井口健二のOn the Production
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2003年07月01日(火) 第42回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずはこんな話題から。               
 『シカゴ』の大ヒットとオスカー受賞を達成したミラマッ
クスから、更なるミュージカル企画として“Damn Yankees”
のリメイクの計画が発表された。            
 この作品は、1955年にブロードウェイで初演、58年にワー
ナーで最初の映画化が行われたもので、オリジナルの映画化
では、舞台も手掛けたジョージ・アボットと映画ミュージカ
ルの巨匠スタンリー・ドーネンが監督、タブ・ハンター、グ
ウェン・ヴァードン、レイ・ウォルストンらが出演して、日
本では『くたばれヤンキース』の題名で知られている。  
 因に、この原題はアメリカでは常套句になっていて、最近
でも『ヤァヤァシスターズの聖なる秘密』などで使われてい
たが、なかなか正しい日本語訳にはなっていないようだ。 
 そしてこの作品は、オリジナルの振り付けを『シカゴ』と
同じボブ・フォッシーが手掛け(フォッシーは映画化のダン
スシーンに出演もしている)、その94年のブロードウェイ・
リヴァイヴァルを、『シカゴ』でオスカーを受賞したロブ・
マーシャルが演出したということだ。          
 ということで、『シカゴ』の流れを引き継ぐにはベストの
作品と言えそうだが、お話は、メイジャーリーグ・ベースボ
ールをテーマにして、熱狂的なワシントン・セネタース・フ
ァンの男性が、自分の魂を売り渡すのと引き換えに、愛する
チームに最強のバッターを入団させる契約を悪魔と結び、そ
の結果、彼自身が最強のバッターに変身して大活躍をすると
いうもの。題名のヤンキースとは、現在松井が在籍している
ニューヨーク・ヤンキースのことだ。          
 これに、主人公とファンの女性とのラヴ・ストーリーなど
を絡めて、初演でブロードウェイの最高の栄誉のトニー賞を
7部門も受賞した名作ミュージカルとなっている。    
 なお今回の発表は、ミラマックスが、『シカゴ』を製作し
たクレイグ・ゼイダンとニール・メロンのコンビと製作契約
を結んだことが報告されたもので、具体的な映画化のスケジ
ュールなどは明らかにされていない。しかし1、2年の内に
実現すれば、『トゥー・ウィークス・ノーティス』の新庄に
続いて松井の登場もあるかも知れないというところだ。  
 ただし、ゼイダン=メロンのコンビは、同じくブロードウ
ェイミュージカルの“Guys and Dolls”の映画化の製作契約
を先にミラマックスと結んでおり、またワーナーでフランク
・ダラボン監督の“Fahrenheit 451”、さらにパラマウント
でミュージカル作品“Footloose”の再映画化の計画も進め
ているということで、実現には多少時間が掛かりそうだ。 
        *         *        
 もう一つミュージカルの話題で、以前にも紹介したアンド
リュー・ロイド=ウェバー版“The Phantom of the Opera”
の映画化の主なキャスティグが発表されている。     
 まずファントム役は、イギリス出身で『ドラキュリア』の
ドラキュラ役や、日本では秋公開予定の“Lara Croft: Tomb
Raider: Craidle of Life”に主人公の元恋人役で登場する
ジェラルド・バトラー。ファントムが思いを寄せるクリステ
ィーヌ役には、7歳から舞台に立ち16歳にしてメトロポリタ
ン・オペラのヴェテランと呼ばれるエミー・ロサム。彼女の
恋人役に新作“The Alamo” にも出演しているパトリック・
ウィルスン。そして、クリスティーヌに主役の座を奪われる
女優カルロッタ役には、『グッド・ウィル・ハンティング』
などのミニー・ドライヴァの配役が発表された。     
まあ、どちらかと言うと、映画ではまだトップクラスとは
呼べない配役が揃えられた感じだが、バトラーとドライヴァ
はロンドン・ウェストエンドでの舞台経験も積んでいるよう
で、実力のある俳優が選ばれているということのようだ。 
 なおヒロインを演じるロサムは、クリント・イーストウッ
ド監督で今年のカンヌ映画祭に出品された“Mystic River”
にも出演しているそうだ。また、ドライヴァの次回作には、
一時クリスティーヌ役が報じられていたアン・ハサウェイの
相手役で出演した“Ella Enchanted”の公開が控えている。
映画化は、ジョエル・シュマッチャーの監督で、9月15日
にロンドンのパインウッドスタジオでの撮影が開始されるこ
とになっている。                   
        *         *        
 お次は待望の情報で、昨年10月1日付のこのページ第24回
でも紹介した“The Hitchhiker's Guide to the Galaxy”の
映画化について、製作側の最終的な布陣が発表された。  
 それによると、一時監督が予定されていたジェイ・ローチ
は製作に専念することになり、監督にはイギリスのコマーシ
ャルやミュージックヴィデオで実績を挙げているハマー&ト
ンというチームが映画デビューを飾ることになっている。 
 なおこのチームは、脚本監督のガース・ジェニングスと製
作のニック・ゴールドスミスの2人が結成しているもので、
その実力はミュージクヴィデオで実証済みということだ。そ
して彼らは、すでに計画に参加しているケアリー・カークパ
トリックと共に、原作者ダグラス・アダムスの遺稿に基づく
脚本を仕上げ、撮影に臨むことになっている。      
 因に、製作を担当するスパイグラス社では、カークパトリ
ックが完成させた脚本を、一旦は『マルコヴィッチの穴』の
スパイク・ジョーンズに預けたものの、最終的にイギリス人
のチームに委ねることにしたということだ。また、彼らも、
幾多のハリウッドからの映画監督への誘いを断わり続けてい
たということで、結局のところはイギリス人の力を結集した
作品が作られることになりそうだ。           
 物語は、宇宙航路建設のため人類もろとも地球が破壊され
た後の世界で、唯一人の生き残りとなった主人公が、変な異
星人やロボットと共に旅を続けるというコミック・ファンタ
シー。原作は、最初はイギリスBBCラジオで放送され、そ
の後、小説化やテレビ化、ヴィデオゲームにもなっている。
        *         *        
 続いては続編の話題で、まずはこのページの第31、32回で
紹介した『オーシャンズ11』の続編“Ocean's Twelve”の映
画化が、来年2月にローマで行われることが発表された。 
 この発表は、主人公のオーシャン役を演じるジョージ・ク
ルーニーがローマを訪れて行ったもので、同時にクルーニー
は、ローマ市の医療機関に対して10台のスクーターを寄付、
心臓病などの患者の元へ医師を迅速に派遣するために活用し
てもらうことにしたということだ。           
 クルーニーは、元々『ER』で人気を得たことから、医療
問題にも関心が高いのかも知れないが、わざわざローマ市を
選んでこういう寄付を行ったことには何か理由があるのだろ
うか。一方、この寄付に対してローマ市からは、市の鍵がク
ルーニーに贈られたということで、これで市内でのロケーシ
ョン撮影も自由に行えるということだろうか。      
 なお、続編には『11』に登場した全員が顔を揃えるという
ことだが、全員との契約はまだ結ばれていないという情報も
あり、特に『11』の後に出演料が高騰したメムバーもいると
いうことで、さてどうなりますか。           
 物語は、第32回で紹介したように、2人の泥棒が1人の女
性に恋をしてしまうというもので、元々はブラッド・ピット
とチョウ・ユン=ファの共演でジョン・ウーが監督する計画
だったもの。しかしウー監督のスケジュールが一杯になり、
ウーの監督が断念され、その計画を衣更えして、スティーヴ
ン・ソダーバーグの監督で実現することになったものだ。 
 2人の泥棒は誰と誰なのか、それに12人目のメムバーは?
いろいろ面白くなりそうだ。              
        *         *        
 次は、前回の記事の続報にもなるが、ブレット・ラトナー
監督の“Rush Hour 3”が正式に動き出し、主演のクリス・
タッカーに8桁($)の出演契約が結ばれている。    
 この計画では、3月に“Superman”から降板したラトナー
がただちに準備を開始していたものだが、一方で、人気者に
なった出演者2人の契約金の高騰が懸念されていた。しかし
前2作の興行収入は、アメリカ国内だけで合計3億6700万ド
ルにも達しており、この金額は懸念を簡単に吹き飛ばしてし
まったようだ。                    
 なお現状では、ジャッキー・チェンに対する出演交渉は行
われていない模様だが、タッカーの金額から考えれば、嫌と
は言えないものになりそうだ。因にチェンは、主演したウォ
ルデン・メディア製作“Around the World in 80 Days”は
すでに撮影を完了してポストプロダクションに入っており、
また“The Medallion”という作品が、コロムビアの配給で
全米公開が決定している。               
 ただし“Rush Hour 3”の制作状況は、まだ脚本の仕上げ
の段階ということで、撮影開始までには少し時間が掛かると
のこと。多分、前回紹介した“Be Cool”が秋から撮影され
て、その後ということになりそうだ。また“Rush Hour 3”
の全米配給はニューラインが行うが、同社では04年あるいは
05年の公開を計画しているようだ。           
        *         *        
 もう一つは、ちょっと残念な情報で、来年5月21日に予定
されていた“Mission: Imposible 3”の公開が大幅に延期さ
れることになるようだ。                
 この計画は、トム・クルーズの製作主演で、『ナーク』の
ジョー・カーナハン監督を大抜擢して進められているものだ
が、ここに来てマイクル・マン監督がドリームワークスで進
めている“Collateral”という作品にクルーズの主演が決定
し、この撮影が今秋行われることから、自動的に“M: I3”
の撮影が遅らされることになったものだ。そして現状では来
年1月の撮影が予定されているが、それでは5月の公開に間
に合わないということだ。               
 このシリーズでは、前2作もかなりタイトなスケジュール
で製作されていたような気がするが、今回はブライアン・デ
=パルマ、ジョン・ウーのようなヴェテラン監督ではないと
いうことで、慎重に進められているのかも知れない。これに
より公開は、早くて来年のクリスマス、若しくは05年の5月
になるということだ。                 
 なお、マン+クルーズの作品は、ロサンゼルスを舞台にし
た1夜の物語で、タクシー運転手がプロの殺し屋を乗せてし
まったことから、市内を巡る殺人の旅に引き摺り込まれると
いうもの。マンにとって、スタイリッシュな犯罪ものは得意
中の得意という感じなので、面白い作品になりそうだ。因に
クルーズは、殺し屋の役を演じることになっている。   
        *         *        
 またまた実写とCGI合成作品の計画で、『スチュアート
・リトル』を成功させたロブ・ミンコフが、ジェイ・ワード
製作による往年のテレビカートゥーンシリーズ“Mr.Peabody
& Sherman”の映画化を手掛けることが発表された。   
 このシリーズは、2000年にロバート・デ=ニーロ主宰のト
ライベカの製作で映画化された“Adventures of Rocky and
Bullwinkle”などでも知られるテレビ番組“Rocky and His
Friend”の一篇として登場した同名のシリーズを映画化する
もので、お話は、天才犬のピーボディと彼のペットの少年シ
ャーマンが、タイムマシンを駆使していろいろな冒険を繰り
広げるというもの。第1作は1959年に発表されている。  
 そして今回の計画は、ジェイ・ワード・プロダクションが
参加するブルウィンクル・プロダクションというところが、
ミンコフ主宰のスプロケットダインと提携し進めるもので、
配給はスプロケットダインが契約を結んでいるソニー・ピク
チャーズが担当することになっている。         
 なお、具体的な物語や脚本家などは未定ということだが、
関係者の発言を見ると、ミンコフにその期待が寄せられてい
るようだ。そしてそのミンコフは、現在エディ・マーフィの
主演でディズニーが製作する“Haunted Mansion”の映画化
を進めており、それが一段落したらこの作品の準備を始める
ことになりそうだ。                  
        *         *        
 お次は、以前から計画が進められ、一時は競作になる可能
性もあったジャニス・ジョプリンの伝記映画が、ついにパラ
マウントとレイクショアの製作で実現されることになった。
 1970年に27歳で亡くなった歌姫ジャニスの伝記映画に関し
ては、以前は彼女の歌声を管理する版権会社や彼女の姉妹、
伝記作者などが入り乱れて、一時は収拾の付かない状態にな
っていた。しかし7年前からレイクショアが最終的な権利を
掌握し、映画化を目指して準備を進めていたようだ。   
 ところがブリタニー・マーフィやメリッサ・イーサリッジ
に主人公を演じさせる計画は、数多くの脚本が執筆されたも
のの、映画化に踏み切るまでに至らず、結局現在になってし
まったということだ。                 
 その計画が今回進み始めたのは、主演にルネ(レニー)・
ゼルウィガーの参加が決まったことによるもので、彼女が出
演すれば最高の映画が作れると判断されたということ。そし
て現在は、彼女の了解を得られる脚本の執筆と、監督の人選
を進めている状態だそうだ。またこの計画で、ゼルウィガー
は主演の他に製作も担当し、映画は“Piece of My Heart”
の題名で、04年の撮影開始を目指すことになっている。  
 なおゼルウィガーの今後の計画では、ワーキングタイトル
製作で『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編“Bridget
Jones: The Edge of Reason”が、原作者のへレン・フィー
ルディングとアンドリュー・デイヴィスの脚本に基づき、新
たにビーバン・キドロンの監督と、前作に引き続きコリン・
ファース、ヒュー・グラントの共演も決定して、11月からの
撮影が予定されている。従って今回の伝記映画は、この続編
の終了後に製作されることになるようだ。        
        *         *        
 『ハリー・ポッター』の第5巻が出版されたところで、ま
たまたユースファンタシーの映画化の計画を2つ紹介してお
こう。                        
 まずは、“Zoom's Academy for the Super Gifted”とい
う作品の映画化がリヴォルーションで計画されている。  
 この作品は、以前はディズニーやワーナーでアニメーター
をしていたジェイスン・レスコーが、2001年に発表したグラ
フィックノヴェル。ごく普通の女子高生が謎の父親の指示で
スーパーヒーローのための学校に入学し、そこで自分の才能
に目覚めるというもの。何か似過ぎのような気もしないでも
ないが、この作品をスザンヌ&ジェンファー・トッドのチー
ム・トッドの製作で進めることになっている。      
 因に、チーム・トッドは、以前に紹介した“Lionboy”を
ドリームワークスで進めている他、1960年代にディーン・マ
ーティンが主演した往年のスパイシリーズ“Matt Helm”の
リメイクの計画も手掛けているそうだ。         
        *         *        
 もう1作は、“Paper Dragon”という題名の作品で、ルー
ビック・キューブの世界チャンピオンという設定の少年が、
古代アジアのパズルボックスを開いて閉じ込められていた戦
士を蘇らせ、彼と共に冒険を繰り広げるというもの。アンデ
ィ・テオという人の原案から、アメリカの長寿番組“Law &
Order”や『シカゴ・ホープ』にも名を連ねるジョシュア・
スターンが脚本を手掛けている。            
 そしてこの映画化を、リドリー・スコット監督の『テルマ
&ルイーズ』や『白い嵐』などを手掛けたミミ・ポーク・ギ
トリンの製作で進めているものだ。因にギトリンは、この作
品の他に、ウィリアム・タチ原作のコミックス“Shi”の映
画化も進めているそうだ。               
 また脚本家のスターンには、インディ作品の監督の経験も
あるということで、本作の監督も期待されているようだ。 
        *         *        
 最後に久々の情報。                 
 一時はスティーヴン・スピルバーグの監督で、主なキャス
ティングまで発表された日本人女性を主人公にした歴史作品
“Memoirs of a Geisha”の監督に、『シカゴ』でオスカー
を受賞したロブ・マーシャルの名前が挙がっている。   
 この作品は、1997年に発表されたアーサー・ゴールデンの
小説を映画化するもので、この脚色は、ロン・バスやアキヴ
ァ・ゴールズマンらが手掛けたものの、結局スピルバーグの
満足するシナリオは出来上がらなかったということだ。この
ためスピルバーグは降板し、その後はキムバリー・ピアース
やスパイク・ジョーンズが候補に挙がったものの決定には至
らなかった。                     
 その監督にマーシャルの名前が挙がってきたもので、マー
シャルの計画では先にミラマックスで“Guys and Dolls”な
どが進められてはいるものの、本人は次回作にはミュージカ
ル以外のものをという希望があるとも伝えられており、その
希望に沿う作品として“Geisha”が挙がってきたようだ。 
 まあ、こういう希望的観測の情報が実現することはなかな
か難しいものだが、マーシャルの『シカゴ』での女性の描き
方などには注目できるところがある訳で、同じような女性が
主人公のこの作品、配給担当のコロムビア=ソニーにも何と
か頑張ってもらいたいものだ。             


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井口健二