井口健二のOn the Production
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2003年04月15日(火) 第37回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に訂正から。                  
 前回の記事で、主演が交替すると報告した“The Amazing
Spider-Man”で、急転直下トビー・マクガイアーの続投が発
表された。しかも、公開日を04年7月2日に延期するという
おまけ付きだ。                    
 この続編の公開日については、昨年の第1作の公開日に合
わせた04年5月7日にするというのが公式に発表されていた
ものだったが、前回報告したように、マクガイアーの直前の
出演作“Seabiscuit”の撮影が今年の2月半ばまで掛かった
ために、4月からのアクション映画の出演は体力的に無理と
いうことになっていた。                
 しかし、前作の体制を保ちたい製作者側はマクガイアーの
出演に固執。元々1月の撮影開始予定が4月に延期になった
時点で製作スケジュールが厳しくなっていたこともあり、結
局、公開日を延期することで製作に余裕を持たせ、体制を保
つことにしたようだ。                 
 とは言うものの、前回も紹介したように、共演のキルステ
ィ・ダンストは、ワーキングタイトル製作の“Wimbledon”
への主演が決まっており、この作品は6月のウィンブルドン
・テニストーナメント期間中の撮影が欠かせないと言われて
いるが、その手当はどうすることになるだろうか。まあ、素
人考えでは、4月、5月に2人の絡みのシーンを撮り終え、
6月以降はマクガイアーと敵役のシーンを撮るということに
すれば良いようにも思えるが、どうなりますか。     
 なお、新たな公開日の7月2日というのは、言うまでもな
く独立記念日(7月4日)絡みの、興行にはベストと言われ
ている週で、各社が自信作をぶつけ合う時期。そこに殴り込
みを掛けることになる訳だが、配給会社のプロモーションも
最高の腕の見せ所というところだろう。         
 因に、来年の同じ週の公開が決定している作品では、フォ
ックス配給でウィル・スミス主演の“I, Robot”(アイザッ
ク・アジモフ原作のロボットものの原点の映画化)が対抗馬
ということになるようだ。               
 一方、5月7日公開が無くなったことでラッキーなのは、
ユニヴァーサル配給、スティーヴン・ソマーズ監督の“Van
Helsing”(吸血鬼退治の教授を主人公にしたVFXアクシ
ョン作品)。この作品の公開日は、『ハムナプトラ』に合わ
せて来年5月21日が発表されていたもので、こちらは最大の
敵がいなくなったというところだ。           
 もっとも、来年夏の公開予定では、ワーナー配給“Harry
Potter and the Prisoner of Azkaban”と、いよいよ監督
も決まったパラマウント配給“Mission: Impossible 3”の
期日が未定で、これらの作品がどこに入ってくるかでも、い
ろいろ変わってくることになりそうだ。          
 そして“The Amazing Spider-Man”の撮影は、ディエゴ・
リヴィエラ扮する新たな敵役ドック・オックと、さらにメリ
ー・ジェーンの新たな恋人役にニュージーランド出身のダニ
エル・ギリスを迎えて、サム・ライミ監督の下、4月12日に
開始されたようだ。                  
        *         *        
 もう一つ前回の記事で、最後に紹介した“Lionboy”につ
いて、イギリスでの出版権の契約金は100万ポンドの誤りだ
った。イギリスがまだユーロに参加していないのを忘れてい
たものだ。なおこの件については、ホームページも訂正して
いるが、上記の“The Amazing Spider-Man”では、簡単に
は直し切れないのと、ジェイク・ギレンホールの名前が挙が
っていたことを記録に留めるために今回の訂正記事とした。 
 この他にも、ホームページの記事は、後で気が付いて訂正
していることがありますのでご了承ください。      
        *         *        
 さて、以下はいつもの製作ニュースを紹介しよう。   
 まずはSFファンには待望の話題で、アメリカSF界の中
でも巨匠と呼ばれた作家の一人、故ロバート・A・ハインラ
インが、1966年に発表した長編小説“The Moon Is a Harsh
Mistress”(邦訳題:月は無慈悲な夜の女王)を映画化する
計画が発表された。                  
 そう遠くはない未来を背景に、地球の圧制に苦しむ植民地
〈月〉の独立戦争の顛末を描いたこの作品は、ハインライン
に4度目のヒューゴー賞をもたらした名作だ。      
 因に、ハインラインの作品では、この他にジュヴナイルで
1949年に発表された“Red Planet”(赤い惑星の少年)は火
星の独立を描いており、また1951年に発表された“Between
Planets”(宇宙戦争)は金星の独立を描いたもので、僕は
3部作だと思っているが、その中では唯一成人向けに発表さ
れた作品と呼ぶことができる。             
 2075年、地球の植民地である月の全てを管理するため、月
世界行政府に置かれたメインコンピュータ・マイクには自意
識があった。しかしそれは、いつもマイクの傍に居る技師ガ
ルシアを含めた少人数だけが知る秘密だった。      
 そして地球政府が窮状を訴える月の要請を無視したとき、
ガルシア達はマイクの助けを得て、地球への反撃の準備を始
める。その手段は、月に無尽蔵にある岩石を、電磁カタパル
トを使って地球に向けて撃ち出すというもの。その岩石は地
球の引力によって地球に落下し、ギガトン級の破壊力を生み
出す。しかもその落下点は、マイクの計算能力で正確に定め
ることが出来るのだ。                 
 こうして月は、物語の中で井戸の口に立つ子供と譬えられ
るように、引力を最大の武器として地球からの独立を勝ち取
ることになる。                    
 という、まるで革命の手引書のような作品だが、実はハイ
ンラインは、それ以前の2度目のヒューゴー賞受賞作で、映
画化もされた“Starship Troopers”(宇宙の戦士)では、
その軍事訓練の描き方などがファシスト的といわれていたも
ので、そこからの変身ぶりにも驚かされた(ただし、その間
の3度目の受賞作“Stranger in a Strange Land”(異星
の客)はヒッピーの聖典とも呼ばれたものだ)。      
 なお物語では、マイクの存在が非常に魅力的で、その魅力
も名作と称えられる一因になったとも言われている。   
 そしてこの作品の映画化を計画しているのは、『ハリー・
ポッター』の映画化も手掛けるデイヴィッド・ヘイマン。実
はこの映画化権は、以前はドリームワークスが所有していた
そうだが、今年1月に亡くなったハインラインの未亡人が生
前にヘイマンと合意し、彼に託されたということだ。   
 また製作には、元ソニーのマイク・メダヴォイが主宰する
フェニックスも参加することになっている。       
 配給会社は発表されていないが、“Starship Troopers”
とは違って人間を描いたこの作品には、製作準備が開始され
れば、注目の集まることは必至だろう。         
 因にヘイマンは、同じくハインラインが1958年に発表した
“Have Space Suit-Will Travel”(スターファイター)の
映画化権も所有しているそうだ。            
        *         *        
 また、日本作品からのハリウッドリメイクで、今度はオリ
ジナルヴィデオアニメーションで発表された梅津康臣監督の
『カイト』という作品が、『トリプルX』のロブ・コーエン
監督の手で実写版として映画化されることが発表された。 
 女子高生と殺人請負人の2つの顔を持つ美少女、砂羽。組
織から逃れることもできず、泥沼の世界に生きる彼女が唯一
心を許せる謎の少年、音分利。しかし、音分利が組織を抜け
ようとしたとき、砂羽に音分利を始末する命令が下る。  
 オリジナルには、「クライムエロス×ガンアクション」と
いう宣伝文句が付けられているが、この作品が“A Kite”の
タイトルで、2000年に英語吹き替え版としてアメリカで発表
され、ハリウッドにかなりの衝撃をもたらしたそうだ。実際
アメリカ版はRレイティングと紹介されている。     
 その作品を、アクションでは新境地を拓いた感のあるコー
エン監督が実写映画化する訳だが、最近の監督の作品は、エ
ロスというよりはメカフェチのイメージが強い感じで、それ
にポルノとは厳格に区別するハリウッドでどのように映画化
されるか楽しみだ。                  
 なお製作は、ディスタント・ホライズンという会社が担当
するが、この会社ではモーガン・フリーマンの主演でネルソ
ン・マンデラの伝記“Long Walk to Freedom”の映画化を
進めている他、ディメンションでウェス・クレイヴンが監督
する黒沢清監督作品『回路』のハリウッドリメイク“Pulse”
の計画も進めているということで、後者がちょっと頓挫して
いるのが気になるところだ。              
        *         *        
 さらに、この他の日本作品のハリウッドリメイクの情報で
は、まずハリウッドリメイクの計画では初期の頃から話題に
なっていた『Shall we ダンス?』の計画がいよいよ動き出
すようだ。                      
 今回は、ハリウッド版を製作するミラマックスから配役が
発表されたもので、それによると、日本版で役所広司が演じ
たサラリーマン役をリチャード・ギア、そして草刈民代が演
じたダンス教師役をジェニファー・ロペスとなっている。因
にロペスは、ミラマックスでラッセ・ハルストローム監督、
ロバート・レッドフォード共演の“An Unfinished Life”
の出演契約が先に結ばれている。             
 またスタッフでは、脚本を『ジャングル・ジョージ』など
のオードリー・ウェルズが執筆し、監督は『セレンディピテ
ィ』のピーター・チェルソムが担当することになっている。
 生活に疲れた男が、タンゴのレッスンに励むという話にな
るようだが、昨年公開の『ガール・フロム・リオ』では、ヒ
ュー・ローリーが華麗なサンバのステップを披露しており、
『シカゴ』で達者なダンスを見せたギアの踊りが楽しみだ。
        *         *        
 一方、黒澤明監督の名作『生きる』のハリウッドリメイク
には、メル・ギブスン主演の96年版『身代金』を手掛け、フ
ィリップ・カウフマンが79年に発表した『ワンダラーズ』な
どの作家としても知られるリチャード・プライスが、脚色を
契約したことがドリームワークスから発表されている。  
 この作品は、トム・ハンクスの主演作として計画されてい
るもので、黒澤版で志村喬が演じた病魔に犯された初老の男
を、ハンクスではちょっと若すぎるようにも感じるが、実は
1905年生まれの志村が52年のオリジナルに主演したのは47歳
の時で、1956年生まれのハンクスはちょうど同じ年齢。平均
寿命が伸びた分、見た目の雰囲気も変わっているということ
かも知れないが、同じ年齢のハンクスがどのように役作りを
してくるかも楽しみだ。                
 ただし、今回脚色を契約したプライスは、現在パラマウン
トで、ジョディ・フォスターとジョナサン・デミが『羊たち
の沈黙』以来の再会を果たすタイトル未定の作品の脚本に取
り掛かっており、“Ikiru”(今のところアメリカの報道で
もローマ字になっている)の脚色はその後になるようだ。 
 一方、ハンクスも、現在は製作も勤めるロバート・ゼメキ
ス監督の“Polar Wxpress”が進行中で、ドリームワークス
としては、今回紹介した作品と第35回で紹介したスティーヴ
ン・スピルバーグ監督による“Terminal”は、共に来年度の
製作という計画になっているようだ。          
        *         *        
 アカデミー賞では、2作・2年連続の作品賞候補と、視覚
効果賞受賞を決めた“The Lord of the Rings”のピーター
・ジャクスン監督の次の監督作品の計画が発表されている。
 発表された作品は、以前から噂には上っていたものだが、
ユニヴァーサル製作の“King Kong”。1933年製作RKO作
品のリメイクが、監督の次の計画として契約されたものだ。
 実はこの計画は、ジャクスンにとってはまさにドリームプ
ロジェクトで、彼自身9歳の時に見たと言うオリジナルが、
彼を監督の道に進ませたのだそうだ。そして1997年頃には、
ユニヴァーサルで進行していたリメイク計画のためにいくつ
もの原案を提出していた。しかし当時は、ディズニーで『マ
イティー・ジョー』と、ソニーでは『Godzilla』のリメイク
が進行している状況で、ニュージーランド出身の新人監督に
は荷が重いと判断されたようだ。            
 しかし今回は、“Rings”の成功を引っ提げて文句無しの
契約となったもので、監督は「クラシックな物語に、現代の
息吹を吹き込んでみせる」との決意を表明している。またこ
の計画には、“Rings”と同様に300−500名のスタッフを招
集して、ロケーションから視覚効果まで、全てをニュージー
ランドで製作する計画ということだ。          
 なおジャクスン監督は、現在は“Rings”3部作の最終話
“The Return of the King”の仕上を行っており、10月末
ごろが目途のその作業が終了し次第、“King Kong”の脚色
に取り掛かって、撮影は04年の半ばから、そして公開は、05
年のクリスマスシーズンが予定されているということだ。因
にこの計画、アメリカの報道では“Rings”の第3部に引っ
掛けて“The Return of the Kong”とも呼ばれている。   
        *         *        
 続いて“Rings”絡みで、フロド・バギンス役で3部作に
主演したイライジャ・ウッドがCGIアニメーションの声優
に挑戦することが発表された。             
 この作品は“Happy Feet”という題名で、ワーナーとヴィ
レジロードショウが製作を進めているもの。脚本は『マッド
マックス』と『ベイブ』のジョージ・ミラーを中心としたチ
ームが手掛けており、アニメーションの監督もミラーが担当
することになっている。                
 内容は、南極大陸を舞台に、特別な才能を与えられた若い
ペンギンが、夢を追って進む姿を描く、歌と踊りの要素も取
り入れたコメディだそうだ。歌と踊りが好きというホビット
を演じたウッドではあるが、まあ、アニメーションだから、
ウッドが踊る必要はないが、歌の方はどうなのだろうか。 
 因に、ウッドの今年のスケジュールでは、マイクル・ゴン
ドリー監督で、ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット、
キルスティン・ダンストと共演した“Eternal Sunshine of
the Spotless Mind”の撮影はすでに終了しており、また、
ジェフリー・ポーター監督の“Try Seventeen”と、エド・
バーンズ監督主演の“Ash Wednesday”への出演が予定され
ている。                       
 一方、ミラー監督はソマリアで予定されていた“Mad Max
IV”の撮影がイラク戦争の影響で一時延期と発表されていた
が、現在の状況はどうなっているのだろうか。なお今回の報
道は、4月6日付のものだ。              
        *         *        
 最後に短いニュースをまとめておこう。        
 以前から紹介している“Around the World in 80 Days”
のリメイクが、『ウェディング・シンガー』のフランク・コ
ラチの下、3月13日にタイで撮影が開始された。     
 この作品はジャッキー・チェン主演作として進められてい
るものだが、彼と一緒に世界を一周するフォッグ卿役には、
『24アワー・パーティ・ピープル』などのコメディアン、ス
ティーヴ・クーガンが起用され、クーガンはかなりの肉体的
アクションもこなせるということで、チェンとのコンビネー
ションが期待されている。               
 また、旅を妨害するケルヴィン卿役には『アイリス』のジ
ム・ブロードベント、ヴィクトリア女王役で今年も候補に挙
がったキャシー・ベイツと、オスカー受賞者が顔を揃えるの
も見所になりそうだ。この他にも各国のスターのカメオ出演
が予定されている。                  
        *         *        
 これも以前から紹介しているミュージカル作品“Bye Bye
Birdie”のリメイクの監督に、23歳の新鋭の起用がコロムビ
アから発表された。                  
 このオリジナルは、エルヴィス・プレスリーの入隊騒ぎに
想を得て、1960年にブロードウェーで初演されたミュージカ
ルを63年に映画化したもので、以来コロムビアでは映画化権
を保持していた。そして昨年来、リメイクの計画が進められ
ていたものだが、その監督が23歳の新人のジョン・M・チュ
ウに任されることになった。              
 なお、チュウは昨年USCの映画スクールを卒業したばか
りということだが、彼が脚本監督した17分の短編作品“When
the Kids Are Away”は、175人のスタッフキャストを使い、
40人のサルサダンサーと50人のオーケストラが踊りまくると
いうもので、新しいミュージカルの誕生を感じさせるものだ
そうだ。                       


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井口健二