井口健二のOn the Production
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2003年02月16日(日) トーク・トゥ・ハー、シカゴ、アルマーニ、ダブル・ビジョン、ダークネス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。         ※
※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/)   ※
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『トーク・トゥ・ハー』“Hable Con Ella”       
99年の『オール・アバウト・マイ・マザー』で、カンヌの監
督賞やアカデミー賞外国語映画賞などを受賞したスペインの
監督ペドロ・アルモドバルの02年の作品。        
受賞した前作も見てはいるが、感動作とは言っても普通の作
品だったという印象だ。しかし今回の作品は、かなり変わっ
ているというか、本当に不思議な作品。アメナーバルもそう
だが、スペインの監督というか映画作家は、すごい感覚の持
ち主が多いようだ。                  
物語の中心は、2人の昏睡した女性と、彼女達を介護する2
人の男。                       
女性の1人は元バレリーナ。彼女は4年前からその状態で、
彼女を介護しているのは元気な頃の彼女にストーカーまがい
の接近を試みていた男。しかし彼は看護士の資格を持ってお
り、その腕は彼女への思いも込められて優秀だ。     
もう1人は、女性闘牛士。ジャーナリストの男は彼女を取材
している内に親しくなった。しかし彼女は、彼に重要なこと
を告げると言った日に、闘牛場で牛の角に掛かって昏睡状態
になってしまう。                   
看護士の男は、彼女が好きと言っていたバレーの公演や、映
画を見に行っては、その話を昏睡した彼女の耳元で語り続け
ている。そしてそれは治療の一環だと言い、ジャーナリスト
の男にも、語りかけをするように勧める。        
しかしジャーナリストの男は、彼女が告げようとしたのが別
離であったことを知り、病院を去ってしまう。一方、看護士
の男は、彼女に語るために見に行った無声映画に興奮し、あ
る行動に出る。それは彼女に奇跡をもたらすことになるのだ
が…。                        
映画の巻頭と最後で、ピナ・バウシュとヴッパタール舞踊団
の舞台が紹介され、巻頭ではその奇妙な雰囲気がドラマへの
見事な導入になっている。また、物語の途中には『縮みゆく
恋人』というオリジナルの無声映画が挿入されるが、これが
また見事だった。                   
今回は、前作のような感動作とはちょっと違うが、これこそ
が映画だという素晴らしさを実感させてくれる作品だ。  
なお、バレリーナの先生の役でジェラルディン・チャップリ
ンが出演。物語の要所にポイントを作っている。     
                           
『シカゴ』“Chicago”                 
オリジナルはボブ・フォッシーが手掛け、最近再評価が高ま
っている同名のミュージカルプレイを、リチャード・ギア、
ルネ・ゼルウィガー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの共演
で映画化。                      
物語の舞台は1920年代のシカゴ。姉妹ダンサーとして人気の
高まっていたゼタ=ジョーンズ扮するヴェルマは妹殺しの容
疑で逮捕される。その最後の舞台を見詰めていたゼルウィガ
ー扮するロキシーは、数ヶ月後、愛人を殺した容疑で逮捕さ
れる。                        
そこに現れたギア扮する悪徳弁護士は、5000ドルを自分に払
えば、キリストだって桀にならずに済んだと豪語する。そし
て金を払ったロキシーをマスコミの寵児に祭り上げ、裁判を
有利に進めようと画策する。              
元々は実話に基づくもので、1927年に最初の映画化がされた
他、42年にはジンジャー・ロジャースの主演でも映画化され
た物語。それにしてもいろいろと現代に通じるのも面白いと
ころだ。僕は元々1920年代のアメリカに興味があるし、その
意味でもすごく楽しめた。               
それにミュージカルの構成も巧みで、舞台面としての歌と踊
りがある他は、基本的にロキシーの空想という設定になって
いる。従って、町中で突然歌い出すというようなところが無
いのも良いし、逆にその踊りなどがかなりファンタスティッ
クなのも気に入った。                 
ギアは『グリース』などのミュージカル舞台の経験があり、
ゼタ=ジョーンズも昔『42nd Street』に出演していたこと
があるそうだ。従ってこの2人のミュージカルシーンは危な
げが無い。得にゼタ=ジョーンズは見事だ。       
一方、ゼルウィガーはミュージカルは初体験だそうだが、歌
のシーンは、まるで彼女のために用意されたのではないかと
いうような楽曲でこれも素晴らしかった。        
そしてこの3人を文字通り支えているのが、ブロードウェイ
の舞台の出演者たちということで、バックダンサーたちの踊
りも素晴らしかった。                 
すでにゴールデングローヴではミュージカル作品賞と、ギア
が主演男優賞、ゼルウィガーが主演女優賞を受賞。ここでゼ
タ=ジョーンズが受賞できなかったのは、多分、彼女が上手
すぎて、誰も俳優の余技とは思えなかったというところだろ
う。                         
久しぶりにミュージカルを堪能できたという感じがした。 
                           
『アルマーニ』                    
       “Giorgio Armani: A Man for All Seasons”
ファッションデザイナー、ジョルジオ・アルマーニの1999年
から2000年に掛けての1年間を追った記録映画。     
1934年生れというから、撮影当時65歳。世界33カ国に249の
店舗を展開し、毎日億単位の金を稼ぐという初老の男の生活
を追っている訳だが、何しろこのおっさんが元気が良いとい
うか、常に動き回っている様は、見ている方にも元気を与え
てくれる感じだ。                   
ファッションショーのリハーサルで希望通りに行かず怒鳴り
散らす姿には、人間らしさを感じるし、一方、数週間前に母
親を亡くしたばかりということで、自分や会社の将来に悩む
姿などには、親近感が湧く。              
ファッション業界の人が見たら、アルマーニの成功の秘密み
たいなものについては、通り一遍な感じでしか語られないの
で、掘り下げは足りないのかも知れないが、それより映画で
は、アルマーニの人間味みたいなものをうまく表現していて
好感が持てた。                    
ファッションデザイナーというと、何かエキセントリックな
印象を持つが、そうばかりでもないようだ。       
一応、成功の秘密の一点としてハリウッドなどへの接近があ
るということで、映画スターや、サッカーの本場イタリアと
いうことでロナウド選手の姿なども見える。       
しかしその中でも圧巻は、元々親友でもあるというソフィア
・ローレンの美しさだ。アルマーニと同じ年の生れだが、全
く変らない容姿には感動した。             
                           
『ダブル・ビジョン』“雙瞳”             
道教の言伝えでは超能力を持つという、1つの眼球に2つの
瞳を持つ人間をテーマにした台湾製ホラー映画。     
高層ビルの一室で真夏に凍死した男、火の気のない部屋で焼
死した女、腸を抜かれて死んだ神父…。奇怪な事件の続発に
手を焼いた台北警察は、神父がアメリカ人だったことを理由
にFBIの救援を仰ぐ。                
そしてやって来た白人捜査官と、以前に正義感から警察内部
の腐敗を告発して国際課に転属させられた刑事とがコンビを
組み、事件の真相に迫って行く。一方、刑事には崩壊しかけ
た家庭があり、自閉症気味の一人娘が事件に絡んでいる気配
もあるのだが…。                   
謎解きは知られた手法ではあるが、背景にある道教の存在が
けっこうオカルトで、それなりに楽しめる作品ではあった。
なかなかアクションが出てこなくて、これはこのままかと思
いかけたところで突然の大アクションというのも、良いタイ
ミングで楽しめた。                  
ただ結末は今一つ不明瞭で、一応、表面的な事件は解決する
のだが、残された謎も多い。この結末は、いろいろな取り方
ができるようにしたつもりかも知れないが、やはりこれはす
っきりと終らせて欲しかった。             
                           
『ダークネス』“Darkness”              次々に話題作が登場するスペイン製ホラー映画。     
といっても、主な配役はアメリカ映画の俳優が中心だし、台
詞もすべて英語という作品だ。             
長くアメリカで暮らしていた一家が、父親の故郷であるスペ
インの町に引っ越してくる。高校生の長女はアメリカに戻り
たいと言っているし、小学生の長男も新しい生活に馴染んで
いない。しかも家の暗がりには何かがいる気配もある。  
物語の背景には、40年前に6人の子供が行方不明になったと
いう未解決の事件があり、その事件に引っ越してきた家が関
係しているらしい。長男はちょうどその年頃。そして家には
子供たちの霊がいて、何かを求めている。        
一方、父親が発作を起こし、それは長男が生まれる前に病ん
でいたという精神の病を再発させてしまう。そして父親は次
第に暴力的になり、40年前と同じ日食の日が近づいてくる。
長女はボーイフレンドと共に、家の真相を探り当てるが…。
結局、話はオカルト絡みで、日食の暗闇の中で7人の子供の
首を、愛する人の手で掻き切り、その血で円環を描くことで
邪悪なものを復活させようという説が出てくる。大量殺人の
理由づけに、この手のオカルトもいろいろな手法を考えるも
のだというところ。                  
『シックスセンス』や『アザーズ』などの流れの作品で、見
ていて背中がぞくぞくしてくる。ホラー(horror)というよ
りチラー(chiller)という呼び名がピッタリの作品。しか
もそのテクニックが実に上手い。この手の感じが好きな人に
はたまらない作品だろう。               
『X−メン』のアンナ・パキン、『ショコラ』のレナ・オリ
ン、『トゥーム・レイダー』のイアン・グレン、『ハンニバ
ル』のジャンカルロ・ジャンジーニらの共演もすごい。  


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