井口健二のOn the Production
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2003年06月02日(月) ムーンライトマイル、Mリローデッド、フリーダ、アンダーカバー・B、ファム・ファタール、セクレタリー、ウェルカム to C、白百合クラブ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『ムーンライトマイル』“Moonlight Mile”       
『遠い空の向こうに』のジェイク・ギレンホールの主演で、
ダスティン・ホフマン、スーザン・サランドン、ホリー・ハ
ンターのいずれもオスカー主演賞を受賞した3人が共演した
ファミリー(?)ドラマ。               
発砲事件に巻き込まれて死亡した花嫁。その花嫁の両親の元
にいる花婿。しかし結婚するはずだった2人は、事件の3日
前に婚約を解消していた。               
そして葬儀が終り、仕事で気を紛らわせようとする父親や、
気丈に振舞ってみせる母親を前にしたとき、花婿だった主人
公は事実を言い出せなくなってしまう。         
そんな彼に、ヴェトナムで行方不明になっている恋人を待つ
女性との関係が生まれる。               
物語の舞台は1973年。ヴェトナム戦争の影が色濃く覆ってい
る。将来の見えないそんな時代だから、主人公の優柔不断さ
も当然理解できるのだが、その時代を知らない今の観客たち
にはどう映るのだろうか。               
でも、そんなことは別にして、一人娘を失った両親の悲しみ
を、全く秋嘆場を作らずに描いて見せたのは、ホフマン、サ
ランドンの見事な演技と、ブラッド・シルバーリング監督の
力量というところだろう。               
またハンターが検事役を演じて、発砲犯に対する裁判をサイ
ドストーリーに描いたドラマの盛り上げ方も、見事だった。
なおギレンホールには、一時『スパイダーマン2』に主演と
の情報もあったが、確かに『サイダーハウス』の時のトビー
・マクガイアと似た雰囲気を出していた。        
                           
『マトリックス/リローデッド』“Matrix Reloaded”   
『マトリックス』の続編は、今年2作公開されるが、本作は
その前編。                      
前作でマトリックスから救出されたネオが、いよいよマシン
と本格的な戦いを始める。前に紹介したアニメーションが本
編の発端になっており、物語はオシリスが送ったデータによ
ってマシンの襲撃が明らかになったところから始まる。  
この情報に、脱出者の町ザイオンの司令官は防備を固め、マ
シンを撃退することを決定する。しかし、「ネオは救世主」
の預言を信じるモーフィアスは、ネオと共に戦列を離れ、他
の2隻の乗り組み員と共に、再びマトリックスを襲う計画を
立てる。                       
その計画とは、マトリックスの中心部を麻痺させ、その隙を
縫ってネオがバックドアから真の支配者に会いに行くこと。
そのためには、まずバックドアを管理するキーメーカーを探
し出すことから始めなければならない。         
物語自体は、どうしても中継ぎだから、ちゃんとした結末が
ある訳でもなく、中途半端な感じは否めない。しかし、前作
でも結局その部分が評価された訳だが、目くるめくようなV
FXの氾濫で最後まで飽きさせない。          
しかも、前作はまだいわゆるカメラエフェクトが中心だった
が、今回は完全にディジタルエフェクトに移行しており、そ
の中に格闘技アクションが見事に填め込まれている。スタン
トとVFXの見事な融合という感じだ。         
そして本作では、ネオの存在の意味が明らかにされる。その
存在の意味が、最終話でどのように結末を迎えるのか…、11
月の公開が待ち遠しい。                
それにしても、予告編にも使われた100人のエージェント・
スミスとの闘いのシーンや、全長3キロのオープンセットを
建設して行われたというハイウェイのシーンは見事。   
特にクライマックスのハイウェイのシーンは、カメラが絶対
に入れないところに高速で突っ込んで行く描写が強烈で、デ
ィジタルの真骨頂という感じだった。          
                           
『フリーダ』“Frida”                 
メキシコの女流画家フリーダ・カーロの人生を描いて、今年
のアカデミー賞では、主演のサルマ・ハエックが女優賞候補
になった他、音楽賞とメークアップ賞を受賞した作品。  
フリーダは、1907年に生まれ、18歳の時に交通事故で瀕死の
重傷を負うが奇跡的に回復、その回復期間に絵筆を取り、絵
画の才能を開かせて行く。               
それを支援したのが、すでに著名な壁画画家だったディエゴ
・リヴェラ。早くから彼女の才能を認めたリヴェラは、おり
しもメキシコで沸き上がった共産主義運動とも絡み合って、
21歳の年の差を乗り越えて彼女と結婚する。       
その後、リヴェラはアメリカにも進出、次々に成功を納めて
行く。しかし女癖に問題のあるリヴェラは、モデルの女性ら
と次々に関係を持ち、フリーダを悩ませる。そしてフリーダ
は、その境遇に耐えながら絵筆を取り続ける。      
そんなフリーダの人生を、トロツキーやロックフェラー、画
家のシケイロス、女流写真家のモドッティ、アンドレ・ブル
トンらが彩る。                    
何しろ波乱に満ちた生涯、フリーダは47歳で亡くなるが、そ
れまでに事故に起因する手術を30回以上の受けたという。し
かし映画は、その部分にはあまり触れない。多分単なる悲劇
の女性に描きたくなかったのだろう。          
それが最後で、身体の痛みが無かったことはないという台詞
が1回だけ出てきて、ずしりと重く心に残る。その辺の描き
方が実に見事だった。そして、常に前向きな彼女の生き方に
も共感が出来た。                   
フリーダの絵は、今までちゃんと見たことはなかったが、映
画に登場する作品は、かなりシュールレアリスティックな感
じで、映画もその雰囲気をうまく取り入れている。劇中、突
然アニメーションが挿入されたり、コラージュになったり、
その描き方は巧みだ。                 
監督は、舞台の『ライオンキング』や映画『タイタス』のジ
ュリー・テイモア。男女の愛憎劇を描くでなく、単なる悲劇
を描くでなく、芸術家フリーダの生涯を芸術作品の様に描き
上げている。                     
                           
『アンダーカバー・ブラザー』“Undercover Brother”  
インターネット上で公開されている短編アニメーションシリ
ーズの実写による映画化。               
舞台は1970年代。60年代に公民権運動などで急速に盛り上が
った黒人文化は、白人文化の巻き返しにあっている。しかし
その陰には、白人至上主義の組織ザ・マンの存在があった。
ザ・マンはいろいろな策略で黒人文化の繁栄を妨害していた
のだ。                        
その組織に対抗するのが、秘密組織のブラザーフッド。そし
て今しもザ・マンの資金源を潰すために銀行の中枢に迫った
のだが、そこに飛んでもない邪魔が入ってしまう。    
それは銀行の金を貧しい人々に分け与えようとする謎の男ア
ンダーカバー・ブラザーの仕業。ブラザーは、そうとは知ら
ずに作戦を妨害してしまったのだ。           
しかしこの一件で実力を認められたブラザーは、ブラザーフ
ッドの一員として活躍を始めることになる。       
一方、史上初の黒人大統領誕生の有力候補と思われていた人
物が、突然、立候補を辞退してフライドチキンチェーンを開
くと表明。その陰にザ・マンの存在を嗅ぎつけたブラザー・
フッドは、アンダーカバー・ブラザーを中心にその真相を探
り始めるが…。                    
1時間23分という上映時間は、もう少し長くしてもう一捻り
欲しいという感じにはなる。しかし、元々Bムーヴィの乗り
で作られている感じの作品だし、この辺で納得しておかなけ
ればいけないというところだ。             
全体の乗りは、『オースティン・パワーズ』の黒人版といっ
た感じだが、ギャグはあれほど下品ではないし、黒人対白人
という図式のギャグが、自分で何処まで理解できたかは不明
だが、それなりには楽しめた。             
                           
『ファム・ファタール』“Femme Fatale”        
パリを舞台にしたブライアン・デ・パルマ監督の02年作品。
01年のカンヌ映画祭。その日の注目は、会場に現れた女優が
身に付けている時価1000万ドルの宝石に彩られた“蛇のビス
チェ”。しかしその会場には、周到に準備された窃盗団が潜
んでいた。                      
そして計画実行。カメラマンに成り済ました一味の紅一点ロ
ールは、ビスチェを身に付けた女優を誘惑し、それを偽物に
すり替えることに成功する。ところが、手違いから主犯格の
男は負傷して逮捕され、ロールは一人でビスチェを持ち出し
てしまう。                      
次の日、ロールはパリで、パスポートを手に入れるための算
段をしている。そこをカメラマンに撮影され、レンズを逃れ
て教会に入ったロールは、そこで行われていた葬儀の遺族か
らリリーという女性と間違われる。           
やがて遺族と共にリリーの家に行ったロールは、自分がその
女性に瓜二つであることを知り、それを利用してアメリカへ
の逃亡を計る。そしてその機内で、政界入りを目指している
一人の男と出会う。                  
7年後(2008年!)、男はフランス駐在アメリカ大使として
パリに赴任してくる。また主犯格だった男は、傷も癒え、刑
期を終えて出獄する。                 
一方、街の風景を撮影していたカメラマンに仕事の依頼が来
る。それはパリに赴任したアメリカ大使の妻の写真を撮るこ
と。その妻は、一切の写真を拒否していたのだ。     
そしてカメラマンは、その妻の撮影には簡単に成功するのだ
ったが、その写真がタブロイド紙に掲載されたときから、彼
の周囲にはいろいろな事件が起こり始め、彼は否応無くそれ
に巻き込まれて行くことになる。            
題名は「魔性の女」という意味だが、ロールが一味の男たち
や、大使になった男、彼女を撮影したカメラマンなどを次々
に手玉に取って行く展開は、本当に魔性の女そのものという
感じだ。                       
デ・パルマは、ヒッチコックの後継者とも言われるが、特に
今回は、全体の雰囲気もヒッチコックの感じが一杯で楽しく
なった。また、最初の窃盗のシーンでは、『ミッション・イ
ンポッシブル』を髣髴とさせるというか、ほとんどセルフパ
ロディに近いシーンもあってこれも嬉しくなった。    
なお音楽は、『スネーク・アイズ』に続いて、坂本龍一が手
掛けている。                     
                           
『セクレタリー』“Secretary”             
昨年のサンダンス映画祭で特別審査員賞を受賞した作品。自
傷癖のある女性と、サド気味の弁護士が引き起こすちょっと
不思議なラヴロマンス。                
主人公のリーは、自傷癖のため精神病院に入院していたが、
病は癒えたと判断されて退院する。しかし繊細な彼女の神経
は、完全には直り切っていなかった。          
それでも前向きに生きようとするリーは、タイピストの研修
を受けトップの成績を取得。そして新聞の求人欄で見つけた
弁護士事務所に就職口を求める。            
そこは弁護士一人で運営されている事務所。所長は若いが、
蘭を育てることに熱中するシャイなちょっと変った男。そし
て勤め始めたリーに対して彼は些細なミスや行動を追求し、
徐々にサディスティックな行動へエスカレートさせて行く。
映画は前半、彼女の境遇に同情するように描かれるが、それ
が彼女自身の気質が明らかになるにつれて話があらぬ方向に
それて行く。しかしその展開の仕方が実に巧みで、彼女に同
情したまま後半の展開にも納得してしまう。映画祭での受賞
も頷けた。                      
男性の僕は、どうしても男性の登場人物の方に目が向いてし
まうので、完全には乗り切れないところもあるが、特に働い
ている女性には、多分に共感を呼ぶところがあるのだろう。
試写会でも女性にはかなり好感されているようだった。  
                           
『ウェルカム トゥ コリンウッド』          
               “Welcome to Collinwood”
監督のスティーヴン・ソダーバーグと、俳優のジョージ・ク
ルーニーが設立したプロダクション「セクション・8」の、
これが第1回作品だそうだ。              
アンソニー&ジョー・ルッソという兄弟の脚本監督で、ソダ
ーバーグとクルーニーは製作を担当、クルーニーはカメオ出
演もしている。                    
オハイオ州クリーヴランド近郊のコリンウッド。この見るか
らに下層階級の人々の街で、ある犯罪計画が進行している。
それは車上荒らしで捕まった男が、同房になった終身刑の男
から聞かされた絶対確実の計画。            
そしてこの計画を実行するため、男は身代わりを仕立てて釈
放を狙うのだが、その身代わり探しの過程で、いろいろな連
中が計画に加わってしまう。ということで、有象無象が集ま
って、一攫千金の作戦が開始されることになるが…。   
配給会社は、『オーシャンズ11』の線で売りたいようだが、
ちょっと行けてない男たちが一攫千金を狙うという話では、
その前にクルーニーが主演した『オー・ブラザー!』や『ス
リー・キングス』の方に似ている感じだ。        
特に、『オー・ブラザー!』は評価も高い作品なので、その
線での宣伝もしてもらいたい気もする。         
この手の作品だと、得てして話の展開に破綻が見られるもの
だが、この作品は、確かに上手く行き過ぎる点や、偶然が重
なり過ぎるところはあるものの、登場人物が結構悪知恵が働
いて、その辺が妙に納得できてしまうところが上手く作られ
ている。                       
さすがに、ソダーバーグとクルーニーが第1回作品に選んだ
だけのことはあるという感じだった。          
                           
『白百合クラブ 東京へ行く』             
『ホテルハイビスカス』の中江裕司監督が、沖縄で50年以上
に渡って活動している音楽グループの初の東京公演を追った
ドキュメンタリー作品。                
元々この東京公演自体が中江監督が仕掛けたものらしく、そ
の意味でも宣伝に使われている『ブエナ・ビスタ・ソシアル
・クラブ』の経緯と似ている。音楽のジャンルは全く異なる
が、音楽に賭ける情熱みたいなものは同じ感じがした。  
映画は主に、東京公演に向けての練習や打ち合わせの様子を
映しているが、古い写真や思い出話として語られる中に、ク
ラブの歴史が刻まれて行く。それは決して平坦なものだけで
なかったことも伺わせる。               
既に亡くなってしまった人たちや、クラブを脱退していった
人たちにも目は向けられる。また高齢者が多い中で、迷惑を
掛けるからと東京行きを辞退した人たちもいる。そんな全て
の人たちを暖かく見つめることで歴史が語られる。    
それにしても、ほとんどのメムバーが60代後半というのに元
気のいいこと。さすがに隠居の人も多いようだが、何人かは
農業などに従事している現役で、その仕事場での取材も微笑
ましい。沖縄を愛してやまない中江監督らしい作品だった。


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井口健二