井口健二のOn the Production
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2003年08月01日(金) 第44回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に記者会見の報告から。             
 アン・リー監督とILMのクリエーターを招いての『ハル
ク』と、監督出演者勢揃いの『HERO』、それに製作者、
監督による『パイレーツ・オブ・カリビアン』の記者会見が
行われた。                      
 まず『ハルク』では、ILMのプレゼンテーションは以前
にも1回見せてもらっているが、今回は内容もかなり追加さ
れて充実していた。また今回は監督も同席したため、一部の
ハルクの動きを、監督自身がモーション・キャプチャー用の
スーツを着て演じているという話が出て来て興味深かった。
確かに、キャラクターの動きなどは監督が一番判っている訳
で、その動きをそのまま取り込めるとなれば、これは他の監
督も興味を引かれるところだろう。           
 次に『HERO』の会見では、僕としては過去の作品歴か
ら違和感のあったチャン・イーモウ監督が、「元々子供の頃
から武侠小説のファンだった。一度やると病みつきになると
言われたが、そうなりそうだ」ということで納得した。次の
作品が楽しみだ。                   
 そして『パイレーツ』に関しては、実はすでに続編の噂が
拡がっているのだが、時間切れで確認の質問をすることがで
きなかった。しかし製作者のブラッカイマーが、監督のヴァ
ビンスキーについて語ったときに、彼とは今後も一緒に仕事
をしたいという趣旨の発言があり、これは続編のことを語っ
ているという印象を受けた。こちらの勝手な思い込みかも知
れないが。                      
 ということで、以下はいつもの製作情報を紹介しよう。 
        *         *        
 まずはちょっと面白い話で、この秋に公開予定のクェンテ
ィン・タランティーノ監督の新作“Kill Bill”が、前後編
の2部作になりそうだという情報だ。          
 この作品は、元々タランティーノ監督が、『パルプ・フィ
クション』に起用した女優のユマ・サーマンのために執筆し
た脚本を映画化したもので、実は最初に撮影を開始しようと
したときにサーマンの妊娠が発覚して、代役を立てるかどう
かの議論の末、彼女の出産回復の待つために撮影を延期した
という作品だ。                    
 従って、監督にも特に思い入れが強いものとも言えるが、
実はその撮影中から上映時間がかなり長くなりそうだという
ことになり、最初はジョークとして2部作にしたらどうかと
いう話も出ていたそうだ。そしてタランティーノが編集を始
めたところ、上映時間が3時間以上になることが判明。  
 一方、配給元のミラマックスのトップのハーヴェイ・ウェ
インスタインは、以前から映画作家たちに上映時間を短縮さ
せることの理不尽さを感じており、この作品については、思
い切って2部作にすることを決断したということだ。   
 つまり3時間を超える1作品ではなく、90分クラスの作品
が2本になる訳だが、多分タランティーノのファンなら2倍
の入場料も払ってくれると踏んだということで、興行的にも
得になる計算にはなるようだ。そしてタランティーノは、す
でにその方針で編集を進めているそうだ。        
 ところが問題は興行体制で、第1部は当初の公開日の10月
10日の劇場が確保されているが、第2部に関しては今からで
はその手当をすることができず、年末の大作攻勢も絡んで年
内の公開は無理。早くて04年初旬ということになるようだ。
 このためファンは第1部の後、第2部公開まで数ヶ月を待
たなければならなくなる訳だが、さらに問題なのはオスカー
レースで、年度内公開の第1部だけで作品の評価を得られる
かということ。しかし、もし候補になればちょうどいい時期
に第2部の公開ということにもなる。          
 ということで、いろいろな思惑が絡む話になりそうだが、
他にも俳優の出演契約が1作品で交わされていることから、
その契約の変更も問題になりそうだということだ。    
        *         *        
 お次は、政界入りも本格的に取り沙汰されるようになって
きたアーノルド・シュワルツェネッガーの新作の情報で、ニ
ューラインが計画している“Big Sir”というコメディ作品
に主演することが発表されている。           
 この作品は、ニューラインの製作トップのクリス・ゴシッ
クとマーク・カウフマンのアイデアに基づくもので、再婚を
間近にした男性が、その将来の義理の息子たちとの理解を深
めるために大陸横断の旅に出るのだが、そこに男性の過去に
まつわる余り芳しくない登場人物たちが現れ、彼らに追い回
されるというもの。                  
 シュワルツェネッガーのコメディーセンスは、過去に『キ
ンダガートン・コップ』や『ツインズ』で実証済みだが、最
近はアクション作品が続いていたシュワツェネッガーにとっ
ては、久し振りのコメディ作品への出演となる。また、子供
を守りながらのアクションもありそうで、シュワルツェネッ
ガーには最適のお話と言えそうだ。           
 そしてこの脚本を、ディズニーチャンネルで『トイストー
リー』からインスパイアされた“Buzz Lightyear”シリーズ
などを手掛けるボブ・スクーリーとマーク・マッコークルが
担当することが発表されている。因に、この脚本家のコンビ
は“Disney's Hercules”のシリーズも手掛けているという
ことで、『超人ヘラクレス』で映画デビューしたシュワルツ
ェネッガーにはピッタリと言えるのかな?        
 とは言え、まだ監督その他のスタッフキャストは未定で、
シュワルツェネッガーの計画では、他にも第41回で紹介した
“Westworld”などもある訳だが、この先、カリフォルニア
州知事選挙への出馬が決まったら、一体どうなってしまうの
だろうか。                      
        *         *        
 『K−19』で劇映画に進出したナショナル・ジオグラフィ
ックから、ロバート・レッドフォード主演による“Aloft”
という作品の計画が発表された。            
 この作品は『K−19』と同じく実話に基づくもので、アラ
ン・テナントという男性と、彼の友人の短気で運に見放され
たパイロットが、国境を超えた北米ハヤブサの飛翔経路を、
アメリカ軍のハイテク機材を利用して、今までにないやり方
で解明するというもの。                
 これだけ書くとかなり科学的なお話のようだが、実はこの
主人公たちが、アメリカ陸軍、カナダの山岳警察隊、南米の
麻薬組織、さらにはメキシコの盗賊団からも追われていると
いうもので、まさに「事実は小説より奇なり」を地で行くよ
うな物語のようだ。                  
 そしてこの2人組冒険物語(buddy adventure tale)で、
レッドフォードはパイロット役を演じる計画になっている。
 なお監督は未定だが、製作者の中には『シン・レッド・ラ
イン』のテレンス・マリックの名前も見える。他にマリック
の『地獄の逃避行』を手掛けたエド・プレスマンも製作者に
名を連ねているが、元々はプレスマンがマリックに原作を紹
介し、2人でレッドフォードに参加を呼びかけたそうだ。 
 因に、ナショナル・ジグラフィックでは、先にリチャード
・ギア主演で南極を舞台にした“Emperor Zehnder”という
作品の計画を発表しており、この作品はハイドパークとの共
同製作で秋から撮影の予定。また、ウォルフガング・ペータ
ーゼン監督の“Endurance”と、ジョアン・チェンの監督に
よる“The Unwanted”という作品の計画も発表されている。
        *         *        
 『グリーン・マイル』などの脚本家のフランク・ダラボン
が、アメリカの劇画雑誌Heavy Metalに掲載された人気キャ
ラクターで、1981年の同誌を原作にしたオムニバスアニメー
ション『ヘビー・メタル』にも登場したキャプテン・スター
ンの映像化権を獲得し、劇場用のCGアニメーションなどを
製作する計画が発表された。              
 この計画は、ダラボンのダークウッズプロダクションと、
バーニー・ライトスンのハイマーニ・オリジナルが共同で進
めるもので、因にライトスンは、『バットマン』などの映画
化に協力した他、『ゴーストバスターズ』や『ギャラクシー
・クェスト』『スパイダーマン』などのコンセプトアートも
手掛けた人物だそうだ。                
 また、ハイマーニ・オリジナルは、傘下に『X−メン2』
や“League of Extraordinary Gentlemen”などを手掛けた
f/x部門を持っているということで、その部門でのCGア
ニメーションの製作となるようだ。さらに、この計画には、
『クロウ』などを手掛けた脚本家のデイヴィッド・J・スコ
ウの参加も発表されている。              
 内容は、宇宙を股に掛けた詐欺師の物語で、前作アニメー
ションのストーリーはよく憶えていないが、いずれにしても
自由な発想で新たな物語を作り出せそうだ。       
 なお、契約は劇場用長編だけでなく、テレビシリーズやヴ
ィデオゲーム、新たなコミックスなど多岐に渡っており、ダ
ラボンの手腕でヒーローの復活が目指されるようだ。   
        *         *        
 何度か紹介しているジャッキー・チェン主演によるリメイ
ク版“Around the World in 80 Days”で、新たにヴァージ
ン・グループの総師リチャード・ブロンスンのカメオ出演が
発表された。                     
 ブロンスンは熱気球による世界一周を成功させた冒険家と
しても知られるが、本編での出演はその熱気球の操縦士役。
気球によるアルプス越えは1956年の映画化でも有名な場面だ
が、今回はそれを熱気球で再現することになるようだ。  
 そして今回の映画化では、ルーク&オーウェン・ウィルス
ン兄弟がライト兄弟の役で出演することも発表されており、
飛行機と気球の対決という見せ場にもなるようだ。    
 この他、本作のカメオ出演者では、ヴィアトリス女王役の
キャシー・ベイツを始め、アーノルド・シュワルツェネッガ
ー、ジョニー・ノックスヴィル、ロブ・シュナイダー、ジョ
ン・クリース、サモ・ハン・キンポー、それにベルギー俳優
のセシル・デ・フランス、さらにドイツ監督のヴィム・ヴェ
ンダースの出演も発表されている。           
 チェンの他に、スティーヴ・クーガン、ジム&ダニエル・
ウーが共演する撮影は、タイでのロケーションの後、4月に
ベルリンのバベルスバーグ撮影所に移動して3カ月の撮影が
すでに完了したはずだが、まだアメリカ配給は決まっていな
いようだ。                      
        *         *        
 続いてはキャスティングの情報で、まずはユニヴァーサル
=ミラマックスの共同製作で計画されているラッセル・クロ
ウ主演、ロン・ハワード監督作品の“Cinderella Man”に、
ルネ(レニー)・ゼルウィガーの共演が発表されている。 
 この作品は、1935年にヘヴィ級タイトルマッチに挑み、15
回の激しい戦いの末に勝利して、一躍大恐慌時代のヒーロー
になったボクサー、ジム・ブラドックの姿を描いたもので、
クロウがブラドック役、そしてゼルウィガーは彼の妻を演じ
ることになっている。                 
 またこの作品では、当初はラッセ・ハルストロームの監督
が予定されていたが、その後ハワード監督に交代になった時
点で脚本家にアキヴァ・ゴールズマンを招請しており、製作
のブライアン・グレイザーも併せて『ビューティフル・マイ
ンド』のクァルテットが再結集することになるようだ。  
 一方、ゼルウィガーについては、ハルストローム監督の時
にすでに候補に挙がっていたものだが、その後に『シカゴ』
でゴールデン・グローブを受賞して決定的になったというこ
と。とは言え彼女の出演料もうなぎ登りで、結局、もう1本
ユニヴァーサル=ミラマックスでの共同製作が決まっている
『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編と併せて、2100万
ドルの契約が交わされたようだ。            
 製作は、続編の“Bridget Jones: The Edge of Reason”
は11月からの撮影開始と発表されているが、クロウとの共演
作のスケジュールは未定、以前に紹介したジャニス・ジョプ
リンの伝記の計画などもあり、少し先になりそうだ。   
 なお、ゼルウィガーの次回作には、アンソニー・ミンゲラ
監督、ニコール・キッドマン、ジュード・ロウ共演のミラマ
ックス作品“Cold Mountain”がすでに撮影完了している。
        *         *        
 お次は、すでに何度か紹介したオリヴァ・ストーン監督の
“Alexander”で、キャスティングがかなり決まってきた。
 まず、主人公アレキザンダー大王役には、以前に紹介した
と思うが『マイノリティ・リポート』のコリン・ファレル、
また以前から出演が発表されていたアンソニー・ホプキンス
はアレキサンドリアの天文学者プトレマイオス役。さらに大
王の母親役にアンジェリーナ・ジョリー。また大王の妻役に
『プルート・ナッシュ』などのロサリオ・ドースン。大王軍
の将軍役に『パニック・ルーム』などのジャレッド・リトー
の配役が発表されている。               
 因に、リトーが扮する将軍役は、いろいろな趣味を持った
大王の一面での恋人役でもあるということで、映画全体の中
でも重要なプロットを任される役。レオナルド・ディカプリ
オが主演するバズ・ラーマン監督版でも配役に困難を極めて
いる部分ということだが、リトーのこの配役は、かなりの大
抜擢のようだ。                    
 このストーン版の撮影は9月1日開始が発表されている。
 一方、ラーマン版の“Alexander the Great”の方は、一
時発表された撮影地のオーストラリアからモロッコへの変更
は準備が整わずキャンセルとなり、結局当初の予定通りオー
ストラリアでの撮影が行われることになったが、これも準備
にかなりの時間が掛かりそうで、現状では撮影の目処が立た
なくなっているようだ。                
        *         *        
 もう1本、以前に紹介したM・ナイト・シャマラン監督の
新作“The Woods”にシゴウニー・ウィヴァーの出演が発表
されている。                     
 この作品では、すでにウィリアム・ハート、ジョアキン・
フェニックス、ブライス・ダラス・ハワードの出演が発表さ
れているが、ウィヴァーの役柄はフェニックスの母親のアリ
スという役だそうだ。                 
        *         *        
 後はSF映画の情報で、まずはニューラインから、コミッ
クス作家のロブ・レイフィールドの脚本で“Planet Terry”
という作品が発表されている。これは中年の家庭人の男が、
突然尋常でない状況に放り込まれるというもので、ジム・キ
ャリー主演の『ライヤー・ライヤー』のような傾向の作品と
いうことだ。                     
 なおレイフィールドの作品では、先にオンラインで発表中
の“Shrink!”という作品がジェニファー・ロペスの製作主
演でコロムビアで進められている他、“The Mark”という作
品がウィル・スミスの主演でパラマウントで計画され、さら
に“Galaxy Girl”という作品もパラマウントと契約されて
いるそうだ。                     
 お次は,『デッド・コースター』のデイヴィッド・エリス
監督が、パラマウントで計画中の“Confrontation”という
作品に起用されることになった。この作品は、異星人の宇宙
船がアメリカ軍によって撃墜され、その乗組員を救出に来た
異星の軍隊と対峙する事態になるというもの。同時にパラマ
ウントでは、アート・マーカム、マット・ハロウェイの脚本
家チームと契約して脚本の完成を任せたということだ。  
 そしてもう1本は、“Where or When”という作品がハイ
ドパークで計画されている。この作品はジョー・リッチマン
という作家の未発表の原作に基づくもので、幽霊の存在を信
じる若い女性が精神的な力で過去に行き、100年前の犯罪を
食い止めるというもの。映画化された『いつかどこかで』や
ジャック・フィニー原作の『ふりだしに戻る』の傾向の作品
のようだが、すでにジャック・ロビンスンによる脚色も進め
られているということだ。               
        *         *        
 最後にちょっと変な情報で、日本は夏に公開が予定されて
いるダニー・ボイル監督の『28日後...』(28 Days Later)
で、6月に封切られたアメリカ公開の29日目から新たな結末
が追加されたということだ。              
 この新たな結末は、情報によるとエンドロールの後に登場
するもので、“What if...”というタイトルに続いてかなり
血みどろのシーンが展開するようだ。          
 一応、この作品の試写は見せてもらっているが、僕にはそ
のような血みどろの結末を見た記憶はない。それで僕は6月
16日にも書いたように、「皮肉な結末が良い」というような
評価をしたのだが、監督はこの追加の結末について「純粋な
ホラー映画ファンは特に楽しんでもらえるはず」とコメント
しているということで、これはちょっと評価が変わる可能性
もあるようだ。                    
 結末が変えられてしまうのは、無声映画時代のF・W・ム
ルナウ監督の『最後の人』から、最近ではテリー・ギリアム
監督の『ブラジル』までいろいろ先例はあるが、その両方が
公開される点では、今回はちょっと特異と言えそうだ。日本
公開も29日目から結末が変わるのだろうか。       


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井口健二