井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2003年04月16日(水) EXエックス、NOVO/ノボ、カントリー・ベアーズ、トゥー・ウィークス・ノーティス、ザ・コア、夏休みのレモネード

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。          ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

『EXエックス』“Extreme Ops”            
過去に映画・テレビの監督作品もあるが、主には撮影監督や
CMの監督として活躍するクリスチャン・デュネイの02年作
品。                         
物語は、スキーとスノーボードを題材にしたCM撮影のため
オーストリアの雪山を訪れた撮影隊が思わぬ事件に巻き込ま
れるという展開で、CM撮影のビハンド・ザ・シーンと、ス
キーとスノボのスタントが楽しめるという作品。     
カヌーでの滝壺への落下という危険なシーンをものにし、ク
ライアントの評価を得たチームは、次に雪山での雪崩との競
争に挑む。そのために訪れたオーストリア国境の山頂で工事
中のリゾートホテル。しかしそこには国際手配の戦争犯罪人
の一味が潜んでいた。                 
そうとは知らず、偶然彼らを撮影してしまった撮影隊は、彼
らに命を狙われることになるが…。一方、撮影に加わってい
た元W杯の女子滑降の金メダリストは、スノーボーダー達の
自由な滑りに自分の限界を感じている。         
こんな要素が入り混じって、それぞれはそれほど深くはない
が、それなりに手際よくまとまっているのは、監督自身が自
分の限界をよく心得ているからだろう。こういう造り方には
好感が持てるものだ。                 
俳優に、ルーファス・シーウェル、デヴォン・サワ、クラウ
ス・レーヴィッチェ(遺作)といったそこそこのメムバーを
集め、これにブリジット・ウィルスン=サンプラス、ジャナ
・パラスキーといった女優を配したキャスティングも良い雰
囲気だった。                     
といっても、やはり見所は、次々繰り出されるスタントの面
白さ。特に中心となるスノーボーダー達の演技は、明らかに
特撮ではないだけに見事だし、迫力と同時に華麗さも描かれ
ていて良かった。                   
クライマックスの結末は、「そのシーンは誰が撮ったんだ」
と突っ込みたくもなるが、それは野暮と言うものだろう。と
りあえず1時間34分を楽しめばいい。同傾向で以前に紹介し
た『ブルー・クラッシュ』と併映すると面白いと思うが、配
給会社が違うのが残念。                
                           
『NOVO/ノボ』“Novo”              
最近、ちょっとブームになっている長期の記憶を持てない人
を描いたフランス映画。                
実際、近親者にもそれに近い状態の者がいる関係で、他人事
ではないテーマなのだが、映画はそれほど深刻でもなく、男
女の色恋沙汰を中心に据えて、ちょっと風変わりな恋愛ドラ
マに仕上げている。                  
とある会社でコピー係として働くグラアムと名乗る男。彼は
5分間しか記憶を保てない記憶障害者だった。その会社に派
遣社員として来たイレーヌは、最初は彼の奇異な行動に戸惑
うが、彼の障害を知り興味を持つようになる。      
記憶を持たない男との毎日が新鮮な恋愛。それは最初は刺激
的だったが、やがて絆を築けない関係に不満を感じ始める。
そんなとき、彼の本当の名前がパブロであり、見守る妻子の
いることが判明する。そして彼の記憶が戻り始める。   
果たしてイレーヌは、彼の記憶に残っていられるのか。  
まあ、展開にそれほどの無理は感じられないし、現実にも起
こる話であることは、僕自身が体験しているので、物語の理
解は出来るものだった。なお原因が、直接的ではないにして
も、中国武道の秘技というのは、ちょっと笑えた。    
それにしても、最近のヨーロッパ映画のおおらかなセックス
描写は感動的ですらある。この作品のヒロインも、今年のシ
ャネルのイメージキャラクターだそうだが、ここまでやって
くれるとは…。これが映画というものだろう。      
                           
『カントリー・ベアーズ』“The Country Bears”     
ディズニーランドのアトラクション〈カントリー・ベア・ジ
ャンボリー〉からインスパイアされた映画の第1弾。後には
〈カリブの海賊〉〈ホーンテッドマンション〉が続く。  
子供に人気のアトラクションだから、映画も当然お子様向け
だが、その丁寧な作りには感動した。また音楽をテーマにし
ている作品だが、特にその音楽の扱い方の上手さが、大人に
も納得できるほどに見事だった。            
物語は、熊が人間の言葉を話し、人間と共存している世界で
の出来事。熊の子ベアリーはバリントン一家の次男として育
ってきた。しかし最近、自分の容姿が他の家族と違っている
ことに気付き始めている。               
そして兄から決定的な証拠を突きつけられたベアリーは、家
を出て幼い頃からの憧れでもあったバンド、カントリー・ベ
アの元を目指す。ところがたどり着いた彼らの伝説の演奏会
場カントリー・ベア・ホールは人けもなく、取り壊し寸前。
実はバンドはすでに解散し、ホールは銀行家リードが差し押
さえて再開発しようとしていたのだ。ベアリーはその窮状を
救うべく、カントリー・ベアの再結成を提案する。しかし歳
月は、メムバーの音楽への情熱も友情も失わせていた…、よ
うに見えた。                     
こうして、バンド再結成までの道程が描かれる訳だが、その
間にバンド合戦やら、歌姫との再会やらと、60年代の音楽映
画を髣髴とさせるシーンが連続する。          
そしてこの音楽シーンを支えたミュージシャンも多彩だが、
エルトン・ジョンから今年のオスカー候補にもなったラップ
の女王クィーン・ラティファまで、音楽関係のカメオ出演も
多彩という訳で、実に音楽を中心にした作品なのだ。   
これを、銀行家を演じるクリストファー・ウォーケンの怪演
や、コメディリリーフの警官のドタバタで脇から支える。そ
の構成の上手さと、技術的には、雌熊の甘い表情まで作り上
げた上げたジム・ヘンソン・クリーチャーズショップが素晴
らしい仕事をしている。                
お子様向けの映画、でも充分に大人も納得できる。これがデ
ィズニー映画だ。                   
                           
『トゥー・ウィークス・ノーティス』“Two Weeks Notice”
サンドラ・ブロックの製作・主演で、イギリスからヒュー・
グラントを招いて作り上げたニューヨークが舞台のトレンデ
ィー・ドラマ。                    
主人公は、建造物保護に精力的に活動するハーヴァード出身
の女性弁護士。ところがある日、ニューヨークの再開発で富
を築き上げた若き不動産王から、保護を目指していた公民館
の保存と引き換えに顧問弁護士の席を提供される。    
厳しい法律家の母親は、信念を売り渡すものと反対するが、
彼女はその申し入れを受ける。そして彼の会社の法務部門を
立て直すのだが…。雇主の不動産王は金に飽かせた女漁りし
か頭にない下衆な奴で、しかも彼女にテレビ出演のスーツま
で選ばせる始末。                   
結局、公民館を彼の会社に買収させ、保存の目途が付いたと
判断した彼女は、2週間後の退職を申し出る。ところが、実
は彼は兄弟の傀儡で、実権を握る兄は金の掛かる公民館の保
存には反対だった。                  
何しろブロックが自らの製作に大張り切りで、ここまでやる
かという演技を見せる。一方グラントは、お手のもののいい
加減で嫌みだが憎めない男を小気味よく演じ切る。見事に2
人のキャラクターが活かされた作品でアメリカでの大ヒット
も納得できた。                    
                           
『ザ・コア』“The Core”               
地球のコアの回転が停止。地磁気が不安定になり出した地表
には太陽風が直撃し、3カ月後には人類は、地球の生物は死
滅する。そんな危機に立ち向かったテラノーツ達の活躍を描
いたSF映画。                    
久しぶりに大真面目なSF映画だった。ファンタシーでもア
ドヴェンチャーでもない。こんなSF映画を見たのは、多分
『コンタクト』以来ではないかと思う。         
実際、この映画の中でもわざわざカール・セイガンに言及す
るシーンがある辺りは、脚本家や製作者も意識しているのだ
ろう。ヒロインを、オスカー女優のヒラリー・スワンクが演
じているのも、ジョディ・フォスターを思い出させる。  
物語は、とある街で心臓ペースメーカーを付けた人々が一斉
に急死した事件から始まる。やがて渡り鳥の変調やクジラの
暴走などが続発する。そして帰還途中のスペースシャトルが
コースを外れ、ロサンゼルスの市街地に不時着する。   
主人公の地球物理学者はこれら事件を解析して、地球のコア
の回転が不安定になったと推論。それを政府とつながりのあ
る地球物理学の権威に指摘する。この指摘に政府は即応し、
主人公は対策会議に呼び出される。           
そして以前から砂漠で研究を続けていた科学者の下、500
億ドルの予算を投入して地中探査機を完成させ、シャトルを
最少の被害で不時着させたパイロット達の操縦でコアに向か
い、そこでの1000メガトンの核爆発によって回転力を取
り戻させようとする。                 
しかしこの計画を、政府は一切公表せず、秘密裏に進めよう
としていた。そしてその情報操作のために、天才ハッカーが
計画に参加するが…。                 
僕は、『コンタクト』も評価している作品なので、それにオ
マージュを捧げているような本作も当然気に入っている。 
プロローグのいろいろな災害を描くシーンは、多少見慣れて
しまった感じでもあるが、中でスペースシャトルの不時着シ
ーンは見事。特にロサンゼルスの市街地にあんな恰好の滑走
路があったとは…。しかしその宣伝を自粛せざるを得なかっ
たことは残念だ。                   
地底のシーンでも、ヴェルヌの『地底探検』を思わせるシー
ンがあったりして、僕らのようなSFファンのために作られ
たような作品に思えた。                
                           
『夏休みのレモネード』“Stolen Summer”        
ミラマックス社がインターネットを通じて募集した12,000本
の脚本の中から選ばれ、その新人脚本家自らが監督した少年
ドラマ。                       
今年1月に『ボーン・アイデンティティ』のプロモーション
で来日したマット・デイモンが、その記者会見の席で、自ら
が製作者として関わったこの作品を誇らしげに語っていた。
新たな映画製作の門戸を開くグリーンライト・プロジェクト
の第1弾。                      
舞台は1970年代前半のシカゴ。アイルランド移民で裕福では
ないがカソリック信者の厳格な父親の下で暮らす8人兄弟の
一人で小学2年生のピートと、同じ町でユダヤ教の会堂を主
宰するラビの一人息子で1歳年下のダニー。       
本来なら出会うことのない2人の少年が、ひと夏を一緒に過
ごし、成長して行く。1970年代前半の人々がお互いを屈託な
く言い合えた時代に、自らの信条と相手への思いやりの大切
さを見事に描き出している。              
出会いや別れに様々なエピソードが積み重ねられて行くが、
それぞれが素晴らしく、どれを一つ取り上げて紹介しても片
手落ちになる感じがしてしまう。そんな気持ちになる素晴ら
しい作品だった。                   
宗教の問題が絡む物語ではあるが、飽くまでも小学生のお話
で、逆に最後は宗教なんて関係ないという結論なのは見事だ
った。この時代に人々は今よりもっと純粋だった、そんな脚
本家=監督の思いが、真摯に描かれている。       



 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二