井口健二のOn the Production
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2003年04月02日(水) ギャングスターNo1、NARC、デビッドゲイル、トレジャーP、エデンより彼方に、オシリス、クローン・オブ・エイダ、ブロンドと柩の謎

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。          ※
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『ギャングスター・ナンバー1』“Gangster No.1”    
マルカム・マクダウェル主演のイギリス製フィルム・ノアー
ル。                         
ロンドンの裏社会に君臨するギャングスターの男。今しもホ
テルのボウルルームで開かれるボクシングの試合を談笑しな
がら観戦する男に不穏な知らせが届く。それは男の元ボスが
30年の刑期を終えて出所してくるというのだ。男は30年前に
思いを馳せる。                    
1968年、街のチンピラだった男はロンドンで最も羽振りを利
かせていたフレディ・メイズの前に呼び出される。そして男
はメイズと共に裏社会で力を付けて行くことになる。   
しかし婚約者と一緒にいたメイズが襲われたのに続き、襲っ
た抗争相手のボスが惨殺される。この事件で警察はメイズを
逮捕し、彼に30年の刑が下るのだが、その全てを利用してボ
スの跡目を継いだのが主人公の男だったのだ。      
この若き日のギャングスターをポール・ベタニーが演じ、虎
視眈々とボスの跡目を狙う男を好演する。そしてマクダウェ
ルは、ボスの陰におびえながらも虚勢を張る老年のギャング
スターを鬼々迫る演技で見せる。            
マクダウェルが『if もしも...』で衝撃的な登場をした
のが68年だから、この作品はちょうど彼の時代を描いている
感じだ。そのマクダウェルが見事に老けてしまったのも驚き
だが、それでも若いときそのままの怪演ぶりには嬉しくなっ
てしまった。                     
また、ベタニーが抗争相手のボスを痛めつけるシーンには、
『時計仕掛けのオレンジ』のアレックスの姿を髣髴とさせる
ものがあった。                    
結局、全てがマクダウェルにつながっているような感じの作
品だが、その一方で、イギリス映画の中での、『if』『オレ
ンジ』の占める大きさのようなものも感じてしまった。  
                           
『NARCナーク』“Narc”              
『ハンニバル』『ジョンQ』などの脇役レイ・リオッタが自
ら製作主演した捜査ドラマ。              
麻薬潜入捜査官だったニックは、犯行阻止のために撃った銃
弾で居合わせた妊婦の胎児を死なせてしまったことから、定
職の処分を受ける。しかしそれは、潜入捜査で心身共にぼろ
ぼろになっていた彼と家族には好ましいことでもあった。 
ところが彼とは別に潜入捜査をしていた刑事が殺害され、そ
の捜査に彼の知識が必要とされて、現場に引き戻されること
になる。それは家族には悪夢の再来であった。      
その捜査には、殺された刑事の相棒だった老練な刑事オーク
が関わっていたが、なぜか途中で捜査を外されていた。ニッ
クはオークの復帰を要望し、その条件として彼とチームを組
むことになるのだが…。このオークの役に、リオッタが迫真
の演技で扮している。                 
最近のリオッタは、最初に書いた2作でもどちらかというと
1本抜けたような感じの役ばかりで、あまりイメージの良く
ない俳優になっていた。しかし本作では体重を15キロも増や
し、見事な髭をたくわえて印象をガラリと変えてしまってい
る。                         
さすがにプロの俳優という感じだが、本作が、そこまでの熱
意を込めるだけの作品だったということでもあるのだろう。
脚本と監督はジョー・カーナハン。脚本の見事さが光る作品
だが、完成された本作を見てトム・クルーズが製作総指揮の
名前を冠し、パラマウントでの配給を実現した。そしてカー
ナハンを“M:I 3”の監督に指名している。        
                           
『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』          
              “The Life of David Gale”
アラン・パーカー監督による死刑制度反対を唱える社会派映
画。                         
死刑制度反対運動の代表だった元大学教授がレイプ殺人の容
疑で逮捕され、死刑の判決を受ける。その処刑4日前、彼は
ある雑誌の女性記者を指名して、3日間2時間ずつのインタ
ビューに答えると連絡する。              
しかし取材に向かった彼女の周囲には謎のカウボーイハット
の男がつきまとい、また彼の弁護を担当したのが、全く無能
な問題の弁護士であったことも判明する。果たして事件は、
死刑制度反対の旗手を陥れる罠だったのか?       
そして3日間のインタビューの中で、女性記者は彼が冤罪で
あると確信するのだが…。               
もちろん死刑制度反対を全面に押し立てた映画だが、監督は
これを見事にエンターテインメントに仕上げている。謎解き
と、巧妙に仕込まれたトリック。そしてサスペンス。監督の
職人技が光った作品でもある。             
試写では最後に涙を流している人も多かったようだが、監督
は単純に涙されるより、もっと強烈な印象を与えようとし、
それに成功している。                 
                           
『トレジャー・プラネット』“Treasure Planet”     
ロバート・ルイス・スティーヴンスンの『宝島』を、そのま
ま宇宙を舞台にして再話したディズニーのアニメーション作
品。アカデミー賞の候補にもなっている。        
ストーリー展開は全く原作のままで、それにSFの味付けが
してあるという作品。                 
僕は一昨年の『アトランティス』にはお手上げだったが、こ
の作品は認めようと思う。簡単に言ってしまえば、物真似の
域を出なかった前作の戦闘アクションを排して、純粋な冒険
アクションにした点に好感を持つ。ディズニーらしさがそこ
に見られたという感じだ。               
大きな帆を張った帆船が宇宙を飛んで行く、その発想が日本
のアニメにあると言いたいのならその通り。しかしここには
純粋な冒険の心がある。それはスティーヴンスンの原作にも
うたわれたもの。それを純粋な気持ちで受け入れられる、そ
んな感じの作品だった。                
日本では通常スクリーンでの公開になるようだが、アメリカ
ではIMax上映された作品。巨大画面で見たかった感じも
する。                        
                           
『エデンより彼方に』“Far From Heaven”        
『めぐりあう時間たち』では助演賞にノミネートされている
ジュリアン・ムーアが主演賞にノミネートされている作品。
50年代のメロドラマが見事に再現されている。      
舞台は1957年のコネティカット州ハートフォード。大手企業
の重役の妻で専業主婦のキャスリーンは、2人の子供と黒人
のメイドと共に優雅に暮らしている。恒例のパーティーの日
が近づきその準備に追われながら、高級雑誌の取材にも応じ
る充実した日々だ。                  
しかし、夫の不審な行動が目立ち始め、やがて彼が同性愛者
であることが発覚する。そして元々がリベラル派だった彼女
は、庭師として出入りしているが、学位を持ち教養もある黒
人男性との交流を深めて行くのだが…、それはこの時代には
タブーな行動だった。                 
町並の俯瞰ショットから始まる映画の巻頭のシーン。右上が
りの斜めに描かれたタイトルロゴ。エルマー・バーンステイ
ンの壮麗なサウンドトラック。そして、赤は飽く迄も赤く、
青、緑の冴え渡るテクニカラーを忠実に再現した色調。  
本当に2002年の作品かと思ってしまうほど、見事に50年代調
を再現した作品。しかし描かれるのは、人種差別や同性愛者
への偏見など、今も全く変わっていない問題の数々。この2
重構造が見事に決まった作品だ。            
                           
『ファイナル・フライト・オブ・オシリス』       
            “Final Flight of the Osiris”
6月7日の日本公開が予定されている『マトリックス・リロ
ーデット』のプロローグ的な物語となる9分のオールCGI
アニメーション。4月に公開されるスティーヴン・キング原
作『ドリームキャッチャー』の併映として一般公開される。
このアニメーションは、全体を『アニマトリックス』と称す
る9本の短編からなるが、その内の本作を含む3本が『マト
リックス』のウォシャウスキー兄弟の脚本によるもの。  
そして本作は、ザイオンに重要なメッセージを伝えるための
飛行中に、敵と遭遇したオシリス号の戦いを描いており、こ
の戦いが続編の物語の発端となるようだ。        
因に、ウォシャウスキー兄弟脚本の後の2本は『マトリック
ス』の世界が構築されるまでの物語と、第1作のサイドスト
ーリーの様な作品ということで、9本全部を見るチャンスが
あるかどうか分からないが、この2本だけはなんとか見たい
ものだ。                       
なお、本作の製作は『ファイナル・ファンタジー』の映画版
を手掛けたスタッフで、動きや質感の再現はさらに進歩した
ようだ。『FF』の脚本がもう少し良かったらと、いまさら
ながらに思ってしまった。               
                           
『クローン・オブ・エイダ』“Conceiving Ada”     
ヴァーチャルリアリティをテーマにした一風変わったSF映
画。ドイツとの合作で、アメリカのインディペンデンスで製
作された作品。                    
詩人バイロンの娘エイダといえば、それだけでお判りの人も
いると思うが、史上初のプログラマーと呼ばれるヴィクトリ
ア朝の女性。本作は、そのエイダの生涯を題材に、現代との
交流を巧みに描いて、かなりしっかりしたSF作品になって
いる。                        
監督のリン・ハーシュマン・リーソンは、ヴィデオアートで
知られる女流アーティストということで、本作は1997年に発
表された彼女の長編第1作。こういう作品は、得てして中途
半端になってしまい勝ちなものだが、本作のSF度は期待以
上だった。                      
主人公は、現代に生きる女性プログラマー。彼女は個人が残
した記録を積み重ねることによって、過去の人物をヴァーチ
ャル的に甦らせる研究をしている。そしてその研究対象がエ
イダ。彼女はエイダの残した日記や研究ノートからエイダの
人格を形成して行く。                 
こうしてエイダの生涯が描かれて行く。そして母親との確執
や、家事や子育てと研究を両立させる困難と闘うエイダは、
やがて麻薬に溺れて行き、死の淵に立つ。そんな彼女を、主
人公はヴァーチャル世界の中で生き長らえさせようとするの
だが…。                       
映画の中では、現存するエイダの肖像写真からヴァーチャル
セットを作り出すなど、映像的にもいろいろな試みをしてお
り、さすがヴィデオアーティストの作品という感じの作品で
もある。結末はちょっと強引だが、何かほっとさせてくれる
ところもあった。                   
監督はインディペンデントでの映画製作を続けているようだ
が、現在すでに第3作を準備中で、その第3作では、本作に
はエイダの親友として登場するメアリー・シェリーを描く計
画だそうだ。                     
                           
『ブロンドと柩の謎』“The Cat's Meow”        
1924年に新聞王ハーストの持船で起きた映画人の怪死事件を
題材にしたピーター・ボグダノヴィッチ監督による2001年作
品。一応、映画ファンには知る人ぞ知るの事件だが、配給会
社の意向で被害者の名前は伏せることにする。      
主人公は新聞王ハーストとその愛人の女優マリオン・デイヴ
ィス。そして彼らが開いた船上パーティには、無声映画時代
の大プロデューサー、トーマス・インクや『黄金狂時代』を
撮影中のチャーリー・チャップリンらが集っている。   
そこでは禁酒法時代にも関わらず酒が振舞われ、夫婦もいる
がほとんどは愛人関係の男女達が語らっている。そしてチャ
ップリンはデイヴィスに熱を上げており、ハーストはそれに
困惑し、インスはそれを利用しようとしている。     
そして発砲事件が起こり、一人の映画人がそれで死亡する。
しかし事件の捜査は早々に打ち切られ、闇に葬られる。チャ
ップリンに至っては、後に発表した自伝の中で船には乗って
いなかったと主張しているということだ。        
原作は戯曲として発表されたもので、映画ファンには事件自
体も興味深いが、これをオースン・ウェルズと共に仕事をし
たこともあるボグダノヴィッチが映画化していると言うとこ
ろが面白い。といってもハーストを批判的に扱っている訳で
はないが。                      
なお、主演のマリオン役はキルスティン・ダンスト。『ジュ
マンジ』や『スモール・ソルジャーズ』でジャンル・クィー
ンを目指すかと思いきや、『ヴァージン・スーサイズ』や本
作で演技派としても認められた彼女だが、本作では撮影当時
19歳のはずで、それが27歳のマリオン役を、しかもボグダノ
ヴィッチの監督で演じたというのは凄い。さらにその後『ス
パイダー・マン』のヒロインを演じるのだから…。    


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井口健二