井口健二のOn the Production
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2003年02月15日(土) 第33回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは、この話題から。               
 ワーナー製作、ブレット・ラトナー監督で計画されている
“Superman”シリーズの再開で、主演にヴィクター・ウェブ
スターという俳優の起用が有力になっている。      
 ウェブスターはカナダ出身で、現在は“Mutant X”という
テレビシリーズに準主役としてレギュラー出演。また、人気
シリーズの“Days of Our Lives”に出演していた他、映画
では、ディズニー製作でスティーヴ・マーティンが主演した
“Bringing Down the House”という作品にちょい役で出て
いたようだ。                     
 ということで、はっきり言って無名に近い新人の抜擢とい
うことになるが、顧みれば78年に前の『スーパーマン』シリ
ーズがスタートしたときのクリストファー・リーヴも、以前
はテレビシリーズの出演がある程度の新人だった訳で、その
点の問題はない。ただし、今回紹介されたウェブスターは、
身体的にちょっと背が足りないという情報もあり、その辺で
まだ最終的な契約に至っていないようだ。なお、出演交渉は
2本の続編を含む複数本の契約で進められているそうだ。 
 もっとも、“Superman”の契約では、以前のリーヴの契約
でも、主契約期間中はキャラクターのイメージを傷つけるよ
うな行為をしてはならないなどの付帯条項があったと言われ
ている。3本の契約ということは少なくとも6年間はそれに
縛られることになる訳で、これは俳優の側もかなり慎重にな
るだろう。リーヴも、結局その間には『ある日どこかで』や
『デストラップ』といった作品にしか出ていなかった。  
 なおこの配役には、以前はニコラス・ケイジが契約してい
たが、当時検討されていたティム・バートン監督の降板など
でキャンセルされた。さらにワーナーは、一時期この配役に
大物スターを狙い、噂ではジョッシュ・ハートネット、ジュ
ード・ロウ、アシュトン・カッチャー、ブレンダン・フレー
ザーらをテストしたということだが、思い通りの成果は得ら
れなかったようだ。                  
 また、今回映画化が計画されているJ・J・エイブラムス
の脚本は、リーヴ主演で映画化された前のシリーズを元から
再構築するということだ。そして前シリーズの第1作でマー
ロン・ブランドが演じたスーパーマンの父親役には、『レッ
ド・ドラゴン』でラトナー監督と意気投合したアンソニー・
ホプキンスが出演をOKしたという情報もある。     
        *         *        
 一方“Superman”と来れば、ワーナーのもう一つの人気シ
リーズは“Batman”だが、こちらにも動きが出てきている。
 この2大シリーズでは、ウォルフガング・ペーターゼン監
督による“Batman vs.Superman”の計画が進められたことも
一時あったが、この計画はペーターゼンがブラッド・ピット
主演の“Troy”に走ったために頓挫してしまった。    
 それに代って今回報告されているのが、『インソムニア』
のクリス・ノーラン監督の起用。そして主人公バットマン=
ブルー・ウェイン役には、ガイ・ピアースが興味を示してい
るということだ。                   
 因にノーランは、「僕はバットマンと共に育った世代だ。
僕は彼にずっと魅せられてきたし、そのキャラクターの構築
に何か寄与できるとしたらこんなに素晴らしいことはない。
彼は現実的で信頼の置けるスーパーヒーローだ。彼は魔法使
いではない。人間的なコンプレックスを持って、内面から来
るスーパーヒーローの資質の持ち主だ。」と、自らのバット
マン像を語っており、かなり期待が持てそうな感じだ。  
 なおノーランの計画では、次回作にはジム・キャリー主演
によるハワード・ヒューズの伝記映画が予定されていたが、
同じ内容では、前々回紹介したようにマーティン・スコセッ
シ監督、レオナルド・ディカプリオ主演の“The Aviator”
の計画が先行しそうで、ちょっと実現のチャンスは失われか
けているようだ。また、この“The Aviator”にワーナーが
絡んでいるという状況もあるようだ。          
 さらにワーナーでは、以前第19回で紹介したダーレン・ア
ロノフスキー監督による次世代版“Batman: Year One”と、
傍系版の“Catwoman”の計画もアシュレー・ジャドの主演と
ピトフ監督で進んでいるということで、最初にどの作品が飛
び出してくるか判らない状況のようだ。         
        *         *        
 またまたテレビシリーズからの映画化で、57−63年に製作
され、日本では60年からNHKで放送された西部劇シリーズ
“Have Gun, Will Travel”(西部のパラディン)を、パラ
マウントで映画化する計画が発表された。        
 オリジナルは30分の白黒シリーズで、やはり西部劇の『ガ
ンスモーク』と共に土曜の夜9時台に放送されていた大人向
けの作品。主人公は陸軍士官学校の出身で南北戦争でも活躍
した元士官。1870年代を背景に、雇われガンマンとして西部
で起きるいろいろな問題を解決するというものだ。    
 そして主人公は、普段はサンフランシスコのホテルで優雅
な暮らしをしているが、仕事を依頼されると全身黒の衣装で
出かけて行く。また、彼の名刺には、チェスの白騎士(パラ
ディン)と連絡先と共に、題名の文章があしらわれていると
いうもの。                      
 なお、オリジナルの主演はリチャード・ブーン。他にレギ
ュラーは、「ヘイ・ボーイ」(1年だけ「ヘイ・ガール」だ
ったこともある)と呼ばれるホテルで働く東洋系の少年だけ
というシンプルな構成の作品だ。また、ブーンも歌った主題
歌の“The Ballad of Paladin”は60年代初期のヒット曲の
一つに数えられている。                
 そして今回の映画化だが、実はオリジナルシリーズを放送
していたCBSが、現在はパラマウントと共にヴァイアコム
を親会社とする兄弟会社の関係にあり、その辺から進み始め
たようだ。また脚本には、『トータル・フィアーズ』を手掛
けたダニエル・パインの起用が発表されている。     
 なお、映画化の物語は、1875年のサンフランシスコを舞台
に、パラディンが東部での暗い過去を捨てて、西部で生きる
目的を発見するまでを追ったものになるということで、つま
り、以後のシリーズ化も考えられる物語になるようだ。  
 製作はジョーダン・カーナーが担当。脚本家以外のスタッ
フ、キャストは未発表だが、主人公の配役と並んで、「ヘイ
・ボーイ」の東洋系の少年というのも気になるところだ。 
        *         *        
 お次は各国映画からのハリウッドリメイクの情報で、今度
はワーナーが、スティーヴン・ソダーバーグ監督とジョージ
・クルーニーが主宰するセクション・8プロダクションのた
めに、“Nueve reinas”というアルゼンチン映画のリメイク
権を獲得した。                    
 オリジナルの物語は、ベテランと新人の2人の詐欺師が、
知人の贋作者から預かった「9人の女王」と呼ばれる1枚の
古切手を巡って、国外追放前夜の切手コレクターを相手に大
勝負を仕掛けるというもの。2時間程度の作品のようだが、
この他の登場人物も多く、かなり入り組んだ物語が展開され
るということだ。                   
 そして映画は、アルゼンチン映画界で長年助監督として働
いていたファビアン・ビエリンスキーという監督が、初監督
作品として自らの脚本を映画化したもので、作品は、2001年
のアルゼンチンの映画賞を総嘗めにしたという話題作だそう
だ。なおアメリカでは、“Nine Queens”の題名で01年の春
に公開されている。                  
 この作品がワーナーでリメイクされる訳だが、このリメイ
ク版では、長年ソダーバーグの第1助監督として働き、新作
の“Solaris”では製作総指揮を担当したグレゴリー・ジェ
イコブスが、監督デビューをすることになっている。また脚
本は、ジェイコブスとソダーバーグが共同で執筆するという
ことだ。                       
 つまり助監督あがりの監督のデビュー作を、こちらも助監
督あがりの監督が初監督でリメイクするという訳だが、この
第1助監督(first assistant director)という仕事は、
前回、試写作品で紹介した『ロスト・イン・ラ・マンチャ』
を見ても、とてつもなく大変な仕事のようで、そういう現場
からの叩き上げの人たちの成功を祈りたいものだ。     
        *         *        
 続いてはディズニーから、ロアルド・ダールの児童小説の
映画化の計画が発表されている。            
 ダール作品のディズニーでの映画化では、96年の“James
and the Giant Peach”(ジャイアント・ピーチ)が記憶さ
れるが、ダール作品というと児童向けとは言ってもかなり毒
のあるものが多く、その意味では面白い作品が期待できると
ころだ。                       
 そして、今回映画化が計画されているのは“The Twits”
という作品。この原作は、日本でも『いじわる夫婦が消えち
ゃった!』という題名で翻訳があるようだが、周囲には意地
悪で、お互いの間もいさかいの絶えない夫婦が、ある日恐ろ
しい仕返しを受けるというもの。いかにもダール作品らしい
内容と言えそうだ。                  
 しかもこの脚色を、元『モンティ・パイソン』で『ワンダ
とダイヤと優しい奴ら』などのジョン・クリースと、アニメ
ーション作品“Quest for Camelot”を手掛けたカーク・デ
・ミコが担当することになっており、特にクリースの手腕に
期待したい。因にクリースは、「娘のカーミラが8歳の頃か
ら2人で読むのが大好きな作品だった。素晴らしいキャラク
ターと見事なプロットを持っており、カークと共に脚色する
のが楽しみだ」と語っている。             
 製作は、『シュレック』や『タキシード』などを手掛けた
ジョン・H・ウィリアムスのヴァンガードが担当。なお同社
は、実写映画に関してはドリームワークスとの間で優先契約
を結んでおり、ディズニーとの間はCGIアニメーションの
契約ということで、それに従うと今回の作品はCGIアニメ
ーションということになる。              
 また、同社とディズニーとの契約は昨年の秋に結ばれたも
ので、すでにその第1作として“Valiant”というCGIア
ニメーション作品が製作に入っている。この作品は第2次世
界大戦を背景にしたもので、戦時下で軍に徴用された伝書鳩
の活躍を描いた物語。ノルマンディー上陸作戦のDデイに向
けて、フランスのレジスタンスから連合軍司令部に重要なキ
ーを届けた伝書鳩の冒険を描くものだが、『プライベート・
ライアン』よりは『プライベート・ベンジャミン』のような
コメディータッチの作品だそうだ。           
 さらにこの契約では、全部で4本となっており、その2本
目が今回発表された作品ということになりそうだが、一方、
同社ではすでに“Shrek 2”製作も進めており、今後はディ
ズニーとドリームワークスに対して50:50の比率で作品を供
給したいということだ。ハリウッド各社では、アニメーショ
ンの確保に躍起になってるのが現状だが、その中で最大手と
もいえる2社に作品供給というのもすごいところだ。因に、
同社では、1本当り3000〜4000万ドルの製作費で長編アニメ
ーションを仕上げるということで、この価格も有利なところ
かも知れない。                    
        *         *        
 後半は、発表されたばかりのアカデミー賞候補について書
いておこう。                     
 まず気になるのは長編アニメーション部門だが、大方の予
想通り、『アイス・エイジ』『リロ・アンド・スティッチ』
に『千と千尋の神隠し』、それに『スピリット』と『トレジ
ャー・アイランド』という5本になった。個人的には『スチ
ュアート・リトル2』にもちょっと期待したが、やはりアカ
デミーは保守的だったということだろう。        
 この内、『スピリット』はドリームワークスの作品で2年
連続というのはちょっと考えにくい。そこで興行成績No.1の
『アイス・エイジ』と他の3本ということになる訳だが、こ
こで日本のマスコミは、宮崎アニメとディズニーアニメの争
いなどと言い出している。               
 確かに、『アイス・エイジ』の日本公開はすでに終ってし
まっているので、これから公開されるディズニーの2本との
対決というのは話題を作りやすいのだが。実は『千と千尋』
のアメリカ配給はディズニー(ブエナ・ヴィスタ)が行って
おり、『リロ』『千』『トレジャー』は、アメリカではすべ
てディズニー作品の扱いなのだ。            
 ということで、今回の争いは『アイス・エイジ』対ディズ
ニー3作品となる訳だが、そうなるとディズニーが3本の内
のどの作品に力を入れるかが焦点になってくる。ここで『ト
レジャー』は一歩後退となりそうだが、さて『リロ』『千』
のどちらにディズニーは取らせたいかということだ。   
 まあ、その意味では、宮崎アニメとディズニーアニメの争
いというのはディズニー内部で激しそうだが、やはり外様の
難しさは感じてしまうところだ。先に『千と千尋』が受賞し
たアニー賞などは、作品の評価が素直に結果に現れるが、ア
カデミー賞というのはそういうものではない。      
 ディズニーとしても、『アイス・エイジ』に勝ちたいのな
ら、『千と千尋』の方を押すべきだとは思うが、人間関係が
関わってくるとなかなか難しい。その意味でも、最終結果が
どう出るかが面白いと言える。これでもし『千と千尋』が取
ったら、それは大事件ということだ。          
        *         *        
 この他の気になる部門では、視覚効果賞の候補は、『ロー
ド・オブ・ザ・リング/二つの塔』『スパイダーマン』『ス
ター・ウォーズ:エピソード2/クローンの襲撃』の3作品
になった。『SW』は何とか候補になったが、実は今回候補
になったのはこの1部門だけ。一方、『LOTR』は作品賞
を含む6部門の候補になっており、勢いの違いを感じるとこ
ろだ。なお、『スパイダーマン』は音響部門の候補にもなっ
ている。                       
 さて、賞の行方はということになると、まず『LOTR』
の2年連続はあるかというところが注目。一方、『SW』は
3年前の雪辱を果たしたいところだが、もし『スパイダーマ
ン』ということになると、ILMを追い出されたジョン・ダ
イクストラが『SW』を阻止することになる訳で、これも面
白いところだ。                    
 あとは、メイクアップ賞の候補に『タイムマシン』とサル
マ・ハエックが主演女優賞候補にもなっている“Frida”が
ノミネートされており、SF作品以外の候補は興味を引かれ
るところだ。                     
 また、外国語映画賞部門では、脚本賞と監督賞の候補にも
なっている『トーク・トゥ・ハー』が候補にならなかったの
が意外だった。もう1本の脚本賞候補の『天国の口、終りの
楽園』の方は、本国での公開が01年で権利がなかったようだ
が。『トーク・トゥ・ハー』は、別ページの試写作品の紹介
でも書いたように本国の公開も02年となっており、いきさつ
が知りたいところだ。                 
 全体的には、13部門で候補になっている『シカゴ』がどこ
まで受賞数を伸すかだが、これも別ページで書いているよう
に久しぶりの本格ミュージカル映画で、かなり行きそうな感
じだ。受賞式は日本時間3月24日に行われる。      
        *         *        
 最後に続報を2つ。                 
 一つ目は、前回紹介したハル・ベリー、ペネロペ・クルス
共演のダーク・キャッスル作品“Gothika”の監督に、昨年
日本でも公開されたフランス映画『クリムゾン・リバー』の
マチュー・カソヴィッツの起用が発表された。カソヴィッツ
は昨年の作品で大作志向に転向したと言われたが、そのまま
一気にハリウッド進出となったようだ。となると、前回予想
したゼメキス監督の線は外れたことになるが、それなら予定
の“Macabre”は、まだ生きているということだろうか。そ
の後も動いた形跡は見当たらないのだが…。       
 もう一つは、第27回で紹介したフランク・オズ監督、ニコ
ール・キッドマン主演による“The Stepford Wives”のリ
メイクで、相手役にトニー賞受賞の舞台俳優ロジャー・バー
トの起用が発表されている。なおバートの役柄は、ヒロイン
の親友ということだが、オリジナルの映画にはないもので、
今回の脚本家のポール・ルドニックが新たに造り出したコメ
ディーリリーフ的な役柄のようだ。因に、バートはブロード
ウェイで上演されたミュージカル版『ピーナッツ』のスヌー
ピー役で受賞しているそうだ。              


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