井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2003年04月01日(火) 第36回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は続編の話題から紹介しよう。          
 まずは、マット・デイモンが予想以上のアクションアクタ
ーぶりを見せた『ボーン・アイデンティティー』の続編の計
画が進み始めた。                   
 この作品については、第32回の記者会見の報告でも、原作
が3部作からなっていることを紹介したが、今回はその原作
の第2作に当る“The Bourne Supremacy”について、第1
作を手掛けた脚本家のトニー・ギルロイが再契約を行ったと
いうものだ。因に、ギルロイは『アルマゲドン』や『プルー
フ・オブ・ライフ』などの脚本でも知られるが、今回の契約
では7桁($)の中盤の契約金が提示されたということだ。 
 また、前の記事でも紹介したように、監督のバズ・ラーマ
ンはすでに続編2本の契約を結んでおり、残るは主演のマッ
ト・デイモンがどうするかということになるが、記者会見で
も脚本の素晴らしさを強調していたデイモンに、同じ脚本家
の再契約は朗報と言える。逆に言えば、デイモンの出演を確
実にするために、脚本としては最高額に近い7桁($)の契
約金ということになったのだろう。           
 なお原作のお話は、中国首相が暗殺され、それが伝説的暗
殺者ジェイソン・ボーンの仕業とされる。しかしそれは虚偽
で、中国とアメリカの友好関係を破壊しようとする者達の策
略だった。この事態にCIAのデイヴィッド・ウェッブはジ
ェイソン・ボーン本人を呼び戻し、彼のアイデンティティー
に掛けて事態を修復させようとするのだが…。      
 第1作ではヨーロッパを舞台に、リアリティー溢れる物語
が展開し、そのリアルさにデイモンも惚れ込んだと言ってい
たのだが、さて中国を舞台にそのリアルさがどこまで出せる
かも脚本の勝負になりそうだ。欧米人にとって、中国=東洋
はどうしてもファンタスティックな印象に捉らわれ易いとこ
ろがあり、その辺の料理の仕方が脚本家の腕の見せ所だし、
デイモンに出演をOKさせる決め手にもなる。      
 実際の製作はもう少し先になりそうだが、まずは脚本の完
成に期待したい。                   
        *         *        
 お次は、ベン・アフレックが主人公を引き継いだジャック
・ライアン・シリーズで、トム・クランシーの新作の映画化
権がパラマウントと契約された。            
 この新作の題名は“Red Rabbit”というもので、物語は、
1981年を背景にしたソヴィエト諜報機関によるローマ法王暗
殺計画を題材にしたもの。つまりジャック・ライアンの駆け
出しの頃を扱ったもので、丁度『トータル・フィアーズ』に
つながる作品のようだ。なお、この物語でライアンは、法王
暗殺により西欧世界の混乱を招こうとするソヴィエト諜報機
関内で、暗殺に反対する勢力を探り出し、彼らを支援して、
事件の阻止を図ろうとするという展開だそうだ。     
 そしてこの脚本に、『プライベート・ライアン』でアカデ
ミー賞候補になったロバート・ローダットが、こちらも7桁
($)の契約金で契約したことが発表されている。なおロー
ダットは、コロムビアで映画化された『パトリオット』の脚
本でも知られるが、基本的にはパラマウントを本拠にしてい
る人のようで、4月に全米公開されるマイクル・クライトン
原作“Timeline”の脚色も手掛けている。        
 また、製作はマイクル・オーヴィッツとマーク・カントン
が担当するが、この内のオーヴィッツは、以前にクランシー
とクライトンのエージェントだったという人物だそうだ。一
方、カントンは、製作プロダクションのAPG(Artists
Production Group)を率いているが、このAPGでは、同
時にクランシー原作のジャック・ライアンの傍系シリーズか
ら、以前に紹介した“Rainbow Six”の映画化も進めている。  
 俳優、監督などは未発表だが、出来ればベン・アフレック
の再演は期待したいところだ。ただし、APGの次回作とし
ては、ワーナーで5月撮影開始が予定されている“Taking
Lives”というスリラー作品が発表されており、本作の製作
はまだ少し先のようだ。                
        *         *        
 続いては、テレビシリーズからの映画化の情報で、ハナ=
バーベラが60年代に製作したアニメーションシリーズ“The
Jetsons”の実写版の計画が再燃してきた。        
 この計画は、ワーナーで『スクービー・ドゥー』なども手
掛けるプロデューサーのデニス・ディ=ノヴィが10年近く以
前から検討していたものだが、この計画について、前回も登
場した“Bringing Down the House”のアダム・シャンクマ
ン監督との交渉が公表されている。           
 “The Jetsons”は、60年代のハナ=バーベラ製作では、
すでに実写映画化されている“The Flintstones”と並ぶ人
気シリーズで、原始時代が舞台の『フリントストーン』に対
して、21世紀の未来(?)を舞台にしたもの。未来の空中都
市に暮らすジェットソン一家とメイドロボットのロージー、
それに愛犬のアストロを主人公にしたものだ。      
 僕の記憶では、プロローグで地球が爆発し、小惑星帯のよ
うになった中に一家の暮らす空中都市が存在するように解釈
していたが、いずれにしても住居や公園までもが空中に浮か
んでいるという設定で、そんな環境の中で、父親の職業はサ
ラリーマンという中流家庭の生活を描いている。     
 シリーズは、アメリカのABCネットワークで62−63年に
放送されたもので、オリジナルは24話しかないそうだが、こ
れが3大ネットワークで繰り返し放送され、さらに80年代に
51話が追加製作されて、全75話が作られている。また90年に
は劇場用の長編版も製作された。            
 そして今回の計画は、その長編版の公開直後から進められ
ていたものだが、この計画では過去にいろいろな監督の名前
が挙がったものの実現には至っていなかった。      
 その計画にシャンクマンの名前が公表されたもので、実現
に向けて多少の展望が開けてきたという感じだ。ただし、シ
ャンクマンが契約した場合は、すでに『スクービー…』のポ
ール・フォーリーとドン・フォアマンが完成していた脚本は
採用されないということで、新たな脚本家が選考されること
になるようだ。                    
 なお、お話は原作シリーズに基づくが、やはりハナ=バー
ベラで製作されたシリーズで、“Harvey Birdman”という元
スーパーヒーローが弁護士になって活躍するシリーズのエピ
ソードが加味される計画もあるということだ。      
 “Harvey Birdman”は、『スクービー…』のテレビシリー
ズの特番にも登場して評判が良かったようだが、さてどうな
ることか。またキャスティングは未発表だが、父親ジョージ
の勤務先スペイスリー社の社長の役にはダニー・デ=ヴィー
トの起用が期待されているようだ。           
        *         *        
 次も計画ばかり先行している作品で、ティム・バートン監
督の『バットマン・リターンズ』からスピンオフされる計画
の“Catwoman”で、ハル・ベリーへの交渉が発表された。 
 この計画は、92年のオリジナルでミシェル・ファイファー
が演じた不幸な境遇の敵役キャットウーマンを主人公に、新
たなスーパーヒロインを生み出そうというもので、ワーナー
ではずっとアシュレイ・ジャドの主演で計画を進めていた。
そして監督には、フランス映画の『ヴィドック』を手掛けた
ピトフの起用も発表されていた。            
 ところが、撮影の予定されていた今年の後半に、ジャドが
ブロードウェイの舞台に立つことが発表され、ジャドの主演
では撮影が不可能になってしまった。その代役として、『X
−メン』や『ダイ・アナザー・デイ』でもアクションは実証
済みのオスカー女優に白羽の矢が立ったものだ。     
 契約は未了のようだが、ここまで正式に情報が流されると
いうことは、ワーナーにもかなり自信があるということなの
だろう。元々キャットウーマンという役は、計画が発表され
る度にハリウッド中の女優が立候補するという役でもあり、
その辺の自信もあるということかも知れない。      
 因にべリーは、『ダイ・アナザー・デイ』ではアフリカ系
初のボンドガールということでも話題になったが、キャット
ウーマンに関しては、60年代のテレビシリーズでアーサー・
キットが演じたことがあり、初めてではない。      
 なお、べリーは『X−メン』の続編が5月2日に公開され
る他、第33回で紹介したペネロペ・クルス共演のダークキャ
ッスル製作ワーナー配給作品“Gothika”の撮影がスタート
しており、それに続いてのワーナー作品ということになりそ
うだ。なお“Gothika”には、ロバート・ダウニーJr.の共
演も発表されている。                  
        *         *        
 続いても主役変更の話題で、4月に撮影開始される続編の
“The Amazing Spider-Man”で、主人公のピーター・パー
カー役からトビー・マクガイアーの降板が発表された。   
 オリジナルは、興行収入ベースで、アメリカ国内が4億ド
ル、全世界では8億ドルという大ヒットを記録し、その続編
については、前作に400万ドルで出演したマクガイアーに対
して1700万ドルの出演契約が公表され、前作の公開直後には
本人も出演の意向を示していたのだが…。        
 その後、マクガイアーは、1250万ドルの出演料で競馬の騎
手役を演じた“Seabiscuit”の撮影が、昨年の10月から今年
の2月半ばまで掛かり、4月からのアクション映画の出演は
体力的に無理という結論に達したようだ。因に、前作の撮影
から“Seabiscuit”までは18カ月空けたそうだ。     
 ということで、多分ソニー側も早くからこの事態は察知し
ていたのだろうが、直ちに代役が発表された。その主演に抜
擢されたのは、『遠い空の向こうに』や『ドニー・ダーコ』
などのジェイク・ギレンホール。元々彼は、マクガイアーと
並んで前作でも最終候補に挙がっていたということで、この
交渉は順調に行われたようだ。             
 また彼は、新作の『ムーンライト・マイル』では、ダステ
ィン・ホフマン、スーザン・サランドン、ホリー・ハンター
を向こうに回して主演を張っているが、キャリア的にはマク
ガイアーほどではないということで、出演料も低く押さえら
れ、一方、作品歴からはブレイクする可能性も高く、製作者
側にはリスクを負う価値があるということだ。      
 ただし、すでに撮影開始はマクガイアーを待つために1月
から4月に延期されており、来年5月7日に確定している公
開に間に合わせるには、かなり厳しい撮影スケジュールにな
りそうだ。                      
 しかも共演のキルスティ・ダンストは、ワーキングタイト
ル製作の“Wimbledon”という作品に主演が決まっており、
その製作には、6月末にウィンブルドンで開催されるテニス
トーナメント期間中の撮影が欠かせないということで、彼女
のスケジュールもハードになりそうだということだ。   
        *         *        
 新しい話題で、『アバウト・ア・ボーイ』で今年のオスカ
ー脚色賞の候補になった監督のクリス&ポール・ウェイツ兄
弟がユニヴァーサルに本拠を置いている製作会社デプス・オ
ブ・フィールドから、イギリス製ファンタシー・シリーズの
映画化の計画が発表された。              
 計画されている作品は、SFのニューウェイヴの旗手とし
て70年代に活躍したイギリスの作家マイクル・ムアコックが
発表した“The Elric Saga”と呼ばれるもので、全11冊から
なり、その内のシリーズの最初の6冊について3部作で映画
化するというものだ。                 
 物語は、剣と魔法が主役となるファタシー世界を舞台に、
アルビノの戦士エルリックが従兄弟の裏切りによって祖国を
追放され、諸国を旅して行く異世界での冒険を描いたもの。
当然、紹介された記事には『指輪物語』が引かれていたが、
どちらかというと『コナン』に近いヒロック・ファンタシー
に分類される物語だ。                 
 といっても、ムアコックはかなりの論客として知られてい
た作家なので、一筋縄で行く話ではないようだが…。因に、
今回の発表でクリス・ウェイツは、「子供の頃から原作のフ
ァンだったが、大人になってその評価をより高くした。『マ
トリックス』を剣と魔法の世界に置き換えたような作品だ」
と評している。                    
 ただし今回の計画では、ウェイツ兄弟は製作者の立場をと
るということで、脚本と監督には別の人材を起用するという
ことだ。また製作者には、原作者のムアコックも名前を連ね
るということで、この条件で、一体どんな脚本家と監督が選
ばれるのだろうか。なお、ムアコックはイギリスでハードロ
ックバンドを率いていたこともあるそうだ。       
 “Elric of Melmibone”から“Stormbringer”までの最
初の6冊については翻訳も出ている。           
        *         *        
 もう一つ、ちょっと懐かしい名前で、『フリッツ・ザ・キ
ャット』などで異端のアニメーターと呼ばれたラルフ・バク
シがアニメーションの仕事を再開することになったようだ。
 バクシは、56年に入社したテリートゥーンで『マイティ・
マウス』などの作品を手掛け、その後パラマウントを経て、
72年発表の『フリッツ』で一世を風靡、さらに78年には『指
輪物語』を発表している。しかしその後は、83年に『ファイ
ア&アイス』を発表しただけで長編からは遠ざかり、87−89
年にテレビ用の『マイティ・マウス』の新作を自分のプロダ
クションで製作した他は、趣味の絵画に専念していたという
ことだ。                       
 しかしその『マイティ・マウス』の新作に関わったジョン
・カークファルシというアニメーターがテレビ用に製作した
“Ren & Stimpy”という作品にバクシを引っ張り出し、さら
に『マイティ・マウス』の当時から話し合っていたという今
回の長編作品の計画へと進展したようだ。        
 そして計画されている作品は、“Bobby's Girl”という題
名で、脚本はバクシとカークファルシが共同で担当し、製作
費は1000万ドル以下、Rレイトを目指すというものだ。  
 因にカークファルシは、“Weekend Pussy Hunt”というイ
ンターネットで発表した作品で有名になったそうだが、上記
の“Ren & Stimpy”では、放送開始直後に大反響を呼んだも
のの、19エピソードが放送されたところで、スポンサー側か
らもう少し内容を大人しくしてくれと言われ、即、製作を中
止したということで、バクシに劣らず反骨の人物のようだ。
        *         *        
 最後に短いニュースをまとめておこう。        
 まずは続報で、                   
 前回紹介したジュード・ロウ製作・主演のSF大作“The
World of Tomorrow”にケイシー・アフレックの出演が発
表された。これは前回報告したジョヴァンニ・リビージに交
代するもので、アフレックは、ガス・ヴァン・サント監督作
品の“Gerry”の他、『オーシャンズ・11』にも出ていたそ
うだ。なお今回の情報によると、物語は、ジュード・ロウ扮
するパイロットと、パルトロウ扮するリポーターが、第2次
世界大戦直前の世界で、『レイダース/失われた聖櫃』のよ
うな冒険を繰り広げるVFX満載の作品だそうだ。     
        *         *        
 第30回で紹介したDCコミックス原作の“Shazam!”の映
画化で、脚本を、『明日に向かって撃て』『大統領の陰謀』
で2度のオスカー受賞に輝くウィリアム・ゴールドマンと契
約したことが発表された。ゴールドマンは、この他にも『マ
ラソンマン』や『ミザリー』の脚色でも知られるが、コミッ
クスの脚色は初めてのこと、しかし本人は「38年からコミッ
クスを集めており、熱狂的なファンだった。自分にとって最
高の仕事になる」と語っており、製作するニューライン側も
「完璧な人材」と考えているようだ。他のスタッフキャスト
は未定だが、04年クリスマスか05年夏の公開が予定されてい
る。                         
        *         *        
 ドリームワークスから、またまた子供向けファンタシー・
シリーズ映画化の計画が発表された。今回のシリーズは、第
1作が“Lionboy”という題名で、この原作は今年の2月に
イギリスでの出版権が100万ポンドでペンギンブックスと契
約されたばかりということだ。内容は、近未来のロンドンを
舞台に、猫族と会話のできる少年チャーリー・アサンテが、
サーカスのライオンと協力して誘拐された両親を救出すると
いうもの。作者は、ルイーサ・ヤングというイギリスのシン
グルマザーと、その10歳の娘イザベルが書き上げたものだそ
うだ。原作は3部作が予定されている。また映画の製作は、
『メメント』や『オースティン・パワーズ』を手掛けたスザ
ンヌ&ジェニファー・トッドが担当することになっている。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二