井口健二のOn the Production
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2003年08月02日(土) トランサー、福耳、ゲロッパ、ブラックマスク2、パイレーツ・オブ・カリビアン、SIMONE

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『トランサー−霊幻警察−』“2002異霊霊異”    
『ジェネックス・コップ』のニコラス・ツェー、スティーヴ
ン・フォン、サム・リーが再共演した特撮アクション。  
香港警察2002課。そこに所属するツェー扮する刑事ヤウには
霊魂を見る特殊な能力があり、その能力で、科学では解明で
きない摩訶不思議な事件を解決している。        
実はヤウのそばには、殉職して霊魂となった元同僚のサムが
いて、彼らは強力なコンビネーションで手強い悪霊との戦い
を続けていたのだ。しかし霊魂の活動には輪廻転生までの期
限があり、サムも転生の時を迎えて去っていってしまう。 
そのサムの後釜として、ヤウは彼も霊魂を見ることが出来る
という巡査のフォンと組むことにするのだが、実はヤウには
生涯孤独の相があり、彼と行動を共にしたものには必ず死の
運命が待っているのというのだった。          
このためヤウは、フォンと必要以上に親しくなることを嫌う
のだが、フォンは鍛練と称してヤウの部屋に上がり込んでし
まう。またヤウ自身は恋人を持つこともためらっていたが、
とある老女の霊魂に頼まれて訪れた病院で、一人の女性と巡
り会ってしまう。                   
正直に言って、前半のサム・リーとのコンビはアクションも
テンポがよく楽しめる。しかし彼がいなくなってからは、何
かもたもたして、特に女性が絡み始めると話がめろめろとい
う感じになってしまう。                
まあ、それはそれでいいのかも知れないが、アクション無し
の部分がかなり長く続くのは何か物足りない感じだったし、
結末もちょっと御都合主義に過ぎるという感じがした。  
ただし、後半のプールで水の悪霊と戦いシーンは、よくもこ
こまでやるもんだと思える見事なワイアーアクションを見せ
てくれる。ここでは悪霊役にシドニーオリンピック競泳の香
港代表選手だったアレックス・フォンが登場し、主人公を見
事なバタフライで追いつめる様子は、カメラのポジショニン
グもよく、迫力があった。               

『福耳』                       
『ピンポン』の脚本家でもある宮藤官九郎の主演で、テレビ
版『リング』などの瀧川治水が劇場用映画を初監督したファ
ンタスティックコメディ。               
老人ホームで働き始めたフリーターの男に、その直前に亡く
なった老人(田中邦衛)の霊が取り憑いたことから始まる騒
動が描かれる。                    
実は、老人には思いを寄せていた女性がいて、彼女が他の男
に言い寄られるのを守りたいと言うのだが、フリーターの男
にも、同じホームで働く女性の恋人が出来たことから話がや
やこしくなる。                    
一種の二重人格ものということにもなるが、基本的には宮藤
の演技で、それが徐々に田中邦衛化して行く様子はかなり芸
達者に演じていた。特に女性二人が同席し、その間に挟まれ
た男の性格が交互に入れ代わる辺りは笑わせどころとなる。
一方、取り憑いた田中邦衛は、主に鏡などの反射の中に現れ
るという設定で、手前の宮藤と向こう側の田中が同じ演技を
するという辺りは、まずまず上手くいっていた。特に遊園地
のミラーハウスのシーンは、物語のキーにもなって良い感じ
だった。                       
また、VFXに関しては、『ピンポン』でも最初に一発かま
してくれたが、この作品も巻頭に一発VFXシーンがあり、
そこからがファンタスティックワールドという構成は、この
手の作品の定番となりそうだ。             
田中の他にも、司葉子、宝田明、坂上二郎、谷啓など、老人
パワー満載の作品だが、主人公が宮藤とNHK『さくら』の
高野志穂という若手で、バランスはさほど悪くない。   
ただし、劇中の田中と司及び宮藤と司のダンスシーンはもう
少しちゃんと決めて欲しかった。老人でも矍鑠としたダンス
をする人は多いから、この程度で名手と言われるとちょっと
引いてしまう。                    
『Shall We ダンス』を引き合いに出すまでもなく、やれば
できるはずのものなのだから、この部分の演出にはもう少し
時間を掛けて欲しかった感じだ。            
お話は、ある意味単純だし、ハリウッドリメイク向きだとい
う感じもする。ハリウッドの老人パワーもかなりのものがあ
るし、ホラーばかりでなく、こういう作品の輸出も頑張って
もらいたいものだ。                  
                           
『ゲロッパ!』                    
最近はワイドショーなどでお馴染みの井筒和幸監督の99年以
来の新作。ジェームズ・ブラウンの名曲『セックス・マシー
ン』の一節“Get Up!”に乗せたコメディ作品。      
やくざの親分に5年の実刑が決まり、その収監までの数日間
のお話。                       
20数年前の大阪公演を見て以来のジェームズ・ブラウン(J
B)ファンの親分は、ようやくチケットを手に入れた名古屋
公演が収監後で見に行けないのが心残りだ。       
しかしそれ以外にも、25年前に生き別れた娘に一目会いたい
という気持ちもある。その娘の所在がようやく判明する。親
分はその家に駆けつけるが、娘は物真似プロダクションの社
長を務めて地方興行中。そこには偽JBもアメリカから来日
していた。                      
ところがその偽JBは、アメリカから日本国家の存亡に関わ
るらしい重要な物品を日本に持ち込んでいた。それを取り戻
すため内閣情報局が動き出す。             
一方、親分は組の将来を案じて、子分たちに堅気になること
を勧め、組を解散すると宣言する。その親分を翻意させるに
は、親分をJBに引き合わせ、自分たちの存在を実証するし
かない。こうして、3つ巴、4つ巴の騒動が始まる。   
井筒作品は前々作の『のど自慢』辺りから見ているが、上手
いところを突いていると思う反面、何か泥臭くて、見るまで
の触手がなかなか働かない感じがする。僕自身も試写で見れ
ば、いつも面白く感動してしまうのだが…。       
しかし今回は、主演に西田敏行、常盤貴子を据えて、カメオ
で岡村隆史や藤山直美など、これに監督自身の人気も加われ
ば、ちょっと行けるのではないかという気分だ。見れば面白
いし…。こまっしゃくれた子役も良い感じだったし。   
それから、映画の展開で住基ネットの危険性に言及した部分
があり、エンターテインメントの中にこうした問題を持ち込
むとは、さすがテレビで辛口の評論をしている監督だけのこ
とはあると思った。                  
後は、西田敏行が『セックス・マシーン』を歌い踊るシーン
には感心。脇役の岸部一徳のダンスも良く、役者根性という
感じがした。2人とも伊達に紅白出場歌手ではないという感
じもするが、これがプロフェッショナルと言うものなのだろ
う。                         
                           
『ブラックマスク2』“Blackmask 2: City of Masks”  
96年にジェット・リーの主演で映画化された作品の続編。 
すでにハリウッド進出したリーの出演はなかったが、前作を
製作したツイ・ハークが原案と監督を手掛け、前作の後『マ
トリックス』を手掛けたユエン・ウー・ピンがアクション監
督を担当している。                  
悪の組織によって遺伝子を改造され、超人にされた主人公。
彼は組織から逃亡し、遺伝子を元に戻すことのできる学者を
探している。しかし組織を裏切り、正義のために戦おうとす
る主人公に、組織は同等の能力を持った刺客を送り出す。 
一方、組織とは別に遺伝子操作を開発し、レスラーに凶暴な
動物の遺伝子を植え付けて変身させ興行しているグループが
いた。しかしレベルの低い遺伝子操作は、変身の進行を押さ
えられず、そのままでは彼らに死をもたらす。      
彼らを救う手立ては放射線を使った治療しかないのだが、悪
の組織はそれを逆に利用し、パニックを引き起こして主人公
をおびき出そうとしていた。              
オリジナルは、ウー・ピンが『マトリックス』に抜擢される
切っ掛けになった作品だそうだが、本作にも新作の『マトリ
ックス』を髣髴とさせるシーンがあって、なるほどと思わせ
た。ワイアー・アクション+CGIの合体はなかなか見事な
ものだった。                     
本作は01年の製作のようだが、感情を抑えないと変身が暴走
するという辺りは『ハルク』を思わせるし、さすがに香港映
画は先取りが上手いというところだ。          
お決まりのきゃーきゃー喚きながら時々大活躍するヒロイン
や、父親思いの少年なども脇に配して、典型的なB級娯楽映
画という感じの作品。物語もストレートで、こういう香港映
画が一番面白い。                   
                           
『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』  
“Pirates of the Caribbean:              
            The Curse of the Black Pearl”
ディズニーランドのアトラクションからインスパイアされた
実写映画の第2弾。                  
これを『シュレック』のテッド・エリオットとテリー・ロッ
シオが脚色し、『ザ・リング』のゴア・ヴァビンスキーが監
督。そしてジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、ジョ
フリー・ラッシュと、ヒロインに『ベッカムに恋して』キー
ラ・ナイトレイの共演で映画化した。          
舞台は18世紀のカリブ海。アステカの呪いにより全ての感覚
を奪われた上に、死ぬこともできなくなったブラック・パー
ル号の海賊たち。その呪われた黄金のメダルを巡って、海賊
たちとその船の元船長、そしてイギリス海軍の三つ巴の戦い
が繰り広げられる。                  
キーとなるのは黄金のメダルと、呪いの原因となった一族の
血。そのメダルの最後の1枚を持っていたイギリス総督の娘
エリザベスが誘拐され、一族の血を引くウィルと、元船長の
ジャックが救出に向かうことになるのだが…。      
海賊映画というのは、最近とんと見られなくなったジャンル
で、最近では95年にレニー・ハーリン監督が『カットスロー
ト・アイランド』を発表したときに、ちょっとブームが期待
されたのだが、同作の不振で消滅してしまったものだ。  
しかし、元々は『スター・ウォーズ』もその流れを汲むと言
われるほどの、ハリウッドでは大きなジャンルの一つ。そし
て今回、試写会場に隣接の映画館では、元祖『宝島』からイ
ンスパイアされた『トレジャー・プラネット』が上映中で、
ブームの再来も期待させる雰囲気だった。        
海賊映画と言えば見せ場は剣戟シーン。今回は前半と後半で
1回ずつ大きなシーンがあるが、本作ではこれを『ロード・
オブ・ザ・リング』のジョージ・マーシャル・ルージと、エ
ロール・フリンにも教えたというロバート・アンダースンが
振り付けている。                   
まず前半はジャック役のデップ対ウィル役のブルーム。2人
はそれぞれ『ドン・ファン』と『ロード…』でフェンシング
の手解きを受けており、特にデップがブルームを気遣いなが
らの戦いぶりが良い感じだ。              
そして後半は、デップ対現船長役のラッシュ。こちらは、復
讐の思いと、呪いの苦しみが交錯する壮絶な戦いとなってい
る。ここでは他の場所での集団戦と並行して描かれ、しかも
呪いに絡むVFXと共に描かれて、その迫力も見事だ。  
最近のこの手のアクションシーンは、空手を中心とした素手
の戦いがほとんどになっていたが、久し振りの剣戟シーンは
堪能できた。2時間23分の長大作だが、これらのアクション
シーンで飽きさせることはない。            
なお人間ドラマでは、デップは本物の1枚看板で、芝居でい
う2枚目がブルーム。従ってデップはドラマから見せ場、お
笑いまでほとんどを1人で背負っているが、さすがにどこも
上手い。しかも実に楽しそうにやっているのが素晴らしい。
今までの役柄とはちょっとイメージが違うかもしれないが、
この楽しそうな雰囲気は、洋の東西を問わず、男って本当に
チャンバラが好きなのネ、という感じがした。その意味では
微笑ましい作品とも言えるだろう。           
それから、映画はエンドロールの後に1シーンあるから絶対
に席を立たないように。すでに続編の計画も進行しているよ
うだ。                        
                           
『SIMONE』“Simone”              
『ガタカ』『トゥルーマン・ショー』のアンドリュー・ニコ
ルが描いた史上初のヴァーチャル・アクトレス誕生秘話。 
主人公はここ10年ヒット作の出ていない映画監督。撮影中の
新作も女優のわがままのために製作中止寸前に追い込まれて
いる。そんな彼には、元妻で彼が専属契約を結んでいる映画
会社の社長も匙を投げ気味だ。             
その監督の前に一人の男が現れる。男は自分が余命いくばく
もないと語り、1台のハードディスク装置を彼に託す。そこ
には、その男が開発した史上初の完璧なヴァーチャル・アク
トレスのソフトウェアが入っていた。          
監督は、そのソフトウェアを使い、撮影中の新作の女優を全
て彼女にすげ替えて作品を完成させる。それは鍵の掛かった
サウンドステージの中で、監督一人の手で行われた。   
ところがその作品が大ヒット、シモーヌと名付けられた女優
は一躍トップスターになってしまう。そして第2作は、彼女
のシーンは全て別撮りするという条件で製作され、これも大
ヒットしてしまう。                  
絶対に文句を言わない女優、彼女は監督の思う通りに働くは
ずだった。しかし一人で巨大な秘密を背負うことになった監
督は、さらに作品の評判が自分の演出ではなく女優に有ると
気付き、徐々に女優を憎むようになる。そして女優を抹殺し
ようとするのだが…。                 
物語は、これに見事なユーモアを交えて心地良く展開する。
何しろ、シモーヌはテレビの生出演から、ホログラムを利用
した野外コンサートまでこなしてしまうのだが、これが技術
者の夢というか、見事に有りそうなところも素晴らしい。 
正直に言って、『ガタカ』も『トゥルーマン・ショー』も世
間の評判は極めて良いようだが、僕は余り買っていない。 
『ガタカ』は実にうまくできたSFだが、いくつかの描写が
余り好きになれなかったし、『トゥルーマン』は後半が破綻
している。                      
しかし今回は全てが上手くまとまっていて、見事な作品だっ
た。またこの監督役をアル・パチーノが演じているのも作品
の完成度を高めている。映画界のあり方や、スターの人気の
作られ方など、皮肉がたっぷりなところも面白かった。  
なおこの作品も、エンドロールの後に重要なシーンが有るの
で、絶対に席を立たないように。            


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