舞台にした作品としていた。そしてこの93年作を
製作したワーナーが、現在の映画化権を保有しているという
ことだ。                       
 そのため、今回はその4回目の映画化がワーナーで計画さ
れているもので、製作者には、ドリームワークスで『ザ・リ
ング』のハリウッドリメイクなどを手掛けたダグ・デイヴィ
スンとロイ・リーの参加が発表されている。発表では、物語
を現代版にするということで、脚本家など詳細は未定だが、
製作者の手腕にも期待が集まっているようだ。      
        *         *        
 ワーナーの話題は一先ず置いて、続いてはまたまたCGI
とライヴアクション合成映画の計画が発表されている。  
 まずは、『スチュアート・リトル』を手掛け、この秋公開
の新作“Haunted Mansion”にもCGIが多用されていると
いうロブ・ミンコフの製作で、“Get Fuzzy”というCGI
+ライヴアクション合成映画が計画されている。     
 この作品は、ロサンゼルス・タイムスなど400紙以上で掲
載されているコミックストリップを映画化するもので、原作
のコンセプトは、「ペットと暮らす独身生活者の皮肉なポー
トレイト」というもの。独身で広告会社の重役という男性と
暮らしている2匹のペット、自然に生きようとする犬のサト
シェルと、パンツを履いた猫バッキーを主人公に、ミンコフ
の言葉によると「ファミリーピクチャーに仕上げるには最高
の潜在能力を持った作品」ということだ。        
 因にこの原作は、今年5月に行われた全米漫画家協会の選
考で、Comicstrip of the Yearを受賞している。     
 なお、今回の計画ではミンコフは製作のみ担当し、監督に
は、ミンコフが『ライオン・キング』を監督したときの協力
者で、その後『美女と野獣』や『ノートルダムの鐘』を手掛
けたアニメーション監督のカーク・ワイズが、初めての実写
を監督することになっている。             
 また脚本は、ワイズと原作コミックスの作家のダービー・
コンリーが手掛けているが、ワイズは、「豊かなキャラクタ
ーと鋭いユーモアで、他の面白いだけの作品とは一線を画す
る作品になる」と脚本の意図を語っている。製作は、ミンコ
フが本拠を置くソニーで行われる。           
        *         *        
 もう1本のCGI+ライヴアクション合成映画はアルコン
というプロダクションの製作で、“Racing Stripes”という
作品。                        
 こちらは9月15日から南アフリカでライヴシーンの撮影が
始まるというものだが、デイヴィッド・シュミット、カーク
・デ・ミコ、マイク・サモネックの脚本で、アニメーション
作品“Quest for Camelot”のフレデリック・デュ・シャウ
が監督を担当している。                
 お話は、アフリカの荒野で親から見捨てられた幼いシマウ
マの主人公が、競馬馬と一緒に育てられ、自分を競馬馬だと
思い込んでしまうというもの。             
 そしてこの主人公のシマウマの声をフランキー・ミニッツ
が担当し、この他の動物たちの声優で、ダスティン・ホフマ
ン、ウーピー・ゴールドバーグ、ジョー・パントリアーノ、
マンディ・モーア、パトリック・ステュアート、ジョシュア
・ジャジュスン、マイクル・ローゼンバウム、スティーヴ・
ハーヴェイ、デイヴィッド・スペイド、マイクル・クラーク
・ダンカン、ジェフ・フォックスワーシーといった錚々たる
メムバーが集まっている。               
 一方、ライヴの出演者では、ケヴィン・コスナー主演のキ
ューバ危機映画『13デイズ』でJFKを演じたブルース・グ
リーンウッドと、ジョデイ・フォスター主演の『パニック・
ルーム』などに出演していたハイデン・パネッティエリが発
表されている。                    
 アメリカ公開は05年1月14日(マーティン・ルーサー・キ
ング・デイ)の予定、海外配給権はサミットが担当している
ようだ。                       
        *         *        
 後半は短いニュースを紹介しよう。          
 まずは続報、前回紹介したブレット・ラトナー監督が急き
ょ“After the Sunset”の監督をすることになった影響で、
第41回で紹介したジョン・トラヴォルタ主演の『ゲット・シ
ョーティ』の続編“Be Cool”の監督はキャンセルされるこ
とになった。そしてその監督の後釜に、今春のヒット作『ミ
ニミニ大作戦』を手掛けたF・ゲイリー・グレイの起用が発
表されている。                    
 この監督の選考は、ラトナーの降板を請けたトラヴォルタ
が直ちに決めたもので、彼は96年の『交渉人』などで見せた
緊張感の中にウィットを挿入するグレイの手腕に注目したと
いうことだ。トラヴォルタ扮するチリ・パルマーが、今回は
ロシアン・マフィアと対決する続編は、MGMとジャージー
・フィルムの製作で、11月からの撮影が予定されている。 
 なお、大元になったジョン・ストックゥエル監督の“Into
the Blue”もMGM製作で、因果は巡るという感じだが、
この作品には『ワイルド・スピード』2作に主演したポール
・ウォーカーの主演が発表されている。お話は、スキューヴ
ァダイヴァーのチームが宝捜しのつもりで潜り込んだ沈没船
で、大量の麻薬を発見してしまうというもの。それを麻薬王
に知られてという展開のようだが、同じテーマでは、過去に
『ザ・ディープ』などの作品もあり、手腕が試されそうだ。
本作の撮影は10月に開始の予定になっている。      
        *         *        
 もう一つリメイク情報で、これも以前に紹介していると思
うが、1975年にアメリカン・インターナショナル(AIP)
で製作された“The Reincarnation of Peter Proud”(リイ
ンカーネーション)の再映画化の脚本に、『インソムニア』
を手掛けたヒラリー・セイツの起用が発表されている。  
 このリメイクは、パラマウントに本拠を置くスコット・ル
ーディンが最低70万ドル、最高220万ドルの契約金でAIP
の持つ映画化権を獲得したもので、一昨年来準備が進められ
ており、一時は監督にデイヴィッド・フィンチャーの名前も
挙がっていた。その後しばらく音沙汰がなかったが、今回の
脚本家の決定で、一気に実現へ向かえるかというところだ。


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井口健二