井口健二のOn the Production
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2003年03月02日(日) 8 Mile、ネメシスS.T.X、ハッピー・フューネラル、ボイス、武勇伝、アバウト・シュミット、サラマンダー、ブルークラッシュ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。          ※
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『8 Mile』“8 Mile”              
人気白人ラップ・アーティスト、エミネム主演による彼自身
の半自伝とも言えるデトロイトを舞台にした音楽映画。題名
は、デトロイト北側の市街と郊外を分ける道路に付けられた
名前で、原題もsは付かない。             
主人公ラビット(愛称)は、母親と幼い妹の3人家族。母親
は、愛人と共に8マイルの南側でトレーラーハウスに住み、
そこには幼い妹も一緒だ。彼は、プレス工場で働きながら一
流のラッパーを目指しており、そのためいつも言葉のメモは
欠かさない。                     
そんな主人公は、ストリートでは白人のラッパーとしては最
高と言われているが、臨んだバトルではステージで声が出せ
ず、パパ・ドクと名乗る黒人アーチストの負けてしまう。し
かし、いつもつるんでいる連中とは、いつかビッグになるこ
とを夢見ている。                   
そしてそんな彼の周囲には、大物プロデューサーに売り込ん
でやると言い寄る奴や、モデルを夢見ている少女などが集ま
っている。そんな連中との、喧嘩や恋や、裏切りや友情など
が綴られて行く。                   
まあ、半自伝の成功物語ということになるが、監督を『L.
A.コンフィデンシャル』のカーティス・ハンソンが手掛け
たことだけはある、結構見応えのある作品になっていた。エ
ミネムの演技力も問題はない。             
主人公の母親役を、『L.A.コンフィデンシャル』でオス
カーを受賞したキム・ベイシンガーが演じて、全体を引き締
めている。                      
                           
『ネメシスS.T.X』“Star Trek Nemesis”      
79年にスタートした『スター・トレック』の映画シリーズの
第10作。“Next Generation”のクルーでは4本目の作品だ
と思うが、一応これが最後となるようだ。        
映画は、副長ライカーとカウンセラー、トロイの結婚式から
始まる。                       
プレスでは、今までのシリーズを知らなくても楽しめるとい
うことだが、ここでのウォーフの落胆ぶりなどは、シリーズ
の後半の話を知っていないと判らない。つまりそういうエピ
ソードはいろいろ盛り込まれているということだ。    
しかし映画の全体は、レギュラーの登場人物の説明などもさ
りげなくされていて、今までを知らなくても理解できるよう
には工夫されているのだろう。といっても僕は、一応はシリ
ーズの方も見ている人間だから、本当のところは判らない。
物語は、“Next Generation”シリーズでの宿敵ロミュラン
から和平の申し入れがあり、ロミュラン領域の一番近くにい
たエンタープライズが、領域奥深くの主星ロミュラスに赴く
ことになる。                     
ところが、待ち受けていたロミュランの法務官は主星ロミュ
ラスの生れではなく、植民星レムスの出身者であることが判
明。しかもその男はピカード艦長の若きクローンであり、ピ
カードと同じ能力を持って、地球侵略を企んでいたのだ。 
一方、アンドロイド・データの前にも、生みの親のスン博士
がデータより前に作ったプロトタイプと思われるB−4(ビ
フォー)が登場する。                 
こうして、ピカードとデータのそれぞれに、自分自身を巡る
ドラマが始まる。                   
確かにいろいろなものを引き摺っているシリーズだから、そ
れを、それ以外の人にも見せられるようにするというのは並
大抵のことではない。今回は、アクションを大量に入れるこ
とで、その辺はクリアしていると言えるのだろうか。   
しかし知っていれば知っているほど面白いことは間違いない
と思う。                       
                           
『ハッピー・フューネラル』“大腕”          
中国No.1ヒットメーカーと言われるフォン・シャオガン監督
の01年の作品。                    
巨大なセットでアメリカ人監督が『ラスト・エンペラー』の
リメイクを撮影している。しかし彼は演出に行き詰まってお
り、プロデューサーからは代役監督を立てることを提案され
ている。といっても、大物である彼の名前は外せないとも言
われる。                       
主人公は、そんな監督をテーマにメイキングを作るために雇
われた中国人カメラマン。彼は、英語はほとんど喋れないの
だが、監督の助手兼通訳の中国人女性と共に、監督の全てを
記録している内に、片言の英語で監督と語り合うようになっ
て行く。                       
そんな中で、彼は中国では70歳を超えた老人の葬式は、大往
生を祝う「喜葬」を行うと話し、監督はその言葉に関心を持
つ。そしてある日、監督のトレーラーに呼ばれた彼は、監督
から自分の「喜葬」を頼むと言われ、その直後に監督は昏睡
状態となる。                     
こうして主人公は、監督の「喜葬」を実現すべく奔走し始め
るのだが、イヴェントプロモーターを巻き込んだところで資
金の無いことを知らされる。そして資金集めのためにスポン
サーを集め始めたことから、大混乱が始まってしまう。  
しかも、監督は昏睡状態ではあるものの、死亡してはいなか
ったのだ。                      
シャオガン監督は、黒澤明監督の葬儀の模様を見てこの物語
を思いついたそうだ。日本でも葬式がテーマの映画は何本か
あるが、この作品は、葬式と言うよりはイヴェントがテーマ
な訳で、そこに葬式を持ってくることで、ちょっとした人情
話にしているものだ。                 
そして配役では、アメリカ人監督役にドナルド・サザーラン
ド、プロデューサー役にポール・マザースキーを招いて、か
なりしっかりした作品になっている。          
結末は見てのお楽しみだが、ほのぼのとしてちょっと良い感
じだった。なお原題は、大物監督という意味だそうだ。  
                           
『ボイス』“Phone”                  
台湾、スペインに続いて、今度は韓国から、かなり強烈な 
chillerが届いた。なお原題は、英語の上にハングルが重な
って表示されるが、ハングルは立の上の点が無い形の下に亡
の字がある様な文字で、これでフォンと発音するようだ。 
事件は、援助交際を告発する特集記事を書いてストーカーに
襲われるようになった女性記者が、携帯電話を変えたことか
ら始まる。その携帯には、取り扱い店で番号が一つしか指定
されず、その番号を付けたのだが、そこに謎の電話が掛かっ
てきたのだ。                     
さらにストーカーから身を隠すために、知人の富豪の引っ越
し前の家で暮らすようになった彼女の周囲で、いろいろな異
変が起こり始める。そしてその標的に、富豪の子供が選ばれ
てしまう。しかも彼女には、その子供に対する特別な事情が
あった。                       
自分のため、そして標的にされた子供を救うために、彼女は
真相の追求を始める。                 
韓国では、昨年の夏に公開されて『スター・ウォーズ・エピ
ソード2』を超える大ヒットを記録した作品だそうだ。この
作品も、chillerの演出が巧みで、好きな人にはたまらない
と言うところ。                    
しかも物語は、全体として因果の結び方が上手く、細かい突
っ込みはいろいろできるけれど、結構良くできていた。特に
テーマ曲となっているベートーベンの「月光」が最後に流れ
るシーンには、ちょっとしたカタルシスも感じられた。  
それと、出演者の中で幼い少女を演じた子役の演技がもの凄
く、試写会では「白木みのる」説まで出たほど、これは見事
だった。                       
なお、プログラムその他で監督インタビューが載っていたら
要注意、その中で見事にネタばらしをしてしまっている。観
る前には読まないほうが良い。             
                           
『武勇伝』                      
ハリウッド製作の『ストリートファイター』に出演した澤田
謙也が企画主演した喧嘩映画。             
ネットの情報では、ストーリーなどほとんど無い、殴り合い
ばかりの作品ということで、ちょっと退いていたのだが、特
殊メイク原口智生というのにも引かれて、最終試写を見に行
ってしまった。                    
で、ネットの情報というのが如何に当てにならないかという
ことになるのだが、確かに殴り合いがメインの作品ではある
が、物語もそれなりに作られていて結構面白かった。   
実際のところ、この映画の物語性は、殴り合いの必然性をど
う捉えるかということになるのだが、主人公は、何しろ喧嘩
が好きという設定で、そこから進めばこの物語にはかなり必
然性はあるということになる。             
この設定は、物語の後半でヒロインが拉致されている廃校に
主人公が登場するシーンの台詞によく現れている。その台詞
を聞いた途端に、僕はこの映画が好ましいものになった。そ
の意味では、これは名台詞と言えるかも知れない。    
物語は、設定でも書いたが何しろ喧嘩が好きな男が二人。一
人は元ボクサーだがデビュー前に正当防衛で人を殺してしま
った男。もう一人は元自衛官で寂れたバーを営んでいる。こ
の二人が、新宿の歌舞伎町でいろいろな抗争などに巻き込ま
れ、喧嘩に明け暮れる。                
何しろ喧嘩が始まれば、主人公が絶対勝という展開なのだか
ら、見ていてこんなに気楽なことはない。まあ、単純にはス
トレス解消映画というところだ。それから、僕にとっては普
段見慣れた新宿の町が、いろいろな角度から観られるのも楽
しかった。                      
                           
『アバウト・シュミット』“About Schmidt”       
ジャック・ニコルスンがオスカー候補になっている作品。 
主人公は66歳。長年勤めた勤務先をそこそこの地位で定年退
職し、後は42年連れ添った妻と、大型のキャンピングカーで
いろいろな土地を旅して歩く計画だったのだが、その妻はあ
っけなく他界してしまう。               
夫婦の間には一人娘がいて、その娘はかなり婚期が遅れた挙
げ句に主人公の気に入らない男と結婚しようとしている。一
方、主人公は、アフリカの孤児の少年に毎月22ドルの資金援
助をする手続きをし、その小切手に添える手紙に心情を綴っ
て行く。                       
そして主人公は、自分の今までの人生を振り返り、結局自分
が何も残していないことに気づき悲嘆にくれる。     
何しろ、手紙文という形で心情を直接吐露されてしまうのだ
から、こんなに判りやすい話はない。          
僕自身、主人公ほどではないにしても、そろそろ人生の後半
に入ってきて、自分のやってきたことを考えてしまうことも
ある。多分、アメリカでもベビーブーマー世代にとっては、
この物語はかなり切実に感じられるのだろう。      
試写会では、若い人でもかなり感動していた人もいたようだ
が、若い特に男性では、主人公の心情を理解できなかった人
もいたようだ。                    
                           
『サラマンダー』“Reign on Fire”           
近未来のイギリスを舞台にした終末もの。        
物語は、現代のロンドンから始まる。地下鉄の工事現場で巨
大な空洞が見つかり、その中に化石のようになって潜んでい
た生物が甦る。それは6500万年前、当時の地球に君臨してい
た恐竜を絶滅に追い込んだサラマンダーの復活だった。  
サラマンダーは瞬く間に増殖し、人類に襲いかかる。空を飛
び、火を吹き、その焦土を食らうサラマンダー。その急速な
増殖になす術のなった人類は、ついに核攻撃を仕掛け、それ
によって自らの文明を破壊してしまう。         
そして20年が過ぎ、もはや人類は一握りの生き残りが砦の中
に潜んで暮らすだけとなっていた。その中には、ロンドンで
の最初の目撃者だった少年の長じた姿もある。彼らは、サラ
マンダーの自滅を願いながら、密かに暮らしていた。   
そこへケンタッキー義勇軍と自称するアメリカ人の一団が現
れる。彼らは、サラマンダーの繁殖は1匹の雄に掛かってお
り、その唯一の雄がロンドンにいる。それを倒せばサラマン
ダーは繁殖の術を失い、絶滅すると説明する。      
そして薄暮の時間帯はサラマンダーの視覚が鈍り、その間に
雄を倒すという計画を述べ、雄のいる空洞の場所を知る主人
公に協力を求めるのだが…。              
サラマンダーのデザインは、小さな翼の付いた恐竜で、『シ
ュレック』や『眠れる森の美女』などに登場する、いわゆる
西洋の竜のイメージ。これには多分の欧米の観客は大歓声と
いうところだろう。僕もまったく違和感はなかった。   
そしてそれが暴れ回るシーンの迫力も見事なものだ。ただ主
人公が取る行動などには、もう少し説明が欲しかった感じも
する。まあ、誰かがサラマンダーをやっつけなくてはいけな
いのだから、それに沿った行動は当然なのだが。     
それにしても、ロンドンの地下鉄工事現場、大繁殖する凶悪
な怪物、というとどこか懐かしい展開で、これはもしかして
『クォーターマス』へのオマージュなのだろうか。    
                           
『ブルークラッシュ』“Blue Crush”          
ハワイ・オアフ島を舞台に、パイプライン・マスターズと呼
ばれる最も危険なサーフ競技に挑む女性サーファーを描いた
青春映画。                      
主人公のアン・マリーは、反抗期の妹と2人のサーフィン仲
間と共に、昼間はホテルのメイドをしながら、サーフィンに
明け暮れている。彼女は以前にジュニア大会で優勝し天才と
言われながら、その後の事故のために大きな波には挑めなく
なっている。                     
しかし、妹の学費などを工面するためには、大きな大会で注
目を浴び、スポンサーが付くのを待たなければならない。そ
の大会が、パイプライン・マスターズ、それは一歩間違えば
死と隣り合わせの危険な大会だった。          
見るまでは、たかがサーフィンを扱った青春映画くらいにし
か思っていなかった。確かに映画は、彼女を見初めるNFL
のクォーターバックなども登場して、見事に青春映画の乗り
なのだが…。                     
これがまず、海中撮影を多用してサーフィンを写したシーン
の美しさとダイナミックさに目を奪われる。ここでサーフィ
ンがなまじのスポーツでないことを教えられる。そして、さ
らに後半の大会のシーンでの、脚本のしたたかな展開に舌を
巻いた。                       
スポーツを扱った青春映画もいろいろあるが、ともすればク
ライマックスを盛り上げるためにスポーツのルールをないが
しろにしてしまうことが多い。しかしこの脚本では、大会の
ルールに則って、見事に最後を盛り上げているのだ。   
その展開については書かないが、なるほどこれなら、ライヴ
ァルたちも含めて、浜辺の全員が彼女を応援したくなるよう
な、そんな展開が見事に作られている。脚本は、リジー・ウ
ェイスという新人のようだが、ちょっと注目したい。   
それから、妹役のミカ・ブーレムと、サーフィン仲間役で、
本職はプロサーファーだというサノー・レイクが良い。レイ
クは、映画初出演とは思えない演技ぶりだし、ブーレムは、
『スパイダー』でも注目したが、今回も良かった。    


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