井口健二のOn the Production
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2003年05月15日(木) 第39回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずはリメイクの話題から。             
 69年に製作され、ヴァイオレンス西部劇の白眉とも言われ
るサム・ペキンパー脚本、監督の“The Wild Bunch”(ワイ
ルドバンチ)がリメイクされることになった。      
 オリジナルは、1913年のメキシコを舞台に、引退を決意し
た中年強盗団の最後の大仕事と、彼らを追うために仮釈放さ
れたガンマン、そして彼らを裏切ったメキシコの軍団の三つ
巴の闘いを描いたもの。上に載った人馬ごと鉄橋を川に落と
すシーンやクライマックスの圧倒的な軍勢を前にした壮絶な
闘いなど、ヴァイオレンス表現の鮮烈さで、映画史上にも名
を残す名作だ。                    
 因に、オリジナルの脚本でペキンパーは、アカデミー賞脚
本賞の候補にもなっている。              
 そしてこの作品のリメイクの計画が、ワーナーに本拠を置
くジェリー・ウェイントロープの製作で進められ、その脚本
を、『トレーニング・デイ』や『ワイルド・スピード』のデ
イヴィッド・エイヤーが7桁($)の契約金で執筆すること
が発表された。                    
 なお、契約に当ってエイヤーは、「クリントン政権時代、
歴史家たちは歴史の輪廻から脱しなければならないと言った
が、それは間違っていると思う。故きを温ね新しきを知る。
ヴァイオレンスは古来からのものであり、ペキンパーはそこ
にあるものを付け加えた。それは狂気であり、暴力であり、
時代の変革期というものだ。オリジナルのテーマは変化であ
り、近代化だった。我々はこの世紀の節目の時に、世界に変
革をもたらす作品を目指す」と抱負を述べている。    
 そして今回のリメイクでは、舞台は現代のメキシコとし、
メキシコの麻薬組織を相手にした物語になるということだ。
 とは言え、リメイクと名乗る以上は、観客の脳裏にはオリ
ジナルの鮮烈なヴァイオレンスが焼き付いている訳で、その
観客を満足させる作品を作ることができるものか否か、監督
はこれから選考されることになるようだが、この期待に応え
るにはかなりの力量の監督が必要になりそうだ。     
        *         *        
 ところで、上記の“The Wild Bunch”のリメイクもかなり
の大作になりそうだが、最近のハリウッドでは大作の西部劇
の計画が目立ってきている。              
 その1番手は、以前にこのページでも紹介したディズニー
製作の“The Alamo”。この作品もリメイクと呼べないこと
もないが、当初ロン・ハワードの監督で進められた計画は、
その後ハワードが製作に下がり、ジョン・リー・ハンコック
の監督で1月27日からテキサスで撮影が行われている。デニ
ス・クェイド、ビリー・ボブ・ソーントン、ジェイスン・パ
トリックらの共演で、全米公開は本年12月3日の予定だ。 
 一方、その“The Alamo”を降板したロン・ハワード監督
は、3月10日にニュー・メキシコで“The Missing”という
作品の撮影を開始している。こちらは、トミー・リー・ジョ
ーンズとケイト・ブランシェットの共演で、1886年の西部を
舞台に、娘を誘拐された女性が、疎遠だった老境の父親と共
に、娘の救出に向かうというもの。トーマス・エディスン原
作の“The Last Ride”をアキヴァ・ゴールズマンと、『ス
ペース・カウボーイ』のケン・カウフマンが脚色。リヴォル
ーションの製作で、アメリカはコロムビアが配給、04年3月
の公開が予定されている。               
 さらに第33回で紹介したパラマウント製作の“Have Gun,
Will Travel”もこれに加わるが、その後も各社からの計画
発表が相次いでいる。                 
 その中で、ドリームワークスから発表された“St.Agnes'
Stand”には、マーティン・スコセッシの監督が予定されて
いる。この作品もトーマス・エディスンの原作で、1860年代
を背景に、偶然巻き込まれたヒーローが、修道女と子供たち
のグループをアパッチの襲撃から守り通すというもの。そし
てこの脚色を、『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』のチャ
ールス・ランドルフが担当するが報告された。      
 なおこの計画では、元々はユニヴァーサルが映画化権を所
有してラリー・マクマティが脚色を担当したり、その後、権
利がミラマックスに移ってジョン・マッデンが監督するなど
の計画があったようだが、今回はスティーヴン・スピルバー
グの仲立ちで、スコセッシ、ランドルフという顔合せが実現
したそうだ。                     
        *         *        
 そしてもう1本はフォックスから、リドリー・スコット監
督、ラッセル・クロウ主演の『グラディエーター』のコンビ
で、“The Unbound Captives”という計画が登場している。
 実はこの作品の脚本は、『12モンキーズ』などの女優のマ
デリン・ストウが執筆したもので、女優出身の脚本家にはキ
ャリー・フィッシャーなどの先例はあるが、今回、この脚本
の契約金には500万ドルが支払われたと言われている。因に
この金額は、1作の脚本としては、ニューラインがシェーン
・ブラックの『ロング・キス・グッドナイト』に対して支払
った400万ドルを超えた史上最高額になるが、ストウにはヒ
ロインとしての出演料も含まれているということだ。   
 お話は、1859年が舞台で、コマンチ族に夫を殺され、2人
の子供を誘拐されたヒロインが、トムと名乗る謎の男の手助
けによって子供たちを奪還するまでを描いたもの。このヒロ
インをストウ、謎の男をクロウが演じることになるようだ。
なおこの役には、ハリスン・フォードや、『12モンキーズ』
で共演したブラッド・ピットも興味を示していたそうだ。 
 また今回の計画では、スコット=クロウのコンビでフォッ
クスで進められていた歴史大作“Tripoli”の撮影が、イラ
ク戦争の影響で延期されることになり、その関係で急浮上し
て来た面もある。実際スコットとクロウは、次回作としてこ
の作品を製作し、それに続けて“Tripoli”の撮影に入りた
いとしており、その意味合いは強そうだ。しかしフォックス
では、“Mad Max: Fury Road”の撮影もイラク戦争の影響
で延期され、来年夏の公開の目途が立たないということで、
そこへの救世主となる可能性もあるようだ。        
        *         *        
 お次もイラク戦争の影響のお話で、以前、第11回と第31回
で競作になりそうだということで紹介したアレキサンダー大
王の生涯を描く2作品の内で、バズ・ラーマン監督、レオナ
ルド・ディカプリオ主演による“Alexander the Great”の
撮影が大幅に遅れることになった。           
 この競作では、一時は進行の危ぶまれたオリヴァ・ストー
ン監督、コリン・ファレル主演の“Alexander”が、第31回
で紹介したようにアメリカ配給がワーナーと契約され、今年
7月にモロッコで撮影開始されることが決定。1カ月の撮影
の後、砂漠での撮影は暑さを避けて一旦休止、そして9月か
ら撮影を再開して、全体で12週間の撮影を行うとしている。
またこの作品には、アンソニー・ホプキンスの共演も決定し
たということだ。                   
 そして製作会社の首脳は、「すでに30人のスタッフによる
製作準備が進められており、セットデザインや衣装の準備も
完了、準備はスケジュール通りに進行していて、04年秋の公
開が妨げられる理由は全くない」と発表している。    
 これに対して、“Alexander the Great”の製作総指揮を
手掛けるディノ・デ=ラウレンティスは、この作品が05年以
前に公開されることはないと明言。これによって両作が同じ
年度に公開される可能性はなくなったものだ。      
 その理由としては、当初ラーマン監督が母国オーストラリ
アで行うことを希望していたオープンセット撮影が、イラク
戦争の影響で行えなくなり、結局、“Alexander”と同じモ
ロッコで行うことにしたものの、その準備の関係で年内の撮
影開始は困難だということだ。そしてラーマン監督の希望で
は、撮影は04年4月に開始して6カ月の撮影期間を予定して
おり、その後のポストプロダクションも考えれば、早くても
05年後半の公開になるということだ。          
 しかしデ=ラウレンティスは、この作品の製作には、1億
5000万ドルの製作費と、70人以上の台詞のある配役、そして
モロッコ国王ムハマド6世直属の軍隊を動員して大規模な戦
闘シーンの撮影を行うということで、桁違いのプロジェクト
になるとしている。                  
 また、この計画では、ラーマン監督の『ロミオ&ジュリエ
ット』に主演したディカプリオに加えて、『ムーラン・ルー
ジュ』に主演のニコール・キッドマンの共演が発表され、監
督の希望した配役が続々と決まることになりそうだ。   
 なおディカプリオは、会見で「僕が最も引かれるのは、複
雑なアレキサンダーのたキャラクターそのものだ」と語り、
また大王の母親オリンピア役を演じるキッドマンも、「私が
今までに演じたどんな女性とも違う、今の自分が最も前向き
に取り組むことのできる役柄」と、自分の演じる役について
語っている。                     
 いずれにしても、“Alexander the Great”がかなりの超
大作になるのは明らかなようで、仮に公開が1年以上離れる
にしても、ストーン監督の“Alexander”には、その前評判
に負けない覚悟が必要になりそうだ。          
 なお、“Alexander the Great”の製作は、ドリームワー
クスとユニヴァーサルの共同で行われるが、アメリカ以外の
配給はデ=ラウレンティスがコントロールしているようで、
カンヌ映画祭でのセールスが行われるということだ。   
        *         *        
 続いてはディズニー関連の話題をいくつか紹介しよう。 
 まずは、ジョナサン・フレイクス監督の“Thunderbirds”
(サンダーバード)の撮影は3月6日の開始されているが、
それに続いてアンダースン夫妻が製作した人形劇シリーズの
映画化の計画がディズニーから発表された。       
 今回計画されているのは“Joe 90”(スーパー少年ジョー
90)。68年の製作で、日本でもNET(現テレビ朝日)系で
同年に放送された人形のみによるスーパーマリオネーション
では最後の作品だ。                  
 物語は、他人の記憶を転写する装置の実験台となった少年
ジョーが、その装置の助けを借りながら、あるときはジェッ
ト戦闘機のパイロット、あるときはスピードレーサーなどの
転写された能力を駆使して、世界平和のために活躍するとい
うもの。設定ではジョーは9歳ということになっており、つ
まり『スパイキッズ』の元祖のような作品なのだ。    
 そして、すでに第3作の撮影が行われている“Spy Kids”
に続いて、MGMが製作した若年スパイものの“Agent Cody
Banks”も大ヒットを記録、こちらも続編の計画が発表され
ており、その流れに沿って今回の映画化が進められることに
なった模様だ。                    
 なお製作に当るのは、フォックスで配給されるコミックス
の映画化“The League of Extraordinary Gentlemen”な
ども手掛けているドン・マーフィ。イギリスの放送会社カー
ルトンTVが所有する権利に基づいて、イギリスのプロデュ
ーサーのスーザン・モントフォードと共に製作を担当するも
ので、計画ではまず脚本家の選考を進めることになっている。
 因に、マーフィとモントフォードは、以前に紹介したH・
P・ラヴクラフト原作の“At the Mountains of Madness”
の映画化をドリームワークスで進めている他、コロムビアで
69年にAIPが配給した“Hell's Angel 69”をリメイクす
る“Speed Tribes”の製作なども手掛けている。     
        *         *        
 お次は、アニメーションの計画で、グリム童話集の中から
“Rapunzel”をオールCGIで映画化する計画がディズニー
で進められている。                  
 元々の物語はフランスで書かれたものだそうだが、ドイツ
で再話され、さらにグリム兄弟によって童話の一編として採
録されたもので、物語の後半の妖精によって高い樹の上に閉
じ込められた主人公が、長い髪を垂らして妖精を迎え入れる
情景は、いろいろなパロディにも使われているグリム童話の
代表作の一つだ。                   
 そしてその脚本に、アダム&メラニー・ウィルスンという
脚本家コンビの起用が発表されている。因にウィルスンは、
先に“Evergone”というオリジナルの脚本が、製作会社のデ
イヴィス・エンターテインメントと契約されているというこ
とだが、この作品は、少年が行方不明の父親を探してバミュ
ーダ・トライアングルを旅する若年ファンタシーだそうだ。
 なお、“Rapunzel”について過去に映像化の記録は見つか
らなかったが、物語は主人公の誕生前から大人になるまでの
かなり長い期間を描いたドラマで、その映像化にはかなり期
待が持てそうだ。                   
        *         *        
 そしてもう1本は、ディズニーが初めてオールディジタル
での映画製作に挑戦するもので、“Thrilla”という計画が
発表されている。                   
 この作品は、98年に公開されたラップアーティストDMX
の銀幕デビュー作“Belly”を監督したハイプ・ウィリアム
スの脚本を、ウィリアムスの監督で映画化するもので、内容
はジャマイカを舞台にしたゾンビホラー。題名からはマイク
ル・ジャクソンの名作ミュージックヴィデオを思い浮かべた
が、どうやらその通りの作品のようだ。         
 そして今回の計画には、VFXの製作にスタン・ウィンス
トン・スタジオが参加し、オール・ディジタルによる3Dで
の製作が予定されている。               
 因に、オール・ディジタルによる3Dでは、先にジェーム
ズ・キャメロン監督が再びタイタニックに挑んだ“Ghost of
the Abyss”(タイタニックの秘密)がIMAXでかなりの
成功を納めており、今回はさらにそれを劇映画に応用しよう
という計画で、各方面から注目されているようだ。    
        *         *        
 以下は、キャスティングの情報を3つ紹介しておこう。 
 まずは、以前から紹介しているジャッキー・チェン主演の
“Around the World in 80 Days”に、アーノルド・シュワ
ルツェネッガーと、ジョン・クリースの出演が発表されてい
る。この作品には、すでにキャシー・ベイツのヴィクトリア
女王役での出演が発表されているが、それに続いてのカメオ
出演ということだ。56年のオリジナルも多彩なカメオで話題
になったが、これからどれだけの出演者が登場することにな
るのだろうか。因に、本作の製作者のハル・リーバーマンは
“Terminator 3”の製作者でもあり、その関係でシュワルツ
ェネッガーの出演が実現されたようだ。3月13日にタイでス
タートした撮影は、その後ドイツのバベルスバーグ撮影所に
移動して3カ月の撮影が予定されている。        
 続いて、6月撮影開始予定の“The Stepford Wives”で、
予定されていたジョアン&ジョン・キューザック姉弟の出演
がキャンセルとなり、変ってベット・ミドラーとマシュー・
ブロデリックの出演が発表されている。姉弟の降板に関して
どのような事情があったのかは明らかでないが、その後のパ
ラマウントの対応の素早さにも注目が集まっている。なお、
この他のニコール・キッドマン、クリストファー・ウォーケ
ン、グレン・クローズのオスカートリオの出演に異動はない
ようだ。                       
 最後に、脚本家デイヴィッド・コープの監督デビュー作と
して、コロムビアで進められているスティーヴン・キング原
作“Two Past Midnight: Secret Window, Secret Garden”
の映画化で、ジョニー・デップの相手役にマリア・ベロの起
用が発表されている。ベロは、2000年の『コヨーテ・アグリ
ー』でクラブのオーナー役を演じていた他、99年の『ペイバ
ック』ではメル・ギブスンの相手役も努めている。物語は、
離婚したばかりの作家が、アイデアを盗まれたと主張するス
トーカーの被害にあうというもので、ストーカーの役にはジ
ョン・タトゥーロの出演が発表されている。なお映画化の題
名は“Secret Garden”だけになるようだ。        


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