井口健二のOn the Production
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2003年07月15日(火) 第43回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に記者会見の報告から。             
 『ターミネーター3』の公開に合わせて、主演のアーノル
ド・シュワルツェネッガーとクリスターナ・ローケン、それ
に監督のジョナサン・モストウの来日記者会見で行われた。
その中で、今回の続編の実現に関しては、シュワルツェネッ
ガーから、世界中のファンの後押しが大きな力になったこと
が強調されていた。                  
 そして“T4”については、監督のモストウはやる気満々と
いう感じで、それには今回と同様ファンの後押しが大事にな
ると発言していたのに対し、シュワルツェネッガーが、モス
トウやローケンとは別の作品もやってみたいと強調している
のが印象に残った。                  
 結局のところ、シュワルツェネッガーにはジェームズ・キ
ャメロンへの未練があるが、製作者のマリオ・カサール、ア
ンディ・ヴァイナとモストウは、すでに次に向けて動き出し
ているという印象だった。今回の映画の流れだと、“T4”に
シュワ、ローケンの再登場は不可欠のように思えるが、さて
どうなることだろうか。                
        *         *        
 以下は、いつもの製作情報を紹介しよう。       
 まずは、上にも書いた『ターミネーター』の第3作を完成
させたカサール=ヴァイナのプロダクション・C2から、新
たな3部作の計画が発表されている。          
 この計画は“Evermere”と題されたもので、お話は、17歳
の孤児の少年が、実は現世と交錯する並行世界の王位の継承
者であることが判り、その王位を狙う叔父と戦うために、そ
の世界に呼び戻されるというもの。その並行世界というのが
どのようなものかは不明だが、説明に『ハリー・ポッター』
や『ロード・オブ・ザ・リング』が引き合いに出されている
ところを見ると、そこでは魔法が使えるようで、典型的な異
世界ファンタシーと呼べそうな作品だ。         
 そしてこの作品は、『ブレイド』シリーズのデイヴィッド
・ゴイヤーとDCコミックスのヴェテランライターのジェー
ムズ・ロビンスンがオリジナル脚本を手掛けたもので、3部
作の構成になっているようだ。因に、『ブレイド』は、現在
第3作の計画がゴイヤーの監督で進められているが、これも
当初から3部作の設定だったと言われている。      
 またこの脚本の契約は、実は1998年に数100万ドルの契約
金で結ばれていたと言うことだが、C2としてはその頃から
『ターミネーター3』完成までの道程で、それどころではな
かったということだったようだ。それが晴れて完成し、計画
が進み始めたもので、今回はこの計画に、『2days』の
ジョン・ハーツフェルド監督の契約が発表されている。  
 なお、ハーツフェルド監督の『2days』は、97年の第
10回東京国際映画祭で特別招待上映された際に見ているが、
僕はこの作品に特別ファンタスティックな印象を持った記憶
はない。しかしC2の2人は、彼のヴィジョンに今回の作品
と通じるところを感じたということだ。また、ゴイヤーは、
映画化の製作総指揮を務めることになっている。     
 さらにカサールは、今後の展開として「ヴィデオゲームや
その他のマーチャンダイズへの進展も考えている」とのこと
だが、『ターミネーター』の権利獲得に1000万ドル以上を費
やしたことを考えると、過去のカロルコ→C2の計画の中で
は最も危険度の少ない計画との観測もあるようだ。配給は、
『ターミネーター3』の海外配給も手掛けるソニーが契約、
夏のテントポール作品に仕立てる計画とされている。   
        *         *        
 お次は、久し振りの話題で、ワーナーから“Tarzan”の新
作の計画が発表され、その脚本家に『チャーリーズ・エンジ
ェル/フルスロットル』のジョン・オーガストの契約が公表
された。                       
 『ターザン』は、エドガー・ライス・バローズの創造した
キャラクターに基づくが、バローズは1950年に他界して、そ
の著作権存続期間の死後50年はすでに経過している。しかし
その存続期間の切れる直前の1999年に、バローズの遺族と契
約を交わしたディズニーがアニメーション版の『ターザン』
を発表、これにより映像関係では以後70年の権利が発生した
ことになった。                    
 ところが『ターザン』に関しては、1981年にボー・デレク
主演による『類猿人ターザン』が製作された際の遺族による
差し止め請求に対して当時のMGMが起こした裁判で、1930
年代にMGMがジョニー・ワイズミューラー主演で製作した
作品に対して、別の著作物としての権利が認められており、
当時のMGMの権利を引き継ぐワーナーでは、その権利に基
づく『ターザン』映画の製作が可能とされているものだ。 
 ということで、今回はワーナーから計画が発表されたもの
だが、脚本を担当するオーガストは、「自分は70年代に放送
されたテレビのアニメーションシリーズのファンだった。バ
ローズの『ターザン』とはちょっと違うかも知れないが、永
く語り継がれているヘラクレスやロビン・フッドのような感
じでキャラクターを考えたい」としている。       
 そして具体的には、「『X−メン』に登場するウルヴァリ
ンから爪だけを除いたような感じの、獰猛で野性的なキャラ
クターにする」とのことだ。              
 またジェーンについても、「もっと現代的で教育があり、
他人の助けなど必要としないような自立した女性に描く」と
いうことだ。                     
 製作のスケジュールなどは未定だが、ワーナーとしては、
『スーパーマン』や『バットマン』のような、永続性のある
新しいキャラクターの誕生を期待している。また、今回の計
画には、『BIM』の原作コミックなどで知られるダーク・
ホースエンターテインメントの参加も予定されているという
ことで、多方面からの展開が考えられているようだ。   
 それにしても、ワーナーは、1984年製作のヒュー・ハドス
ン監督による『グレイストーク』ではバローズの原作に最も
忠実なターザンを描いてみせたものだが、それが一転MGM
の継承者になってしまったのも皮肉なことだ。      
 なお、ワーナーでは、すでに98年にキャスパー・ヴァン・
ダイン主演による“Tarzan and the Lost City”という作品
をヴィレッッジ・ロードショウとの共同で製作している他、
“Tarzan and Jane”というテレビシリーズも計画している
ようだ。一方、ディズニーからは、アニメーション版の続編
として“Tarzan and Jane”が、昨年オリジナルヴィデオで
リリースされており、この競作は当分続きそうな気配だ。 
        *         *        
 続いてはコロムビアから、今年3月に出版されてベストセ
ラーを記録したダン・ブラウンの原作による“The Da Vinci
Code”という小説の映画化の計画が発表された。     
 この小説は、ハーヴァード大学で記号学を研究するロバー
ト・ランダンという名前の教授を主人公に、本作ではルーヴ
ル美術館の館長殺人事件を発端にして、レオナルド・ダ=ヴ
ィンチの絵画に隠された2000年に及ぶ謎を解明して行くとい
うもの。かなりパズル性に満ちた面白い作品のようだ。  
 そしてこの作品は、実は同教授を主人公にしたシリーズの
第2作ということで、その第1作の“Angels and Demons”
もペーパーバックのベストセラーリストに登場しており、さ
らに第3作も執筆中だそうだ。そこでコロムビアでは、原作
者とはシリーズでの契約を交わしており、当然映画化もシリ
ーズ化を目指すことにしている。            
 本作は絵画がテーマになっているということで、映画化さ
れればヴィジュアル的にも面白いものになりそうだが、現在
のところ具体的な映画化のスケジュールなどは決まってはい
ない。しかしこの作品と似たテーマの“Daughter of God”
という小説が、2000年にルイス・パルデューという作家によ
って発表されており、今後競作ということにでもなれば、動
きが早まる可能性はありそうだ。            
        *         *        
 前回『くたばれヤンキース!』のリメイク計画を紹介した
ミラマックスから、またまたブロードウェイミュージカルの
映画権を獲得したことが発表された。          
 今回発表されたのは、1972年の初演で、この年のトニー賞
に11部門でノミネートされて5部門で受賞した“Pippin”。
実はこの作品も、『シカゴ』と同じボブ・フォッシーの演出
振り付けによるものだ。                
 お話は、9世紀のローマ帝国を舞台にしたもので、当時の
西ローマ帝国を支配したシャルマーニュ大帝の息子のピピン
が、真実の愛を見つけ出すまでのさまざまな行動が描かれて
いる。そしてこの作品では、フォッシーが演出、振り付けで
ダブル受賞の他、主演男優、装置デザイン、照明デザインの
各部門でトニー賞を受賞している。           
 またこの作品は、後にディズニー製作の『ノートルダムの
鐘』や『ポカホンタス』の音楽を担当したスティーヴン・シ
ュワルツが、作詞作曲を担当(トニー賞候補)しており、今
回は彼との契約も交わされている。『シカゴ』と同様、映画
向けの新しい楽曲の提供もありそうだ。         
 因に、ミラマックスでは、今年の2月には同じくブロード
ウェイミュージカルの“Guys and Dolls”の映画化の計画も
発表しているが、現状では前回紹介した“Damn Yankees”の
計画が先行して進められているようだ。         
        *         *        
 またしてもアジア製ホラー映画のハリウッドリメイクの計
画で、韓国で今年の6月13日に公開されたばかりの“A Tale
of Two Sisters”という作品に、早くもリメイクの契約が
交わされている。                   
 契約したのは、『ザ・リング』を成功させたドリームワー
クスの製作者ウォルター・パークス。4000万ドルの製作費で
1億2900万ドルを稼ぎ出したという和製ホラーのリメイクに
続くヒットを狙っているということだ。         
 オリジナルのお話は、謎の病から回復した2人の少女が、
異様な振舞をする義理の母親の元で、恐ろしい生活を強いら
れるというもの。キム・ジイ・ウーンという監督の作品で、
6月の公開では、『マトリックス/リローデッド』に次ぐ韓
国映画史上2番目の封切り興行を記録したということだ。 
 そしてこの作品のリメイク権については、パラマウント、
ユニヴァーサル、ソニー、MGMとの間で争奪戦が行われ、
結局7桁($)の契約金でドリームワークスが権利を獲得し
たものだ。                      
 なお製作状況は、すでに“After the Sunset”(ピアーズ
・ブロスナン、アイス・キューブ、サルマ・ハエック共演の
犯罪もの、ニューラインで製作中)などの脚本家のクレイグ
・ローゼンバーグがリメイク版の脚色を始めており、監督は
未定だが、かなり早く進むことになりそうだ。因に、ローゼ
ンバーグはドリームワークスの契約以前から計画に参加して
いたということだ。                  
 ということで新企画の登場だが、ドリームワークスでは、
『ザ・リング』の続編の計画も進めており、この計画もパー
クスの製作で進められているものだが、その後どうなってい
るのだろうか。                    
        *         *        
 もう1本アジア製ホラーの話題で、日本でも先に公開され
たダニー&オキサイド・パン兄弟の『EYE』のハリウッド
リメイク計画の詳細が発表されている。         
 この計画では、パラマウント傘下でトム・クルーズが主宰
するクルーズ/ワグナー・プロダクションがリメイク権を獲
得したことで話題になったが、製作にはさらにディメンショ
ン傘下のヴァーティゴ・エンターテインメントが参加すると
いうことだ。そしてこのリメイクの脚色に、98年にブルース
・ウィリスが主演した『マーキュリー・ライジング』などの
ライン・ピアスンの契約が発表されている。       
 なお98年の作品は、少年を描いた見事なスリラーとして評
価が高いが、ピアスン自身は、現在コロムビア傘下のエスケ
ープ・アーチスツに“Knowing”というオリジナル脚本を提
供している他、ジェームズ・キャメロン主宰のライトストー
ムにも“Godspeed”という脚本を提供しているそうだ。  
 また、製作に参加するヴァーティゴは『ザ・リング』の製
作に協力したことでも知られており、ディメンション傘下で
蓄積したホラー映画製作のテクニックが発揮されることにな
るようだ。                      
        *         *        
 『フィツカラルド』などのドイツの映画作家ヴェルナー・
ヘルツォークが、スコットランドのネス湖の謎に挑む“The
Enigma of Loch Ness”というドキュメンタリー作品の撮影
が開始され、同時にヘルツォーグ自身を題材にした“Herzog
in Wonderland”という作品がジョン・ベイリーの監督で制
作されている。                    
 まずヘルツォーグの作品は、脚本家のザック・ペンが資金
調達と製作を担当しているもので、ネス湖の怪獣ネッシーの
謎を追うもの。日本からも都知事になる以前の石原真太郎な
どが挑んだ題材だが、正直に言って現存の可能性はかなり少
ないと思う訳で、まあ今さらネッシーそのものを追い掛ける
とも思えないが、歴史的な背景などが描かれるなら面白くな
りそうだ。                      
 そしてベイリーの作品は、現在はロサンゼルスに住んでい
るヘルツォーグとハリウッドとのつながりを描くものという
ことで、ハリウッドにいながらコマーシャリズムとは無縁の
活動をする監督の姿が描かれるそうだ。それにしても、劇映
画のメイキングのドキュメンタリーは最近いろいろ作られて
いるが、ドキュメンタリーのメイキングというのは、一体ど
ういうことになってしまうのだろうか。         
 もっとも以前からの親友というザック・ペンは、「彼は実
生活でもフィクションとの区別が付かないような人物」と評
しているから、逆に本編がドキュメンタリーなら、これも面
白いかも知れない。                  
 因にヘルツォーグは、90年代以降はドキュメンタリーを中
心に仕事をしているそうだが、劇映画の作品もない訳ではな
く、昨年は“Invincible”という作品がファインラインから
配給されている。また、現在は97年に発表した自身のドキュ
メンタリー作品をドラマ化して、クリスチャン・ベイルが出
演する“Little Dieter Needs to Fly”という計画も進めて
いるということだ。                  
        *         *        
 ちょっと面白い話題で、ゲームメーカーのアクティヴィジ
ョン社がパラマウントを傘下に置くヴァイアコムを訴えると
いう話が伝わってきた。                
 これは、アクティヴィジョン社が98年にヴァイアコムと交
わした“Star Trek”のゲーム化の契約に関係したもので、
同社では、契約期間10年のこの契約の基づいて、すでに5年
間で10タイトルのゲームを、パソコンやプレイステーション
向けに発売しているということだ。           
 ところが、最近の同シリーズの映画及びテレビでの人気の
低下で、すでに本来売れたはずの商品から数100万ドルの損
害を受けており、これは、ヴァイアコムの子会社であるパラ
マウントが充分な努力を払っていないためとするものだ。 
 実際、契約当時の『スター・トレック』は、それまでの4
年間に3作の映画作品を公開し、またテレビでも2つのシリ
ーズが放送されていた。しかしその後に公開された劇場作品
は『ネメシス・STX』だけで、テレビシリーズも『エンタ
ープライズ』のみになってしまった。          
 しかも、今後に劇場映画の計画はなく、テレビも『エンタ
ープライズ』以後のシリーズの計画はないということで、こ
れでは契約を交わした際の、作品の人気を保ち続けるという
約束を果たしていないというものだ。確かに、シリーズの人
気を保ち続けるというのは難しいものだが、こういう契約が
背景にあるならば、少なくともシリーズを継続する努力は要
求されるようだ。                   
 ということで、今回の報道に関連しては、劇場版の次回作
の準備は進められているというインサイダー情報もあったよ
うだが、さてどうなることか。ファンとしては、どんな事情
であれ、シリーズの継続は期待したいところだが…。   
        *         *        
 最後に、SF映画の情報で、コロムビアで進められている
“Alien Prison”という作品の脚本を、『フェイス/オフ』
などを手掛けた脚本家チームのマイク・ウェーブとマイクル
・コレアリーが7桁($)に近い契約金で契約したことが発
表された。                      
 この作品は、『エアフォース・ワン』などのアンドリュー
・マーロウのオリジナル脚本に基づいて進められているもの
で、内容は異星の牢獄に捕えられた地球人の集団が、その牢
獄を脱獄し、異星人による地球への全面的な侵略に立ち向か
うというもの。これを大型製作費のテントポール用作品に仕
上げるということだが、製作担当のレッドワゴン社のダグ・
ウィックは、「『戦場にかける橋』や『第十七捕虜収容所』
を目標に、人間の本性をあらわにするような作品にしたい」
と語っており、かなりの作品になりそうだ。        
 因に脚本家の2人は、『フェイス/オフ』のジョン・ウー
監督の新作“Men of Iron”の他、パラマウントで進められ
ているヴィデオゲームの映画化“Tekken”の脚本も手掛けて
いるそうだ。                     


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井口健二